第18話 第二階層の洗礼
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少しずつ積み重ねていく成長と、やり込みならではの攻略の面白さを楽しんでいただければ幸いです。
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《青葉洞窟》第二階層。
一ノ瀬湊は、薄暗い階段の前で短槍を握り直した。
「……いよいよだな」
前回の探索で第一階層の終端まで到達してから、一週間。
平日は槍の基本動作を繰り返し、第二階層に出現する魔物の情報も調べてきた。
現在のレベルは4。
まだ決して強くはない。それでも、最初に洞窟へ入った頃と比べれば、戦闘技術は確実に向上している。
「……よし、行くか」
湊は照明具を手に、階段を下り始めた。
途中から空気が変わった。
第一階層より湿度が高く、壁には水滴が浮かんでいる。足元の石も濡れており、一歩ごとに靴底の感触を確かめる必要があった。
「……滑りやすいな」
階段を下り切ると、横幅の広い通路が現れた。
壁には青い鉱物が点在しているが、第一階層より光が弱い。
その分、天井付近はほとんど見えなかった。
湊は公開地図を確認した。
第二階層では、スライムや岩鼠のほかに、新しい魔物が出現する。
その代表が、洞窟蝙蝠。
鋭い爪を持ち、天井から急降下して攻撃してくる魔物だ。
「……上にも注意、だったな」
湊は照明具を持ち上げ、天井を照らした。
岩の凹凸が入り組み、奥まで見通すことは難しい。
そのときだった。
ぱさっ。
頭上で、小さな羽音が響いた。
「……っ!」
湊は反射的に身を低くした。
黒い影が、頭のすぐ横を通り過ぎる。
鋭い爪が防具の肩口をかすめ、硬い音を立てた。
「……危なっ!」
湊は慌てて振り返った。
前方の岩壁近くを、一匹の黒い魔物が飛んでいる。
翼を広げると六十センチほど。
細い体に、大きな耳。
そして、曲がった爪が四本。
「……洞窟蝙蝠か!」
資料で見た姿と一致していた。
しかし、実物の動きは予想以上に速い。
黒い影は岩壁の近くで方向を変え、再び天井へ舞い上がった。
「……見失うなよ」
湊は槍を構え、相手の位置を追った。
◇
洞窟蝙蝠は天井付近を旋回していた。
湊は槍の穂先を上へ向ける。
相手が降りてきたところを突くつもりだった。
だが、洞窟蝙蝠はなかなか接近してこない。
「……待ってるだけじゃ駄目か?」
湊が半歩移動した瞬間だった。
黒い影が急降下する。
「……来た!」
湊は槍を突き上げた。
しかし、穂先は空を切った。
洞窟蝙蝠は直前で進路を変え、湊の左側へ回り込んでいた。
次の瞬間、鋭い爪が腕をかすめる。
「……痛っ!」
布が裂け、左腕に細い傷が走った。
湊は大きく後退した。
傷は浅い。
だが、相手の動きがまったく読めていなかった。
「……速いだけじゃない。途中で曲がるのか」
岩鼠なら、地面を走る方向から次の動きを予測できた。
しかし、洞窟蝙蝠は違う。
上からも横からも攻撃できるうえ、空中で方向を変えられる。
今までの戦闘とは、攻撃が来る方向そのものが違っていた。
湊は短槍を握り直した。
「……これは、きついな」
その間にも、洞窟蝙蝠は再び天井へ上がっていく。
ここで無理に戦えば、次はもっと深い傷を負うかもしれない。
湊は周囲を確認した。
少し後ろには、階段へ続く通路がある。
「……一度、下がるか」
湊は槍を構えたまま、慎重に後退した。
◇
階段近くの比較的明るい場所まで戻ると、洞窟蝙蝠は追ってこなくなった。
湊は壁際で左腕を確認した。
傷は浅く、出血も少ない。
持参した救急用品で処置を済ませると、その場で呼吸を整えた。
「……いきなり洗礼を受けたな」
湊は苦笑した。
第一階層では、スライムも岩鼠も地面を移動していた。
それに対して、第二階層の敵は頭上から襲ってくる。
しかも、槍を突き上げた瞬間に進路を変えられた。
「……あれ、俺の攻撃を見て避けたのか?」
湊は先ほどの戦闘を思い返した。
最初に急降下してきたときは、ほぼ一直線だった。
しかし、槍を向けた瞬間、相手は左へ曲がった。
つまり、こちらの攻撃に反応している可能性がある。
「……だったら、先に突くのは悪手か」
湊は槍の構えを変えた。
穂先を高く上げすぎず、相手が接近してきてもすぐに動かせる位置で保持する。
あとは、天井の高い場所を避ければいい。
頭上の空間が狭ければ、洞窟蝙蝠も動ける範囲が限られるはずだ。
「……もう一回だけ試してみるか」
もちろん、同じ場所へ突っ込むつもりはない。
危険なら、その時点で撤退する。
湊は短槍を握り直し、階段から続く通路へ戻った。
◇
しばらく進むと、先ほどの洞窟蝙蝠が見えた。
同じ個体かどうかは分からない。
だが、今度は湊にも準備があった。
天井の低い通路を背にして立ち、相手の接近を待つ。
洞窟蝙蝠がこちらへ気づいた。
黒い翼が大きく広がる。
「……来い」
湊は槍を突き出さなかった。
洞窟蝙蝠が急降下する。
距離が縮まる。
湊は一歩だけ横へ動いた。
黒い影が目の前を通過する。
「……今!」
湊は相手の進行方向へ槍を突き出した。
穂先が翼の端を捉える。
洞窟蝙蝠が甲高い声を上げ、地面へ落下した。
「……当たった!」
だが、まだ倒れていない。
魔物は翼をばたつかせ、再び飛び上がろうとしていた。
湊は踏み込み、槍を構え直す。
飛び上がる前に倒さなければ、また空中戦になる。
「……逃がすか!」
短槍を突き出す。
穂先が洞窟蝙蝠の胴体を貫いた。
魔物が大きく震え、やがて動かなくなる。
「……はあっ!」
湊は槍を引き戻し、すぐに周囲を確認した。
新たな羽音は聞こえない。
ほかの魔物も近づいていなかった。
「……倒せた、な」
ようやく息を吐く。
左腕には小さな傷が残ったが、初めての空中型の魔物を討伐できた。
その達成感は大きかった。
「……なるほど。飛んでる相手は、落とせばいいのか」
もちろん、すべての飛行型の魔物に通用するわけではない。
だが、攻撃の瞬間を待ち、翼を狙うという方法は覚えておいて損はない。
湊はノートに戦闘内容を書き込んだ。
『洞窟蝙蝠:空中で進路変更可能』
『早めの突きは避けられやすい』
『翼への攻撃で落下させられる』
書き終えると、湊は満足そうに頷いた。
◇
その後、湊は第二階層を少しだけ探索した。
しかし、左腕の傷が気になり始めたこともあり、無理に戦闘を重ねることはしなかった。
帰還途中には第一階層でスライムを一匹討伐し、十分な時間を残して地上へ戻った。
管理施設で帰還手続きを済ませ、湊はベンチに腰を下ろす。
そして、ステータスを開いた。
【個人情報】
名前:一ノ瀬 湊
レベル:4
保有スキル
【疲労回復】Lv.1
「……まだレベル4か」
今日の討伐数は、洞窟蝙蝠一匹とスライム一匹。
レベルアップには届かなかった。
だが、今回はそれ以上に大きな収穫があった。
第二階層では、第一階層と同じ戦い方が通用しない。
そして、新しい敵と出会うたびに、また別の技術が必要になる。
「……いいじゃないか」
湊は笑った。
スライムを初めて倒したときも、岩鼠を初めて倒したときも、同じだった。
最初は苦戦する。
だが、相手の動きを覚え、対策を考えれば、少しずつ勝てるようになっていく。
次はもっと安全に倒せるはずだ。
「……よし。今度は洞窟蝙蝠を安定して狩れるようになろう」
湊はノートを閉じた。
第二階層の攻略は、まだ始まったばかり。
ここから先には、もっと強い敵も待っているだろう。
そのすべてを倒せるようになるまで、何度でも挑戦する。
「……次の目標は、レベル5だな」
湊は小さく笑い、立ち上がった。
新しい階層には、新しい狩り場がある。
そして、新しい狩り場には、新しい成長の可能性があるのだから。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!
皆さまに楽しんでいただける物語を目指して、これからも丁寧に書き続けていきます。
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