拠点を探るんだ
「赤魔石」
今、僕が一番欲しいアイテムだ。
もちろん、リンとヒョウもこれを探している。
逃げた男の袋に入っていたのは、まさにそれだった。僕は、ごつごつとした赤黒い石を眺める。
「なぜ、あいつがこんなものを」
いや、理由はどうでもいい。
重要なことは、奴が赤魔石の入手方法を知っている可能性があるということだ。何としても捕まえて、情報を得なければ。
僕は、即座に環境探査装置を展開する。
「見つけた」
男は馬車がやってきた方角ではなく、険しい山岳地帯へと向かっていた。人間にしてはかなり移動が速い。
「ん?」
男から少し離れた場所に、別の人間の反応があることに気が付いた。
これって・・・
「リンとヒョウじゃないか」
彼女たちも、男が向かっている方向へと進んでいる。移動の様子を見る限り、男とリンたちは同じ場所を目指しているように見える。ただ、男のほうが先行している上に速度も速いので、リンたちよりも早くに到着するだろう。
僕は首をかしげた。
リンとヒョウは、男がどこへ向かっているのか、何故知っているのだろうか?
彼女たちは遠隔監視魔法が使えないから、そこそこ離れた場所にいる男の居場所を感知できないはずだ。
もしかすると、男を追いかけているんじゃなくて、火属性の魔獣の出現ポイントを目指しているのか?
「そういえば、エルフの長老に話を聞くとか言ってたような・・・」
彼女たちは、僕とは別の方法で火属性の魔獣の居場所の情報を得たかもしれない。
たまたま、男と目指している場所が同じなだけで、男を追いかけているんじゃないのかも。あの男も赤魔石を持っていたし、その可能性は低くはない。
そうだとすると・・・
「ヤバイな」
このままでは、リンたちに先に赤魔石を集められてしまう。見つけたら報告するようにとは言ったけど、魔獣を倒すなと言ったわけではない。
「急がないと・・・!」
僕は遠隔監視魔法をオンにしたまま、全力で移動を開始した。
◆
「待たせたね」
「シュゲン様!」
リンが振り向くのが見えた。
水蒸気の煙が消えるのに合わせて、僕はリンにかけた結界魔法を解除する。
・・・間に合った
赤魔石を先に取られるまいと、急いで走ってはいた。しかし、予想以上に山道が険しくて、移動するのに時間がかかってしまった。
でも、リンが苦戦しはじめたのを見てからは、僕はなりふり構わず空中を飛んだ。それでも、かなりギリギリだった。
まさか、あんな巨大な魔獣を呼び出すなんて。
場合によっては、それこそ奥の手を使うことも考えた。
しかし、どうにか間に合ったようだ。
「後は任せて、ここは退くんだ」
僕はそう言いながら、リンの横を通り過ぎた。そのときふと、彼女の水色の髪に、ところどころ黒く焼けた跡があることに気が付いた。よく見ると、腕や脚にも火傷があるのが見える。
「いえ、シュゲン様のお手を煩わせるわけにはいきません。わたしも・・・」
「だめだ」
リンの肩に触れる。
「・・・!」
そのとき、彼女が僕の手から逃れようとしたのが分かった。
だが僕は、かまわず治療魔法をかける。
「シュゲン様・・・」
治癒魔法の光に包まれたリンが、その水色の瞳で僕を見上げる。
「なんだ、おまえは!?」
火トカゲの向こうで、銀髪の男が何か叫んでいる気がする。きっと気のせいだ。
「サラマンダー、やってしまえ!」
「うるさいな」
火トカゲが口を開いた瞬間、氷の塊を押し込んでやった。
ドガーン!!
「グガアアアアアアッ!!!」
行き場を失った炎が、体内で暴発したらしい。サラマンダーはよろめいて、その場に倒れた。
「な、なんだと!?」
また男が叫んでいる。よし、これで少しの間、静かになるだろう。
「拠点を探るんだ」
「拠点・・・子供たちがいた遺跡のことですか?」
あえて僕は、彼女の顔を見ずに、静かにうなずいた。彼女の瞳が潤んでいる気がしたからだ。
それをマトモに見てしまったら、きっと僕は冷静さを保てない。
「あの者たちの情報を探って、正体を掴めということですね?」
リンの言葉に、再びうなずく。そして、目の前にいる巨大な魔獣を睨みつけた。
正直、彼女がここから離れさえすれば、その理由はどうでもよかった。彼女がこの場にいると、巻き込むかもしれない。それだけを、僕は気にしていた。
珍しく、自分が少しばかり自制を失っていることに気が付いていたからだ。
・・・この、クソ火トカゲが。
僕の弟子に傷をつけて、ただで済むと思うなよ・・・!!
「・・・!」
弾かれるように、リンが僕から離れる。
「シュゲン様・・・」
彼女が息を飲む音が聞こえた。こころなしか、体が震えている気もする。
・・・あれ、もしかして僕、無意識にしゃべってたかな?
驚かせたのなら、申し訳ない。
「承知致しました。ご命令に従い、拠点を探ります」
「うん、よろしく」
僕は努めて冷静にそう言った。
リンは僕に向かって一礼をすると、すぐに駆け出す。
「あの、シュゲン様」
「うん?」
後ろから声をかけられ、僕は振り向く。
「助けていただき、ありがとうございました」
「・・・早く行って」
僕は彼女の遠ざかる背中を見送った。そして、ようやく巨体を起こした火トカゲへと向き直った。
「待たせたね」
「おまえが、お嬢さんたちの飼主かな?」
銀髪の男の表情が歪む。リンを相手にしてたときとは、顔つきがずいぶんと変わっていた。
「自分から先に名乗ったらどうだ?」
僕がそう答えると、男の眉がつり上がった。どうやら、お気に召さなかったらしい。
「ふん・・・誰でもいい。私の邪魔をする者は、ただ消すのみ!」
「ギュアアアアアア!!!」
サラマンダーが咆哮を上げる。
「踏みつぶせ!」
巨大な脚が僕に迫る。
ズガーン!
溶岩が飛び散った。
「ふん、呆気ないな。あのお嬢さんのほうが、よほどいい遊び相手・・・」
「へえ、誰の遊び相手だって?」
「なに!」
男の顔をぶん殴る。
「ふべらっ!!」
男は大きく弧を描いて、洞窟の壁に激突した。ばらばらと岩が崩れ落ちる。
おっと、やりすぎたかな?
「こ、この・・・私の顔に、傷が!」
男の体がわなわなと震えている。
ふん、リンに傷をつけといて、よく言うな。
「私を誰だと思っているのだ!」
・・・知るか!
名乗れって言ったのに、教えてくれないのはあんただろ。
「イーノー族の『炎の賢者』とは、私のことだ!」
あれ、僕の言葉、口に出てたかな?
とにかく、自己紹介ありがとう。
それにしても、賢者だって?
偉そうな称号を自称するにしては、奴隷商人なんてしょぼいことやってるな。それに、イーノー族って何だろう。どこかで聞いた気もするけど、思い出せない。
「このゴミ虫めが・・・賢者を怒らせたたら、どうなるか」
口から垂れる血を拭いながら、高揚感をあらわにして男が独り言を言っている。
「身をもって知るがいい!」
男は立ち上がると、両手を前に構えた。
すると、男の背後にいくつもの炎の玉が出現した。炎は綺麗に円形に並べられており、それぞれの炎の大きさも均一だ。
なるほど、リンのいう通り、この男はゲートが使えるらしい。そうでなければ、魔法の位置と大きさを、これほど正確に指定することはできない。
それに、リンやヒョウと同じで、魔法を使うときに詠唱をしていない。こちらの世界の連中は、半開きのゲートから魔法を取り出すために、「詠唱」というきっかけを必要とする。詠唱なしで魔法が使えるのは、ゲートを意識的に使っている証拠でもある。
「くくく・・・」
男が含み笑いを始めた。
僕が観察している間に、準備が終わったらしい。
「さあ、これを喰らえ!」
銀髪の男はそう叫ぶと、大量に並べた炎の玉を火トカゲへとぶつける。その炎の玉がトカゲにあたると、トカゲが体にまとっていた炎の色が、赤色から次第に青い色へと変化しはじめた。
「ふははは!見ろ、この美しい青白い炎を!賢者の魔法の力、その身で思い知るがいい!」
男は気持ちよさそうにそう叫ぶと、火トカゲを僕にけしかけた。
「やれ!サラマンダー!」
ゴアアアアアアッ!!!
火トカゲは炎をぶちまけた。それは、リンに吐いた炎よりも、はるかに強力で、はるかに広範囲に広がる炎だった。洞窟の壁が熱で溶け、溶岩となって流れ落ちた。
炎の嵐が吹き荒れる。地面は一面、溶岩の海となった。




