開発陣はどこに向かっているのか
Arcane Stella / アルケインステラ
高校に入ってから二年間、僕はこのゲームにハマっていた。
プレイヤーは飛行中に事故に遭遇し、未知の惑星に不時着した宇宙飛行士を操作する。着陸した惑星でサバイバルしながら、そこにある資源を使って宇宙船を作り、惑星から脱出するというのがゲームの目的だ。
宇宙船を作るといっても、不時着した脱出ポッドには最低限の機能しかなく、大がかりな装置を作る能力がない。
ちょっとした鉄製品ひとつを作るにも、鉄鉱石を採掘するロボットを作り、その鉄鉱石を運ぶベルトコンベアを作り、鉄鉱石を製錬する工場を作り、出来上がった鉄のインゴットを加工する工場を作り・・・と、いくつもの工場を作る必要がある。
これをひたすら繰り返すことで、宇宙船の建造に必要な材料を集めていく。
このゲームの本質は、資源を集め、運搬し、加工する「工場の組立ライン」をいかに効率的に作るかというところにある。「無人の大工場」を未知の惑星上にゼロから作るゲームと言ってもいい。
一応、原生生物と戦う要素もあるにはある。だから、武器や防御用の設備も作るには作る。ただ、こちらから敵の縄張りに侵入しない限り、向こうから襲ってくることはない。完全に無視することも可能だ。そういう意味で、原生生物と戦うことはゲームの本筋からは外れる。
高二のころ、僕はこのゲームで、不時着から惑星脱出までの最短時間を競う「タイムアタック」にハマっていた。
ゲームを短時間でクリアするためには、宇宙船の建設に必要な技術や材料をすばやく確保することと、限られたエネルギーを無駄なく使うという、双方の技術が求められる。
材料をすばやく集めようとすると、大きなエネルギーを使う。一方、エネルギー消費を抑えようとすると、材料集めに時間がかかる。
この「あちらを立てればこちらが立たず」的なジレンマの中で、極限まで最適化を推し進めるというゲーム性が、僕の性格に完全に適合してしまった。
当時は、学校から帰ってから寝るまでの間、時間さえあればこのゲームをやっていた。
最初に降り立つ惑星の条件を、細かく設定できることも、このゲームの特徴のひとつだ。惑星の諸条件である、太陽からの距離、月の有無、地形、資源、気候条件、生物環境など、それぞれの条件が少し違うだけで、行うべき最適化の道筋が変わってくる。
たとえば、太陽から遠くて氷漬けの星では、太陽光による発電機は役に立たない。その代わり、風力発電が有効だったりする。また、氷漬けの惑星でも、月があって、なおかつ少し掘っただけで水が出るような惑星なら、潮の満ち欠けを利用した潮汐力発電が使える。
空気のない惑星に、うっかり風力発電所をたててしまうと、他の発電所を立てる材料とエネルギーが足りなくなり、すぐに詰んでしまう。
惑星からすばやく脱出するため、惑星の置かれた条件を見極め、活動に必要なエネルギーの確保、生存のために必要な施設の建設、材料の効率的な収集、技術の開発といった、宇宙船を建造するまでに取るべき最短の開発ルートのそれぞれを最適化していく。
幸い、宇宙飛行士の生存に必要な資源はごくわずかだ。なにせ、一人しかいないのだから。水、酸素、食料の供給体制さえ整えば、飛行士自身が死ぬことは無い。
飛行士の生活を快適にするための、レストラン、大型浴場、遊戯場といった施設を作ることもできる。しかし、それらはあくまでゲームの『飾り』にすぎない。最速クリアを目指す僕は、常に生命維持に必要な最小限の施設だけを建てている。
さらにこのゲームは、プレイするたび不時着する惑星の条件が変わり、ゲームクリアまでの道筋を常に考え直す必要がある。この、ゲームクリアの最適化方法が毎回変わることが、僕が「アルケインステラ」を飽きずに遊び続けていた最大の理由だ。
ちなみに、一番簡単なモードでプレイした場合、初心者が惑星を脱出するまでには、だいたい6時間から12時間くらいかかる。熟練のプレイヤーでも、1時間を切るのは難しい。
これが、世界トップクラスのプレイヤーなら、30分そこそこで脱出してしまう。そのくらい、初心者とトップレベルのプレイヤーとの間には、腕の差があった。
高校二年生の秋までの僕は、世界ランキングトップの常連だった。
しかし僕の快進撃は、突然止まることになる。
「大学に合格するまで、ゲーム禁止。守れないなら、ネットも切る」
父親にそう言われたのは、二年生の期末試験の後のことだった。
ゲームの時間を確保することを最優先しすぎて、学校の成績が悲惨なことになっていたのだ。ゲームはまだしも、ネットを止められたら、僕は生きていけない。当時の僕はそう思った。
仕方なく「大学に合格する」手順を最適化する方向に、頭を切り替えた。
その甲斐があり、僕はこの春に今の大学に入学することができた。同時に、一人暮らしという環境も手に入れた。おかげで、今はゲームをしても誰にも咎められることは無い。
とはいえ、入学してから一か月近く、学校の行事やアルバイト、さらには傷んだ家の補修と、やることが山積みだった。ゲームをしている暇もない。
あんなに遊んだ「アルケインステラ」のことも、近頃はすっかり忘れていた。
「お、新しい難易度が追加されてる」
僕はメニューをひとつずつ開いては、新しい機能を確認していった。
ゲームには、二年前にはなかった要素が、いくつも追加されていた。
まずは、難易度の選択の増加。
二年前に選べた難易度は「見習い飛行士」「一人前飛行士」「熟練飛行士」の三つだった。
現在はこれに加えて「真の飛行士」という、最高難易度が選べるようになっている。ガチ勢としては、嬉しい追加だ。
次に、遭難する惑星の「属性」の追加。
以前あった属性は四種類で、それぞれ「炎」「氷」「風」「土(岩石)」だった。たとえば「氷」の惑星は、資源として「水」は豊富にあるけど、金属類は手に入りにくい。逆に「土」属性の惑星は、金属は手に入るが、水や氷は手に入りにくい。属性とは、いわゆる惑星の「個性」だ。
バージョンアップで、その属性が六つに増えた。
追加された属性は・・・
「光と闇??」
なんだそりゃ。
光、闇とか、科学というよりは魔法っぽい。
宇宙で光る星といえば、太陽のことで、つまりは恒星だ。地球の地面が光ってるところを想像してみると、光属性というのが、惑星の属性としてはおかしいことがわかる。
闇属性もよくわからない。ブラックホールのイメージだろうか。地球自体がブラックホールなら、表面にいる人間はなすすべもなく吸い込まれてしまう。とても、サバイバルなんてレベルじゃない。
どちらも、惑星の属性としては違和感がありすぎた。
「うーん」
考えても仕方ない。とりあえず後回しにしよう。
バージョンアップの項目は、多岐にわたっていた。ゲーム内で、作れる施設やアイテムも大量に増加している。プレイヤーである宇宙飛行士の着せ替えアイテムもたくさん追加されていた。
しかし、その内容がどうにもおかしい。
「革の盾、革の鎧、革の首輪・・・」
ええと、これって、惑星開発ゲームだよね?
革の縦とか装備して、何と戦うつもりなんだ。
確かに、原生生物と戦う要素はある。でも、革の鎧で何とかなるような相手じゃない。最低でも銃、場合によっては大砲とかミサイルとかが必要なレベルだ。
「「紐の寝巻」「危なすぎる水着」・・・ちょっとまて」
そんな要素のあるゲームだったっけ?
まあ、見かけが男性の宇宙飛行士でも身に着けられるので、女性キャラ専用というわけではないようだけど。
だんだん不安になってきた。
僕は作成できる装置の一覧に目を向けた。
追加されている装置には、戦闘用っぽいものが結構あった。
ラインナップは「火炎放射器」「瞬間冷却装置」「衝撃緩衝装置」といった感じだ。二年前の次点では、戦闘はそうそうなかったはずだけど、バージョンアップで戦闘の機会が増えたのかもしれない。
「レールガン」「荷電粒子砲」「ブラックホール爆弾」なんて物騒な単語も見える。まさか、宇宙怪獣とでも戦うのだろうか?
本当に戦闘に使うなら、使い方や効果をきちんと調べておかないとな。
・・・とか思っていたら、注意書きがあった。
「注意:このリストの装置はゲーム内の戦闘には使えません」
なんだと!
ただの観賞用アイテムってことかよ。
他のアイテムを見る。
「ぬこ型ロボット、超合金ピノキヲン、フルカラーLED眼帯・・・おいおい」
意味不明なものがたくさん追加されている。ぬこ型ロボットとか、やたらとモデリングに気合が入っていて、動きも無駄にかわいい。
僕は頭をかかえた。
開発陣はどこに向かっているのか・・・
まさか女性プレイヤーを意識して?
確かに、この手のゲームは女性プレイヤーが圧倒的に少なくて、それが売り上げが頭打ちになる原因だという話を聞いたことはある。しかし、こんな方法で女性プレイヤーが増えるのか??
・・・まあいいや
所詮、観賞用アイテムはお遊びだ。
最適化至上主義の僕には関係ない。
「やれば分かるはず」
僕はメニューを閉じ、ゲームのロビールームへと進んだ。




