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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
難易度はルナティック
23/39

「クソ野郎どもが」

「・・・これは、何があったんだ?」


「申し訳ありません。まったく分かりません」


隊長のライアンの問いに、私はそう答えるしかなかった。


「俺たちが探していた連中に、間違いはなさそうだが・・・」


夜明けの湿気を含んだひやりとした空気が、高原を包んでいる。


「朝っぱらから、豪勢な狼煙のろしを上げてるやつがいやがるなと、やって来てみりゃこの有様だ」


馬車のすぐそばには、もうもうと白煙を上げている木片の山がある。彼はそれをちらりと見ると、すぐにその視線を私へと向けた。


「本当に、おまえらがやったんじゃないんだな?」


「やってません。私の隊も、狼煙を見たという者の報告を受けて来たのです。到着したときには、すでにこの状態でした」


「ふうむ、嘘をついて俺に手柄を譲るなど、いつからおまえは殊勝に・・・」


「本当です」


私はびしゃりと言い放つ。


「おい。そこは上官に手柄を譲りますと言うところだろ?」


「絶対に言いません」


「・・・可愛げのないやつだなあ」


隊長は赤茶色の髭をごしごしとこする。ようやく彼は、私をからかうことを諦めたようだ。馬車へと視線を戻す。


「で、分かったことは?」


「檻に入れられていた者たちは、王国が認可していない隷属の首輪をしていました。おそらく、いずこかで誘拐され、強制的に首輪を付けられたものかと」


やってきた部下の一人が、隊長に報告する。


「やはり『闇商人』か」


「おそらくそうです」


「王女さんの言った通りだな」


隊長の言う「闇商人」とは、王国内で取引を禁じられた品物を扱う商人のことだ。禁制品はもちろんのこと、違法な奴隷の倍々も含む。


わが国では、王国が認可した隷属の首輪を付けた人間に限り、奴隷として売買することを認ている。それ以外の隷属の首輪の使用は、王国内では違法だ。しかし私的に隷属の首輪を作成し、一般人を誘拐して奴隷として売買する者が、少なからず存在している。


無論、違法な奴隷の売買は王国内ではできない。そのため、誘拐した奴隷は「輸出」され、他国で売買されるのだ。


王国では、違法な奴隷商人を俗に『闇商人』と呼び、違法な隷属の首輪をつけられた奴隷のことは『闇奴隷』と呼んでいる。


「しかし、こんなにも大人数の闇奴隷を扱う連中を、私は見たことがありません」


「奇遇だな、俺もだ」


私は、そこかしこに転がっている紺色のフードを被った連中を眺めた。ざっと、数十人はいるだろうか。少なくとも、私の隊の兵士の数より多い。


「・・・」


安堵すると同時に、落胆の感情に襲われた。


今回、闇奴隷の輸出を未然に防ぎ、闇商人の一味を捕縛できたことは、王国にとって極めて幸運なことだった。


一方で、この人数を要する組織が、王国の闇に隠れて活動していたことに、私は驚きを禁じ得なかった。しかも、殿下の推測によれば、この連中は大きな組織の一部にすぎないという。


闇商人の存在は、以前から王宮内でも認知されていた。しかし、ここまで大きな組織に育つまで、王国はほとんど手を打ってこなかった。


私は、おぼつかない足取りで檻から出る子供たちを目で追った。


・・・もう少し早く手を打っていれば。


救われた者も多かろうに。


そのとき、隊長が歩きはじめたことに気が付いた。地面に転がっている紺色フードの連中どものほうへと向かって行く。


「隊長!」


私も急いで後を追った。幾人かの私の部下も、一緒に隊長の後を追う。


隊長が一人の男の前で足を止めた。その男は、抵抗するだけ無駄だと悟っているのか、隊長が近づいても、ただ虚な目で見上げただけだった。


「これも、おまえらがやったんじゃないんだな?」


「はあ、我々はやっておりません」


視線を向けられた私の部下の一人が、戸惑いながら答える。


「一味は全て、地中に深く打ち付けられた杭につながれています。争った跡はなく、傷を負った者もおりません。我々が到着したときには、すでにこの状態でした。」


「無抵抗のまま縛られたと」


「おそらくは」


「しかも、誰がやったは分からんと?」


「はい」


「・・・どこかで見たような状況だな」


隊長はつぶやくと、続けて盛大なため息をついた。


「はあ・・・こいつら、丸腰だったのか?」


「いえ、鞘や矢筒が残っておりますので、武装はしていたものと思われます。ですが、剣も槍も、ナイフのような小さなものですら、武器らしきものは全く見当たりません」


「魔法を使った形跡もないのか?」


「それが、魔封じの腕輪をつけられておりまして・・・」


「なに?魔道具だと?」


私は思わず身を乗り出した。


「はい」


「バカな、これだけの人数にか?」


「はい」


魔法の使用を阻害する魔封じの腕輪は、かなり高額な魔道具だ。そんなものを大量に、しかも使い捨ての道具のように使用するなど、常識では考えられない。


「その、魔道具と呼ぶには、かなり簡素なものではあります。ですが、その呪縛から逃れることができた者は、ここにはおらぬようです」


「・・・おいおい、何がどうなってるんだ」


隊長がごしごしと髭をこする。


「積荷にされてた連中のほうは?」


「彼らの話から、おそらくは王国内の近隣の村からさらわれた子供だと推測されます。健康状態が悪い者は何名かおりますが、命に別状はございません」


「そうか、それは良かった」


隊長のダークブラウンの瞳が、わずかな光を放つ。


「ただ・・・」


「どうした?」


「馬車から出され、いずこかに連れ出された者がいるそうです」


「連れ出された?別の場所へ運ばれた者がいるのか」


隊長は、空になった檻へと目を向けた。馬車の外には、毛布をかぶって温かいスープを飲んでいる子供たちの姿が見える。


「おそらく、そう思われます。ですが、まだ生きているかは・・・」


「どういうことだ?」


「魔力炉へ連れて行かれたそうです」


「魔力炉・・・魔道具への魔力供給か」


隊長の表情が固くなる。


「まさか、幼い子供を魔力の供給源に?」


私は魔力炉という言葉を聞いて、思わず声を荒げた。


「連れ出された子供はここにはおりませんので、確かなことは分かりません。ですが、残った子供たちの証言から推測するに、魔力を吸いだす目的で連れ出されたものと思われます」


「・・・何ということを」


私は絶句する他なかった。


人間を魔力の供給源として使うという話は、これまでにも聞いたことがある。


魔道具の開発者は、自分自身が供給する魔力だけでは供給量が足りない時に、他の人間の魔力を使うことがある。大抵は、弟子や共同開発者などの協力者を得て、魔力の供給を行う。


人間は、魔力が枯渇すると死んでしまう。それは、誰でも知っていることだ。だから、たとえ奴隷であっても、通常は当人の体に無理がない範囲で供給させる。


だが、モラルのない魔道具の開発者の中には、奴隷を使い捨ての魔力供給源として使う者がいると聞く。そうした連中は、魔力を一気に大量に供給させるため、強引に魔力を吸引する装置を使う。


その装置は、俗に「魔力炉」と呼ばれる。


魔力を吸い出す力が、当人の魔力を「吐き出す」ことができる許容量を超えると、その人間は魔力の漏出を止めることができなくなる。


それは、まるで壊れた水門のようなものだ。


水はとめどなく溢れ出し、池に貯められた水は空になる。池に自然に流れ込んでくる水も、池にたまることなく壊れた水門から流れ出てしまう。


そうなれば、あとは死を待つのみだ。


連中が子供を使うのは、大人より攫いやすいことと、大人に比べると子供のほうが魔力の吸い出しに対する抵抗力が弱いことが理由だろう。


「クソ野郎どもが」


隊長がぽつりとつぶやいた。


「こいつらには、相応の報いを受けさせてやらねえとな」


その声はとても落ち着いたものだった。しかし私は、彼の肩がわずかに震えていることに気が付いた。


「おい、貴様、何があった。言え!」


隊長は、近くで地面に転がっている男の首をぐいっと持ち上げた。


「・・・だ」


男はうめいた。しかし、声が小さすぎて聞き取れない。


「聞こえねえな。はっきり言え!」


隊長がぐっと腕に力を入れる。


「カロンだ・・・」


「なんだと?」


「カロンが俺たちを・・・俺たちを・・・うわああっ!」


隊長が手をはなす。


すると、男はその場に転がったまま奇声を発し続けた。


「おい、しっかりしろ!」


部下たちが男を掴み、その頬を叩く。しかし、何をやっても男は正気に戻ることはなかった。


その様子を見つめていた隊長は、やれやれという表情をすると、私のほうへと振り返った。


「どう思う?」


「ありえません」


私は反射的にそう答えた。


カロン。


その名を聞いて、私は不覚にも身震いをしてしまった。嫌な記憶が脳裏をよぎったからだ。


カロンといえば、魂を体から抜き取りハデスの神殿へと連れ去ると言われる存在だ。そして、ハデスの神殿は死者の国にある。


「もしカロンに遭遇したのであれば、ここにいる全員が死んでいるはずです」


「だろうな」


そこで隊長が私に視線を向けた。


「だが、生き残った者がここにいる」


「それは・・・」


私は答えに詰まった。


確かに私はカロンに遭遇した。だが、今もこうして生きている。自分の言ったことと、明らかに矛盾していた。


すると、部下の一人が隊長に向かって大声で言った。


「副隊長殿は、我々を救おうと懸命に戦われたのです。カロンもその勇姿を見て、ハデスの下へと連れていくべきではないと悟ったのではないでしょうか!」


すると、隊長が不意に笑った。


「確かに、ロックベア数体を相手に一人で奮戦するなんてな。さすがのカロンも驚くだろうぜ。見事な勇姿だったに違いない。この目で見られなかったのが残念だ」


「隊長!」


私は隊長の言葉を遮った。


「あれは、隊長のご命令に従ったにすぎません。それに、奮戦とおっしゃるなら、隊長こそグレーターロックベアを相手に一人で戦ったではないですか」


「俺は、カロンに出会ってすらいねえ。俺みたいな無頼漢ぶらいかんの魂なんぞ、あいつの好みじゃなかったのさ。ま、そのおかげで命拾いしたがな」


「おたわむれを」


しかし、隊長はにやにや笑いを隠そうともしないまま、言葉をつづけた。


「そもそもだな、こいつらがおまえのように奮戦したと思うか?無抵抗のまま武装解除され、魔法は封じられ、挙げ句の果てには地面に釘付けときたもんだ。情けないにもほどがある。勇姿とはほど遠いぞ?」


「・・・それは、確かに」


私は、目の前に転がっている連中の姿を見た。


「それとも、おまえも連中こいつらみたいに、情けない姿をカロンに晒したのか。いや、むしろカロンを色気で誘惑したのか・・・」


「隊長!!」



バシッ!



「痛えっ!」


ライアンの悲鳴が森にこだました。


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