第15話 狩り場の開拓
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少しずつ積み重ねていく成長と、やり込みならではの攻略の面白さを楽しんでいただければ幸いです。
今回もよろしくお願いします!
強い魔物を倒せば、それだけ多くの経験値を得られる。
しかし、倒すのに時間がかかりすぎたり、怪我をする危険が高かったりするなら、効率がいいとは言えない。
土曜日の朝。
一ノ瀬湊は《青葉洞窟》の入口で、前回の戦闘記録を見返していた。
「……問題は岩鼠だな」
第一階層の奥で遭遇した、灰色の大型ネズミ。
スライムとは比較にならない速度で動き、短槍の攻撃を避けながら足元へ飛び込んでくる。
前回は地形を利用して倒せたものの、かなり危険な戦闘だった。
「……でも、倒し方は見えてきた」
湊はノートを閉じた。
今日の目標は、岩鼠との戦闘に慣れること。そして、安全に繰り返し戦える場所を見つけることだ。
管理施設で入場手続きを済ませ、湊は洞窟へ足を踏み入れた。
◇
第一階層の広間に到着すると、湊は周囲を確認した。
中央には二匹のスライム。
奥の岩陰には、以前は見かけなかった岩鼠が一匹いる。
「……なるほど。ここにも出るのか」
湊はすぐに戦闘を仕掛けず、魔物の動きを観察した。
スライムは広間をゆっくり移動している。
一方、岩鼠は壁際を素早く走り、ときおり岩の上へ飛び乗っていた。
広間の中央で戦えば、複数の魔物に囲まれる危険がある。
湊は入口側の通路へ戻り、比較的平らな場所を確認した。
「……ここなら、一匹ずつ相手にできそうだな」
まずは手前のスライムを誘導する。
跳躍を横へ避け、着地後に短槍を突き込んだ。
硬い塊を砕き、一匹目を討伐。
続けて二匹目も、距離を取りながら倒した。
「……よし。ここまでは問題なし」
湊は呼吸を整えた。
以前なら二匹倒すだけでも緊張していたが、今は動作に余裕がある。
もちろん油断はしない。
本番は、ここからだった。
◇
岩鼠は広間の奥にいた。
湊が近づくと、赤い目をこちらへ向ける。
次の瞬間、地面を蹴った。
「……来た!」
灰色の影が一直線に迫る。
湊は槍を低く構えたまま、相手の動きを見た。
岩鼠は穂先を避けようと右へ跳ぶ。
その進路には、大きな岩があった。
「……そこは通れないだろ!」
湊は半歩だけ踏み込み、岩鼠の逃げ道へ槍を向けた。
岩鼠が急停止する。
しかし、完全には止まらず、岩の縁を蹴って反対側へ跳ねた。
「……っ!」
予想よりも素早い切り返し。
湊は攻撃を中止し、大きく後退した。
岩鼠の牙が、目の前を通り過ぎる。
「……危なっ!」
湊は歯を食いしばった。
前回と同じ方法が、必ず通用するとは限らない。
相手も生き物だ。
同じ種類でも、動きには違いがある。
「……だったら、もっと確実に」
湊は通路側へ移動した。
岩鼠が追ってくる。
通路の幅は、広間ほど広くない。左右へ回り込める範囲が限られる。
ただし、自分の退路まで狭くならないよう、背後の空間は確保しておく。
岩鼠が身を低くした。
湊は槍を構え、相手の進路を塞ぐ。
岩鼠は一瞬ためらい、左へ回り込もうとした。
「……今!」
湊は槍を突き出した。
穂先が岩鼠の前脚付近を捉える。
甲高い鳴き声が響き、岩鼠の動きが鈍った。
湊は無理に追いかけず、もう一度間合いを取る。
そして次の突進を避け、露出した胴体へ槍を突き込んだ。
岩鼠が地面に倒れた。
「……よしっ!」
湊はすぐに周囲を確認した。
ほかの魔物が接近していないことを確かめてから、ようやく息を吐く。
「……前より、ずっと落ち着いて戦えたな」
今回は足元へ入り込まれる前に、相手の進路を制限できた。
戦闘時間も、前回より短かった。
少しずつだが、岩鼠の動きにも対応できるようになってきたのだ。
◇
湊は休憩を挟みながら、広間の周辺を調べた。
奥の通路を少し進むと、緩やかな曲がり角があり、その先に細長い空間が広がっていた。
地面は比較的平らで、大きな障害物も少ない。
ただし、奥へ続く道は二つに分かれている。
「……ここは、まだ狩り場にするには危ないか」
逃げ道が複数あるということは、魔物が別の方向から接近してくる可能性もある。
湊は無理に奥へ進まず、地図に新しい通路を書き加えた。
その帰り道、岩鼠をもう一匹見つけた。
今度は、通路の端で岩をかじっている。
「……よし。もう一回試そう」
湊は安全な足場を確認し、慎重に接近した。
岩鼠がこちらへ飛びかかる。
先ほどと同じように槍を低く構え、接近する方向を制限する。
しかし、今度の岩鼠は途中で向きを変えず、そのまま槍へ突っ込んできた。
「……うわっ!」
湊は反射的に槍を引き、体を横へ逃がした。
岩鼠が足元を駆け抜ける。
危うく噛みつかれるところだった。
「……こいつ、避けないのか!」
湊はすぐに構え直した。
槍を恐れて回り込む個体もいれば、そのまま突っ込んでくる個体もいる。
相手の反応を決めつけてはいけない。
次の突進。
湊は槍の穂先を相手へ向けたまま、いつでも後退できる姿勢を取った。
岩鼠が突っ込んでくる。
今度は無理に踏み込まず、相手の勢いに合わせて槍を突き出した。
穂先が肩口を捉える。
岩鼠の勢いが弱まったところで、湊は一歩離れ、続く攻撃で胴体を貫いた。
「……っ、よし!」
岩鼠が動かなくなる。
湊は短槍を引き戻し、大きく息を吐いた。
腕が重い。
先ほどまでの戦闘で、疲労が溜まっていた。
「……そろそろ限界かな」
湊は安全な場所まで戻り、水を飲んだ。
十分に休んでから【疲労回復】を発動する。
腕や脚の重さが少し和らいだが、使い続けた筋肉の張りまでは消えない。
湊はステータスを確認した。
【個人情報】
名前:一ノ瀬 湊
レベル:3
保有スキル
【疲労回復】Lv.1
「……まだ3か」
今日倒したのはスライム二匹と岩鼠二匹。
レベルアップには届かなかった。
だが、落胆はなかった。
岩鼠の異なる攻撃パターンを経験し、戦いやすい地形も見つけられた。
何より、前回より安定して戦えている。
「……経験値だけじゃなく、戦い方も成長してるな」
湊は満足そうに笑った。
◇
帰還前、湊はノートを開いた。
『第一階層・広間周辺』
『スライム、岩鼠の出現を確認』
『入口側の通路で一匹ずつ誘導可能』
『岩鼠は個体によって攻撃の選択が異なる』
さらに、今日の討伐数を書き加える。
スライム二匹。
岩鼠二匹。
累計二十匹。
「……ようやく二十匹か」
湊は少し考えた後、ページの下に一文を書き込んだ。
『候補狩り場① 第一階層・広間周辺』
ここなら、スライムと岩鼠の両方を相手にできる。
ただし、毎回同じ位置に魔物がいるとは限らないし、複数に囲まれれば危険だ。
安全に戦える状況だけを選ぶ。
それを徹底すれば、今の自分でも経験を積めるはずだった。
「……よし。しばらくはここを中心に鍛えるか」
湊はノートを閉じ、入口へ向かって歩き始めた。
強くなる方法は、何も特別なスキルだけではない。
敵の特徴を知り、戦いやすい場所を探し、何度も戦って技術を磨く。
その積み重ねが、いつか大きな差になる。
「……次はレベル4だな」
湊は小さく笑った。
第一階層の攻略は、まだ途中。
だが、自分だけの狩り場が、一つできた。
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