↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃人ゲーマーのダンジョン攻略記 ~やり込みすぎたら最強になっていた~  作者: 庵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/21

第11話 強くなるための反復


 月曜日の放課後、一ノ瀬湊は自宅の庭で短槍を構えていた。


 足元には、踏み込む位置を示す小さな目印が置かれている。湊はそれを確認すると、右足を前へ出し、腰を落として槍を突き出した。


「……一、二、三」


 穂先を引き戻し、元の姿勢へ戻る。


 もう一度、踏み込む。


 同じ動作を繰り返すうちに、額から汗が流れ落ちた。


「……やっぱり、戻す動きが遅いな」


 初めての戦闘で分かったことがある。


 敵の行動を理解していても、自分の体が思いどおりに動かなければ意味がない。


 スライムの跳躍攻撃を避けた後、槍を突き出す。その動作自体は難しくないはずだったが、実際には踏み込みすぎて姿勢を崩していた。


 だから、まずは基本動作から鍛え直すことにした。


「……よし。あと十回」


 湊は再び槍を構えた。


 単純な反復練習は嫌いではない。


 むしろ、昨日までできなかった動きが少しずつ安定していく感覚は、レベル上げにも似ていた。


 その後も、足運びと突きの練習を続ける。


 ただし、疲労が強くなる前に休憩を挟み、無理に練習時間を延ばすことはしなかった。


 【疲労回復】で疲れを軽減できても、筋肉や関節への負担がなくなるわけではない。


 実際、初戦闘で負った左手の傷は、スキルを使っても治らなかった。


「……さて、次は実戦だな」


 湊は槍を下ろし、スマートフォンの予定表を開いた。


 次の土曜日。


 そこには、すでに予定が入力されている。


『青葉洞窟・レベル上げ』


 岩壁の仕掛けについても、まだ調べたいことはある。


 だが、今の自分に足りないのは、圧倒的に戦闘経験だった。


「……隠し通路を見つけたところで、奥の敵に勝てなきゃ意味ないしな」


 湊は楽しそうに笑った。


 未知の場所を攻略するためにも、まずは強くなる必要がある。


 そのために、今週は徹底的に基礎を鍛えるつもりだった。



     ◇



 土曜日。


 《青葉洞窟》第一階層。


 湊は見通しのよい通路で、一匹のスライムと向き合っていた。


 前回までの探索で確認した行動パターンは、すでに頭に入っている。


 通常時の移動は遅い。


 一定の距離まで近づくと、体を縮めて跳躍する。


 着地直後には隙があり、内部の硬い部分を狙えば倒せる。


「……よし。始めるか」


 湊は槍を構え、慎重に距離を詰めた。


 スライムの体が沈み込む。


 次の瞬間、半透明の体が跳ね上がった。


 湊は一歩横へ移動する。


 スライムは目標を失い、岩の地面に落下した。


「今だ!」


 槍を突き出す。


 穂先が柔らかな体を貫き、その奥にある硬い塊へ届いた。


 小さな破裂音が響く。


 スライムの体が崩れ、そのまま動かなくなった。


「……よし!」


 湊は槍を引き戻し、周囲を確認した。


 初戦闘では何度も攻撃を外し、危うく転倒しかけた。


 それが今回は、最初の攻撃で倒すことができた。


「……練習した甲斐があったな」


 もちろん、相手の動きを知っていたことが大きい。


 別の種類の魔物にも同じように戦えるとは限らない。


 それでも、確かな成長を感じられた。


 湊はステータスを開く。


【個人情報】


名前:一ノ瀬 湊

レベル:1


保有スキル

【疲労回復】Lv.1


「……まだレベル1か」


 少し残念だったが、予想の範囲内だった。


 今日倒したのは、これで一匹目。


 以前の討伐と合わせても、まだ二匹しか倒していない。


「……まあ、まだまだこれからだな」


 湊は笑みを浮かべ、次の魔物を探し始めた。



     ◇



 二匹目を見つけたのは、それからしばらく歩いた先だった。


 通路の端を、スライムがゆっくりと移動している。


 湊は周囲にほかの魔物がいないことを確認し、短槍を構えた。


「……今度は、もう少し早く倒したいな」


 距離を縮めると、スライムが反応する。


 半透明の体が沈み込んだ。


 湊はすぐに横へ動いたが、相手の跳躍は予想よりも低かった。


「……っ!」


 着地点が近い。


 湊は慌てて後退し、槍を構え直した。


 スライムは地面に広がり、再び体を丸め始める。


「……個体によって違うのか」


 湊は眉をひそめた。


 前回までの戦闘では、跳躍の高さをそれほど意識していなかった。


 だが、今回の相手は明らかに低い軌道で飛んできた。


 同じ魔物でも、動きが完全に一致するわけではないらしい。


「……なるほど。全部同じだと思うのは危険だな」


 湊は距離を取り、改めて相手の動きを観察した。


 次の跳躍を避けた後、槍を突き出す。


 しかし、穂先は内部の硬い部分をわずかに外れた。


「……くそっ!」


 すぐに槍を引き戻し、再び距離を取る。


 焦って連続攻撃を仕掛ければ、姿勢を崩す可能性があった。


 湊は呼吸を整え、次の機会を待った。


 三度目の跳躍。


 今度は十分な距離を取って回避し、着地したスライムの内部を確認する。


 硬い塊は、体のやや左側に寄っていた。


「……そこだ!」


 踏み込みを抑え、槍を正確に突き出す。


 硬い感触。


 直後、スライムの体が崩れ落ちた。


「……ふう」


 湊は額の汗を拭った。


 倒せたことは嬉しい。


 だが、それ以上に重要なのは、前回と違う動きに対応できたことだった。


「……やっぱり、実戦は練習と違うな」


 相手が同じ攻撃を繰り返してくれるとは限らない。


 だからこそ、一匹でも多く戦い、経験を積む必要がある。


 湊は討伐記録に、新しい注意事項を書き加えた。



     ◇



 その後も、湊は第一階層での探索を続けた。


 三匹目のスライムは、通路の広い場所で発見した。


 最初の跳躍を避けた後、内部の硬い部分を狙う。


 しかし、穂先が浅く、倒し切れなかった。


 湊は無理に追撃せず、再び距離を取った。


 次の攻撃を誘い、着地後の隙に槍を突き込む。


 今度は、確実に硬い塊を砕くことができた。


「……三匹目」


 湊は短槍を引き戻した。


 呼吸が少し荒くなっている。


 連続して戦っているわけではないが、慣れない武器を扱うことで腕に疲労が溜まっていた。


「……一回休憩するか」


 湊は安全を確認したうえで、事前に調べておいた休憩可能な場所まで戻った。


 水を飲み、携帯食料を口にする。


 そして、十分に体を休めてから【疲労回復】を発動した。


 体の奥に温かさが広がり、腕や脚に残っていた重さが少しだけ和らぐ。


「……よし。まだ動けるな」


 もちろん、疲労が完全に消えたわけではない。


 それでも、回復した分だけ動作に余裕が生まれた。


 湊はスキルの効果を確認し、ノートに記録した。


 その後、再び探索を開始する。


 四匹目のスライムは、これまでよりも少し大きかった。


「……こいつ、体格が違うな」


 湊は慎重に観察した。


 大きさが違えば、跳躍距離や攻撃範囲も変わるかもしれない。


 案の定、そのスライムは予想より遠くまで跳んできた。


「……っ!」


 湊は大きく後退し、攻撃を避けた。


 着地後の隙を狙おうとしたが、距離が開きすぎている。


 無理に踏み込めば、次の攻撃に対応できなくなる。


「……焦るな」


 湊は槍を構え直した。


 次の跳躍を待ち、今度は相手が着地する位置を意識して動く。


 スライムが体を縮める。


 湊は横へ移動した。


 魔物が地面へ落下する。


 着地した位置を確認し、槍の届く距離まで踏み込む。


「……今!」


 穂先が半透明の体を貫いた。


 内部の硬い塊に、確かな手応えが伝わる。


 次の瞬間、スライムは形を失い、地面へ崩れ落ちた。


「……よしっ!」


 湊は大きく息を吐いた。


 これで、今日四匹目。


 初探索で倒した一匹と合わせて、累計五匹の討伐になる。


 湊はステータスを開いた。


 その瞬間、表示に変化があった。


【個人情報】


名前:一ノ瀬 湊

レベル:2


保有スキル

【疲労回復】Lv.1


「……おおっ!」


 湊は思わず声を上げた。


 レベル2。


 ついに、初めてのレベルアップだ。


「……やっと上がった!」


 胸の奥から、喜びが込み上げてくる。


 たった一つのレベルアップ。


 それでも、湊にとっては大きな成果だった。


 最初の戦闘では、スライム一匹を倒すだけで苦労した。


 だが、練習と実戦を重ねることで、少しずつ安定して戦えるようになってきた。


 そして、その積み重ねがレベルという形で現れたのだ。


「……いいね。こういうのが楽しいんだよ」


 湊は満足そうに笑った。


 まだレベル2。


 全国のダンジョン完全攻略という目標から見れば、ほんの小さな一歩にすぎない。


 だが、その一歩を確実に積み重ねていけば、いつか今とは比較にならないほど強くなれるはずだった。


「……次はレベル3だな」


 湊はステータスを閉じ、短槍を握り直した。


 ただし、今日の探索はここまでにする。


 腕には疲労が残っており、無理を続ければ動きも鈍くなる。


 湊は最後に討伐数を記録し、入口へ向かって歩き始めた。


 その表情には、隠し通路を探していたときとは違う種類の喜びが浮かんでいた。


 未知の仕組みを発見することも面白い。


 だが、敵を倒し、経験を積み、自分自身が強くなっていくことも、それに負けないくらい楽しかった。


「……よし。次はもっと効率よく稼いでやる」


 湊は小さく笑った。


 レベル上げ。


 スキル育成。


 武器の習熟。


 そして、その先に待つ強敵との戦い。


 やり込みたいことは、まだ山ほど残っている。


 湊の長い育成生活は、ようやく本格的に動き始めた。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!


皆さまに楽しんでいただける物語を目指して、これからも丁寧に書き続けていきます。


続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


次回もぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。