第13話 効率的なレベル上げ
強くなるためには、経験値を稼ぐ必要がある。
だが、ただ魔物を倒し続ければいいというわけではない。
月曜日の放課後、一ノ瀬湊は自室の机で、これまでの戦闘記録を見返していた。
昨日の探索では三匹のスライムを討伐し、第一階層の広間まで進むことができた。あの後は無理に戦闘を続けず、帰還手続きを済ませている。
「……一匹倒すのに、時間を使いすぎてるな」
ノートには、戦闘ごとの気づきが記されていた。
最初の一匹は、跳躍を避けてから一撃で討伐。
二匹目は広間から誘導して討伐。
しかし、相手の動きを観察する時間や、戦闘後に周囲を確認する時間を含めると、一匹あたりの所要時間は意外に長かった。
もちろん、安全確認を省くつもりはない。
湊が短縮したいのは、無駄な動きの方だった。
「……敵を探して歩き回るのも、結構疲れるんだよな」
第一階層の地図を開き、昨日訪れた広間に印をつける。
あそこには複数のスライムがいた。通路も広く、一匹ずつ誘導するための距離を確保できる。
反対に、狭い通路では回避できる方向が限られ、足場にも注意しなければならない。
「……戦う場所を選ぶだけでも、かなり違いそうだ」
湊はノートに次の方針を書き込んだ。
『広い場所で一対一に持ち込む』
『攻撃回数を減らす』
『疲れる前に休憩する』
やること自体は単純だった。
だが、その単純なことを徹底できるかどうかが、長時間の探索では重要になる。
「……よし。次はこれを試そう」
湊はノートを閉じた。
今週の目標が、一つ決まった。
◇
次の土曜日。
湊は《青葉洞窟》の第一階層を進んでいた。
装備は以前と同じ初心者用の短槍と軽量防具。平日の練習では足運びを中心に鍛え、攻撃後にすぐ後退する動作を繰り返してきた。
「……まずは、あの広間だな」
最初の分岐を左へ進み、以前発見した広い空間へ向かう。
途中で一匹のスライムを見つけたが、周囲の足場が悪かったため、その場で戦うことは避けた。
少し後退し、比較的平らな場所まで相手を誘導する。
スライムが体を縮めた。
「来い!」
跳躍を横へ避け、着地した相手へ槍を突き出す。
穂先が内部の硬い部分を貫いた。
一撃で討伐。
「……よし。一匹目」
湊はすぐに周囲を確認した。
敵の攻撃を待つ時間は変わらない。それでも、最初から戦いやすい場所を選んだおかげで、余計な後退や立て直しが必要なかった。
「……これなら、少し楽だな」
湊は呼吸を整え、先へ進んだ。
◇
広間には、今日も二匹のスライムがいた。
片方は中央付近を移動し、もう片方は奥の壁際にいる。
「……ちょうどいいな」
湊は入口近くの岩陰で様子をうかがった。
まず、手前の一匹がこちらへ近づくのを待つ。
十分に距離が開いたところで姿を見せ、相手の注意を引いた。
スライムが向きを変える。
湊は急がず、入口へ向かって後退した。
「……よし。そのまま」
広間から少し離れた位置まで誘導できたところで、槍を構える。
跳躍を回避。
着地後の隙を狙って突く。
硬い塊が砕け、二匹目の討伐に成功した。
「……順調だな」
湊は短く息を吐いた。
以前なら、魔物を見つけた瞬間に緊張していた。
今でも怖さが消えたわけではない。だが、何を確認し、どの距離で戦うべきかが少しずつ分かってきている。
湊は残る一匹の位置を確認し、再び誘導を試みた。
ところが、今度は思いどおりにいかなかった。
相手が予想より早く接近し、通路へ入る前に体を縮めたのだ。
「……っ!」
湊は横へ跳んだ。
スライムが岩の近くへ着地する。
槍を突き出そうとしたが、足元に石が転がっていることに気づき、攻撃を中止した。
「……危ないな」
無理に踏み込めば、転倒したかもしれない。
湊は安全な位置へ移動し、相手が追ってくるのを待った。
次の跳躍を避けてから、落ち着いて槍を突き込む。
三匹目のスライムが崩れ落ちた。
「……ふう。全部予定どおりとはいかないか」
湊は額の汗を拭った。
効率を意識するあまり、安全確認がおろそかになっては意味がない。
そのことを、改めて実感した戦闘だった。
◇
湊は一度、安全を確認した場所へ戻って休憩を取った。
水を飲み、呼吸を整える。
腕には少し疲労が溜まっていたが、まだ動けないほどではない。
「……今日は、まだいけそうだな」
湊は【疲労回復】を発動した。
体に残っていた重さが、少しだけ和らぐ。
ただし、これ以上の連続使用は期待できない。昨日までの検証でも、すぐに二回目を発動することはできなかった。
湊はスキルに頼りすぎないよう注意しながら、探索を再開した。
その後、別の通路で二匹のスライムを発見する。
一匹ずつ距離を取って戦い、どちらも討伐できた。
四匹目は一撃。
五匹目は最初の突きが浅く、二度目の攻撃で倒した。
「……五匹か」
湊はステータスを確認した。
【個人情報】
名前:一ノ瀬 湊
レベル:2
保有スキル
【疲労回復】Lv.1
「……まだ上がらないな」
今日だけで五匹。
レベル2になってからの討伐数は、前回の三匹と合わせて八匹になった。
だが、レベルは変わっていない。
湊は少し考えた。
今のところ、必要な討伐数は分からない。魔物の強さによって得られる経験も違うかもしれない。
単純に何匹倒せばレベルアップする、と決めることはできなかった。
「……まあ、焦っても仕方ないか」
湊は短槍を握り直した。
体力には、まだ少し余裕がある。
帰還予定の時刻までにも時間が残っていた。
そこで、近くの安全な通路を確認してから、もう一匹だけ戦うことにした。
見つけたのは、これまでより少し小柄なスライムだった。
湊は距離を測り、構えを取る。
相手の体が沈み込む。
跳躍。
横へ回避。
そして、着地後の隙へ一突き。
内部の硬い塊を砕いた瞬間、目の前に半透明の表示が現れた。
【レベルアップ】
レベル:2 → 3
「……おっ!」
湊は思わず笑みを浮かべた。
「……よし! レベル3!」
ついに、二度目のレベルアップだ。
今日の討伐数は六匹。
これまでの累計討伐数は十四匹となった。
「……いいね。ちゃんと積み重なってるな」
湊は嬉しそうに頷いた。
レベル1から2になったときも嬉しかった。
だが、今回は少し違う。
自分で戦う場所を選び、魔物を一匹ずつ誘導し、無駄な動きを減らす工夫をした。
その結果としてレベルが上がったことが、何より嬉しかった。
湊は短槍を下ろし、時計を確認した。
「……よし。今日は帰ろう」
まだ戦いたい気持ちはある。
しかし、腕には疲労が残り、集中力も少し落ちてきていた。
レベルが上がったからといって、無理をする必要はない。
湊はノートに今日の討伐数を記録し、入口へ向かって歩き始めた。
レベル3。
まだまだ弱い。
それでも、確実に前へ進んでいる。
「……次は、もっと強い敵とも戦えるようになりたいな」
湊は小さく笑った。
同じ魔物を何度も倒し、動きを覚え、戦い方を改善する。
その繰り返しが、少しずつ自分を強くしていく。
ただ数をこなすのではない。
どうすれば安全に、より効率よく戦えるのかを考え続ける。
それこそが、湊の望むレベル上げだった。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!
皆さまに楽しんでいただける物語を目指して、これからも丁寧に書き続けていきます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
次回もぜひよろしくお願いします!




