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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
SFはファンタジーに含まれますか?
19/39

「そいつは物騒じゃねえか」

「とはいえ、だ」


口ヒゲの周りについた白い泡を、彼のたくましい腕がぬぐう。


「こいつを完成させるのは、伯父貴おじきでも難しいと殿下は言っていた。要するに、『箱入り娘』はあくまで時間稼ぎのブラフだったってわけだな。連中を抑えるための別の方法を、その間に用意するための」


「それが、何故か完成している・・・ということですか」


「神の奇跡とでもいう他ない」


「本当は、出発前に完成したのではないですか?」


「そんなことはない。俺はこの目で確認した。出発の直前は、間違いなく完成していなかった」


にわかには信じがたい話だ。


しかし、隊長が言うのであれば、本当にそうなのだろう。


神の奇跡、か。


今日、私の身に起こったことを考えれば、それを信じたくもなる。


「奇跡といや、おまえもよく無事だったな。あれだけの魔獣、どうやって倒したんだ?」


・・・は?


「魔獣は隊長が倒されたのでは?」


「なんだと?」


隊長の表情が再び険しくなる。


そのときだ。


「隊長!」


振り返ると、兵士のひとりが遠くから走ってくるのが見えた。


「なんだ?」


「森の中に、怪しい者がおりました!」


「怪しい奴?」


隊長が大剣を握る。私もすばやく槍をつかんだ。


「いえ、それが・・・木に縛りつけられていまして」


「・・・どういうことだ」


私は隊長と目を合わせた。


「こちらです」


兵士について森の中へと入ると、はたしてそこには、大木にロープでぐるぐる巻きにされた男がいた。我々の騎馬隊と同じ鎧を身に着けている。さらに、そこから少し離れた場所には、彼が身に着けてたであろう剣や兜が散乱していた。


「おい、これを見ろ」


隊長が地面から何かを拾い上げた。それは一見するとペンダントのように見えた。中央に宝石があり、そこから首にかける鎖が伸びている。


「・・・魔道具ですか?」


「おそらく、精神操作のための魔道具だろう。似たような魔道具を伯父貴おじきに見せてもらったことがある。でも、知性の高い人間を操れるほどの力はない。だが、知性の低い獣や、魔獣ならば操れるだろう」


「・・・まさか」


隊長はうなずいた。


「間違いねえ。こいつがロックベアーを俺たちにけしかけた張本人だ。ご丁寧に、念入りな準備もしていたようだぞ?」


彼の視線の先には、岩山の脇に開いた洞穴ほらあながあった。その入口は、岩壁でふさがれていた形跡がある。


「あそこにロックベアーを集めておいたんだな。やれやれ、敵さんもマメなこった」


隊長の言う通りなら、かなり前から輸送計画の情報が漏れていたことになる。おそらく、括りつけられていた男が間諜だったのだろう。


「・・・」


私はぐっと唇を噛んだ。


敵が入り込んでいることに、気付かなかったなんて。


「ま、それは大したことじゃねえ」


隊長は、男が括りつけられている木へと近寄った。


「こいつを、誰が縛り上げたんだ?」



「出発!」


私は、馬上で大声を張り上げる。


馬車隊は再びゆっくりと進み始めた。


魔獣を倒した者も、魔道具を持っていた音を捕らえた者も、結局分からずじまいだった。


「浮かねえ顔してんな」


隊長が馬を寄せてきた。


「私は何もできませんでしたから」


「そんなことはないだろ」


隊長は馬車と周囲の兵士たちを見回した。


「襲撃を受けたが、大した怪我人もなく撃退。首謀者も捕縛、『箱入り娘』も無事。それどころか、うっかり『完成』ときたもんだ」


彼はポンポンと、指輪の入った懐のあたりを叩いた。


「こいつは大手柄だぜ?戻ったら大宴会だな」


「そんな気分になれません」


「かー!ったく、おまえは真面目すぎんだよ。結果良ければすべて良しってな!で、分かんねえことは、分かんねえ。神とやらの仕業にでもしておきゃいいんだ。祭壇に酒でも捧げりゃ、神も満足してくれるだろ」


そう言うと、彼は自分の大剣を頭上に掲げて、勝利の祈りをささげる仕草を大げさにやってみせた。


「おたわむれを」


私はそういいながらも、彼の愉快そうな様子を見て、少しうらやましいと思った。彼くらいに物事を柔軟に考えられたら、違う人生があったのかもしれない。


ふとそのとき、私はあることを思い出した。


「隊長、霧を見ませんでしたか」


「霧?」


「霧の中からやってくる、黒い衣の人物」


「なんだそりゃ?」


隊長は首をかしげる。


「カロンです」


「カロン・・・って、あの、地獄に魂をさらっていくとかいう、あれか?」


「死者の国に魂を誘う、ハデスのしもべです。黒い衣に、黒い槍。わたしは、それを見た・・・気がします」


「・・・そいつは物騒じゃねえか。おまえ、よく生きてたな」


「カロンは濃い霧の中を、私のすぐ近くまでやって来ました。そのとき覚悟はしたのですが・・・何故か、いえ、幸運にも、私は連れて行かれませんでした」


「ふうむ」


私の話を聞いて、隊長はあごひげに手をあてた。彼が考え込むときの仕草だ。


「霧・・・か。俺は見てないな。だがひとつ、俺も思い出したことがある」


彼は呟くように言った。


「神の加護だ」


「神の、加護・・・?」


私は思わず彼を振り返った。


「おまえが行った後、魔獣でかぶつに吹っ飛ばされたとき、俺はやられたと思った。だが、あれだけの攻撃を喰らったのに、俺はほとんど無傷だった」


「運がよかったということですか?」


「いや、そうじゃない。その時、俺の体の周りに、薄っすらと光る壁のようなものがあったんだ。そいつが、俺を攻撃から守ったに違いない」


「・・・まさか、そんなことが?」


「それからも、しばらく体が光っていた。その間は、奴らから攻撃を食らっても、ふっとばされはするんだが、ダメージはほとんどなかった。あんときゃ必死で、深く考えちゃいなかったがな。ありゃ、神の加護としか言いようがねえ」


「神の加護、ですか」


私は、記憶を辿ろうとした。霧の中から現れる黒い人影。禍々しいその気配。心の底まで凍り付かせる、圧倒的な絶望。


違う。


あれは、加護を与える慈愛に満ちた「神」などではない。


間違いなく、死を司る側のそれだ。


「おまえのところにはハデスの使いが来て、俺は神の加護を受けた・・・ってこたあ、俺のほうが日頃の行いがいいってことだよな?」


彼は楽しそうにうそぶく。


「ご冗談を」


「はっはっは!」


隊長の笑い声が、森の中にこだました。


彼のそんな様子を見て、私は肩の力が少し抜けた気がした。


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