表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

日常


 それから、徹と真司と過ごす時間が増えた。

「今日は3人で課題終わらせてからバティングセンターな。晩飯はホームラン1番少なかったやつのおごりな。」

そんな軽口を叩きながら歩く道が、少しずつ当たり前になっていく。

[今日は外で食べてくる]

春に連絡をする。

「りく、はやくー」

真司たちの方に走っていく。


金属バットの音が夜になって乾いて響く。

「あぁー、財布が泣いてる」

「お馳走さん」

「人の金で食う飯が1番だわ」

「この悪魔ども!」

徹はホームランを一本も打てず、見事言い出しっぺの徹が払うことになった。

徹が頭を抱え、自分と真司が笑う。そのれだけの光景、それだけで胸の奥がゆるんだ。


 食後、近くの公園でバスケをすることにした。

雲のない夜だった。月がやけに明るく綺麗だった。

「なあ真司」

「どうしたりく」

休憩中、ボールを抱えたまま真司に聞く。

「世界はさ、きれいだと、思う?」

真司は目を瞬かせ、コートの向こうでシュート練習をしている徹を見る。

「何だよ急に、厨二病かよ。」

笑ってから、少しだけ真面目な顔になる。

「正直、分からない。知らないことの方が多すぎるから。そのうちわかるかも」

短い沈黙が落ちた。

「いや、りくはどう思うんだよ」

「俺だけ恥ずかしい」

沈黙した空気をかき消すように真司が話しかけた。

「俺は、汚い所しか知らない。でも」

そこまで言って、言葉を切った。真司がこちらをじっと見ている。

「何かついてる?」

「なんでもない。休憩もできたし続きやるか」

そう言って2時間くらいバスケをして解散した。


 帰り道の途中で、病院へ寄る。自分には専属の医師がいる。

この病気にかかったら研究対象となり専属の医師がつく。

「遅くなってすみません。友達と遊んでて。」

「そうですか」

医師は優しく、静かに頷いた。

「4年くらい友達いなかったからつい。」

「そうですか。楽しいなら。」

安心したように笑ってからパソコンと向き合った。

「まあーーー」

「そうですか。」

話し終えて席を立ちドアのほうに向かう。

「あなたは異例です。」

ドアノブに手をかけた時、背中に声が届く。

「この病気になって進行も遅く、長生きするなんて。」

先生が独り言のような口調で言った。

「そうなんですか。よかったですね。」

自分でも空虚な返事だったと思う。

この世界に思い出も、後悔も、希望も、置いてきたなずなのに。

それでも…

「今日は、少し楽しかった」

小さくつぶやいて診察室を出た。


 帰宅は深夜0時を過ぎるのが当たり前になった。それでもやっぱり母さんには会わない。


顔も、声も、思い出せない。

食卓の味も、記憶の中でも薄れている。


はっきりと覚えているのは、

「おかえり」

と笑顔で迎えてくれる妹の顔だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ