親友
5月の連休、三人で3泊4日の旅行にいくことになった。
「どうせ全員、予定ないだろ」
徹の一言で決まった。
電車に揺られて1時間。
元カノの話、先生のおもしろ話、最近の笑った話、ずっと盛り上がっていた。
「来年は彼女と旅行だからな、俺は」
徹が真顔で宣言する。
「毎年言ってるじゃん」
真司がツッコむ。
電車を降りて旅館に荷物を置いて近くの海辺に行った。
5月の初めなのにもう暑い。夏が近づいてるのを感じる一方で真司と徹と海で遊べるくらいに暑いのにはありがたい。
水を掛け合い、笑って、走る。こんなふうに遊ぶのは、いつ以来だろうと思った。
海で遊んだ後は観光をして、映画見て、郷土料理を食べた。
気づいたら辺りは暗くなり、旅館のから漏れる明かりが増えていた。
もう少し観光をしたかったが旅館に戻る。
部屋に入ると俺も2人も疲れて椅子や布団で固まっていた。
「疲れたし温泉入るか」
数分して真司が立ち上がった。着物とタオルを持って温泉に向う。
温泉には露天風呂があった。
露天風呂に映る揺れる星々、夜空に上がっていく湯気、言葉では表せないほど幻想的で綺麗だった。
「綺麗だな」
真司がボソッと言った。
「よっしゃ、早く体洗って入ろうぜ」
徹はそういって桶を持って洗い場に行った。取り残された俺たちは
「俺たちもいくか」
そう言って桶を持って洗い場に行った。
「旅館には人が多いのに風呂には全然いないね」
真司が頭を流しながら話しかけてきた。
「この旅館、混浴があるからそっちが多いんじゃない?」
「下心あるやつしかいねぇな」
後ろから徹が言った。
「確かに」
真司がフッと笑う。
体を洗い終わって露天風呂に行く。
「「「気持ちい」」」
3人もと同じことを言う。
「揃ったな」
「ね」
堪えきれずを声をあげて笑う。それから2時間くらい風呂に入りながら話して過ごす。
風呂から出て部屋でゆっくりしていると真司が入ってきた。
「くっさ」
入り口で真司が大声を上げる。
部屋に入ってくるとびっくりした目で俺を見てくる。
「りく?…お前大丈夫か?」
体を見ると足から血が流れて床にも血が溢れていた。いつ血が出たのかはわからないけど急いで血を拭く。
「臭くないのかよ、ってか痛くないの」
そう笑って言った。真司は何かに気づいたにようで話そうとする
「お前…」
いいかけた口を押さえる。
「コンビニ行こ」
そういって近くのコンビニに向かう。
「何か買う?」
コンビニに着いてアイスの陳列ケースを指差しながら真司に聞く。
「いいよ自分で買う」
「俺、真司より金ある自信あるし好きなの買っていいよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
アイスを買い、店先でアイスの袋を開けて食べようとする。
「で、どうなんだよ」
真司が話しかけてきた。いきなり本題に入ってきた。
「多分真司が思っている通りだよ」
「いやいや、そんなわけないだろ」
といって頭を掻く。
「俺がいってるのは…だぞ何千万とか何億に1人のあれだぞ!そんなわけ…」
「っていうか俺も冗談で言おうとしただけだし」
持っていたアイスが溶けて手に溢れてくる。こういう時の真司は何故か鋭い。
あぁあ、こんな早くバレるとは思いもしなかった。
「ありがと話してくれて」
顔を上げると真司は微笑んで
「実は俺、好きな子いるんだ。一緒の陸上部の子なんだよね」
といきなり話し始めた。
「そうなんだ?」
何が言いたいのかさっぱりわからず変な相槌をして真司が何を話そうとしているのか見ていると手を差し出してきた。
「これで俺とお前は秘密を共有し合う親友だな」
「あっ、絶対誰にも言うなよ!」
そう笑顔でいった。
「はは、なんだよそれ」
「俺はお前がどんなものを抱えていてもお前の親友だ。普通の」
その言葉だけで十分だった。俺にとってはどんな慰めの言葉より嬉しかった。
芸能界では年上の人がヘラヘラ笑いながら頭を下げてくる。
父が映画監督だからいい顔しとけば仕事がもらえる。ゲスな下心丸見えで、特別扱いを受けていた。
だから、誰よりも普通が好きだった。特別扱いでも、同情でもない。
それが、一番遠かった。
「動けなくても、昏睡状態になっても、お前のとこで話してやるからな」
冗談みたいに言う。
溶け切ったアイスを口に入れる。
少し生ぬるくて、あったかて、でも今日はそれがどうしようもなく美味しく感じた。




