僕のほうが知りたいよ!
「シュゲン様、赤魔石というアイテムの入手先をご存じでしょうか?」
僕はリンたちの質問に答えていた。ここは、最近拠点として使っている建物の談話室だ。魔獣領域の真ん中にある山の絶壁を掘って作った建物だ。
座っている椅子の向かい側に、水色の髪の毛の少女・・・リンが立っていた。その後ろにもう一人、短い金髪が美しいエルフの少女が立っている。
「赤魔石、ね」
白磁のティーカップに手を伸ばす。そのティーカップには、リンが苦労して入手した茶葉で淹れたという紅茶が注がれていた。
快い香りがカップから立ち上る。
うまい
・・・気がする。
正直、僕は紅茶には詳しくない。
というか、普段まったく紅茶を飲まないので、僕には紅茶に関する知識がなかった。ただ、こだわりの強いリンのことだ。彼女が入手した品なら、きっと高級なものに違いない。
僕はカップをテーブルへと戻すと、部屋の中を見回した。
談話室に置かれているテーブルや椅子、花瓶、調度品、壁にかけられている絵画、床に敷かれた絨毯なども、すべてリンがどこからか調達してきたものだった。どう見ても貴族が使うような高級品ばかりで、庶民の僕は少し落ち着かない。そんなこともあり、この部屋を使うときはいつも気を使う。
僕はゆっくりとポケットから赤黒い小石を取り出す。うっかり落とさないように、慎重にテーブルの上に置いた。
「これだよ」
「これが、赤魔石ですか!」
「初めて見たッス!」
二人の少女は、目を輝かせてその石を見つめている。
赤魔石はごつごつした石で、表面には光沢もなく、ボコボコとした小さい穴が開いている。見た目には、お世辞にも美しいとは言い難い代物だ。溶岩が冷えて固まったとでもいうような、いびつな形をしている。硬いくせにやけに脆く、下手に力を入れると砕けてしまうことから、加工することも難しい。
この世界の人たちは、魔石は何の役にも立たないゴミとみなしていた。魔石と呼んでのも僕たちだけで、この世界の人たちは統一された呼び名をつけていなかった。「クズ石」とか「魔獣の石」だとか、人によって適当な名前で呼んでいるだけだった。
その魔石が紫っぽい色をしているのに対して、赤魔石は少し赤みがかっている。明るいところで見なければ、色の違いは分からない。そのくらい、両者の見た目の違いは微妙だ。
しかしながら、赤魔石は極めて貴重なアイテムだった。
なぜなら、赤魔石は魔法の元になる装置のレベル上限を解放するために必要なアイテムのひとつだからだ。
赤魔石を使うと、ノーマルの「魔石」で上げられるレベルより、さらに上のレベルに上げることができる。言い換えれば、赤魔石を持っていないと、装置のレベルが頭打ちになってしまう。どんなに大量に魔石を持っていても、赤魔石がないとレベルを上げられない、なんてことになる。
「さすがはシュゲン様です。すでにお持ちになっていたとは」
「むーー、うらやましいッス!」
僕は二人のそんな様子を見ながら、紅茶を口に含んだ。こういう時は、ちょっとだけ気分がいい。
「どこで手にはいるんッスか?」
「火属性の魔獣から手に入るよ」
「あちゃー、火属性ッスか・・・見つからないはずッスね」
そう嘆いたのは、リンのすぐ後ろから赤魔石を覗き込んでいる、金髪を短く切りそろえたエルフの少女だった。彼女の首にも、銀のメダルのついた革の首輪が付けられている。
少女の名は「ヒョウ」。
彼女は一か月ほど前に、僕の二番目の弟子になった。なったというか、リンに懇願されて、仕方なくそうしたという感じなのだけど。
弟子とはいっても、僕は彼女のゲートを治したのと、フレンドに登録してグループに入れる程度のことしかしていない。彼女の指導は、ほとんどリンがやっている。最近は、リンと一緒にアルケインステラで施設を建てたり、魔法の修行をしたり、情報集めに奔走したりと、弟子活動を精力的に行っている・・・はずだ。
二人に直接会うのは一週間ぶりだった。
「火属性の魔獣なんて、あたいは全然見たことがないッスよ」
ヒョウは、絵にかいたような美少女のエルフだった。均整の取れた体型に、整った顔立ち。陽の光に輝く艶やかな金色の髪の毛。黙って立っていれば、それこそ西洋の絵画から抜け出てきた女神のようだ。
非の打ちどころのない美少女と言える・・・見かけに関してだけならば。
「はぁ、どこにいるんスかねぇ、火の魔獣!」
彼女のしゃべり方には少し癖があった。それは、癖というのか、訛りとでもいうべきなのだろうか。エルフ独特のしゃべり方などだと勝手に思っていたら、どうもそうではないらしい。リンいわく、他のエルフの喋り方は普通なのだそうだ。
彼女がリンに「あなたは黙ってうなずいていなさい」と言われているところを見たことがある。
その意見には、僕も賛成だ。
「何を言っているの。火属性の魔獣なら、この近辺でも見かけるでしょう。ファイアバードとか」
「ファイアバードって・・・ああ、あのちいさな赤い鳥のことっスか。あれって魔獣だったんスね!」
「れっきとした魔獣よ。そう教えたはずなのだけど・・・あなた、わたしの言ったこと覚えてないの?」
「あはは・・・先輩、申し訳ないッス。でも、今ちゃんと覚えたッスよ。ファイアバードは魔獣、魔獣っと」
陽気に口ずさむヒョウの横で、リンの溜息が聞こえた。
リン君、君も苦労しているんだね。
それはさておき。
彼女たちのいう通り、この近辺には火属性の魔獣はほぼいない。いても、ファイアバードのようなとても弱い魔獣だけだ。そして、ファイアバードから赤魔石がとれることは稀だ。
僕らがいつも狩っている魔獣は、そのほとんどが土属性か水属性だった。
理由は簡単。この王国近辺に出没する魔獣の大半が水か土属性だからだ。それ以外の属性をもつ魔獣は、ほとんど見かけない。
リンに会うより前に、僕は王国中の魔獣を倒して調べまくったから間違いない。
「師匠は装置のレベルアップ、してるッスよね?」
「・・・してるのもあるよ」
僕は曖昧に答える。
「あたい、自慢じゃないッスけど、アースボルドだけはレベル3にしてるんスよね。でも、この前見た師匠のアースボルトのほうが、ずっと強かったッス。あれって、あたいのアースボルトより、レベルが高いッスよね??」
「そうだよ」
そう答えながら、僕は優雅にカップを傾ける・・・ふりをした。
「やっぱりそうッスか!カーッ!あっしも早くレベルアップさせたいッスよ!」
金髪エルフの少女は、その透き通るような碧い瞳で、うらやましそうに僕を見つめた。
「ヒョウ、シュゲン様の前よ。少しは自重しなさい」
「し、失礼したッス!師匠!」
リンにたしなめられて、ヒョウはその場で縮こまった。その様子がまた、猫のようで妙に可愛らしい。
だけど・・・
ヒョウ君や。
そんなに頑張って、魔法のレベルを上げる必要はないんだよ?
だいたい、君がそうやってにレベルをあげるから、僕も無理してアースボルトをレベル4にしなきゃいけなくなったんだよ?
なけなしの赤魔石を使って。
言うまでもないけど、ノーマルの魔石も大量に必要だったんだからね?
彼女たちに追いつかれないよう、赤魔石集めに僕はかなりの時間を費やしてきたのだ。
各地に設置した遠隔監視魔法のゲートで索敵しつつ、ファイアバードを見つけたら全力で移動、撃破・・・というサイクルを飽きるほど繰り返した。倒したファイアバードは100匹は下らない。
それでも、赤魔石は数個しか集まらなかった。
ファイアバードの出現数、少なくない!?
ドロップも渋すぎる。
そもそも、火属性の魔獣ってファイアバード以外に存在してるのかってくらい、他の火属性の魔獣を見ない。
ゲームバランスおかしいだろ!?
運営は何してる・・・って、全員失踪してるんだった。
いったい、誰に文句を言ったらいいのか。
火山を探せば、近くに火属性の魔獣がいるだろう・・・なんて、楽観的に考えていた時期もありました。
しかし、この王国周辺には火山らしきものがどこにもなかった。隣国にも入り込んで探し回ってみたけど、今のところ火山は発見できていない。
それとなく、街で商人や傭兵たちにも火山の存在を聞いてみたら、火を噴く山なんてものは神話か伝説でしか聞いたことが無いと言われてしまった。
まったく「どこで赤魔石が取れるか」だって?
僕のほうが知りたいよ!
うかうかしてたら、この二人に先を越されてしまう。そうなったら、どうやって威厳を保てばいいんだ。
このところずっと、僕は赤魔石の集め方について僕は頭を悩ませていた。そうしてついに、彼女たちも赤魔石を集めるターンに入りつつあることを知ってしまい、僕は内心穏やかではない。
腕の震えを二人に悟られないように、僕はゆっくりとカップをテーブルへと戻す。
・・・ん?
その時、初めて二人が目の前でひざまづいていることに気がついた。




