全員失踪だと・・・!?
真っ白な部屋の中に、ぽつんと立っている若い男の姿がある。このキャラクターこそ、自分が操作する宇宙飛行士だ。容姿を細かくカスタマイズできるが、僕はそこにこだわりはなかった。
デフォルトの男性飛行士を選ぶ。ただ、髪の毛と目の色だけ、なんとなく黒にしておいた。
ロビールームには、三つの扉がある。
ひとつ目の扉は「ソロプレイ」、ふたつめの扉は「マルチプレイ」、三つ目の扉には「パーティプラネット」と書かれている。
ぼっちプレイ専門の・・・いや、タイムアタックを目指す僕には、ソロプレイ以外の選択肢はない。
ちなみにパーティプラネットは、ゲームの中で作った家具とかアイテムを飾ったりできる箱庭みたいなものだ。他のプレイヤーを招待することもできるらしい。でも、僕はぼっち・・・いや、タイムアタック専門なので、パーティプラネットの中は無限の平原が続いているだけだ。
「ソロプレイを選択しました」
自動音声が流れる。
その先にも、また白い部屋が続いている。この部屋の扉で、難易度を選択できる。
僕は当然のように「真の飛行士」の扉をあけた。
次の部屋には、たくさんのボタンやスライダーがあり、ゲームの細かな条件を設定できる。
「全属性の惑星にするか」
ゲーム的に言えば、惑星の属性は少ないほうがゲームは進めやすい。同じ種類の資源が豊富に手に入るので、作る施設やアイテムの方向性を決めやすいからだ。
しかし、追加された光、闇の属性を試すために、僕はあえて全属性を選んだ。
それから、太陽からの距離、月の有無、他の惑星の状態など、いくつかの条件を選んで、「コックピット」と書かれた扉を開ける。
そこには、宇宙船の操縦席があった。目の前には、星々が煌めく宇宙が一面に広がっている。僕にとっては、とても見慣れた光景だ。
「よし」
僕は操縦席に座った。そして、目の前にある「発進」と書かれたボタンを押した。
「実績解除。初めて難易度ルナティックを選択しました」
自動メッセージが流れる。
その直後、宇宙船が隕石に激突した。
ずごーんん!
画面の中で爆発がおこる。
「緊急脱出します」
アナウンスの音声とともに、操縦席ごと宇宙空間に放り出された。
それは脱出用の小さなポッドになっていて、自動で近くにある惑星へ向かって落ちていく。
海と雲、陸地があるのが見えた。
ふむ。
とりあえず、水と大気はありそうだ。陸地に緑色の部分も見えているので、植物も入手できそうだ。
こりゃ楽勝か?
「あなたは未知の惑星に不時着しました。ミッション開始。この惑星から脱出してください」
プシュ・・・ウィーン
機械音とともに、脱出艇の後部ドアがあく。
僕は、二年ぶりに未知の惑星に降り立った。
◆
「やべっ」
気が付いたときには、夜中の二時を回っていた。
久しぶりの惑星開発が楽しすぎて、ついついのめり込んでしまった。
「明日も朝から授業あるのになぁ」
一時限目の授業は、朝9時から始まる。大学まで歩いていくと30分ほどかかるので、8時半には家を出る必要がある。
さすがに、そろそろ寝ないと明日の活動に影響が出る、
僕は、びっしりと工場が立ち並ぶ惑星が表示された画面を睨んだ。
「思ったより時間がかかったな」
二年前から変わっている部分が結構あった。試行錯誤を繰り返したせいで、手間取ってしまった。
とはいえ、昔取った杵柄。
ゲームは、あと少しで惑星を脱出できるところまで進んでいた。
「ルナティック、意外に簡単だったな」
あとは、宇宙船の最後の部品の製造工場をアンロックして使えるようにし、その部品に必要な材料を調達すればいい。そうすれば、1分たらずで宇宙船は完成する。
・・・その間に、寝る用意をしよう
僕はアンロックボタンをクリックした。
「全宇宙で初めて、難易度ルナティックで宇宙船建造に必要な全ての工場をアンロックしました」
自動音声が流れる。
ん?
・・・今、全宇宙で初めてって言った?
ゲーム中ではしょっちゅう聞く「実績解除」のメッセージなので、スルーするところだったけど、「全宇宙で初めて」なんて言葉は聞いたことがない。
難易度ルナティックが実装されてから、初めてプレイしたからかな?
僕は画面を見ながら少し考えていた。しかし、すぐに次の行動に移った。「実績解除」は記念のメダルのようなもので、ゲームの進行には何も関係ない。考えるだけ無駄だ。
ともかく、宇宙船に必要な部品を作るための、すべての工場を使えるようになった。
あとは、この工場を建設して、材料を投入して・・・
「え?」
表示された材料を見て、僕は画面を二度見した。
『魔石』
材料のひとつに、そう書かれていたからだ。
・・・魔石だって!?
アルケインステラはガチの惑星開発のゲームのはずだ。少なくとも、二年前はそれが売りだった。科学至上主義のこのゲームで、魔石なんてアイテムを宇宙船の材料に使うなんて・・・やはり開発はおかしくなったのか?。
そもそも魔石なんてアイテムは、これだけ長時間ゲームをプレイしているのに、見たことが一度も無い。
「見落としだのか?」
僕は惑星表面をくまなく調べた。次に海や川の中を調べ、空中を調べ、地面の中も掘って調べた。倒せそうな原生生物もすべて倒した。
どこにもない。
魔石を作る工場やレシピも存在しない。
「どうなってんだ?」
業を煮やし、僕はネットで魔石のことを調べてみた。
すると、驚きの情報に行き当たった。
「開発メンバーが全員失踪だと・・・!?」
ネットで調べたところ、「魔石」は難易度「真の飛行士」で宇宙船を建造するために、必須のアイテムとなっていた。
しかし、魔石が実装されるアップデートの前日、開発チームの主要メンバー10人が、全員行方不明になったそうだ。
そのせいで、バージョンアップは行われず、事実上「真の飛行士」はクリア不可能になってしまった。
幸いなことに、別会社がゲームの運営を引き継いだ。そのため、ゲーム自体がプレイできなくなることは避けられている。
でも、プログラムの中身が分かっている人がほとんどいないので、この先の開発や、大きなバグの修正は当分できないと告知されていた。
「まじかー」
ゲームを少人数のチームで開発している場合、開発メンバーが失踪する事件はたまにある。資金がなくなって逃亡というパターンもあれば、内紛で分裂してチーム瓦解というケースも聞いたことがある。
しかし、それが自分のプレイしていたゲームで起こるなんて、夢にも思わなかった。
「・・・寝よう」
僕はがっくりとうなだれた。
「水でも飲むか・・・」
体が重い。
よろよろと立ち上がり、台所へ向かおうとした。
そのときだった。
「ん?」
僕は、真っ暗な台所に、薄っすらと明かりが差し込んでいることに気が付いた。




