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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
SFはファンタジーに含まれますか?
12/39

ゲームクリアが条件とか、片腹痛い

台所は、僕から見て廊下の突き当りにあった。台所と廊下は、ガラス戸で仕切られている。そのガラス戸に、ぼんやりとした明かりがうつり込んでいるのが見えたのだ。


・・・電気、消し忘れたかな?


納屋の様子を見に行くために、台所にいったのを覚えている。明かりは消したつもりだったけど、消し忘れたのかもしれない。


ガラガラガラ!


僕は台所と廊下を仕切る、建付けの悪い扉を開けた。


「消えてるな」


やはり、台所の電灯は消えていた。


「外?」


白い明かりは、台所の窓の曇りガラスを通して、ゆらゆらと揺らめいていた。


あの明かりの位置は、確か・・・


「わたしには納屋の中が光ってたように見えたのよね」


僕は、不動の言葉を思い出した。


「まさか」


あわてて玄関から外に出る。


あたりは真っ暗だ。


曇っているせいか、空には星も月もない。つけっぱなしの自室の明かりが、窓ごしに僅かに漏れてくる以外には、周囲を照らすような光はなにもなかった。


わずかな物音すら聞こえてこない。


一歩踏み出すたびに、靴が土を押しのけるわずかな音が聞こえてくる。


「寒っ!」


僕は両手で上着を掴んだ。


吐く息が白い。


このあたりは、四月下旬になってもまだ夜は冷える。


僕は息を殺し、ゆっくりと母屋の角から顔を出した。


そっと納屋の方角を伺う。


「・・・!」


思わず、目を見開いた。


「納屋が光ってる・・・」


確かに、光源は納屋だった。


扉の隙間から、ぼんやりと白い光が漏れ出していた。


不思議なことに、その光は明るさがゆっくりと変化していた。明るくなったと思えば、また少し暗くなるということを繰り返している。


「確かめるか・・・」


このまま放置するわけにもいかない。


僕は母屋に立てかけてあった、杭打ちハンマーを手に取った。曾祖母が健在の頃、畑に杭を打つために使っていたものだ。気休めにしかならないが、無手よりは心強い。


ゆっくりと納屋に近づき、様子を伺う。


納屋の扉の隙間からは、ぼんやりとした光が漏れ続けている。その一方で、音は何も聞こえない。


「・・・」


僕は納屋の扉に左手をかけた。


ハンマーを構える。


そして、一気に扉を開く。


「・・・えっ!?」


予想外の光景に、僕は目を疑った。


「これは、いったい・・・?」


そこには、白い光で溢れた円形の小部屋があった。


壁も床も、ぼんやりと白く光っている。


部屋の広さは、あきらかに納屋のサイズより広い。


家具や道具らしきものは何もない。ただ、白く光る床と壁がある、がらんどうの部屋があるだけだ。


「どうなってるんだ??」


僕は部屋の様子を確かめようと、一歩中へと踏み込んだ。


「実績解除:ゲートをアンロックしました」


「!?」


突如として、機械的な音声が部屋の中に響く。


僕は反射的にハンマーを構えた。


じっと様子をうかがう。


時間が流れる。


何も起こらない。


「不動に知らせるか」


僕はポケットからスマートフォンを取り出して、白い壁や床の写真を取った。それを、メッセージアプリで彼女に送る。


「・・・あれ」


メッセージの送信ができない。


アプリの不具合だろうか?


「圏外?」


よく見ると、スマートフォンの電波の表示が「圏外」になっている。


嫌な予感がした。


慌てて後ろを振り向く。


「そんな!?」


目に入ったその光景を見て、僕は言葉を失った。


そこにあるべき、納屋の扉がなかったのだ。


僕は、360度すべてが白い壁の小部屋の中に閉じ込められていた。



「夢、なのか?」


僕は、手に持っているハンマーに頭をコツンと当てる。


「いてっ!」


夢じゃないことは、瞬時に確認できた。


ならば、情報集めだ。


不測の事態が生じたときは、まずは身の安全を図ることが鉄則だ。そして、次にやるべきことが情報収集。現在の状況を把握しなければ、目標も対策も立てることはできない。


僕は、まず部屋の床を調べた。


ぼんやりと光る床は、隙間も継ぎ目もない。ハンマーで叩いても、少しも傷がつかなかった。床を壊して脱出する方法は、少なくとも目がなさそうだ。


「次は壁だな」


僕は、周囲をぐるりと取り囲む壁に近づいた。


すると、離れているときは分からなかった、扉のようなものがあることに気が付いた。それぞれの扉には、日本語で文字が書かれている。


「ソロプレイ、マルチプレイ、パーティワールド、か」


間違いない。


ここは、アルケインステラのロビールームだった。


実績解除のアナウンスが聞こえたときに、薄々そんな予感はしていた。


しかし、実際にこうやって「ソロプレイ」と書かれた扉を見るまでは信じられなかったのだ。


ただ、この部屋には、ゲームにはないもう一つの扉があった。


その扉には「出口ゴール」と書かれている。


僕はその扉に触れてみた。


出口ゴールはロックされています。アンロック条件はゲームクリアです」


アナウンスの音声が流れた。


・・・ほう


つまり、ゲーム世界からの脱出には、ゲームのクリアが必要だというわけだ。


挑戦的じゃないか。


だが・・・


僕を誰だと思っているんだ?


タイムアタック元世界ランキング常連だったんだよ?


ゲームクリアが条件とか。片腹痛い。


「だけど、その前に」


念のため「出口ゴール」と書かれた扉をハンマーで殴ってみる。まるでスポンジでも殴ったかのように手ごたえがない。


「無傷か」


これで開けば、ゲームをクリアしなくても出られる。まさに最適解。


でも、そうは問屋が卸してくれなかった。


正攻法で開けるしかなさそうだ。


・・・上等じゃないか。


僕は「ソロプレイ」と書かれた扉に触れる。


ぐっと力を入れる。扉が押し込まれる感触があった。


視界が白い光に包まれていく。


「・・・」


次に視界が開けたとき、僕はある惑星の大地に立っていた。



その惑星には、大地を埋め尽くすほどの大量の工場群が、すでに立ち並んでいた。


無人の惑星の上で、ベルトコンベアーが大量の鉱石、資源、材料を運んでいく。


溶鉱炉が、膨大な量の鉄鉱石を溶かす。


電子基板の組立工場が、次々と組立済みの製品を吐き出す。


海中に設置されたスーパーコンピューターが、技術開発に必要な複雑な計算プログラムを生成している。


全て、見たことのある光景だった。


これって・・・


「さっきプレイしてた惑星?」


工場群の中央に、ひときわ目立つ白い巨大な建物がある。


あれは、僕が最後に建てた「宇宙船の組立工場」だ。


間違いない。


・・・ってことは


このゲーム、あと一手でクリアってことじゃないか!


はー、気合入れて損した。


工場に材料を入れて1分待つだけの、簡単な作業じゃないか。


僕は、空中に操作パネルを開いた。


それは「工場を操作したい」と思っただけで、簡単に開くことができた。工場の状態の確認操作や、材料の投入操作も、ただそうしたいと思うだけで、実行することができた。


こんなことができることこそ、この世界がゲームであることの何よりの証拠だ。


「さてと」


僕は宇宙船の材料を投入していく。


およそ百種類の材料を、百個単位で投入する指示をする。もちろん、投入の作業自体はベルトコンベアーと搬入用ロボットが実行する。建造のために倉庫に積み上げてあった材料が、みるみるうちに減っていく。


順調だな。


僕は最後の材料を投入するために、材料リストに目をやった。


「あ」


はたと僕の手が止まった。


「魔石、だと・・・」


そうだった。


魔石が未実装のまま、開発チームは失踪したんだった。


つまり、僕は魔石を入手する方法がない。


詰んだ。


完全に、詰んだ。


・・・なんてこったああああっ!!


僕は膝から崩れ落ちた。


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