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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
難易度はルナティック
25/39

信用ないな

納屋での一件があってから、半年が経っていた。


このあたりの夏は東京より短い。すっかり秋の気配が漂い、朝晩は少し肌寒くなってきた。


そして、こちらの世界と同様「あちら」の世界も半年近い時間がたっていた。


「あちら」の世界は、この世界と時間の流れる速さが違う。こちらの1時間が、ちょうどあちらの1日に相当する。ただし、僕がゲームを起動している間しか、あちらの世界の時間は進まない。だから、僕がゲームを起動しなければ、あちらの世界の時間は進まない。


四月以降、僕もそれなりに忙しく、ゲームをする時間はあまり取れていない。平日はせいぜい1,2時間程度、週末の夜にまとめて4,5時間とかプレイできるかどうか・・・といったところだ。


リアルの生活が、なにかと忙しかった。授業は多いし、バイトもあるし、大家さん一家の農作業の手伝い、大学のイベント、地域のイベントの手伝い、テストやレポート、などなど、様々な事情でプレイ時間が取れないことも多かった。


結果的に、向こうの世界の時間とこちらの時間の進み方は、ちょうど同じくらいになっていた。


そういえば、一度だけゲームを起動したまま「あちら」に行かずに、丸一日放置してしまったことがある。そのときは、ゲームの資源を作り置きしておこうと思い、惑星上の工場をフル稼働させたまま放置したままで、リアルの作業をしていた。


作業が終わった後、疲れていたせいでそのまま寝てしまった。翌朝起きて学校に行き、帰ってきたときに、ようやくパソコンをつけっぱなしなことに気が付いた。


僕は急いで「あちら」に行った。


すると、リンに涙目で「シュゲン様に置いて行かれたと思いました・・・」と言われてしまった。


以後、ゲームのつけっぱなしは止めることにした。地球環境にもよくないし、電気代もかさむ。


それに、女の子に泣かれるのは、心臓に悪すぎた。


ちなみに、納屋から「あちら」の世界に入れるのも、ゲームを起動している間だけだ。試行錯誤した結果、納屋が光るのはゲームを起動している間だということが分かった。


でも、なぜアルケインステラとこの家の納屋が連動しているのか、その理由については全く分からなかった。


このゲームを開発しているのは海外の企業だ。こんな、高原の盆地の小さな町にある、古ぼけた納屋と、その海外企業との関係など、探すだけ無駄なくらいに何もない。それに、開発陣失踪のニュースの続報はなく、そちらについての情報も調べようがなかった。


僕は納屋の謎の解明については、当分保留することにした。


ただ、ゲームを続けるにあたって、僕にはひとつ懸念点があった。


「あちら」に行っている間に、パソコンの電源が落ちたらどうなるのか?


とても気になる問題である。


ひょっとすると、あちらの世界から戻れなくなるかもしれない。


その不安は常にあった。


でも、僕一人ではそれを検証する手段がなかった。結局、そんな不安を抱えながらも、「あちら」の世界へ行く魅力には逆らえず、僕はゲームを続けていた。


しかし、その問題はある日突然、解決した。


それは「あちらの世界」で、自作の露天風呂にのんびり入っていた時に起こった。


「!?」


何の前触れもなく、僕は全裸で納屋から放り出されていた。


慌てて自室に戻ってみると、パソコンが勝手に再起動していた。そのせいで、ゲームが強制的に終了させられていたのだ。


「OS自動アップデート、恐るべし・・・」


それ以降、ゲーム開始前にOSのアップデートを必ずすることにした。さらに、納屋には着替えを置いた。その上で、人がやって来そうな昼間の時間帯には「あちら」へ行かないと、固く心に誓った。


納屋についても、少しだけ物理的に手を入れた。勝手に他人が入らないように鍵をつけた。内側から目張りもして、光が外に漏れないようにもした。これで、他人が光を見たり、間違って中へ入ることを防げるはずだ。


とはいえ、この家にやってくるのは不動くらいなものだ。だから、納屋の改造はほとんど不動対策だと言える。


あいつは、光っている納屋を見つけたら、勝手に入りかねない。


そんなことになったら・・・


「・・・、・・・ちゃん!」


・・・ん?


「ちょっと、シュウちゃん!」


「・・・不動?」


「今、寝てたでしょ!」


僕は慌てて自分の体を確かめる。


・・・よかった、全裸じゃない。


「しっかりするだよ」


不動に言われ、僕は改めて周囲を確認する。


「・・・」


大学の大講堂でウトウトしてたところを、彼女に起こされたところだった。


「ダメじゃない。今日は履修説明会なんだから、聞いてないとヤバイよ?」


「そうだった、ありがとう」


僕は今、10月から始まる後期の授業の履修登録の説明会に参加している。300人以上入る大講堂に、学部の一年生の大半が集まっていた。こんなに多くの学生がいるのを見るのは久しぶりだ。


昨日は、いつもより長く「あちら」に行っていたせいで、今日は少しばかり寝不足なのだ。紆余曲折あった末に、ミッションクリアを強行することになったせいだ。それで、いつもより帰ってくるのが遅くなってしまった。


「最近、居眠りしてること多くない?」


「そうかな」


「この前も、テストの時間に寝てたの見たよ?」


・・・いつだろ


心当たりが多くて、どのテストのことを言われているのかが分からない。


「早く解き終わったんだよ」


「わたし、ヒヤヒヤしてただよ?」


「大丈夫」


「シュウちゃんの大丈夫は信用ならないだ」


「信用ないな」


「自業自得です」


不動に、コツンと頭をたたかれた。


なんで叩かれるんだ。前期の単位はひとつも落としていないというのに。


僕はムスっとする。


・・・とはいえ、彼女に強く反論はできない。


確かに、こんな調子で異世界生活を続けていたら、睡眠時間がなくなることは目に見えている。あちの世界の時間の進み方が遅いこともあって、まだ帰らなくても大丈夫だろうと油断して、ついつい長居してしまうのが良くない。


もし成績不良で留年なんてことにでもなれば、両親がすっとんで来て僕を東京へ連れ戻すだろう。


それだけは絶対に避けなければ。


僕は眠い目をこすりながら、強力な催眠作用をもつ履修説明の冊子に目を通し始めた。


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