↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃人ゲーマーのダンジョン攻略記 ~やり込みすぎたら最強になっていた~  作者: 庵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/21

第2話 最弱スキル【疲労回復】

第2話をお読みいただき、ありがとうございます!


いよいよ主人公・湊の能力が明らかになります。


最初に与えられたのは、なんとも地味な【疲労回復】というスキル。


しかし、廃人ゲーマーにとっては、どんな能力も検証と使い方次第。


今回もぜひお楽しみください!




 朝食を終えた一ノ瀬湊は、自室に戻るなり、勉強机の椅子に腰を下ろした。


 目の前に置かれているのは、探索者協会の公式アプリを開いたスマートフォン。画面には、探索者登録の案内やダンジョンの危険性についての説明が並んでいる。


 ダンジョンが存在する世界。魔物を倒してレベルを上げ、未知の場所を探索する人々。そして、日本全国に百か所前後あるという攻略対象。


 前世でゲームに人生を捧げてきた湊にとって、これほど心を躍らせる環境はなかった。


「……とはいえ、まずは自分の性能を把握しないとな」


 興奮しているからこそ、冷静になる必要がある。


 ゲームで初めて触るキャラクターを使うとき、湊が最初に行うのは能力の確認だった。得意なこと、苦手なこと、使用できる技とその制限。それらを知らずに強敵へ挑むのは、攻略ではなく無謀な賭けにすぎない。


 ましてや、この世界では死んでもやり直せる保証がない。


 湊は初心者向けの資料を開き、能力に関する説明を探した。しばらく画面をスクロールすると、ステータスの確認方法を紹介する項目が見つかった。


『自身の能力情報は、ステータス表示を意識することで確認できます。表示の見え方や操作感には個人差があります』


「ステータスか。やっぱり、そういう仕組みはあるんだな」


 スマートフォンを机に置き、目を閉じる。


 頭の中で、自分の能力を確認する画面を思い浮かべた。


 すると、暗くなった視界の中央に、ぼんやりと光が浮かび上がった。


「……お?」


 驚いて目を開ける。


 そこには、半透明の板のようなものが浮かんでいた。窓から差し込む朝日も、机の上の教科書も、その向こう側に透けて見える。


 湊は思わず身を乗り出した。


【個人情報】


名前:一ノ瀬 湊

年齢:15歳

レベル:1


保有スキル

【疲労回復】Lv.1


「おお……本物だ」


 思わず声が弾んだ。


 顔を横に向けても表示は視界についてくる。指を伸ばしても触れる感触はなく、意識を外すと薄くなり、再び集中すると文字が鮮明になった。


 湊は何度か表示と非表示を繰り返し、操作方法を確かめた。


「レベル1。まあ、そこは予想どおりだな」


 十五歳の少年として暮らしていた体に、豊富な戦闘経験があるはずもない。前世のゲームでも、最初から強い状態で始まることは少なかった。


 問題は、その下に表示されたスキルである。


「【疲労回復】……?」


 湊は首を傾げた。


 攻撃魔法でもなければ、防御技術でもない。剣術や格闘術のように、直接戦闘で役立ちそうな能力でもなかった。


 名前から考えれば、文字どおり疲れを回復するスキルなのだろう。


「……なかなか渋い初期スキルだな」


 湊は苦笑した。


 もしゲームのキャラクター作成画面でこの能力を見つけたなら、最初は見向きもしなかったかもしれない。敵を倒す手段がなければ、経験値を稼ぐことすら難しいからだ。


 だが、弱いスキルと使えないスキルは同じではない。


 湊は【疲労回復】の文字に意識を集中させた。


 すると、表示が切り替わり、簡単な説明が現れた。


【疲労回復】Lv.1


身体に蓄積した疲労を軽減する。


効果は使用者の状態とスキルレベルに依存する。


負傷の治療効果はない。


「……説明、これだけ?」


 どれほどの疲労を回復できるのか。何回使えるのか。使用時に何かを消費するのか。


 肝心な情報が、ほとんど書かれていない。


 湊は腕を組んで考え込んだが、すぐに口元を緩めた。


「いいね。こういうのは嫌いじゃない」


 説明が足りないなら、自分で調べればいい。


 前世でも、攻略情報のないゲームほど夢中になった。誰かが用意した正解をなぞるより、自分で仮説を立てて検証する方が、ずっと面白かったからだ。


 湊はさっそく椅子から立ち上がった。


 しかし、部屋の時計を見たところで動きを止める。


「……って、もうこんな時間か」


 登校するまで、あまり余裕がない。


 体を動かして疲労を作り、スキルの効果を確かめるには時間が足りなかった。中途半端な条件で試すより、落ち着いて検証できる環境を整えた方がいいだろう。


「仕方ない。続きは帰ってからだな」


 湊はスマートフォンのメモ帳を開き、確認したい項目を書き込んだ。


 疲労の回復量。発動方法。連続使用の可否。使用後の体への影響。


 四つ目を入力したところで、廊下から妹の声が響いた。


「お兄ちゃん! まだ家にいるの!?」


「今行く!」


 湊は慌てて学生かばんをつかんだ。


 できれば今すぐ検証を始めたかったが、焦っても仕方がない。探索者として活動するにしても、まずは今の生活を把握する必要がある。


 そう自分に言い聞かせながら、部屋を飛び出した。



     ◇



 放課後。


 帰宅した湊は制服から動きやすい服に着替えると、すぐに自室の片づけを始めた。


 学校では、授業の合間に少しずつ周囲の様子を観察していた。教室も、教師も、友人たちとの会話も、体に残る記憶のおかげで大きな違和感なく過ごすことができた。


 それでも、授業中に何度も考えてしまったのは、朝に確認したスキルのことだった。


「よし。まずは基準になる疲労を作るか」


 椅子を机の下へ押し込み、床に置かれていた荷物を壁際へ寄せる。


 運動する前に、湊は現在の体調を確かめた。脚に痛みはなく、呼吸も落ち着いている。学校から歩いて帰ってきた分の疲れはあるものの、強い疲労感はなかった。


 スマートフォンのタイマーを起動し、最初の検証を始める。


 腕立て伏せを十回。スクワットを二十回。それから、その場で足踏みを続けて心拍数を上げる。


 前世では運動不足が当たり前だった湊だが、十五歳の体は想像以上によく動いた。それでも、しばらく続ければ脚は重くなり、額にはうっすらと汗が浮かんできた。


「はあ……はあ……。これくらいでいいか」


 湊は運動を止め、床に座った。


 太ももには軽いだるさが残り、呼吸も普段より速い。激しい運動ではなかったが、疲労を感じるには十分だった。


 タイマーを止めて、メモ帳に運動内容を記録する。


「さて、問題はここからだな」


 湊はステータスを開いた。


 表示された【疲労回復】Lv.1に意識を集中させる。


 使い方は分からない。それでも、疲れた体を回復させる様子を思い浮かべ、心の中でスキル名を唱えた。


 ――疲労回復。


 次の瞬間、体の奥で何かが動くような、不思議な感覚が生まれた。


「……っ!」


 太ももに残っていた重さが、すっと軽くなる。


 温かいものが体の内側を通り抜けたような感覚があり、それが消える頃には、先ほどよりも脚を動かしやすくなっていた。


 湊は立ち上がり、軽く膝を曲げ伸ばしする。


「おお……本当に回復した」


 思わず笑みがこぼれた。


 もちろん、完全に疲れが消えたわけではない。呼吸はまだ少し速く、心臓の鼓動もすぐには落ち着かなかった。


 それでも、脚のだるさが軽減したことは確かだった。


「疲労を少し減らす感じか。少なくとも、今のレベルじゃ全回復はしないな」


 湊はメモ帳に結果を書き込んだ。


『検証1:軽い運動後に使用。脚の疲労感が軽減。息切れと心拍はすぐには戻らない』


 続いて、二回目の発動を試みる。


 しかし、今度は何も起こらなかった。


「……あれ?」


 もう一度、スキルを意識する。


 最初に感じた温かさはなく、脚の状態にも変化がない。


 湊は首を傾げた。


「連続使用ができないのか? それとも、回復できる疲労が少なくなったから?」


 考えられる理由はいくつもあった。


 発動するたびに何らかの力を消費している可能性もあるし、一定の時間を空けなければ使えないのかもしれない。そもそも、二回目も正しく発動操作を行えている保証はなかった。


 現時点で、一つに決めつけることはできない。


「……こういうときは、原因を一個ずつ潰さないとな」


 湊はメモに『連続使用は未確認。再検証が必要』と追記した。


 ゲームの攻略でも、検証条件を一度に変えてしまうと、何が結果に影響したのか分からなくなる。だからこそ、面倒でも一つずつ確かめる必要がある。


 湊は再び軽くスクワットを始めようとして、途中で動きを止めた。


「……いや、今日はやめておくか」


 疲労感が薄れていても、筋肉や関節への負担まで消えたとは限らない。


 スキルの説明にも、負傷の治療効果はないと明記されていた。疲れを感じにくくなったからといって、体そのものが丈夫になるわけではないのだ。


 もし疲労回復に頼って無理な運動を続ければ、気づかないうちに怪我をする可能性もある。


「便利そうだけど、使い方を間違えたら危ないな」


 湊は真剣な表情で頷いた。


 ダンジョンでは、ほんの小さな判断ミスが命取りになる。疲労を回復できても、傷ついた体を元に戻せないのなら、撤退の判断を誤らないことが重要だろう。


 ただし、悪いことばかりではなかった。


 湊はメモを見返しながら、別の可能性を考えていた。


「……待てよ。これって、探索時間を少し延ばせるんじゃないか?」


 体力が十分に残っていても、疲労が積み重なれば動きは鈍くなる。長時間の移動や単純作業を続ける際には、疲れが集中力を奪うこともある。


 その疲労を軽減できるなら、適切に休息を取りながら活動を続ける助けになるかもしれない。


 さらに、スキル自体を成長させられる可能性もある。


 今はLv.1でも、使い込むことで効果が強くなるのなら、価値は大きく変わってくる。


「……最弱だと思ったけど、意外と面白い性能かもしれないな」


 湊は口元を緩めた。


 もちろん、まだ何も証明されていない。疲労を少し軽くできるだけでは、目の前に魔物が現れても倒すことはできない。


 それでも、湊にとって重要なのは、最初から強いかどうかではなかった。


 どうすれば強くなれるのか。


 どこまで性能を引き出せるのか。


 その答えを探す過程こそが、何よりも楽しいのだ。


「よし。こいつは、徹底的に鍛えてみよう」


 湊はそう呟き、検証記録を保存した。



     ◇



 スキルの検証を終えた湊は、再び探索者協会の公式アプリを開いた。


 次に調べるのは、探索者登録の手続きである。


 登録できるのは十五歳以上。未成年者には追加の確認手続きがあり、活動できる範囲にも制限が設けられている。


 さらに、ダンジョンへ入る前には、安全に関する基本的な知識を身につけなければならないらしい。


「まあ、命がかかってるんだから当然か」


 湊は画面に表示された注意事項を読み進めた。


 初心者が起こしやすい事故として挙げられていたのは、装備不足、道迷い、無理な戦闘、そして撤退判断の遅れだった。


 特に気になったのは、帰還時の体力についての説明である。


 どれほど弱い魔物しか出現しない場所でも、奥へ進めば帰るための距離が長くなる。戦闘に勝つことだけを考えて体力を使い切れば、帰り道で動けなくなる危険があるという。


「……なるほど。攻略するだけじゃなくて、帰ってくるところまで考えないと駄目なんだな」


 前世のゲームでも、長時間の探索で回復アイテムを使い切り、帰り道に苦労した経験は何度もあった。


 だが、今回は失敗しても笑って済ませられない。


 湊は重要そうな注意事項をメモに残し、近隣のダンジョン情報を開いた。


 最初に表示されたのは《青葉洞窟》。


 新潟県に存在する、公表難度F級の初心者向けダンジョンだった。


 全五階層。


 公開されている資料には、基本的な地形や注意事項のほか、初心者向けの簡単な案内図も掲載されている。


「五階層か……。最初の攻略対象としては、ちょうどよさそうだな」


 湊は案内図を拡大した。


 通路の分岐、行き止まり、階層を移動するための経路。大まかな構造は把握できるが、細かな部分まで確認できるわけではない。


 その地図を見つめているうちに、湊の目つきが変わった。


「……この行き止まり、妙に奥行きがあるように見えるな」


 指先で画面を拡大する。


 しかし、画像が粗くなるばかりで、それ以上の情報は得られなかった。


 単なる地図の描き方によるものかもしれない。実際に洞窟へ入ってみれば、何の変哲もない岩壁があるだけという可能性も高い。


 それでも、気になるものは気になる。


「まあ、今の段階じゃ何も分からないか」


 湊はその場所をメモに残した。


 前世でも、こうした小さな違和感を調べた先で、隠された仕組みを発見したことがある。


 誰も気にしない場所。攻略するだけなら通る必要のない道。一見すると意味のない行動。


 そんなものにこそ、思いがけない発見が隠れていることがあった。


 もっとも、この世界のダンジョンにも同じ仕組みがあるとは限らない。


 だから、実際に確かめる。


 それだけの話だった。


 湊は登録手続きの案内へ戻り、必要なものを確認した。


 本人確認書類、未成年者に必要な手続き、安全講習の案内。


 書類を揃えるだけでも、いくつか確認しなければならないことがある。特に保護者に関する手続きは、母親にも相談する必要がありそうだった。


「……よし。まずはここからだな」


 そのとき、画面の上部に協会からのお知らせが表示された。


『初心者探索者向け安全講習のご案内』


 湊は迷わず通知を開いた。


 そこには、新潟県内の探索者協会施設で行われる講習の案内が掲載されていた。ダンジョン内での基本行動や緊急時の対応について学ぶ内容で、《青葉洞窟》へ挑戦する初心者にも受講が勧められている。


「ちょうどいいじゃないか」


 湊は案内を最後まで読み、登録の手順を確認した。


 講習を受ければ、現実のダンジョンについて詳しい説明を聞けるかもしれない。公式資料では分からない危険や、初心者が見落としやすい注意点を知る機会にもなるだろう。


 何より、ようやくダンジョンへ近づくための具体的な行動が見えてきた。


 湊はスマートフォンを机に置き、もう一度ステータスを開いた。


 レベル1。


 保有スキルは【疲労回復】Lv.1のみ。


 装備も、戦闘経験も、攻略実績もない。


 現時点では、探索者として何一つ成し遂げていなかった。


 それなのに、湊の顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。


「……レベル1からか。いいね」


 前世では、数え切れないほどのゲームを遊んできた。


 最初は弱い敵に苦戦していたキャラクターが、経験を積み、装備を整え、少しずつ強敵に勝てるようになっていく。


 湊は、その過程が何よりも好きだった。


 強さは、最初から与えられるものではない。


 自分で積み重ねていくからこそ、面白い。


 もちろん、この世界でどこまで強くなれるのかは分からない。そもそも【疲労回復】しか持たない自分が、まともに魔物と戦えるようになるのかさえ未知数だった。


 だが、分からないことがあるなら調べればいい。


 足りないものがあるなら、少しずつ手に入れればいい。


 そして、まだ攻略していない場所があるなら、いつか必ず挑戦する。


「まずは探索者登録。それから青葉洞窟……」


 湊は画面に表示されたダンジョンの名前を見つめた。


 これから始まるのは、誰かが用意した攻略動画をなぞるだけの冒険ではない。


 失敗すれば怪我をする。無理をすれば命を失う。


 だからこそ、準備を怠らず、自分の頭で考え、確実に経験を積んでいく必要がある。


「待ってろよ。隅から隅まで調べてやるからな」


 湊は小さく笑い、探索者登録に必要な書類を探し始めた。


 その表情は、かつて誰も知らない隠し要素を見つけたときと、まったく同じだった。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!


湊の初期スキルは【疲労回復】。


決して派手な能力ではありませんが、これからのやり込みによって少しずつ可能性が広がっていきます。


今後はダンジョン探索やレベル上げ、隠された攻略要素なども描いていきますので、ぜひ続きを楽しみにしていただければ嬉しいです!


ブックマークや評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。