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出会い・友情

  高校2年の春。

桜がいつもより淡く、どこか透明にも見えた。

空は深く青く澄み渡っている。

難病にかかったとは自分でも思えない。

桜並木のアーチを歩いていると、背後から足音が近づく。

「りく、待ってよー」

振り返ると幼馴染の早乙女美月が手を振っていた。

「今年は同じクラスになれるといいね」

そう言って先を走っていく。


 肛門を抜け、掲示板の前で人だかりに紛れる。

2年A組。自分の名前を見つける。隣には美月の名前があった。

教室に入る。席は一番後ろの窓側だった。

小説や漫画なら主人公がよく座る場所。どうでもいいことを考える。俺の人生が物語向きだとは思えないけれど。


 クラスを見渡すと見覚えのある顔が二つあった。

全国模試1位の田中徹。

陸上400mで全国優勝した佐々木真司。

有名人が同じクラス2人いた。

騒がしい教室に、少し違う熱が混じる。

入学式も終わり、授業が始る。日常がまた動きはじめた。


 外の授業がつらくなり始めた頃、体育はテニスだった。

ペア決めで1人余って立っていた時、声をかけてくれたのが田中さんだった。

「一緒にやろうぜ」

嫌な顔一つせず言ってくれた。

試しに試合をしたら勝ってしまい、以降ずっとペアになっている。

田中さんは経験者で、県大会まで進んだことがあるらしい。

俺は小学の頃に少しかじった程度だが、体は意外と覚えていた。

「また負けたー」

田中さんがコートに膝をついて頭を抱える。

「なんか、ごめん。」

「謝るなよ、余計悲しくなるだろ」

そんなやりとりをしながら笑い合った。


 今日は美月と一緒に帰っていた。

「学校にはもう慣れた?」

美月が話しかけてくる。

「まぁね。そっちは相変わらず人気者らしいね」

「何それ」

美月がクスクスと笑う。

「サッカー部のエースに告白されたって聞いたけど?」

美月はとにかくモテる。

コミ力が高くて誰とでも話すから男女ともに人気。

「するわけないじゃん。もっといい人がいるからね!」

自分の前を歩いていた美月はくるりと後ろを向いて自信満々に言った。

「そろそろ誰かと付き合ったら?いつまでも俺と一緒に帰るなよ」

あきれた目で美月を見ると、いつにもまして怒っているように感じた。

「ふーん、そういうこと言うんだ。まぁ、りくが友達を作ったら、彼氏作ろうかな。なんてね」

そう言い終わると走って帰ってしまった。

残された風だけが、春の匂いを運んでくる。

「別につくれないんじゃなくて、作りたくないだけだし…」

言い訳みたいなことを小声でいってみた。声は風に乗って消えていった。


 「おーい、上沢今日こそは一緒に遊び行こうぜ。」

帰り際、田中さんに声をかけられる。体育以来、よく誘われるようになった。少し考えてから頷いた。

「いいよ、今日は暇だし」

「よし決まり!」

苦笑いしながら、田中さんの席の方に行った。笑いながら肩を組んできた。

「真司ー、お前も遊びに行くよな。」

トイレから帰ってきた佐々木さんも誘っていた。

「もちろん。上沢も行くのか」

「おう、友達だもんな。今日はボーリングとカラオケに行こうぜ。」

「おいおい今月ピンチじゃ無かったのか」

佐々木さんが呆た声でいう。クラスメイト5,6人くらいでボーリングセンターに行った。

「よっしゃ!ストライク3連続」

田中さんが3連続ストライク、佐々木さんが2連続、自分が1回、田中さんはボーリング中ずっと笑ってた。

「ボーリングではりくより上手い、なんか安心する」

そんなことを言ってた。2時間ぐらいボーリングをしてから、近くのカラオケで20時くらいまで歌った。

自分が98点、佐々木さんが90点、田中さんが86点、毎回この順位だった。負けた。もう1回。うますぎだろ。今日はずっと笑っている気がした。

この感じは久々だった。楽しくてこのままずっとここにいたいと思った。

このまま続けばいいのに、と一瞬だけ願ってしまう。楽しい時間ほど長く短いのに。

一気づいたら夜になっていた。


 全体では解散したが田中さんと佐々木さんで晩ご飯を食べに行った。

帰宅するとリビングの灯りはまだついていた。

「お兄ちゃんお帰り。帰りが遅くなるなら言っといてよね。」

頬を膨らませて言う。

「ご飯作るの私なんだから」

「ごめん。今度から気をつける」

それならいいけどと言って台所に行った。


ふと、壁に飾っている写真が目に入った。

母さんと俺、妹、見覚えのない中年男性。

みんな笑顔で肩を寄せ合っている。

知らないはずなのに、胸の奥がわずかに温かくなる。


今思えば仕事ばかりで母さんと遊んだ記憶が一切ない。

母さんが働いてるおかげでこうして暮らせてるんだけど。


 いつの間にか深夜0時を回ってた。母さんはまだ帰ってこない。

あいつらと一緒にいたからかいつも通りのリビングは静かで寂しさを感じる。

机の上には、春の参考書が山のように積まれていた。


 「春も、もう受験生か、早いな。」

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