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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
SFはファンタジーに含まれますか?
16/39

「チャンスは一回だけだ」

「前方に、魔獣を複数発見!」


「戦闘態勢をとれ!」


「はっ!」


槍をもつ騎兵が、馬車隊の前方に集結した。その一糸乱れぬ動きは、日頃の訓練の賜物だ。


私はフィオナ・バーランド。王国貴族バーランド伯爵家の三番目の娘だ。


我々は、大恩ある第一王女殿下から、直々に重要な任務を命じられている。私は武勇を買われ、この輸送隊の副隊長に任じられた。


「今回の作戦の成否は、王国の運命に大きく影響します。必ず成功させてください」


第一王女殿下は、隊長のライアンと副隊長の私だけを私室に呼び、そのようにおっしゃられた。その表情は、いつになく硬いように思われた。よほど重要な物品を輸送するのだろう。


輸送している物品は、複雑な文字盤がいくつも組み合わされた、不思議なものだった。大きさは抱えて歩くことができる程度のものだ。私か隊長のライアンなら、抱えて移動することも容易に思えた。


しかし、その輸送品は厳重に梱包された状態で、木箱の中に納められていた。偽装のため、馬車を三台用意して、同じ外見の木箱をいくつも積み込んだ。万が一、襲撃者があったときでも、どれが本物か判別を難しくするためだそうだ。


「よっぽど貴重な物を運ぶんだな。箱入り娘ってか?」


馬車に木箱を積み込む様子を見ながら、ライアンは他人事のようにそう言った。


「油断は禁物ですぞ、隊長」


「なあに『疾風の槍使い(ストームランセル)』のおまえと『鉄壁の大剣使い(アイアンクラッド)』の俺がついているんだ。大丈夫に決まっているだろう?」


赤茶色のヒゲをたくわえた彼は、そう言うとはっはっはと大声で笑った。


隊長のライアンは、武勇で有名なウォリック伯爵家の次男で、極めて恵まれた体格をしていた。彼の繰り出す大剣を、正面からまともに受けられる者は、この王国内にはほとんど存在しないだろう。


加えて、土魔法の腕も相当なものだ。魔法を駆使した防御の技術は、王国随一と言われている。彼の防御はまさに「鉄壁」と称された。


「副隊長!」


「どうした?」


「あれは・・・ロックベアーです!その数、5体!」


報告する騎馬兵の声が上ずる。


「ロ、ロックベアーだと?」


「辺境でもそうそう見かけない、中型の魔獣だぞ?」


「待ち伏せなのか?しかし魔獣が群れるなんて聞いたことが無い」


「ええい、落ち着け!」


私は動揺する騎馬兵たちを一喝した。


「二人で一体にあたれ!貴様らの実力なら、十分倒せるはずだ!」


「はっ!」


ロックベアーは熊のような見かけの魔獣だ。立ち上がると人間よりも背丈がある。その巨体の体当たりをうければ、訓練を受けた兵士といえども人ひとたまりもない。


「くらえ、エアーストラス!」


私の槍から、風の刃がロックベアーめがけて飛んでいく。



ガツン!



「グワワアアッつ!」


風魔法が命中し、魔獣が唸り声を上げる。しかし、さしたるダメージを与えた様子はない。


「厄介だな・・・」


ロックベアーは体毛が非常に硬い。そのため、剣や槍での攻撃が通りにくい。


さらには、私の得意とする風魔法とも相性が悪い。風魔法は、手数と速度で相手を圧倒する戦い方が得意だ。その一方で、一撃が軽いという欠点もある。動きが遅い代わりに、防御力と耐久力の高いロックベアーは、倒すまでに時間がかかる。


「後方にも出現しました!3体です!」


騎馬兵の声が響いた。


「ちっ!」


「おい、副隊長!」


そのとき、すぐそばでライアンの大声がきこえた。


「後ろの客は俺がやる。おまえは前を頼む!」


「了解!」


「なあに、時間が稼げれば十分だ。トドメは俺がさしてやる」


ライアンがにやりと笑ったのが見えた。


「さっさと自分の仕事をしてください、隊長!」


「任せておけ。おまえも無理すんなよ」


遠ざかる蹄の音を聞きながら、私は魔獣に向かって槍を構えた。


「ポーパルトルネード!!」


槍先にまとわりつくように、高速で回転する竜巻が現れる。


「グオオオオッつ!!」


そのまま槍の穂先がロックベアーにぶつかると、魔獣の肩から紫色の体液が飛び散った。魔獣がよろよろと後退りをする。


「効いているようだな」


私は再び槍を構えた。



カキーン!


ズガーン!



どのくらい時間がたっただろうか。


襲ってきたロックベアーは、最後の一体を残してすべて倒れていた。騎馬隊の被害も少なくはない。しかし、すでに勝利は見えていた。


「はっ!」


ロックベアーのするどい爪が、私の頬をかすめる。



ガツン!



「グアアアアッツ!!」


次の瞬間、ロックベアーが大きくのけぞり、その場に転がった。


「油断するなよ!」


ライアンの大剣が、ロックベアーをなぎ倒していた。


「律義だねえ。俺がトドメさすために、残しといてくれたんだろ?」


大剣を片手に、彼はわたしに笑顔を見せた。


「残念ですが、トドメをさす必要はありません。ツインボーパルトルネード!!」



ガシャーン!!



大岩が砕けるような音が響く。私の槍が、ロックベアーの東部を粉々に砕いたのだ。魔獣はゆっくりと倒れ、そのまま動かなくなった。


「腕を上げたな」


「いえ、まだまだです」


私が頭を下げると、ライアンはにやりと笑って見せた。


「よーし、動けない者を馬車に積め。軽症の者は応急措置を」


「はっ」


「・・・待て」


突然、ライアンの顔から笑顔が消えた。


「隊長?」


「グレートアースシールド!」


その直後、地面から巨大な岩の壁が出現した。



ズガーーーン!!



何かがその壁に激突し、大きな音を立てた。


「新しい客が来た。それも団体客だ」


「報告!ロックベアーが新たに5体出現しました!」


「さらに5体・・・!」


「いえ、一体は・・・おそらくグレーターロックベアーです!!」


「馬鹿な!グレーターだと?城塞をも破壊するという、怪力の大型魔獣ではないか。そんな危険な魔獣が何故こんなところに」


「敵さんも必死だな。よほど、俺らに「箱入り娘』を運ばせたくないらしい」


ライアンがヒゲをごしごしとこするのが見えた。あれは、彼が本気で戦う気になった時に見せる仕草だ。それほどまでに、敵が強いということか。


「小さい奴らを頼む。デカブツは俺が押さえておく」


「あれを一人でやると・・・?無理です、私もやります」


「だめだ。動ける騎馬兵スタッフが少ない。おまえは先に小物をやれ。雑魚が片付いたら、ゆっくり二人で上客の相手をしてやろうじゃないか」


彼は穏やかにそう言うと、私を大剣で静止させた。一瞬迷ったが、私はすぐに槍を引いた。


「わかりました。ですが、奴のトドメは私が刺します。隊長はそれまで、ゆっくりとあれの遊び相手をしていてください」


「・・・言うねえ」


それだけ言い残すと、ライアンは巨大な熊に突進していった。


「残りのものは私に続け!」


「おおーっ!!」


そして、再び激闘が始まった。


だが、戦況は明らかに不利だった。


気が付いたときには、視界の中で動いているのは、私を除けば隊長だけになっていた。隊長は防御に徹することで耐え続けている。しかし、耐えるのが精いっぱいで、反撃できるほどの余裕がない。


「くう!」


魔獣の重い一撃を槍で受け止めきれず、私はバランスを崩してよろめいた。乗っていた馬は、すでに魔獣の一撃をうけて絶命していた。


私が相手をしていたのは、ロックベアーの最後の一体だ。これを倒せば、隊長の助力に向かうことができる。


「エアーカッター!」


「グアアアッ!」


しかし、私も魔力が尽きかけていた。威力の高い魔法はもはや撃つことができず、小さな魔法を細かく当ててダメージを稼ぐことしかできなくなっていた。


魔獣の動きは十分見切れるので、時間をかけさえすれば倒すことはできよう。しかし、悠長に戦っている暇はなさそうだ。隊長も、大きな魔法は使わなくなった。おそらく、魔力切れが近づいているのだろう。


「くそっ!」


一撃必殺を狙って、槍を大きく突き出す。しかし、一瞬わたしの足がもたついた。体力も限界に近づいていたのだ。



「がはっ!」



ロックベアーの一撃が、わたしを捕らえた。


とっさに受け身を取ったものの、ダメージを殺しきることはできない。大きく後ろにふきとばされる。


ゴロゴロと転がり、そのまま馬車の車輪にぶつかった。


急いで体を起こそうとする。しかし、体が言うことを聞かない。


・・・まずい!


ここで一撃を受けたら・・・


ようやく顔を上げたときには、ロックベアーの巨大な腕が、まさに私に向かって振り卸されようとしていた。


「・・・!!」



ドガッ!!!


・・・ガシャーン!


激しい衝突音と何かが倒れるような音がした。


そのまま、私は大きく吹き飛ばされた。


「トドメはおまえが刺すんだろ。なら、ここで倒れちゃいかんな」


隊長は倒された馬車の上に、仰向けに倒れていた。私の代わりにロックベアーの一撃をうけて、そのまま馬車に激突して倒れたらしい。


「隊長!」


隊長の額からは血が流れ落ちている。


「だが、トドメの機会はまたにしろ。おまえは今すぐ逃げるんだ」


「何を言って・・・」


「全滅したら、殿下に報告できないだろ。俺は殿下にお叱りを受けたくないからな。お前がその役をやれ」


「私だけ逃げろと!?皆を見捨てて!?」


「違うな。報告のために生き残るんだ」


「だめです。私はまだ戦えます!」


「今すぐ立ち去れ!生き延びろ!」


ダークブラウンの瞳が、私をじっと見つめる。


「これは隊長命令だ」


「・・・隊長!」


全身傷だらけのライアンは、それでもゆっくりと起き上がった。そして、二体の魔獣に向かって剣を構える。


「最後の魔法を使う。その隙に逃げろ。チャンスは一回だけだ、しくじるなよ」


「・・・了解!」


私は涙を拭った。


「熊ヤローども。俺の最高のおもてなし、味合わせてやるよ」


「隊長、ご無事で!」


私は走り出した。


ドガーン!



背後で轟音が鳴り響く。


・・・隊長


私は振り返ることなく、その場を走り抜けた。


いや、走り抜けるつもりだった。


だが、私の足はそこで止まった。


止まらざるを得なかった。


「そんな・・・馬鹿な・・・」


私は呆然と立ち尽くす他なかった。


目の前に、さらに新手のロックベアーが3体もいたのだ。


「エアーカッター!」


私は槍をふるう。


しかし、魔法は発動しなかった。


魔力切れだった。


魔力を纏わない槍は、ロックベアーの岩のような毛に、いとも簡単に弾き返された。


「ああ・・・」


私は、膝の力が抜けるのを感じた。


ここまでか。


私の人生は、これで終わるのか。


与えられた任務を達成することもできず。


大恩ある王女殿下の期待に、少しも報いることもできず。


身を挺して私を庇った隊長の想いすら、受け継ぐことすら叶わず。


仲間を見捨てて、逃げることしかできず。


何が「疾風の槍使い(ストームランセル)」だ。


視界の中で、何体ものロックベアーがゆっくりと近づいてくるのが見えた。


・・・殿下、不甲斐ない私をお許しください。


私は槍を構えた。



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