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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
難易度はルナティック
28/39

君たちへの課題ってことで

さっきまで立っていたはずのリンが、いつのまにかひざまずいている。


ヒョウに至っては、全力で土下座しているようにしか見えない。


「どうしたの?」


「ご、ご無礼をお許しください、シュゲン様。安易にアイテムの入手先など、お伺い致しましたわたしたちが間違っておりました。どのような罰でも王家する所存にございます」


師匠マスター、ごめんなさい!二度と生意気なことは申しません!!」


二人はそう言うと、深々と頭を下げた。


ヒョウの長い耳がプルプルと震えているのが見える。


「えーと」


もしかして僕、無意識のうちに変なこと口走ってたかな?


赤魔石を効率よく集められない、自分の不甲斐なさを嘆いただけで、彼女たちを咎めたつもりはないのだけど・・・


誤解を与えたなら、悪いことをしたな。


僕は頭を掻いた。


「君たちは何も悪くないよ」


「・・・シュゲン様の寛大なお言葉、まことに感謝の極みです」


「ははーっ!お許しいただき、ありがとうございます!!」


二人は再び頭を下げた。長い水色の髪が床に垂れる。金髪のほうは・・・髪どころか、額ごと床に押し付けられていた。


うーん。


僕は腕を組む。


また彼女たちに、妙な気を使わせてしまった。


以前から、こういうことは度々あった。リンなんて、弟子になった直後は、僕が何か言うたびに平伏していた。あまりに頭を下げるので、頭をさげるのは一日一回まで・・・なんておかしな命令をする羽目になったくらいだ。


彼女たちが、そこまでかしこまる理由がよくわからない。


僕の中身は、ただの大学生だよ?


ちょっとゲームができるとは思ってるけど、取り柄と呼べるものはそれくらいしかない。平和な日本で暮らしてきた僕なんかより、彼女たちのほうがずっと大人に思える。


彼女たちは、それぞれに辛い思いをしてきた。それが、どれほど辛いものだったのか。平和ボケしている僕が、安易に「分かる」と言えるようなもんじゃない。


そんな二人が、僕のことを師匠として敬意を示してくれることは、少なからず嬉しいと思っている。


ただ、ここまでへりくだった態度をとられると、僕としても少々バツが悪い。


「頭を上げてよ」


「「はっ!」」


即座に顔を上げる二人。アーティスティックスイミングに出たら、優勝できそうなほどにぴったりと息の合った動きだ。


僕は思わず目を伏せた。


偽物の隷属の首輪には、強制力はないはずなんだけど・・・逆らえないという自己暗示が、彼女たちに強くかかりすぎているのかもしれない。


・・・そうだ


そこで僕は、ふとあることを思いついた。


「火属性の魔獣、探してみてよ」


「・・・はい?」


僕の言葉を聞いたリンが、珍しく驚いた表情を見せた。


「君たちへの課題ってことで」


「課題、ですか」


「見つけたら報告してくれるかな」


彼女たちが僕の言うこと聞いてくれるなら、いっそ二人に火属性の魔獣を探させたらどうだろうか。少なくとも僕一人で探すより、ずっと効率がよくなることは間違いない。魔獣が見つかれば、彼女たちも赤魔石が手に入るのだから、彼女たちにもメリットはある。


それに、少し実行の難しいことを僕が言ったら、彼女たちがどうするのかについても興味がある。無理だと悟って拒否するのか、無理と分かっていても暗示の効果で実行しようとするのか、はたまた・・・、


「・・・!」


僕がそんなことを考えていると、リンの背筋がすっと伸びた。


「ありがとうございます!シュゲン様から頂きました、初めての試練、全力でこなして見せます!」


「師匠からの試練、気合入るッス!」


二人は猛然と立ち上がる。まったくの予想外の反応に、僕は思わず目を見開いた。


「これより、わたしたちは赤魔石を捜索する任務へと赴きます。そして、空間跳躍ワープなる技術を『開発』し、シュゲン様がおられる高みへと近づく努力をして参ります!」


・・・今、なんて?


「あたいも空間跳躍ワープ、全力でやるッスよ!」


「行きましょう、ヒョウ」


押忍オッス、先輩!」


・・・ちょ、ちょっとまって!


火属性の魔獣を見つけても、先走らないでほしいのだけけど!


「えっと、その、無理はしないように・・・」


二人の気迫に押され、僕は妙なことを口走る。


「心得ております!」


「あ、強敵は深追いしないで」


一度戻って報告を・・・


そしたら、僕が・・・いや、僕も倒しに行くから。


・・・ってか、是非行きたい!


「ご配慮、痛み入ります。では、失礼いたします!」


「失礼するッス!」


呆然とする僕をよそに、気合をみなぎらせた二人は、あっという間に談話室を後にした。



バタン



扉が閉まる。


「・・・先輩、あてはあるんスか?」


「残念ながらないわ。あなたは、何かある?」


壁ごしに二人が話す声が僅かに聞こえる。


「エルフの長老に聞いてみたらどうかと思ってるッスよ」


「長老?」


「そうッス。500年くらい生きてるッスから、きっと何か知ってるッスよ」


「それは是非、聞いてみたいところね。そんな偉そうな人、会ってもらえるの?」


「へへん、任せるッスよ、こう見えてもあたいは・・・」


二人の声が遠ざかっていく。


そうして、部屋は完全に静かになった。


僕は無音の部屋で、ひとり天井を見つめていた。


「・・・」


ティーカップを再び手にとる。


カップに注がれた紅茶の表面が、激しく波打っている。


適当な思いつきで口走っただけなのに、妙なやる気を二人に与えてたようだ。僕としては、難しいことを言ったつもりだったので、困惑するか、拒否されるかと思っていた。


まさか、喜々として受理されてしまうとは・・・


・・・いや


それは良い。


やる気をもって探してくれること自体は、何も問題はない。


だが、彼女たちは最後に、聞き捨てならないことを言っていた。


空間跳躍ワープってどういうことだ??」


何故、そんな単語が出てくるんだ!


今日の話の中に、ワープの「ワ」の字もなかっただろう??


赤魔石の話をしていたはずなのに・・・


「・・・まさかっ!?」


僕は、あわててゲームのメニューを開いた。


空間跳躍ワープ技術を開発しよう」


新ミッション追加のメッセージが表示されている。僕は画面にある「ミッション開始」のボタンを押す。


「魔石を1000個消費します。よろしいですか?」


確認のメッセージが表示される。僕は迷わずOKを押した。そして、表示された画面を見て、僕は唖然とした。


「・・・そうだったのか!」


ここにきて、ようやく二人が言っていた意味が分かった。


赤魔石は、空間跳躍ワープ技術の開発に必要なアイテムだったのだ。


てっきり僕は、彼女たちは魔法のレベルを上げるための赤魔石が欲しいのだと、勝手に勘違いしていた。でも、そうじゃなかった。彼女たちの目的は、新たに追加された「ミッションクリア」だったのだ。


まさか、赤魔石がミッションと関係しているなんて・・・


僕は膝から崩れ落ちた。


「なんてこった・・・」


そもそも、彼女たちがミッションを進められるほどに、魔石を大量に持っていたなんて。まったく想像できなかった。


だから僕は、彼女たちにミッションで先行されるなどという、恐るべき事態が発生するとは、露ほどにも思っていなかった。


あの二人の気合の入った様子からすれば、僕より先に空間跳躍ワープの技術開発に成功する可能性は十分にある。


そういえば、エルフの長老に会って話を聞くみたいなことを言っていたような?


・・・何その、チートっぽい人脈!?


やばい、マジで先越されそうな気がしてきた。


そんなことになったら!


ゲーマーとしての矜持はズタボロ、師匠としての面子も丸つぶれだ。


ぐぬぬぬぬ!!


・・・いや、しかし、しかし、だ!


幸いにして、僕は彼女たちより多くの魔法が使える。魔法を駆使すれば、二人より効率的に探索できるはずだ。


これまでは、探査の魔法だけに頼って、誰にも情報を聞かずに探索してきた。それもこれも、この世界の人間と関わらないようにするためだけど、今回ばかりはそうも言っていられない。


僕の使える魔法を駆使すれば、人間相手の交渉も容易くできるはず!


火属性の魔獣の情報を知っていそうな連中に、片っ端からあたっていけばいいだけだ。


「そんな情報を持っている人種といえば・・・」


やっぱ、冒険者だよね?


そう相場が決まっている。


知らんけど、きっとそう!


確か、この王国にも冒険者ギルドというものがあったはず。魔獣を相手にする冒険者なら、魔獣の情報を持っているだろう。


「急がないと」


こんなところで優雅に紅茶をすすってる場合じゃない。


僕は立ち上がった。


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