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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
難易度はルナティック
26/39

善処します

空間跳躍ワープ技術を開発しよう」


・・・空間跳躍ワープだって?


事の発端は、新しいミッションが追加されたことだった。開発レベルが一定以上になったことで、新ミッションが解放されたらしい。


空間跳躍ワープというのは、いわゆるあれだ。


一瞬で遠い距離を移動できるまで跳んでいける技術のことだ。


魔法でいうところの「転送魔法」に近い。


リンたちの住む「あちら」の世界では、アルケインステラで作成できる「空間接続装置」という設備を使うことで、転送魔法を実現できる。この装置は、指定した二つの場所の間に「短絡路ショートカット」を作る。


ただし「短絡路ショートカット」の「入口」と「出口」の両方に、予めゲートを設置しておく必要がある。だから、一度もいったことがない場所へは、転送魔法では跳ぶことができない。それに、転送先を増やそうとすると、ゲートの設置数を消費する。「出口」の場所に、ゲートをずっと設置しっぱなしにしておく必要があるからだ。


だから、転送魔法はそこまで気軽に使える魔法でもない。


一方、ミッションで追加された「空間跳躍ワープ」は、いったことが無い場所へも跳ぶことができるそうだ。何光年という距離を、一瞬で飛ぶことができる。もちろん、移動できるのはアルケインステラの宇宙の中だけだけど。


ワープ技術の開発ができれば、今いる恒星系とは違う星系へ行けるようになるということだ。


地球や太陽系を例にとって説明するなら、太陽系を飛び出して、シリウスとかリゲルとか、いわゆる「他の太陽」のある場所へと「一瞬で」跳んでいけることと同じだ。


「うーん」


僕は唸った。


他の星系へ行けるということは、開発できる惑星の数が大幅に増えることを意味している。そうなれば、今より多くのエネルギーと資源が使えるようになる。そうして得られた膨大なエネルギーと資源を使えば、膨大な時間がかかる装置のレベルアップの時間を短縮できる。


そして、「あちら」の世界の魔法の強さは、「アルケインステラ」で開発できる装置のレベルや種類に大きく依存する。


だから、装置のレベルが上がるということは・・・


「魔法が強くなる」


・・・うーむ


僕は、アルケインステラのゲーム画面を凝視しながら、頭を掻いた。


魔法が強くなることに、魅力を感じないわけがない。


・・・そうそう


ちなみに今は「魔法」と呼んではいるけど、その実態はもちろん「アルケインステラの惑星上に設置した装置とゲートを使って引き起こす超常現象」のことだ。


僕は当初、リンにゲートの使い方を教えるとき、「ロックボルトを使う」とは言わずに「岩石射出機を使用して石礫を発射する」というような言い方をしていた。


「アイスジャベリン」なら「瞬間冷凍装置」を使って空気中の水分を凍結し、狙った範囲にそれを射出するという方法で実現できる。ただし、出現する氷の大きさによって、魔法としての呼び名は変わる。小さい氷の粒なら「アイスボルト」、刃のように大きい氷なら「アイスジャベリン」という感じだ。


でも、彼女に教えているうちに、「ロックボルト」と言えばすむことを、長々と「岩石射出機を使用して・・・」とか言うのが面倒臭いなと思うようになった。


料理で言えば、単に「卵焼き」と言えばいいものを、わざわざ「攪拌した卵をフライパンで焼いた料理」と作る手順を並べ立てて、料理の説明をするようなものだ。レストランで料理を注文するときに、わざわざ「攪拌した卵をフライパンで焼いた料理」をください、なんて言い方はしないだろう。


そのことに、僕はすぐに気がついた。


あちらで「魔法」と呼ばれる現象のことは、そのままロックボルトの魔法とか、アイスジャベリンの魔法と呼ぶことにした。つまり「岩石射出機を使用して石礫を発射する」と言っていたのを、単に「ロックボルトを使う」と言うようになったということだ。


その上で、リンに魔法の使い方の説明をするときは、自分が使いたい「魔法」を実現するために、どの「装置」をどのように使えばよいかを説明するようにした。この説明の方法は、彼女にとっても理解しやすかったようだ。僕が説明の仕方を変えてからは、リンの魔法の腕が急速に上がり始めた。


無論、あちらの世界の人間の大多数は、アルケインステラが存在していることを知らない。いや、気が付いていないというべきか。ましてや、ゲートを使って装置を意識的に「接続」したり「解放」する方法も知らない。自然に存在しているゲートから、「魔力」、すなわち「アルケインステラで生成したエネルギー」を漫然と取り出し、漫然と「魔法」を使っているに過ぎない。


ゲートを意識的に制御できないと、魔法の精度や効率、威力などに大きな影響がでる。


たとえば、ロックボルトを使う場合でも「適当なサイズの石礫をなんとなく前方に、適当な速度で飛ばす」という感じでしか使えない。


一方で、ゲートを制御できる僕らは「5㎝角の石礫を、正面から右側5度の角度の方向に、100km/h の速度、100ms 間隔で10発発射せよ」というように、非常に具体的な指示ができる。


これができるおかげで、僕らは他の人間たちに比べ、圧倒的な精度と威力をもつ「魔法」が使えるのだ。


新たなミッションをクリアすれば、ただでさえ圧倒的なその魔法の力を、さらに強化することができる。その点だけ考えれば、いいことしかない。


ただ、大きな問題があった。


「ミッション開始のために、魔石が1000個も必要って」


魔石1000個といえば、僕の手持ちのほとんど全部だ。これを使ってしまうと、魔法の強化がしばらくできなくなる。


魔石は宇宙船を作るために必要なアイテムであると同時に、装置のレベル上限を解放するためにも使う。レベルの上限解放には相当数の魔石が必要になるので、魔石は今でも貴重なアイテムなのだ。


もちろん、魔石を追加で集めることはできる。ただ、魔石を落とす魔獣の総数が限られている以上、短時間で大量に集めることは難しい。


それに、最近はリンやヒョウも魔石を集めるようになった。僕だけが魔石を独占するわけにもいかない。だから、僕の手に入る魔石の量は以前より減っている。


「魔石をうかつに使うと、リンやヒョウにレベルで追いつかれるからなあ・・・」


実のところ、僕の一番の悩みはそれだった。


彼女たちは、使える魔法の属性がひとつしかない、リンは氷属性、ヒョウは土属性だけだ。一方の僕は全属性、つまり六属性の魔法が使える。無属性魔法というのもあるけど、それは彼女たちと僕とで条件は同じだ。


魔法がたくさん使えること自体は悪いことでもなんでもない。むしろ素晴らしいことだ。


でも、使える魔法の種類が多いということは、強化できる魔法の種類もたくさんあるということでもある。いろいろな魔法のレベルを上げようとすると、当然ながらそれ相応の魔石が必要になる。


彼女たちは属性をひとつしかもってない。だから、強化できる魔法の種類が少ない。彼女たちは魔石の数が少なくても、手持ちの魔法を強化していける。


僕が全部の魔法を均等に強化しようとすると、莫大な数の魔石が必要になる。仮にリンとヒョウに負けないように、氷魔法と土魔法だけ強化していくとしても、単純に彼女たちの二倍の魔石が必要になる。


結局、師匠ズラし続けるためには、彼女たちの数倍の魔石を集め続ける必要がある・・・ってことなんだよね。


「そこまで無理をして、彼女たちに勝つ意味があるのか?」


・・・たまに、そう思うことはある。


でも、やはりダメだ。


後輩ゲーマーに追い抜かれるなんてことは、ランカーを張ってたゲーマーとしての矜持が許さない。


それに彼女たちは、僕のほうが強い魔法を使えるってだけで、師匠と言って持ち上げてくれている。魔法のレベルで追い抜かれるなんてことが起こったら、彼女たちに冷たい目線を向けられるに決まっている。


そうなれば、ゲーマーとしても、人間としても否定されてしまう気がする。


・・・うぐぐ


想像しただけで心が痛い。


「やはり、魔石は温存すべきなのか・・・」


懸念点はまだある。


つい忘れがちなのだが、開発者チームは現在、絶賛失踪中なのだ。ミッションを開始したとして、それをクリアできる保証は全くない。実際、アルケインステラ内だけでは「魔石」は手に入らないため、僕以外のプレイヤーは誰も難易度「ルナティック」の最初のミッションすらクリアできていない。


次のミッションで要求されるアイテムが未実装の可能性は非常に高い。


魔石だけ大量に飲まれて、何も得るものがない・・・なんてことも、あり得るわけだ。


「悪夢だな」


効率厨の僕が、そんな事態に耐えられるわけもなく。


・・・あーー


まじでどうしよう!?


「・・・」


「シュウちゃん、シュウちゃんってば!」


腕を掴まれた感触で、僕はいきなり現実に引き戻された。


「水があふれるよ!」


彼女の声で我に返り、周囲を見回す。


僕たちは大学の学食にいた。


対面の席には不動がいて、僕の目の前には空になったランチの容器と、なみなみと水が注がれたコップがある。


「・・・ああ、ごめん」


僕がそう答えると、不動が腕からゆっくりと手を離した。


彼女の手があと一瞬遅ければ、過剰な量の水がコップにそそがれ、テーブルの上が大惨事になっていたことは間違いない。


「もう、今日のシュウちゃんおかしくない?どこか具合でも悪いだか?」


「・・・寝不足なだけだよ」


「寝不足って。いったい、何してるの?勉強じゃないのは知ってるけど」


訝しげな表情で、彼女が僕を見つめる。


思わず目を伏せた。


自然と、彼女のトレイが目に入った。僕の食器はすでに空になっているのに、彼女はまだ器に料理が残っている。僕の食べる速度が速いからじゃない。不動が、ほとんど一方的に僕に話しかけ続けるからだ。


「勉強だよ」


「・・・シュウちゃん、冗談、言えるようになったんだ」


「本当なのに」


彼女に嘘は通じない。それは昔から分かってはいる。


とはいえ、チャレンジ精神は忘れたくない。


「ゲーム?」


「まあね」


僕は曖昧に答えた。


「へえ、シュウちゃんもゲームするんだ。家では、ずっと瞑想でもしてるのかと思ってた」


・・・おいおい


不動こいつは僕のことを何だと思ってるんだ。


「どんなのやってるの?パズルゲームとか?」


「そんな感じ」


「・・・違うんだ。うーん、何だろう?」


やはり嘘は通じない。


解せぬ!


「教えてよ。私もやってみたい」


「すぐ飽きるよ」


「あーっ!わかった。どうせ私には難しくて、できないとか思ってるんじゃないの?」


「・・・すぐ飽きるから」


僕は再び曖昧に答える。どうせ、本当のことを言っても火に油を注ぐだけだ。


「図星でしょ!ほんとにシュウちゃんは・・・」


それから、いつものように彼女の説教が始まった。僕は半分聞き流しながら、注ぎすぎたコップの水を減らす努力を始めた。


・・・やれやれ


昔から、不動は飽きっぽかった。トランプゲームやボードゲームを始めても、数回やると「違うことやろう!」といって、長続きしなかった。漫画の本を見せても、最後まで読み切ることは稀だった。2時間の映画を見ると、たいては途中で寝てしまう。


そんな不動がアルケインステラみたいな小難しいゲームを始めたとしても、長続きするとは思えない。さんざんやり方を聞いておいて、すぐ放り出す様子が目に浮かぶ。まさに、教える労力が無駄だ。


教えなければ教えないで、こうして説教されはする。


でも、そこは飽きっぽい彼女のことだ。説教もすぐに飽きる。


要するに、彼女にゲームのことを教えないほうが、僕が無駄にする時間の総量は少なくなる。ゲームのことを教えないことが、最善の選択となるわけだ。。


「ちょっと、聞いてるの!?」


麻利あさりさん、次の授業はじまるよー?」


数人の女子のグループの一人が、不動に声をかけた。


「え、もうこんな時間?行かなきゃ」


彼女は急いで食事を食べ終えると、席を立った。


「じゃ、またバイトでね!」


そのまま友達を追いかけて、授業へと向かっていった。


「また」


「ちゃんと寝なさいよ!」


「善処します」


僕は彼女たちの後ろ姿を見送ると、ランチのトレイを持って席をたった。


・・・よしよし


計算通り、彼女の説教は短時間で終わった。どうせ、ゲームのこともすぐ忘れるだろう。


皿を洗濯槽へほうりこみ、トレイを返却台へと戻すと、僕は学食を後にした。


「さてと」


今日の午後一は、空き時間になっている。だから、次の授業までは1時間半ほどある。微妙なところだが、自宅へ戻って休むほどの時間はない。東京と違って、大学のすぐ外に時間をつぶせるような場所もない。


そうなると、選択肢は限られる。


「自習スペースに行くか」


自習スペースというのは、ただっぴろいオープンスペースに、大きな机がいくつも置いてある場所だ。電源と無線ネットワークが自由に使えるので、時間をつぶしたい学生たちがここに集まってくる。


「明後日提出のレポートがあったな」


僕は珍しく、少しだけやる気になって、ノートパソコンを開く。


「OSのアップデートを開始します」


「このタイミングでアップデートかよ・・・」


パソコンの画面には無情な文字が表示されていた。やる気になった時を狙って、アップデートが始まる気がする。


無理矢理アップデートを止めようと、停止ボタンに手を伸ばした。


「・・・」


しかし、僕はそれを途中で思いとどまる。


「急ぐ必要もないし、まあいいか」


アップデートの進行状況を示すパーセンテージの数値が、真っ青な画面の中で増えていく。出鼻をくじかれた僕は、ぼんやりとその画面を眺めていた。


そして、結局ミッションを進めることになった経緯について思い出していた。



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