第20話 第二階層の狩り場
《青葉洞窟》第二階層。
一ノ瀬湊は、通路の分岐で足を止めた。
「……ここから先は、まだ歩いたことがないな」
現在のレベルは5。
第二階層へ進出してから二度の探索を終え、洞窟蝙蝠への対処にも少しずつ慣れてきた。
しかし、安定して経験値を稼げる場所は、まだ見つかっていない。
天井から襲ってくる洞窟蝙蝠と、地上を走る岩鼠。両方が出現する第二階層では、戦う場所の選択が特に重要だった。
「……今日は狩り場探しが目標だな」
湊は公開地図を確認した。
少し先に、横長の広間がある。
資料では魔物の出現が比較的多い場所とされていたが、初心者は複数の敵に注意するよう書かれていた。
「……複数か。まあ、最初は様子を見るだけだな」
湊は短槍を構え、慎重に歩き始めた。
◇
広間へ到着すると、湊は岩陰から内部を覗いた。
天井は高く、壁には青白い鉱物が点在している。
中央には大きな岩があり、その周囲を二匹の岩鼠が歩き回っていた。
さらに、天井には洞窟蝙蝠が一匹ぶら下がっている。
「……なるほど。これは面倒だな」
地上に二匹、空中に一匹。
不用意に踏み込めば、三方向から攻撃される可能性がある。
湊はすぐに戦闘を仕掛けず、魔物の動きを観察した。
岩鼠は広間の中央付近を移動している。
一方、洞窟蝙蝠は天井に留まったまま、ほとんど動かない。
「……先に地上の敵を減らせればいいんだけどな」
湊は入口付近の地形を確認した。
広間から続く通路は、途中で天井が低くなっている。横幅もそれほど広くない。
ここなら、岩鼠の回り込みを防ぎやすい。
さらに、洞窟蝙蝠が飛び回れる空間も限られていた。
「……あれ? ここ、結構いいんじゃないか?」
湊は小さく笑った。
広間の中央は危険だが、入口側の通路なら話が違う。
魔物を一匹ずつ誘導できれば、狩り場として利用できるかもしれない。
◇
湊は手前にいた岩鼠が近づくのを待った。
相手がこちらに気づくと、すぐに地面を蹴って走り出す。
「……よし、来い!」
湊は通路へ後退した。
岩鼠が追ってくる。
狙いどおり、ほかの二匹はまだ広間に残っていた。
十分な距離を確保すると、湊は短槍を低く構えた。
岩鼠が右へ回り込もうとする。
しかし、そこには岩壁がある。
進路を塞がれた岩鼠は、今度は正面から突進してきた。
「……そこだ!」
湊は穂先を下げ、相手の進路へ突き出した。
槍が肩口を捉える。
岩鼠が悲鳴を上げて体勢を崩した。
湊はすぐに槍を引き戻し、次の攻撃に備える。
負傷した岩鼠は再び飛びかかってきたが、その動きは先ほどより鈍かった。
一歩横へ避け、胴体へ二度目の突きを放つ。
岩鼠が地面に倒れた。
「……一匹目!」
湊は周囲を確認した。
ほかの魔物は近づいていない。
「……いいな。ここなら戦いやすい」
無理に広間へ入らなくても、敵を誘導するだけで戦える。
湊はノートに位置を記録し、再び広間を覗いた。
残る岩鼠は、まだ中央にいる。
だが、天井の洞窟蝙蝠が翼を広げ始めていた。
「……あ、まずい」
次の瞬間、黒い影が飛び立った。
◇
洞窟蝙蝠が湊へ向かって急降下してきた。
「……っ!」
湊は慌てて通路へ下がった。
頭上を黒い影が通過する。
しかし、洞窟蝙蝠は広間へ戻らず、そのまま追ってきた。
「……こいつも来るのか!」
さらに、広間の奥から岩鼠が走り出す音が聞こえた。
二匹同時。
しかも、空中と地上からの攻撃だ。
「……これは厄介だな」
湊は後退しながら、二匹の距離を確認した。
洞窟蝙蝠の方が速い。
先にこちらへ到達するのは、間違いなく空中の敵だった。
「……だったら、先にそっちだ!」
湊は天井の低い場所まで戻り、槍を構えた。
洞窟蝙蝠が急降下する。
湊は攻撃をぎりぎりまで引きつけた。
黒い影が近づく。
半歩横へ移動。
そして、槍を斜め上へ突き出す。
「……今!」
穂先が翼を捉えた。
洞窟蝙蝠が甲高い声を上げ、地面へ落下する。
湊はすぐに追撃しようとした。
だが、その瞬間。
カリッ!
「……っ!」
岩鼠が迫っていた。
湊は咄嗟に槍を引き戻し、大きく後退した。
岩鼠の牙が、先ほどまで立っていた場所を通り過ぎる。
「……危なかった!」
倒れた洞窟蝙蝠は、まだ動いている。
岩鼠も無傷だ。
二匹を相手にする状況は変わっていなかった。
だが、湊はそこで気づいた。
「……そうか。別に今すぐ倒さなくてもいいんだ」
倒れた洞窟蝙蝠は、すぐには飛び上がれない。
ならば、無理に追撃する必要はない。
湊は岩鼠との距離を保ち、槍を構え直した。
岩鼠が突進してくる。
湊は穂先で進路を塞ぎ、相手が横へ回り込もうとした瞬間に突き込んだ。
肩口へ命中。
続けてもう一度、胴体を狙う。
岩鼠が地面へ崩れ落ちた。
「……よし!」
すぐに振り返る。
洞窟蝙蝠は翼をばたつかせ、ようやく飛び上がろうとしていた。
「……今度こそ!」
湊は間合いを詰め、短槍を突き出した。
穂先が胴体を貫く。
洞窟蝙蝠は短く震え、そのまま動かなくなった。
「……はあっ、はあっ……」
湊は大きく息を吐いた。
二匹同時の戦闘。
しかも、地上と空中の混成だった。
決して余裕のある勝利ではない。
だが、最後まで落ち着いて対応できた。
「……なるほど。順番を間違えなければ、何とかなるんだな」
湊は満足そうに笑った。
◇
十分な休憩を取った後、湊はもう一度広間を確認した。
先ほど倒した三匹以外に、魔物の姿は見えない。
「……今日はここまでかな」
湊は水を飲み、ステータスを開いた。
【個人情報】
名前:一ノ瀬 湊
レベル:5
保有スキル
【疲労回復】Lv.1
「……まだ上がらないか」
今日倒した魔物は、岩鼠二匹と洞窟蝙蝠一匹。
レベルアップには届かなかった。
それでも、今回の収穫は大きい。
湊はノートに新しい狩り場を書き込んだ。
『第二階層・横長の広間』
『岩鼠、洞窟蝙蝠の出現を確認』
『入口側の通路で誘導戦闘が可能』
『複数が接近した場合は、攻撃順序を意識する』
そして最後に、一文を書き加えた。
『狩り場候補② 第二階層・横長の広間』
「……よし。ここなら、しばらく経験値を稼げそうだ」
湊はノートを閉じた。
第一階層でスライムを倒していた頃は、魔物の攻撃を避けるだけでも精いっぱいだった。
それが今では、複数の敵を相手にしても、状況を判断しながら戦えるようになってきた。
もちろん、まだまだ未熟だ。
強い敵が現れれば、あっさり負けてしまうかもしれない。
だからこそ、もっと強くなりたい。
「……次はレベル6だな」
湊は楽しそうに笑った。
敵を倒す。
経験値を稼ぐ。
戦い方を改善する。
そして、さらに強い敵へ挑む。
その繰り返しが、少しずつ自分を成長させていく。
「……やっぱり、やり込みはやめられないな」
湊は短槍を握り直し、入口へ向かって歩き始めた。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!
皆さまに楽しんでいただける物語を目指して、これからも丁寧に書き続けていきます。
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