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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
難易度はルナティック
31/39

報酬に釣られたんですね

「諸君、よく集まってくれた!」


翌朝、僕は王国軍の兵士たちと一緒に整列していた。


「我々は、これから王国に仇なすゴロツキの捜索と殲滅を行う。王国の未来は、貴様らの双肩にかかっている。奮戦に期待する!」


「おおーーっ!!」


深い緑色の髪をなびかせた、女の指揮官の演説に答え、兵士たちが剣をかかげる。


・・・おかしい


僕はしば刈りのクエストを受けたはずだ。それなのに、なぜ軍隊に入っているのだろう??


「よし、出発だ!」


続々と兵士たちが訓練場から出ていく。


「おら、さっさと行け!」


「あ、はい」


後ろから小突かれて、訳もわからず歩き出した。


「すみません、これって、しば刈りのクエストですよね?」


僕はすぐ横を歩いている、体格のいい男の人に小声で話しかける。彼は他の兵士たちと違って、王国の紋章の入った鎧を身に着けていない。おそらく、クエストを受けた冒険者だろう。そう考えて、僕は彼に話しかけた。


「あたりめえだろ」


その冒険者らしき人はそう答えると、僕にじろりと一瞥をくれた。


「さっき、ゴロツキを殲滅とか物騒なこと言ってましたよね。それとしば刈りに何の関係があるんですか?」


「・・・まさかおめえ、知らねえで来たのか?」


「といいますと?」


しば刈りってのは、王国の隠語でな。盗賊団や反乱分子、場合によってちゃ帝国軍の正規軍と戦う『傭兵募集』って意味だ」


「はい!?」


僕が驚くのを見て、冒険者風の男はあきれ顔になった。


「報酬につられたか、馬鹿なやつだ」


言われてみれば、このクエストは他より報酬が高かった。「薬草採取」とか「素材集め」とかの、名前だけ似たようなクエストに比べると、報酬が二桁ほど違っていた。


それに、他の採取系のクエストは「成功報酬」型で、採取物を持ってきたら完了となるのに対して、しば刈りはそうではなかった。「作業期間は一週間」「集団行動のため途中での取り消し不可」「人数制限なし」などなど、他のクエストには書かれていない条件がいくつか書かれていた。


赤魔石を探すことが目的の僕にとっては、クエストの条件や報酬は、正直どうでもよかった。あまりにどうでも良すぎて、条件のことは深く考えていなかったのだけど、今考えてみると明らかに怪しい。


「どうして、しば刈りなんて言うんですか?」


「本当に何も知らねえんだな。仕方ねえな」


僕がしば刈りについて何も知らないことを知ると、その冒険者風の人は呆れ顔をしながらも、いろいろと教えてくれた。


「まず、大前提なんだが、冒険者は兵士じゃねえ。つまり非戦闘員という扱いだ。ま、他国に対して軍備ではないと言い張るための、建前みたいなもんだがな」


「建前、ですか」


「そうだ。冒険者ギルドは、仕事がない連中を救済するための組織として作られたものだ。少なくとも、他の国にはそう説明して認めさせたという経緯がある。今、王国の冒険者の人数は、数千人は下らねえと言われている。もしこれが全員、兵士扱いにでもなれば、王国の兵士の数は実際の二倍以上になる計算だ。王国がそんな大軍を用意しているとなりゃ、帝国や他の国はどう思う?」


「王国は、他国を攻める準備をしている・・・と思われるってことですか?」


「正解だ。だから、王国は冒険者は兵士じゃねえと言い張っている。しかし、帝国との戦争が長引いて兵士が足りてねえ。どうにかして補充する必要がある。そこで、冒険者に金を払って傭兵として雇っているわけだ」


国で集めた兵士じゃないから、戦闘員ではないと。


「とはいえ、大っぴらに募集するわけにはいかねえ。建前があるからな。そこで表向きは『しば刈り』と言い張って、傭兵を集めているわけだ。柴刈りなら、森にも山にもいく。柴を刈る道具を持っているのも、あたりめえのことだ。それは鉈かもしれねえし、剣かもしれねえ」


「・・・言い訳にしても雑すぎません??」


「そうだな、端から見りゃバカげた言い訳にしか聞こえねえだろう。実際、帝国も『しば刈り』の意味を知っている。だが、帝国でも似たようなことをして、傭兵を集めている。だから、おおっぴらに文句は言えねえってわけだ」


「はあ」


「それに、最近の帝国は、北の蛮族から騎兵を大々的に買うようになった。もはや、建前も何もあったもんじゃねえ。そのうち、この国でも大規模な徴兵が始まるんじゃねえか?」


そういうことだったのね。


理解したけど、まさか人間相手に戦うことになるとは。さすがに予想していなかった。正直、人間相手にガチの戦闘とかしたくない。


でも、あの男は火属性の魔獣を「しば刈りの時に見た」と言っていた。今の僕にはその情報しかない。


少なくとも、その真偽を確認しておく必要がある。この軍団がどこへ向かうのか、場所の情報は抑えておきたい。おおよその行き先さえ分かれば、あとは自分で探すこともできるだろう。


もし戦闘になりそうでも、こっそり行方をくらませればいいだけだ。



「怯むな!前へ出ろ!」


「うおー!」


「とりゃー!!」


急ごしらえの『王国柴しば刈り隊』は、何故か雪山で白い角付きうさぎの魔獣と戦っていた。


「うりゃー!」


僕も他の連中と同じように、剣を振り回していた。すばやいうさぎは、容易に剣をすり抜けて僕のすぐ目の前に迫る。


「あぶねえっ!」


誰かが僕をすっ飛ばした。


「たあーっ!」


うさぎの魔獣が剣で貫かれる。


「新入り!前に出すぎだ!」


庇ってくれたのは、しば刈りのことを教えてくれた冒険者風の男だった。


「すみません」


僕はそう言いながら、後ろに下がった。


「雪うさぎは強い魔獣じゃねえ。だが、あの角の一撃は鉄の鎧も貫きやがる。不用意に前にでるんじゃねえぞ!」


「助けていただいて、ありがとうございます、先輩!」


「おうよ!」


僕がいる分隊は今、次々と現れる白うさぎの魔獣に手こずっていた。分隊の半分は王国の正規の兵士で、残り半分は僕とおなじ『しば刈り』のクエストを受けてやってきた冒険者だ。


兵士たちは揃いの白い鎧と兜を身に着けている。武器もみな同じ剣だ。


一方、冒険者のほうは、防具も武器もまちまちだった。しかし、白うさぎをより多く倒しているのは冒険者たちのほうだった。人間相手の戦いならいざしらず、魔獣との戦いは冒険者のほうが一枚上手のようだ。


中でも、僕をかばってくれた人の身のこなしは、冒険者の中でも頭一つ抜けている。彼は土壁を出す土魔法をたくみに防御に使いながら、見事な剣さばきで魔獣を倒していった。


土魔法を使っているとはいえ、彼もこの世界の人間の大多数と同様に、ゲートを意識的に使うことはできていない。


そのため、彼が土壁を出せる場所は大きく制限される。土壁を出すにも詠唱・・・というか、ある程度の集中が必要になるし、土壁を出現させる間は、場所の固定のために動きを止める必要もある。


そんな制限があるなかでも、彼は的確に土壁を出現させ、魔獣の攻撃を防御していた。派手な魔法の使い方ではないが、実に効率のよい魔法の使い方だ。少ない魔力で、最大の防御効果をあげている。


たいしたものだ。


彼の魔法の使い方には、僕は素直に感心した。


とはいえ・・・


さっさと、火属性の魔獣がいる場所まで進みたい。でも、少し移動するたびに魔獣に遭遇して、なかなか先に進めなかった


正直、僕一人のほうが魔獣を早く処理できる。


この程度の強さの魔獣なら、睡眠ガスからのパイルドライバーのコンボで、手早く倒すことが可能だ。むしろ、眠らせたまま倒さずに進んでしまってもいい。


でも、今それをやるわけにはいかない。確実に分隊の連中にめちゃくちゃ怪しまれる。下手すると、調査をするとかいって、余計に時間を取られるかもしれない。


先回りして、魔獣を倒しておくことも考えた。しかし、それもうまくいかなかった。


「おい、一人足りねえぞ?」


「あそこにいたぞ!」


「馬鹿野郎、心配すんじゃねえか!」


脱出を図ろうとして僕の姿が見えなくなると、すぐに誰かが探し始めるからだ。


いやいや、僕におかまいなく!


などと心の中で言っても、彼らには聞こえない。連中は、仲間か一人でも見えなくなると、すぐに声を掛け合って探すのだ。


ならばと、負傷して後方に下がる作戦も考えた。分隊が先に進んだところで、こっそり消えるという寸法だ。


「たあーっ!」


攻撃をうけたふりをするため、わざと隙を作って前に出る。ところが、これもうまくいかなかった。


「てめえ死にてえのか!」


「新入りは下がってろ!」


負傷する前に、先輩冒険者たちに助けられてしまった。逆に連中のほうが危なくなって、僕が助けに回ることになったりもしたけど。


そんなことが続き、脱出にことごとく失敗した。


失敗はしたのだけど・・・


不思議と僕は、嫌な気分にはならなかった。


それどころか僕は、分隊の連中を無碍むげに見捨てられなくなっていた。


口は悪いけど、みんな仲間思いなのだ。


「かくなる上は」


僕は周囲を見回す。


「このあたりかな」


隊員と魔獣の位置を見ながら、ゲートを設置していく。


解放リリース


小声で呟く。


「あぶねえっ!」


兵士のうしろから飛び掛かった白うさぎに、小さな石礫をぶつける。うさぎの軌道は逸れて、角の攻撃は兵士の脇をかすめた。兵士はうさぎの攻撃を辛うじて躱すと、剣で角を弾いた。


「よし」


僕は少し離れた冒険者に目をやる。その冒険者は、二匹のうさぎを相手に防戦一方だった。ときおり剣を振るも攻撃が当たらず、彼はじりじりと後退していた。


解放リリース


うさぎの背後から、石礫をぶつける。うさぎは空中でバランスを崩して、兵士の剣の軌道につっこんでいく。


「このくそがーっ!」


ドガッ!


冒険者の剣がうさぎに命中する。攻撃をうけた魔獣は、そのままもう一方のうさぎに激突し、二匹は雪の上に転がった。


「おりゃああああ!!」


派手な音がして、彼の剣がうさぎの一方を貫いた。敵が一匹に減ったことで、兵士の動きが良くなったのが分かった。


「よしよし」


僕は次のターゲットに視線を移した。


「おりゃーっ!」


ドガッ!


「どりゃーっ!」


ズガッ!


「こんちくしょう!」


グサッ!!


・・・いい調子だ


魔法で分隊の連中をこっそり支援することで、魔獣との戦いは圧倒的に楽になった。


「貴様ら、やればできるじゃないか!」


分隊長の女指揮官が声を張り上げる。


「うおーーっ!」


「やったぜー!!」


魔獣を倒す速度が上がり、分隊の連中の士気も大幅に上がった。分隊の連中の機嫌も上々だ。


どがっ!


「いてっ」


誰かに背中を叩かれた。


「おい新入り、俺は下がってろと言ったがな、サボっていいとはいってねえぞ?」


それは、僕をかばってくれた冒険者だった。


「すみません、気後れしてしまって」


「ったく、しょうがねえ奴だな。よく冒険者をやって来れたもんだ」


冒険者の男は、剣を鞘にしまうとにやりと笑って見せた。


「俺はテイラーだ。おめえは?」


「ぼく、僕は・・・」


えーと、あー、どうしよう


「クジキリです」


普通に本名を言ってしまった。


まあ、ギルドにもクジキリで登録したし、問題はないかな。顔は偽装魔法で変えてるし。


「へえ、珍しい名前だな。よろしくな!クジキリ」


「よ、よろしくです」


「はっはっは!」


バシバシと何度も背中を叩かれる。なぜか気に入られたようだ。


分隊は再び進軍をはじめた。


時折、白うさぎの魔獣に遭遇はしたものの、僕の密かな活躍によって、これまでよりもずっと効率よく敵を倒せるようになった。おかげで、進む速度も大幅に上がった。


僕はといえば、怪しまれないように剣を振りながら、分隊の連中を支援する羽目になった。


「俺たち、強くなったんじゃねえか?」


「いやいや、実力が出ただけだろ!!」


「はっはっは!」


分隊の連中の機嫌も上々だ。


・・・僕は二倍疲れるんだけどね。


「ふう」


どさっと木陰に座り込む。


「よお、クジキリ、動きがよくなってきたじゃねえか!」


「先輩に比べたら、まだまだです」


「はっはっは、おめえなかなか見込みあるぞ。百戦錬磨の俺様がそう言うんだ、間違いねえ」


テイラーは水筒から水を飲みながら、がははと笑った。


「そんな百戦錬磨の先輩が、なんでしば刈りなんかやってるんですか」


「あ?ああ、なんだ。その、ちょっと酒場のツケが溜まってよお。払わねえなら衛兵に突き出すとかいいやがって、あの女将おかみ!」


「・・・報酬に釣られたんですね」


なんだよ。


僕には偉そうなことを言っておきながら、借金の返済のために傭兵稼業に手をだすなんて。人のことをどやかく言えたもんじゃない。


「違うぞ!当てにしていたクエストの報酬が、いきなりパァになってよ。あれさえありゃ、こんなシケた『しば刈り』なんど受けてねえっつうんだ」


「へえ、クエストの報酬が出ないことなんて、あるんですか」


「遺跡に住み着いた魔物を退治してほしいってクエストだったんだがよ、遺跡に行ってみたら何もいやしねえ。うさぎ一匹出てこなくてよぉ。それで、何も討伐しなかったから、報酬は一割だとよ。ひでえもんだ」


「誰かが先に倒したんですか」


「いやいや、その魔獣ってのは、このへんじゃ珍しいファイアリザードだって話しだからな。そう簡単に倒せる相手じゃねえ。俺たちも、20人のパーティで向かったんだが、とんだ肩透かしよ」


テイラーはよほど悔しかったらしく、ぶつぶつと文句を呟いていた。


・・・ん、今なんて?


ファイアリザードだって!?


例の強盗君が言ってた魔獣じゃないか。


それこそ、僕が知りたい情報そのものだ。


「その遺跡ってどこにあるんですか?」


はやる心をおさえつつ、僕はそれとなく場所を尋ねる。


「ん?確か、この山を越えた先だったと思うんだが・・・道案内は、探索魔法が使える奴がやってたから、詳しい場所までは覚えてねえ」


この山の先だって?


かなり近いな。


「誰か、遺跡の場所のわかる人はいませんか」


「ううむ、どうだったかなぁ」


それからしばらく彼から情報を引き出そうと、頑張って彼をおだて続けた。


でも結局、彼は遺跡の場所も、詳しい人の情報も思い出してくれなかった。


なんとも歯がゆい。


・・・目的地までもう少しだというのに!


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