↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃人ゲーマーのダンジョン攻略記 ~やり込みすぎたら最強になっていた~  作者: 庵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/21

第10話 誰も知らない攻略


 《青葉洞窟》から帰宅した一ノ瀬湊は、夕食を終えるとすぐに机へ向かった。


 開いたのは、これまでの探索記録をまとめたノート。第一階層の行き止まりで発見した三つの鉱物、断続的に吹く風、そして岩壁の奥から聞こえた低い音について、改めて整理するためだ。


「……絶対に何かあると思うんだけどな」


 湊はペンを握り、三つの丸を横一列に描いた。


 左、中央、右。


 風が吹いた直後、鉱物はこの順番で光った。さらに、天井から落ちた水滴が中央の鉱物の下にあるくぼみに入ると、中央だけが強く輝くことがあった。


 ただし、自分で水を落としても反応しなかった。


「水をかけるだけじゃ駄目。じゃあ、何が違う?」


 湊は記録を読み返した。


 水の量だろうか。それとも、天井から落ちる水には何か特別な性質があるのか。


 考えられる可能性はいくつもあったが、どれも決め手に欠けている。


 そこで、湊は一つの記述に目を留めた。


『風が吹いた直後、左から順番に発光』


「……タイミングか?」


 湊の手が止まった。


 もし、水そのものが条件ではないとしたら。


 風が吹いている間だけ、水に反応する仕組みなのではないか。


「……あり得るな」


 湊は新しいページを開いた。


 風が吹く。


 三つの鉱物が順番に光る。


 その途中で、中央のくぼみに水が入る。


 この一連の動作に意味があるとすれば、今までの現象にも説明がつく。


「……でも、これだけじゃまだ足りないか」


 湊は椅子にもたれた。


 仮説は立てられる。しかし、実際に確かめなければ答えにはならない。


 何より、三つの鉱物が仕掛けであるという証拠すら、まだ得られていなかった。


 それでも、口元には自然と笑みが浮かんでいた。


「……よし。明日、もう一回行こう」


 湊はノートの最後に、次の検証内容を書き込んだ。



     ◇



 翌日の日曜日。


 湊は再び《青葉洞窟》の入口に立っていた。


 昨日と同じ装備を身につけ、短槍と必要な道具を確認する。今回は調査のため、スマートフォンを固定できる小さなスタンドも持参していた。


「……記憶だけに頼ると、見落とすからな」


 前回は鉱物の光が変化する瞬間を、目で追うことしかできなかった。


 だが、映像として記録できれば、後から何度でも確認できる。変化する順番や、水滴が落ちるタイミングも比較しやすくなるはずだった。


 湊は入場手続きを済ませ、第一階層へ進んだ。


 最初の分岐までは、すでに何度か歩いている。


 それでも油断はしなかった。


 曲がり角では足を止め、通路の先を確認する。魔物の気配がないことを確かめながら、目的の行き止まりへ向かった。


「……よし。今日は静かだな」


 周囲に魔物がいないことを確認し、湊は岩壁から少し離れた場所にスタンドを設置した。


 画面には、三つの鉱物が収まっている。


 撮影を開始すると、湊は通路を警戒できる位置へ移動した。


 あとは、変化が起きるのを待つだけだ。


 数分後。


 ひゅう。


 壁の下から風が吹いた。


 左、中央、右。


 三つの鉱物が順番に明るくなる。


「……一回目」


 湊は時刻を記録した。


 その後も同じ現象が何度か繰り返されたが、中央の鉱物が強く輝くことはなかった。


「……水滴が足りないのか?」


 湊は天井を見上げた。


 中央のくぼみへ落ちる水滴は、風よりも間隔が不規則だった。


 両方の現象が重なる瞬間を待つ必要があるのかもしれない。


 さらに観察を続けたときだった。


 ひゅう。


 風が吹き、左の鉱物が明るくなる。


 続いて中央。


 その瞬間。


 ぽたん。


 水滴がくぼみに落ちた。


「……っ!」


 中央の鉱物が、これまでよりも強い青い光を放った。


 続いて右側が明るくなる。


 そして、三つの光が消える直前、岩壁の表面を細い青い線が走った。


「……今の、何だ!?」


 湊は思わず一歩近づいた。


 だが、すでに岩壁は元の状態へ戻っていた。


 青い線も、どこにも見当たらない。



     ◇



「……映ってるよな?」


 湊は周囲を確認してから、スマートフォンの録画を停止した。


 映像を再生する。


 風が吹き、鉱物が順番に光る。


 中央に水滴が落ちた瞬間、青い光が強まり、右側へ伝わっていく。


 そして最後に、壁の表面へ細い線が現れた。


「……間違いない」


 湊は何度も映像を見返した。


 線は、三つの鉱物を囲むように伸びていた。自然の亀裂にしては、形が整いすぎているように見える。


 ただし、現れたのはほんの一瞬だった。


「……これ、扉の輪郭か?」


 湊の胸が高鳴る。


 もしそうなら、目の前の岩壁には、まだ公開されていない仕組みが隠されていることになる。


 だが、すぐに首を横に振った。


「……まだ決めつけるな。光が走っただけかもしれない」


 湊はノートを取り出し、確認できた事実だけを書き込んだ。


 風が吹いた後、三つの鉱物が順番に発光。


 中央の発光中に水滴が落下。


 中央の光が強まり、岩壁に青い線が出現。


 書き終えたところで、湊は一つの疑問に気づいた。


「……でも、線が出ただけで何も起こらなかったんだよな」


 扉だとしても、まだ開いていない。


 ならば、条件が足りないのか。


 それとも、そもそも扉ではないのか。


 湊は岩壁を見つめた。


 もっと調べたい。


 今すぐ原因を突き止めたい。


 だが、時計を確認すると、すでに予定していた調査時間が近づいていた。


 それに、未知の仕掛けが本当に作動した場合、何が起こるか分からない。


 十分な準備もないまま、先へ進むべきではなかった。


「……仕方ない。今日はここまでか」


 湊はスタンドを片づけ、短槍を握り直した。


 次回は、仕掛けが動いた場合の安全な退路も考えておく必要がある。


 それでも、収穫は大きかった。


 単なる行き止まりだと思われていた岩壁に、これまで知らなかった反応が存在する。


 その事実を、映像として記録できたのだから。



     ◇



 帰宅後、湊は撮影した映像を何度も再生していた。


 中央の鉱物が強く光り、岩壁に細い線が現れる。


 そのわずかな変化が、たまらなく面白かった。


「……これだよ、これ」


 前世でも、何度もこんな経験をした。


 誰も気に留めなかった場所で、不自然な現象を見つける。


 何度も条件を変えて試し、少しずつ仕組みに近づいていく。


 そして、ついに新しい発見へたどり着く。


 あの瞬間の興奮だけは、どれだけ遊んでも飽きることがなかった。


「……攻略済みって、誰が決めたんだろうな」


 湊は楽しそうに呟いた。


 《青葉洞窟》の最深部へ到達した探索者は、すでに大勢いる。


 通常ボスを倒した者も、数え切れないほどいるのだろう。


 だが、それだけでダンジョンのすべてを知ったことになるのか。


 湊はノートを開き、新しいページの上部に大きく書き込んだ。


『青葉洞窟・未解明の仕掛け』


 その下に、次回の検証項目を並べる。


 青い線が現れる条件の再現。


 岩壁の変化を安全な位置から確認。


 仕掛けが開いた場合に備えた撤退経路の確保。


 最後まで書き終えると、湊はペンを置いた。


 レベルは、まだ1。


 倒した魔物も、一匹だけ。


 ダンジョンの攻略は、ほとんど進んでいない。


 それでも、確かな手応えがあった。


 強くなることも大切だ。


 だが、湊が本当に求めているのは、それだけではない。


 誰も知らない秘密を見つけ、誰も試していない方法を考え、最後にはすべてを攻略し尽くすこと。


 そのためなら、何度でも挑戦する。


「……次こそ、開けてみせる」


 湊は画面に映る青い線を見つめ、小さく笑った。


 《青葉洞窟》の本当の攻略は、まだ始まったばかりだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


引き続き、湊のやり込み生活をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。