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廃人ゲーマーのダンジョン攻略記 ~やり込みすぎたら最強になっていた~  作者: 庵


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第6話 疲れないという才能

ご覧いただき、ありがとうございます!


少しずつ積み重ねていく成長と、やり込みならではの攻略の面白さを楽しんでいただければ幸いです。


今回もよろしくお願いします!


 《青葉洞窟》の入口が見えたとき、一ノ瀬湊はようやく肩の力を抜いた。


 第一階層で初めて魔物と戦い、どうにか一匹を倒した。帰り道でも別の魔物を見かけたが、無理に戦闘を仕掛けず、距離を取って通り過ぎることができた。


「……ふう。無事に帰ってこられたな」


 洞窟の外へ出ると、秋の風が頬を撫でた。薄暗い洞窟に目が慣れていたせいか、昼間の空がひどく明るく感じられる。


 管理施設で帰還手続きを済ませた湊は、近くのベンチに腰を下ろした。


 短槍を足元に置き、両手を見つめる。左手の甲には、戦闘中に岩で擦った傷があった。応急処置は済ませているものの、指を曲げるとまだ少し痛む。


「……たった一匹で、これか」


 湊は苦笑した。


 倒した相手は、初心者向けのダンジョンに出現する小さな魔物。それでも、初めての戦闘は想像以上に難しかった。


 攻撃を避けるだけなら何とかなった。しかし、槍を正確に突き出すことも、足元に注意しながら動くことも、思いどおりにはいかなかった。


 ゲームで培った知識と、実際に体を動かす技術は別物なのだ。


「……まあ、最初から上手くできたら苦労しないよな」


 湊はスマートフォンを取り出し、今回の戦闘記録を開いた。


 敵の移動速度、跳躍前の予備動作、着地後の隙。さらに、体内の硬い部分を狙うことで討伐できたことも記録してある。


 改善点は山ほどあった。それでも、何も知らなかったときより確実に前進している。


 湊は満足そうに頷き、立ち上がろうとした。


「……あれ?」


 その瞬間、太ももに重さを感じた。


 洞窟の中では気にならなかったが、緊張が解けたせいか、脚に疲労が溜まっている。慣れない装備を身につけて歩き回ったうえ、魔物との戦闘で何度も踏み込んだのだから当然だった。


 そこで、湊は一つのスキルを思い出した。


「……そうだ。【疲労回復】があったな」


 前回の検証では、運動後のだるさを軽減できた。あれから数日が経過している。連続使用ができなかった原因はまだ分からないが、今なら再び発動できるかもしれない。


 湊は周囲を確認し、ベンチに座り直した。


 そして、スキルの発動を意識する。


 ――【疲労回復】。


 体の奥に、微かな温かさが広がった。


「……おっ」


 数秒後、脚に残っていた重さが少しだけ和らいだ。先ほどまで張っていた太ももの感覚が軽くなり、立ち上がったときの負担も減っている。


 湊はその場で軽く足踏みした。


「やっぱり使えるな」


 ただし、完全に回復したわけではない。歩き続ければ疲れるだろうし、先ほどの戦闘で消耗した体力がすべて戻ったとも思えなかった。


 そして、左手の傷には何の変化もない。


「……疲労だけを軽くする。説明どおりか」


 湊は検証結果をメモに残した。


 続けて二回目の発動を試みたが、今度は何も起こらなかった。


「また駄目か。やっぱり何か条件があるんだな」


 連続使用に制限があるのか、それとも発動するための力が足りないのか。判断するには、まだ情報が不足している。


 湊は無理に結論を出さず、立ち上がった。


 今日は十分な成果があった。ここからは、安全に帰宅することが最優先だ。



     ◇



 自宅へ戻った湊は、母親に帰還したことを伝えると、真っ先に装備の点検を始めた。


 短槍の穂先に異常がないことを確かめ、靴底についた泥を落とす。防具の留め具も確認し、気になった部分をメモに書き込んだ。


 戦闘で最も扱いにくかったのは、槍そのものより足の運び方だった。


「攻撃するときに踏み込みすぎるんだよな……」


 湊は戦闘中の動きを思い出した。


 槍を突き出すことに集中すると、どうしても上半身が前へ出てしまう。そうなると次の動作が遅れ、敵の反撃にも対応しにくくなる。


 さらに、洞窟の地面は平らではない。室内で練習した動きが、そのまま使えるとは限らなかった。


「……まずは基本から鍛え直しか」


 湊はスマートフォンを開き、練習内容を整理し始めた。


 槍の構え方。踏み込みと後退。攻撃後に姿勢を戻す動作。


 どれも地味な練習だが、今の自分には必要なものばかりだった。


 そこで、ふと手が止まる。


「……待てよ」


 湊は先ほど使用した【疲労回復】の記録を見返した。


 戦闘能力を直接高める効果はない。傷も治せない。使用条件も不明なままだ。


 それでも、疲労を軽減できることは確かだった。


「……これ、訓練でも使えるんじゃないか?」


 たとえば、同じ動作を繰り返す基礎練習。


 疲れによって集中力が落ちれば、動きも雑になる。しかし、疲労を少しでも軽減できれば、余裕を持って練習を終えられるかもしれない。


 もちろん、疲れが減っても筋肉や関節への負担が消えるわけではない。無理に練習量を増やせば、怪我につながる危険もある。


 それでも、適切に使えば役立つ可能性は十分にあった。


「……なるほどな」


 湊の口元が緩んだ。


 最初にステータスを見たときは、戦闘に使えない地味なスキルだと思った。だが、考え方を変えればどうだろう。


 強力な攻撃スキルを持つ探索者は、最初から戦闘で有利に立てるだろう。一方で、【疲労回復】は直接敵を倒せない。


 しかし、探索や訓練を繰り返すうえでは、使い道があるかもしれない。


「……派手じゃないけど、悪くない」


 湊は楽しそうに笑った。


 前世でも、最初は弱いと評価されていた能力が、研究によって思いがけない使い道を見つけられることがあった。


 重要なのは、今どれだけ強いかではない。どう使えば役立つのかを考えることだ。



     ◇



 夕食前、湊は自室で小さなノートを開いていた。


 表紙には、大きく文字が書かれている。


『ダンジョン攻略記録』


 スマートフォンにも記録は残しているが、重要な情報は別にもまとめておきたかった。


 最初のページには《青葉洞窟》と記入した。


 その下に、現在判明している情報を書き込んでいく。


 第一階層の地形。遭遇した魔物の特徴。初戦闘で失敗した行動。そして、【疲労回復】の検証結果。


 書き進めるうちに、湊は一つのことに気づいた。


「……俺、まだ何にも知らないんだな」


 五階層あるダンジョンのうち、実際に歩いたのは第一階層のごく一部。


 倒した魔物は一匹だけ。レベルも1から変わっていない。スキルの使用条件すら、まだ分かっていなかった。


 普通なら、先の長さにうんざりするかもしれない。


 だが、湊は違った。


「……最高じゃないか」


 思わず声が漏れた。


 まだ調べていないことが、これほどある。試していない戦い方も、鍛えていない技術も、これからいくらでも見つかるだろう。


 しかも、《青葉洞窟》は全国に存在するダンジョンの、ほんの一つにすぎない。


 湊はノートの余白に、次の目標を書き込んだ。


『槍の基本動作を安定させる』


『【疲労回復】の再使用条件を調べる』


『次回は安全を確保しながら、第一階層の探索範囲を広げる』


 最後まで書き終えると、湊はしばらく文字を眺めていた。


 強くなるには、時間がかかる。レベルも、スキルも、戦闘技術も、一日で完成するものではない。


 だが、それでいい。


「……何百回でも、何千回でも試してやるさ」


 湊はノートを閉じ、机の上に置いた。


 その隣には、まだ一度しか使っていない短槍が立てかけられている。


 最弱スキルしか持たない、レベル1の初心者。


 けれど、誰よりもやり込む覚悟だけは、すでにできていた。


 湊は次の探索を思い浮かべながら、小さく笑った。


「……まずは、あのスライムを完璧に攻略してやる」

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!


皆さまに楽しんでいただける物語を目指して、これからも丁寧に書き続けていきます。


続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


次回もぜひよろしくお願いします!

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