・・・やってしまった!
・・・やってしまった!
僕は全力で逃げていた。
・・・ちょっとした好奇心だったんだ!
悪気なんてなかった。
でも、結果的に魔道具はバラバラになってしまった。
きっと、貴重な物だったに違いない。もし、僕があれを壊した犯人だとバレたら、どんな目にあわされるのか・・・
想像もしたくなかった。
こんなときに、取るべき手段はひとつ。
「全力で逃げる!」
結果、僕は森の中を全力で走っていた。
事の発端は、魔獣に襲われている若葉色の髪の、短槍を持った女剣士を助けようとしたことだった。
あれこれ考えた末、以前魔物をまとめて倒したときに使った方法を応用することにした。
まず、女剣士に結界を貼り付ける。次に、睡眠ガス発生装置と、麻痺ガス発生装置のゲートを、魔獣のいる場所に設置した。
そして、これらのゲートを一気に「開放」してやる。
ほどなく、魔獣はガスの効果でその場に倒れ、ピクリとも動かなくなった。
頃合いを見て、女剣士の結界を解除する。もともと彼女は意識が飛びかけていたので、すぐにその場に倒れ込んだ。
仕掛けは上々だ。
僕は自分に結界をかけたまま、ガスの立ち込めるその場所へと歩いていく。結界があるので、僕自身にはガスの効果は及ばない。
「さてと」
杭打機のゲートを出す。出力を最大にして、熊の魔獣めがけて発射する。
・・・ザクッ!
・・・ザクッ!
杭は、倒れている魔獣を容赦なく撃ち抜く。剛毛がやっかいな熊も、この方法なら反撃されることなく簡単に倒すことができた。
ちなみにこの熊、やたらと硬くて丈夫ではあったけど、麻痺ガスにはまるで耐性がない。
数日前に戦った時に、あまりに硬くて辟易し、あれこれ試した結果、これが最も効率的な討伐方法だと結論づけていた。
ただ、今回は要救助者もいたので、それも考慮する必要がある。
それに、彼女には僕の姿を見られたくない。だから、途中からは睡眠ガスを吸ってもらって、彼女にも眠ってもらった。
・・・ザクッ!
・・・ザクッ!
杭打機の処理音が森にこだまする。
「シュールだ」
僕は、あえて処理中の魔獣は見ないようにした。
こうして、少し時間はかかったけど、熊の魔獣は全部倒すことができた。もちろん、魔石も回収済みだ。
魔獣の処理が終わると、僕は倒れている女剣士に近づいた。生物解析装置でステータスを確認する。
「完全に寝ているな」
ただ、彼女の怪我の状態は、良いとは言えなかった。出血もあるし、肋骨も何本かやられている。
僕は「救急救命装置」を使って、彼女の怪我に応急措置をする。幸い、内臓や頭には大きなダメージがなかったので、この装置だけで十分対処できた。
「次は、あっちか」
女剣士の措置をおえると、僕は大剣使いが戦ってた馬車のほうへと向かう。
そちらも、ガスが十分に効いていて、人間も魔獣も全員倒れていた。
再び杭打機を使って、魔獣の処理をする。大きいほうの魔獣はやたらと固くて、小さいほうの三倍ほど時間がかかったけど、それ以外は特に問題なく処理することができた。
ちなみに、大きい魔獣から取れた魔石の数は、小さい魔獣と同数だった。
「しけてるなぁ」
無理に大物を狙う意味はないってことか。
僕はひとつ賢くなった。
「おや?」
そのとき、ミニマップの端に赤い点があることに気が付いた。
その赤い点は、森の中にあった。目の前で倒れている、他の兵士たちとはかなり離れた場所だ。
「新手か?」
僕は警戒レベルを最大にする。
すばやく環境探査機のゲートを移動させて、赤い点の位置にカメラを向けた。
「・・・兵士?」
そこには、騎馬隊の他の兵士と同じ防具、武器を身に着けた男の姿があった。その人物も、ガスの影響を受けて地面に倒れている。
「ペンダント?」
彼の手元に、宝石飾りの付いたペンダントのようなものがあることに気が付いた。男の兵士が持っている物にしては、やや不自然だ。一人だけ森の中にいるのも違和感がある。
僕は大剣使いに応急措置を施すと、その兵士の倒れている場所へと向かった。そして「物体解析装置」を使い、ペンダントを調べる。
「魔獣操作の魔道具・・・!?」
解析結果は、驚くべきものだった。
・・・魔道具なんてアイテムがあるのか。
僕はあわてて、環境探査機を周囲に展開した。まだ魔獣が残っているんじゃないかと思ったからだ。
幸い、それは杞憂に終わる。念入りに探索した結果、新手の魔獣が襲ってくる気配はないことがわかった。
「こいつ、どうしようかな」
僕は倒れている兵士を見た。
この男が、魔獣を操って馬車を襲わせたことは、おそらく間違いない。このまま野放しにしておくと、目が覚めたら逃げ出しそうだ。
「うーん」
少し考えた後で、僕は兵士を木に縛りつけた。ロープは馬車にあったものを拝借した。武器とペンダントは、兵士から見えない場所に転がしておいた。幸い、魔道具はすでに力を使い果たしたか、壊れてしまったようで。ステータスは「使用不能」になっている。
あとは、見つけた連中が「適切に」処置するだろう。
本当は、鎧に「私が犯人です」とか書いておきたかった。でも、日本語で書いてもきっと通じないよね・・・ということで諦めた。
「文字の情報くらいは、入手したほうがいいかなぁ」
地図とか掲示板とか、ちょっとした情報を読みたいときに困りそうだし。
それから、僕は倒れている兵士たちの応急措置をして回った。「救急救命装置」は、驚くほど怪我の回復力を高めてくれた。骨にひびが入る程度の怪我なら、ものの数分で元の状態まで回復させることができた。
救急救命装置は、使う機会がなくて、効果を十分に確かめられていなかった装置の一つだった。それを、様々な症状の怪我、傷に対して試せたことは大きい。
彼らには感謝しなければ。
僕は、最後に横倒しになっている馬車に近づいた。馬はどこかに逃げてしまい、ぐしゃぐしゃになった荷台だけが残っている。
「お?」
荷台から落ちて地面に転がった木箱の一つから、コインらしきものがこぼれだしているのが見えた。
さっそく物体解析装置で調べる。
「純度の低い金に刻印した円盤」
期待したのとは違った結果が表示された。
・・・金貨じゃないのこれ?
僕は、そのコインらしきものを手に取った。偉そうな人の横顔と、文字っぽいものが表面に書かれている。
どうみても金貨だ。
たまに、こういうことがある。一言で説明できそうなアイテムなのに、回りくどい説明が出ることがあるのだ。
・・・それは今はどうでもいい
この金貨、1枚もらってもいいかなあ。
もし、この世界の人間と交渉とかしようと思ったら、現金が一番効きそうだ。
もちろん、今のところこの世界の人間と接点をもつ予定はない。
でも、備えあれば憂いなし。
魔獣から助けたお礼として、ちょっとくらいもらってもいいよね?
ちょっとくらい・・・
「あ」
ガシャーン!
木箱が荷台から落下した。
そのまま、木箱はバラバラに砕け散る。
金貨に動揺していた僕は、木箱にうっかりぶつかってしまったのだ。
やべーー!!
僕は慌てて周囲を見回す。
何も動く物の気配はない。
念のため、環境探査機で周辺もくまなく調べる。
何も動く物の気配はない。
・・・ふう
額の汗をぬぐうと、僕は恐る恐る砕け散った木箱を見た。
われものとか、入ってなければいいんだけど。
・・・ん?
砕けた小箱の中に、不思議な物があることに気が付いた。
それは、複雑な模様の書かれた石板が組み合わされたものだ。道具のようでもあり、美術品のようでもある。
物体解析装置で調べてみる。
「精神に作用する魔法を無効化する魔道具」
おお!
これも魔道具なんだ。
しかも、魔法の効果を無効化するとか。
なんか、凄い感じがする。
こんな魔道具があるってことは、僕が使っているアルケインステラの装置も、効果を無効化されることがある・・・かもしれないってことだな。
気を付けなければ。
また一つ賢くなってしまった!
そういえば、さっき見た魔道具は、ペンダントの形をしていて身に着けられるサイズだった。でも、こっちは机の上に置いて使うようなサイズ感だ。あちらが持ち歩けるスマートフォンだとすれば、こちらは据え置き型のパソコンとでも言うべきか。
「魔道具にもいろいろあるんだな」
ん?
よく見ると、解析結果の下のほうに小さく「魔道具(未完成)」と書かれていた。さらに、その横には「不足アイテム」というボタンもある。
「不足って」
つまり、この魔道具は材料が足りなくて未完成なのだ。
まるで、アルケインステラで作成中の宇宙船みたいじゃないか。
僕は好奇心で「不足アイテム」のボタンを押した。
「魔石?」
不足しているのは「魔石」だけだった。魔道具を完成させるために必要なアイテムで、それだけが不足の表示になっている。
魔石が足りないってのも宇宙船と同じだ。僕はさらに興味をひかれた。
懐から、集めていた魔石をひとつ取り出す。
これが、最後に必要な材料?
アルケインステラの惑星上でならともかく、この世界でなら入手は難しくないアイテムのはずだ。完成させる気があれば、すぐにでも完成できたはずだ。それを未完成のままにしているってことは、わざと・・・?
思案する間に、何とはなしに手に持っていた魔石を魔道具へと近づけた。
ピカーーー!!
「うわっ!」
突然、魔道具全体が赤く光り始めた。
みるみるうちに、手元の魔石が形を失っていく。
慌てて魔石を放り投げた。
しかし、時すでに遅し。
魔石は魔道具へと取り込まれていった。
ガシャン!!
音を立てて、魔道具が粉々に砕ける。
そして、魔石は完全に魔道具に飲み込まれてしまった。影も形もなくなっている。
「やってしまった・・・!!」
僕は粉々になった魔道具を前に、真っ青になった。
◆
はあ、はあ・・・
ここまで逃げたら大丈夫かな・・・
人助けをしたと思って、少し気が緩んでいた。
魔獣を大量に倒した高揚感もあったせいかもしれない。
普段なら、絶対にやらないミスだ。
僕が壊した魔道具は、相当な価値のあるものだったことは間違いない。なにせ、あれだけの兵士を護衛につけて輸送していたのだ。
襲撃した側も、魔道具を使っていた。あれだけの魔物を操る魔道具が、価値のないアイテムのはずがない。それだけの投資をしてまで、馬車を襲ったということは、それだけ襲う価値のある馬車隊だったということだ。
魔道具の能力も、精神に作用する魔法の無効化と、強力なものだった。無条件で魔法の効果を無効化するアイテムは、ほとんどのゲームで強いアイテムとして扱われる。
それを、僕はあっさり壊してしまった。
どう考えてもヤバイ。
犯人だとバレたら、きっと酷い目に合う。
・・・投獄、拷問、下手をしたら処刑
「冗談じゃない」
体が震えた。
いや、人間はすべて睡眠ガスで眠っていたから、誰にも見られていないはずだ。
しかし、それでも不安は残る。
当分、人間がいる場所にいくのは止めよう。
・・・人助けなんて、するもんじゃないな
「疲れた」
僕は、とぼとぼと森の中を歩いていった。
◆
今日は、初めて人間に会った。倒した魔獣も多かった。おかげで、宇宙船を作る為に必要な数の魔石が集まりはした。でも、精神的な疲労が半端ない。
風呂に入って、ゆっくり寝たい。
ああでも、風呂を作るところからになるなぁ
でも、拠点まで戻ることを考えただけでも憂鬱になる。そこまで戻った上で、風呂を作るだけの気力が残っているだろうか。
「やめた」
僕は拠点まで戻ることをすっぱり諦めた。
「ここで野宿しよう」
まあ、戻ったところで何があるわけでもないし、野宿するならどこでもいいだろう。
僕はすぐに、森の中の一角に即席の小屋を作り始めた。
この手の土木作業や、建築作業も慣れてきた。
森を探索している時に、川に橋をかけたり、道を整備したり、簡易的な柵をつくったりと、いろんな作業をしたおかげだ。
風呂は、近くにあった大きな岩盤をくり抜く方法で、短時間で作ることができた。少し浅いけど、そこは我慢しよう。
温調付き給水機を使って、快適な温度の湯を注ぐ。
森の中に、白い湯気が広がっていく。
岩盤風呂になみなみと湯が張られた。
手を入れてみる。
「くぅ」
いい温度だ。
僕は我慢ならず、全力で服を脱ぎ、湯へと飛び込んだ。
「はあああ・・・」
効くぅーー!
疲れが、すべて湯に流れ出していくようだ。
「ん?」
ふと、手に固い物が当たった。
それは、首輪についている、メダルのような金属の飾りだった。
そういえば、首輪もずっとつけっぱなしだったな。
いつもは洗浄機で服ごと洗ってしまうから、首輪を身に着けていること自体を忘れていた。自動で洗浄されているので、臭くなったりはしてない。
でも、せっかく風呂に入ってるんだから、こいつも外しておくか。
僕は首輪に手をかけた。
首輪を取るのも五日ぶりだ。
「ゲートの使用を停止しました」
突然、アナウンスが流れる。
・・・え?
次の瞬間、僕の目の前には質素なセミダブルのベッドがあった。
・・・は?
僕は、アルケインステラの「住居棟」の一室にいた。
素っ裸で。




