日常
それから、徹と真司と過ごす時間が増えた。
「今日は3人で課題終わらせてからバティングセンターな。晩飯はホームラン1番少なかったやつのおごりな。」
そんな軽口を叩きながら歩く道が、少しずつ当たり前になっていく。
[今日は外で食べてくる]
春に連絡をする。
「りく、はやくー」
真司たちの方に走っていく。
金属バットの音が夜になって乾いて響く。
「あぁー、財布が泣いてる」
「お馳走さん」
「人の金で食う飯が1番だわ」
「この悪魔ども!」
徹はホームランを一本も打てず、見事言い出しっぺの徹が払うことになった。
徹が頭を抱え、自分と真司が笑う。そのれだけの光景、それだけで胸の奥がゆるんだ。
食後、近くの公園でバスケをすることにした。
雲のない夜だった。月がやけに明るく綺麗だった。
「なあ真司」
「どうしたりく」
休憩中、ボールを抱えたまま真司に聞く。
「世界はさ、きれいだと、思う?」
真司は目を瞬かせ、コートの向こうでシュート練習をしている徹を見る。
「何だよ急に、厨二病かよ。」
笑ってから、少しだけ真面目な顔になる。
「正直、分からない。知らないことの方が多すぎるから。そのうちわかるかも」
短い沈黙が落ちた。
「いや、りくはどう思うんだよ」
「俺だけ恥ずかしい」
沈黙した空気をかき消すように真司が話しかけた。
「俺は、汚い所しか知らない。でも」
そこまで言って、言葉を切った。真司がこちらをじっと見ている。
「何かついてる?」
「なんでもない。休憩もできたし続きやるか」
そう言って2時間くらいバスケをして解散した。
帰り道の途中で、病院へ寄る。自分には専属の医師がいる。
この病気にかかったら研究対象となり専属の医師がつく。
「遅くなってすみません。友達と遊んでて。」
「そうですか」
医師は優しく、静かに頷いた。
「4年くらい友達いなかったからつい。」
「そうですか。楽しいなら。」
安心したように笑ってからパソコンと向き合った。
「まあーーー」
「そうですか。」
話し終えて席を立ちドアのほうに向かう。
「あなたは異例です。」
ドアノブに手をかけた時、背中に声が届く。
「この病気になって進行も遅く、長生きするなんて。」
先生が独り言のような口調で言った。
「そうなんですか。よかったですね。」
自分でも空虚な返事だったと思う。
この世界に思い出も、後悔も、希望も、置いてきたなずなのに。
それでも…
「今日は、少し楽しかった」
小さくつぶやいて診察室を出た。
帰宅は深夜0時を過ぎるのが当たり前になった。それでもやっぱり母さんには会わない。
顔も、声も、思い出せない。
食卓の味も、記憶の中でも薄れている。
はっきりと覚えているのは、
「おかえり」
と笑顔で迎えてくれる妹の顔だけだった。




