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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
難易度はルナティック
21/39

「貴様ら、何者だ!」

「貴様ら、何者だ!」


中年の小太りの男のしゃがれた声が、大広間の中に響いた。肉のたるんだ小男の顔からは、脂汗が滴り落ちている。


「答える義理はない」


そう答えたのは水色の髪の少女、リンだった。彼女は、氷をまとった槍を男へと向ける。



ガシャーン!



「ひいいいっ!」


リンの氷魔法が炸裂した。続いて、壁という壁から鋭くとがった氷の刃が生え、小太りの男を容赦なく取り囲む。


「おお」


遠隔監視魔法で映し出されるリンの魔法を見て、思わず声が出た。この短期間で、彼女の「魔法」の腕も随分とあがったようだ。


「質問に答えなさい」


彼女は、そういいながら男へと歩み寄る。


「わ、わしを誰だと思っておるのだ!こんなことをして、貴様らタダですむと思うておるのか・・・ひっ!」


槍の纏う氷の結晶に月の光が反射して、きらきらと輝いた。


「聞こえなかったの?質問に答えなさい」


水色の瞳が、冷たい光を放つ。男は彼女の威圧に押され、ぶるぶると震えだした。


「し、知らん、ガキどもの居場所など、わしは知らん!仕入れて納品しただけだ!」


「誰に渡したの?」


「教えるわけが・・・がはっ!」


リンの拳が、小太りの男のぶよぶよとした腹を突き上げる。男は目を白黒させて悶絶した。


「次はこれを喰らわせる」


きらめく槍の穂先が、男の喉元に突きつけられる。


「わ、分かった、言う。言う!だから殺さないでくれ!」


「それで、あの子たちはどこ?」


「あの臭いガキどもは・・・いや、子供たちは国境の砦に・・・ぐげっ!」



突如として男は白目をむき、その場に倒れ込んだ。


リンは素早く男の様子を確認する。


「これは・・・」


男の側頭部に、小指の指先ほどの小さな穴が開いていた。その穴は黒ずみ、ぶすぶすとくすぶるような音を立てている。


ピクリとも動かない小男から、リンは一歩離れる。そして、大広間の柱の影へと目を向けた。


「出てきなさい」


暗い大広間には、リン以外に動くものはない。


だが、彼女はある一点をじっと見つめていた。


「・・・へえ」


すると、まるで闇から溶け出して来たかのように、紺色のフードを纏った一人の男の姿が現れた。


「私に気が付くなんて。ただ者ではないね、貴女あなた



ガシャーン!



「っ!」


氷の刃が男を襲う。


だがそのやいばは、男の目前で音を立てて砕け散った。同時に、周囲に白い蒸気のようなものが広がっていく。


リンの水色の瞳が、わずかに見開かれた。


「気が短いお嬢さんだ」


男は何事もなかったかのように、ゆっくりと柱の影から歩み出た。そして、そのままリンへと近寄り始めた。


「卓越した氷魔法。貴女あなたたちでしたか。最近、私たちの商売の邪魔をしてるのは」


そのとき、月明かりが男の顔を僅かに照らす。


「・・・イーノー族?」


男の顔を見て、リンが呟く。その一方で紺色のフードの男は、何もしゃべらないままゆっくりとリンへと向かって近づいていった。


「子供たちはどこ?」


リンが槍を向ける。


「そんなことより、私は貴女あなたに興味が・・・おっと!!」


多数の氷の刃が、フードの男へと飛ぶ。


衝撃音とともに、周囲一帯に白い霧が舞い上がる。


「危ないな。人の話は最後まで聞けと、教わらなかったのかい?」


霧が晴れると、男は再び歩み出した。氷の欠片がフードについているものの、男の顔にも纏っているフードにも、傷のひとつもなかった。


「質問に答えて。子供たちはどこ?」


「やれやれ、困ったものだ。貴女あなたに必要なものはしつけかな?」


リンの眉が僅かに動く。次の瞬間、彼女の姿が消えた。



ドガッ!



鋭い炸裂音が響く。


彼女の鋭い突きは、男の胴をとらえたように見えた。しかし、彼女の槍は男のいた背後にある壁に突き刺さっていた。


「・・・!」


リンは素早く振り向く。しかしそれは、紺色のフードの男から炎の玉が放たれるのと同時だった。



ズガガガガッ!!



衝突音と同時に、白い霧が広がる。彼女は瞬時に氷の盾を出し、迫りくる炎の玉と相殺させたのだ。


「火魔法使い?」


リンが呟くと、男はにやりと笑った。


「そうだよ。君の氷と僕の炎、相性がいいと思わないかい?」


「黙りなさい」


リンが両手を広げた。あれは、彼女がゲートを高速に展開するときの仕草だ。


一瞬のうちにゲートの設置が終了し、周囲に魔力が流れ始めた。魔力の流れが風を巻き起こす。彼女の水色の長い髪が、その風で美しく舞い上がる。


「へえ」


男が目を細めた。


直後、膨大な量の氷の刃が出現した。


それは、壁、床、天井、ありとあらゆる物体からくりだされた。そのすべての氷の刃が、容赦なく男を襲う。


「・・・やるね!」


しかし男は、そのすべてを最小限の体の動きでけていく。実に見事な身のこなしだ。これだけのすばやい動きができる人間を、僕はこの世界で初めて見た。



ガツ!



「・・・!」


突然、分厚い氷の盾に火の玉がぶつかった。あろうことか、男は攻撃を避けながら、火魔法で反撃したのだ。氷の盾は衝撃にたえきれずに粉々に砕け散る。


「不意をついたのに、防がれるなんて」


男がつぶやく。


その直後、今度は無数の火の玉がリンを襲う。彼女は浮遊する氷の盾を周囲に展開し、的確にそれらを防いでいく。


「この数にも対応できるんだ。本当にすごいよ、貴女あなたは」


激しい魔法の応酬の最中にありながらも、男の口調はどこか愉快そうだ。


「黙りなさい」


リンが、魔法の出現位置を細かく制御しはじめた。壁や床から突き出る氷の刃の密度が増す。それと同時に、氷の厚みも増加している。


「これはこれは!」


これには、さしもの男も逃げ場を失い、無数の氷の柱に囲まれた。いかに身のこなしが鮮やかであっても、避けるスペースを物理的に奪われては避けようがない。男は、次第に広間の片隅へ追いやられる。


「軽口を叩く時間は終わりよ」


隙間なく並べられた氷の刃が男を襲う。男は、完全に周囲を囲まれている。逃げ場はない。


氷の津波が男に殺到する。


ガシャーン!


衝撃音とともに、巨大な氷が男を完全に覆いつくした。


・・・やったか?


しかし、リンはまだ臨戦態勢を解いていない。彼女の水色の瞳は、油断なく一点を見つめている。


「想像以上だよ、貴女あなたは」


「・・・!」


リンが素早く身をよじる。


彼女の体すれすれに、男の腕から放たれた炎がかすめる。なんと、男は分厚い氷に炎で小さな穴を穿うがち、そこから脱出していた。


「面白い、面白いよ!」


不敵な笑みを浮かべる男の両手に、細い火柱がいくつもたった。炎の色が、赤から次第に青い色へと変化していく。


・・・あれはまずい


僕は遠隔監視魔法のモニターをチラ見しながら、直感的にそう思った。一見すると、火の玉に比べて威力が低そうではある。だが、炎を練り込むことで、火柱の威力が大幅に高められている。炎でできた矢とでも言うべきものだ。


ガシャン!


「くっ!」


氷の盾が貫かれる。リンは瞬時に身をかわすが、炎が僅かに側頭部をかすめる。ジュっと、髪を焦がす音が聞こえた。


炎の矢が次々と放たれる。全てを氷魔法で防ぐことは無理だと悟ったのか、彼女は身のこなしでそれを避け始めた。


「ほらほら、もっと頑張らないと。その綺麗な顔に傷がついてしまうよ?」


炎の矢がリンを襲った。全てを避けてはいたが、その動きには余裕がない。火の矢に押され、ジリジリと後退していく。いつのまにか、攻守が完全に入れ替わっていた。


カツン


「・・・!」


リンの左かかとが大広間の壁にあたった。


そして、ふたたび彼女が正面を向いたときには、男が腕を大きく広げていた。その両手の先には、無数の青白い炎の矢が浮いている。


「後がないよ?」


勝ち誇ったように男が言う。


その時だった。


「なにっ!?」


男が出現させた火の矢の一つが、突如としてかき消された。驚く間もなく、みるみるうちにすべての火の矢が消えていく。


「先輩、遅くなって申し訳ないッス」


そこに現れたのは、金髪を短く刈り揃えたエルフの少女、「ヒョウ」だった。


男は、すばやく広間の端へと跳び下がる。そして、パラパラと舞い散る黒ずんだ金属の破片を見てつぶやいた。


「金属の欠片で、炎の熱を奪うとは。見事だ」


「黙るッス!」


ドガドガドガッ!!


「おおっと!」


そう叫ぶと、男は地面を転がった。壁には黒光りする金属の細い棒が突き刺さっている。


「氷魔法使いと、土魔法使いのエルフ、か」


男は立ち上がると、フードについた砂埃を手で払った。


「さすがの私も、少し分が悪い・・・かな?」


「わたしの質問に答える気になってくれたのかしら?」


態勢を立て直したリンが槍を構える。


「そうしたいのは山々なんだけどね」


男はそう言いながら、ゆっくりと懐へ手を入れる。


「残念ながら、今日は所用があるんだ。貴女あなたたちと遊ぶのは、また今度にしよう」


「逃げられるとでも?」


「安心してよ。貴女あなたたちの遊び相手は用意してあげたから」


男は懐から手を出すと、何かを放り投げた。その「何か」は動かなくなった小太りの男に当たる。


すると、死んだはずの小太りの男から、禍々しい気配が吹き出し始めた。


「グガガガガ・・・!」


「・・・!」


死体の背中から、いくつもの紫色の触手が生える。そして、それらが二人へと向かって素早く伸びた。


「先輩、こいつ『魔人』っスよ!」


ヒョウの声が、珍しく緊張している。


「分かってる」


「それじゃ、またね。魔法使いのお嬢さんたち」


男はすっと柱の影へと身を隠す。


「待ちやがれー!」


反射的にヒョウが飛び出す。しかし『魔人』が伸ばした触手に阻まれる。


「邪魔すんな!!」


彼女の腕から細かな砂のようなものが吹き出し、怪しく光る魔人の触手を取り囲んだ。そして、その砂が触手に触れると、魔人の腕が突如として粉砕される。


「ぐがああああ!」


周囲に紫色の体液のようなものが飛び散った。


「逃げるなーっ!」


「待ちなさい」


走り出そうとするヒョウを、リンが制止した。


「・・・先輩!追わなくていいんスか?」


ヒョウが驚いて振り返る。彼女の翡翠色の瞳が、月明かりでわずかに煌めいた。


「相手は手練てだれ。深追いは禁物よ」


「でも、子供たちはどうなるんスか!」


食い下がるヒョウ。すると彼女は、憤りを隠せないヒョウの肩に手を置いて静かに言った。


「あの子たちは大丈夫。シュゲン様を信じなさい」


師匠マスターを?」


・・・え?


「あっさり下がったけど、あの男は油断ならない。おそらく、わたしたち二人でも倒せるかどうか」


「そんなに強いッスか!?」


ヒョウの整った顔立ちの中に、驚きの表情が広がる。


「あの男、ゲートを意識的に使っていた。一筋縄では行かい相手よ」


「本当っスか!?あたいたち以外に、ゲートを使える人間がいるんスね」


・・・なんと、そうだったのか。


「前にも言ったけど、私もゲートそのものは使えてたのよ。無意識だったけどね。私以外にそういう人間がいても不思議じゃない」


映像を「ながら見」していたせいで、そこまで気が付かなかった。たしかに、それが本当なら彼女たちだけで対処するのは危険だ。


「シュゲン様がおっしゃったでしょう?『手に余る相手を深追いするな。後は自分が何とかする』と」


「そ、そういえば・・・そうッスね!」


・・・そうなの!?


僕、そんなこと言ったっけな・・・


「わたしたちの相手はこいつよ。これを放置するわけにはいかない」


リンはそういうと、無数の触手を使ってゆっくりと起き上がる小太りの男・・・であったモノへと槍を向けた。


「安心なさい、ヒョウ。シュゲン様の『神の目』は全てをお見通しよ。あの者ごときが、隠しおおせると思っているの?」


「『神の目』・・・そういうことっスね!師匠マスターが見ているなら、大丈夫っス!」


ヒョウの翡翠色の瞳に宿っていた「怒り」は、いつしか安堵のそれへと変わっていた。


「では、手早く片付けましょう」


「了解っス!先輩!」


二人は同時に「魔人」へと飛びかかった。



えーと。


ちっとも事情が分からないんだけど。


・・・誰か説明して!


思わず周囲を見回す。



「やあーーっ!」


「くらええええっ!」


カキーン!


ガシャーン!



・・・あ、そうだ。


僕は今、魔獣相手に絶賛戦闘中なんだった。それも何故か、王国の軍隊に混じって。


「うーん」



ドガッ!!



僕は飛び掛かってきた狼型の魔獣を軽く小突いて吹き飛ばした。


「さてどうしたものか」


だいたい『神の目』って何だよ。そんな謎のスキル、僕は持ってないんだけど。


ひとしきり記憶をたどった末に、僕はぽんと手を打った。


「うん、分からん」


戦闘しながらの「ながら見」だったこともあり、彼女たちの状況は断片的にしか把握できていない。


でも、子供たちがどうとか、二人が言ってた気がする。


ってことは、子供を助けたらいいんだよね。雲隠れした紺色フードのチャラ男を追跡したら、子供たちとやらの居場所がわかりそうな気がする。ここからそう遠くもないし、何とかなるだろう。


・・・多分。


「やれやれ」


リンとヒョウが『魔人』に飛びかかる様子を見届けると、僕は遠隔監視魔法のモニターを閉じる。


そして魔獣との戦闘が続く中、ひっそりと崖を飛び越えて姿を消した。


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