【第一章】第二十八部分
田中は石ころを凪河にぶつけたのである。それも普通の人間の力ではない。
(姿は変わってないが、そやつは間違いなく、真の悪じゃ!)
体中に石を浴びて、全身血だらけの凪河。スケパンデカのコスチュームを着用しているが、魔法での攻撃には防御力に限界がある。凪河は足元がふらついてきた。
(これはヤバいかのう。出血多量で、意識が飛んでしまうぞ。)
「死亡フラグを立てないでよ。アタシが飛ばすのは、都バスなのよ。」
凪河の将来なりたい職業は、業務用運転手らしい。
(これはもはやダメじゃのう。コマを一個失うか。)
暗くなければ、深紅に染まった地面アートが見られるだろう。
「質量保存の法則!」
うら若い女子の澄んだ高い声が聞こえた。
暗い中で見えないが、流れた血液が凪河に戻っていく。血液の回復で全身に酸素が行き渡り、体力は確実に復活する。
「ブラックコーヒーを飲んだみたいに、頭がスッキリ冴えてきたし、体も痛みはあるけど楽になってきたわ。でもさっきの声、どこかで聞いたことがあるような?」
「おやおや、これではいけないね。モブに仕事をしてもらわないと。」
田中がそう言うと、止まっていた男女が暴れ出す。暗くてよく見えないが、不規則に腕や足を動かしている。その確実なる矛先は凪河である。
「どうして動き出したのよ?止まっていた理由もわからないけど。」
その疑問には田中が答えた。
「止まっていたのは、攻撃対象が目に映らなくなったためだよ。意志がないから、目に入った動くものを狙うだけの木偶だからね。ぼくが火を付けた、命の火と呼んでるんだけど。」
「命の火ですって?すごくヤバそうじゃない。それって燃やしちゃ、いけないものじゃないの?分別ゴミはちゃんと仕訳しないと、行政からお叱りを受けるわ、罰金刑よ。」
「言葉の上では、どちらが命を軽んじているか、わからないなあ。とにかく、彼らをこのまま放っておくと使い過ぎて死んでしまうよ。まあ別に死んでもいいし。」
「死んでもいいとか、この人、ホントに真の悪だわ。」
「真の悪ですか?いったい何のことでしょう。ぼくはただの地域ボランティアですよ。この人たちは、ぼくのボランティアなんですから。」
男女は再び凪河に殴りかかる。暗い中で凪河はうまくよけられない。
「このままじゃ、やられちゃうわ。こうするしかないわ。」
やたらめったら体を動かすと、襲いかかってきた男女は跳ね飛ばされた。
「これって、意外に楽しいかも。」
スケパンデカはゆりキュアとは違い、パワフルである。
「力を楽しんではだめです!」
「この人たちは操られているだけ。ケガさせないように。」
「そんなこと言ったって、周りが見えないし、やらなきゃやられるわ。」
「それは猫柳さんが力のコントロールを知らないからです。」
「そうなの、お人形。」
(そうかもな?)
「また無責任発言!」
「暗くて困っているなら、こうすればいいのです。質量保存の法則!」
辺りがパッと明るくなった。街灯が復活したのである。




