死亡動機/9
他人に死ねと言ったのは、久しぶりの事であった。私にとって言葉とは、世界を捻じ曲げるに等しい力を持つある種の物質と言える。
「.....ここか」
都会から切り離された聖域に等しい竹林。風が戦ぐ度に、笹の葉が音を奏でる。
無論生物なのだから生きているのは必然なのだが。その生々しい音が、私に生命体だと訴えかけるようである。
誰の所有地なのかは不明だが、私は竹の間を縫って歩く。
私らしくない。他者に頼る様な曖昧な選択。ただそうでもしなければ、現に私はあの白い死神に殺される。
死を恐れてるのか問われれば肯定が答えになる。死に這い寄られるのと、死に向かうのとでは根本が異なる。どうやら私は自殺は向いていないようだ。
冬の夜間は人類の叡智を軽々と貫通する。咥えていた煙草の煙は、波打つが如く揺らぐ。
「魔法使いの拠点で、魔術師が勝負を挑むか......やっぱり自殺は向いてないな」
自嘲じみた笑みを浮かべて私は歩き続けた。辿り着いた先にあったのは、廃墟と化した大倉。死神を象る建造物にしては、少々出来過ぎてはいる。
雪解けの湿り気が、妙に鼻腔を煽る。
踏み締める度に拉げるぬかるんだ地面。
大倉との間は実に数十メートルだと云うのに。体感はキロメートルにすら感じる。別に幻影的な結界が張られている訳では無い。単に私の心が、そう感じさせているだけなのだが。やはり死に近づくのは恐ろしい。
錆び付いた扉を開ける。廃れた鉄の臭いが大気に染み付いていた。人は愚か、悪鬼羅刹でさえ居住を拒むような環境。扉の向かい、要するに私の対角に
──────白い死神が静謐を纏い佇立する。
死神に備えられた碧眼は、脇崎蒼という人間の死を見定めているようである。
「やぁ十年ぶりかな?アオイ........」
片仮名で紡がれた私の名。それを耳にするのは何時振りであろうか。
「私の部下を拉致ってまで、私に何の様だい。───白の魔法使いさん」
「無論。貴女を学院に連れ戻す為に決まってるでしょ。何せ貴女の魔術は、新たなる根源に辿り着ける貴重なモノなんだから」
「相変わらずだなレヴァーナー.....いや『 』と言った方が適切かな?」
煙草を地面に落す。赤光と輝く残火を踏み消した。たった四文字の羅列を耳にしただけで、死神の眼は殺気に満ちる。
「その名で私を呼ぶんじゃない!!」
烈火の如く燃え滾る、死神の言葉は幾重にも反響を繰り返す。死神の断頭台に居る浅羽はそれでも目を覚まさない。
「白い死神の銘を受けるより前は、その名で呼ばれていたんだ。そう殺気立つもんじゃない」
「魔術を研鑽する為だけに作られた私の気も知らずッ!.....相変わらず癇に障る女だ!!」
「取り乱すことは得策じゃない。常に冷静で端麗であることが魔術師の本懐だろ?しかもお前は、冷徹である死神の名を背負うんだ。みすぼらしいぜ」
嗤いながら私は新しい煙草を取り出す。だが火を付けずに咥えたままにする。
「減らず口を....あんたの大切な部下を殺してやってもいいんだ。言葉を選ぶのはそっちの方だ」
「殺したきゃ殺せ。別にそいつは部下であって大切ではない──────というか、そいつを殺して困るのはお前の方だぞ。死神」
点火したライターが暗がりの顔を浮き彫りにする。着火した煙草の先の煙は、左へ傾いた。
「何ッ?」
「お前然り。黒の魔法使い然り。神秘だの、究極の空だの。本当につまらんことに人生を懸けたがる──────だと云うのに、お前らは本当に欲しいモノを前にした時。其の意味を見出せない傀儡風情と大差がない」
「何が言いたい?」
レヴァーナーは厳格な死神ではなく。本質的な人間へと皮をはいだ。
「お前の横に転がってる人間。そいつは、魔法使いが求めた末に手に入らないと断定した。──────伽藍の男だ」
正に必殺の言葉だった。終ぞ死神は神秘性を失う。
「何を......言っているんだお前は?」
声が震えている。それもそうだ、在る筈がないモノが石ころ同然に転がっているのだから。
「嘗て神秘の根源とも言える神は、全知全能であった。全てを理解し全てを網羅したからこそ、神は神秘の根源を司るに相応しい存在である。だからこそ魔術師、もとい魔法使いはそれを人間で創ろうと考えた。だが数千に及ぶ年月を掛けた末、分かったことは神は造れないという事。人間である以上全てを覚える事など当然無理。それが普通でありこの世の真理なんだ──────しかしそこの男は、数千の平常を覆す。本物の異常者だ」
私は潤滑油を塗られたような喉で、言葉を紡いだ。レヴァーナーはこの言葉を理解できる。しかし意味を理解することは出来ない。
現に言葉の担い手である私でさえ。意味を理解するにはまだ至っていない。
「さぁ......殺すんなら殺せよ」
断頭台に乗った首。それを前にしてなお死神は殺しを躊躇う。
死神は視線を下ろす。二つの択を前にして死神は迷いを見せる。
本来の目的を連れ、本懐を殺すか。本懐を連れ、目的を殺すか。
──────その隙をついて。私は煙草を指に取る。
「撃ち爆ぜろ。願わくば死神を殺すほどに」
私は何時振りかの呪いを口にする。
仕込んでいた体内の回路は、火薬と化す。
水を限界まで注いだ水風船が如く、浅羽の体は膨張する。
そこで死神は異変に気が付いた。
ただ三手遅れている。択を迷い、私の詠唱に気付かず、そして反応に遅れる。
月明かりだけで賄われた暗がりに一輪の花火が形成された。
鼓膜を穿つ轟音。視覚を潰す晄。
浅羽賢吾は爆散して。死んだ。
「大切であろうが無かろうが、魔術師は身内を丁重に扱う。その固定概念が在ったからこそ、判断が遅れたんだ。──────私はお前を殺し、貴様らの本懐とやらを遂げさせない為なら。身内の一人でも殺して見せるさ」
煙の先に何があるのかは不明だ。浅羽であったモノは崩れ去っている。そこに不信は無い。
ただあの怪物を殺すに至ったかは不明瞭と言わざるを得ない。
判断が遅れとは言え。この程度の爆発で死ぬとはやはり考え難い。
硝煙は窓の格子を抜けて行く。視界が晴れた先から、一寸の光が見えた。
一切の無駄も無くそれは脇崎蒼を目掛けてくる。
「四散しろ」
直進する光は、私の目の前で無数に分裂し私の背後に曲がり進む。
「やはり生きているか。伊達に化け物と冠される魔法使いなだけはある」
「──────どうして伽藍の男を殺した。あれさえ存在すれば、人造の神が完成すると云うのに」
轟音が静まり、死神の声は冷淡と響いた。足元から這い上がる様な異質さに眉が動く。
「仮に私がそんな糞程にくだらない魔術の根源を目指したとして。どうして今の今まで利用しなかったんだ?──────それが全てだよ」
「フフッ。相変わらずだなアオイは。まぁ究極の空に到達出来なかったのは悔しいけど。それ以上にあんたを連れ戻せられることの方が何倍も嬉しいよ」
レヴァーナーは死という笑みを纏い私を見つめた。
魔術の為に創り込まれた碧眼は、異質な光を帯び始める。
魔術師の本拠地で戦う事以上に阿保らしい事は無い。結界とは排他的な壁ではなく、取り込み殺す罠檻。それが魔法使いともなればそれは自殺行為と何ら変わりがない。
「──────さて。どうやって生きながらえるかな」
◇
魔術師同士の対決。SF映画も驚愕な災害に等しい。
最高位の魔術師と魔法使いともなれば、想像に難くない。
凶器の創造。物体の操作。魔法使いは魔術師を殺しにかかる。操作の上書き。軌道の変化。対極に魔術師は悉くをいなす。
(さてどうする。魔術同士で戦っても勝ち目は低い。それに魔法なんて使われたら、生死すら危ぶまれる)
己が結界の中に居る魔法使いの魔術は個々が必殺に鍛え抜かれていた。魔術師は勝つ事ではなく、如何に殺傷の力を殺し。如何にそれを捌くかという事にだけ意識を向け続ける。それは殆ど千日手と変わりがない。
撃たれた魔術。殺され、変形する魔術。
同じ映画を繰り返しているような、光景の連続。実に回数にして五十八回目。いつしか魔術師の身体に熱が溜まり始める。
「どうしたアオイ!!最高位の天才もこの日の本に居ては、有象無象に成り下がるのか!?」
「──────」
究極の天才とまで謳われた魔術師に、微細な焦りが生じ始めた。
魔術の操作精度、捌きが数を追うごとに一段と下がる。頬、髪先、服と創造された武器が魔術師を掠め取る。それでも魔術師は攻めに転じない。
(軌道の変化は大したことない。ただ悉くの主導権を握り返すのは、まだ何とも慣れんな)
一つ呼吸を置いた。
張り詰めていた糸に綻びを持たせたよう。弛んだそれに切り込みが入る。
針の穴を通す精密動作で、創造された一つの刃。曲がることを知らず、ひたすらに突き進んだ刃は魔術師の太股を串刺した。
緋色の鮮血が月明かりにやけに映える。顔は歪み、身体はくの字に折れ曲がる。無情にも他の刃は両肩を、左右の順で穿つ。勢いの付いた三撃は魔術師を壁際に刺し止めた。十字架に磔にされたイエスにさえ見えた。
「──────つまらん。まさか私が追い求めて来た天才が、究極の天才とまで言われた魔術師が。この程度にまで廃れていたとは」
嘆きを越えて、憤りすら感じた魔法使い。歩みは雑で、大股で文句が湯水の様に湧いて出る。
「防戦に固めるのは間違いとは言わないさ。何せここは私の結界内....ただ肝心の身を守る魔術が疎かだ。言葉による操作を主とする魔術師が黙ってどうするつもりだったんだ?まさかそれほどまでに私の事を舐めていた。という証明か何かか?」
魔法使いは、磔にされた魔術師の間合いに踏み込む。
月が雲に隠され、魔術師の顔は良く映らない。
「今のお前は、殺すに値しない。同時に新たなる根源に近付くに等しい力も持ち合わせていない。──────答えろアオイ。何がお前を弱くした」
最後の晩餐を訊く、看守のように淡々と問いを乗せる。
「...............。」
「まさか今の攻撃で意識を失ったわけではあるまい。さっさと答えろ。今のお前にはそれ以外の行動は許されていないぞ」
「...............。」
二度の問を以てしても魔術師は答えない。まるで電源が切れた人形の様に。
苛立ちから舌打ちを鳴らした魔法使いは、その人形の髪を握る。そこで月が雲を破った。
──────黒い。髪の毛。
脇崎蒼を象徴する蒼の髪とは、異なる純粋な黒。
魔法使いの呼吸が止まる。
──────これは。魔術師ではない。
意識が混濁とする。
──────一体いつから。
思考が低迷し、眼が虚ろと化す。
『穿て寸光の矢よ。願わくば怪物の右腕を捕らえて』
警笛かそれとも宣告か。現実世界と切り離された魔法使いは、避けることが出来なかった。
集約された光矢は、呪い通り右腕を捉える。分離された右腕は竹トンボの様にくるりと回転し、コンクリートの地面に堕ちた。
「幾ら暗いからと言って。近付くだけで気が付かないとは、お前本当に魔法使いか?」
大倉の二つ目の入り口から声がする。
それは先程まで魔法使いと相対していた魔術師の声だった。詐欺師に似つかわしい女狐のような声色。
「仮に私がお前の立場なら。防戦を決め込んだ辺りで、異変に気付くんだがなぁ......まっ浅羽の演技の上手さがその判断を鈍らせたんだろうが。それにしてもだ」
嘲笑うかのように靴が地面を蹴る音が鳴る。
そう。魔法使いは初めから勝負などしていないのだ。
勝てることが確定した只の、題目を演じていた道化に過ぎない。
「何時から......一体いつから入れ替わっていた?」
「それは私に見せかけていた。という問いで正しいのかなレヴァーナー」
魔法使いは首を縦に振る。滴り堕ちる血に目もくれず、目の前の脇崎蒼だったモノに目を向ける。
「──────初めっからだよ。全部な」
「何だ.......と?」
まるで常識問題を答える大人の様に。脇崎蒼は言葉を紡いだ。想像していた答えのこんぽんを覆すような、その答えに魔法使いは初めて首を旋回させる。
「そもそもお前が夜の歌舞伎町で出会った浅羽は、私が創り込んだ人形だ。そして今まで闘っていた脇崎蒼は本物の浅羽賢吾だ。私が弱くなった理由と言ったな。答えは簡単だ。何せ私じゃないんだからな......半日そこらで教えた魔術をあそこまで使えるんなら及第点以上さ」
一つの事を理解しようとする。途端に新な疑問がそれを静止させ。そしてさらに新たな問いがそれさえも静止させる。
永久的に尽きることの無い矛盾螺旋。
「本当にお笑いだな.......私という目的を前にして疑う事を止め。私を圧倒して不審がることもしない。挙句の果てに入れ替わったタイミングを問いかけるなど.......フフッ、『 』にはお似合いだな」
脇崎蒼はその場で嗤い転げたい意志を殺す。だからこそ、その姿は魔女に見えるのだ。
◇
「それ.....本当に人形何ですか?」
「まぁな。とは云ってもこいつは自我を以て動くがな」
俺は溜息を吐くように相槌を打った。
今現在。俺は目の前に立ち尽くすもう一人の浅羽賢吾を見つめていた。無論鏡の前に立っているという訳では無い。ただ俺を模倣した人型のそれが立っているのだ。
「だが完全なモノとは言い難い。こいつは歳を喰うは愚か、変化というモノがない。今現在のお前を模っただけの物体だと思え。こいつには、浅羽賢吾してあの死神風情の魔法使いに会ってもらう。一応こいつには、あいつに拉致られるような伏線じみた発言をして貰う。仮に今日捕まれば、今夜作戦決行。仮に捕まらなければ次の日となる。まぁいずれにしてもお前は、あの怪物と戦ってもらうんだがな。
それでさっき教えて魔術はどれ程まで出来るようになった?」
脇崎蒼は、ソファーに腰を下ろし煙草に火を付けた。
「ある程度でしたら.......『撃ち爆ぜろ。願わくば死神を殺すほどに』」
俺は呪文じみた言葉を口にする。するとテーブルに乗っていたティッシュがボウと燃え上がる。焔玉の様にそれはふわりと宙に昇り、終には姿を消した。
「流石はレヴァーナーの魔術回路.....一本とは言え質の高さは帝位にさえ下らんか」
「こんなんで魔法使いとやらを殺せるんですか?」
「何言ってんだお前は。殺せるわけが無いだろこんなもので」
「じゃあ何のために、僕は殺傷能力のない技を磨いているんですか?」
「それは起爆剤の為だ......お前を模ったあの人形には、かなりの威力の爆薬が仕込まれている。云ったろ、お前の初めの目標はそれを起爆させる事」
握った手を勢いよく開き、ふざけてボンッ。と嗤って見せる。
俺の作戦は言わば囮のようなモノだ。
あの死神に、俺を脇崎蒼だと信じ込ませ。そして俺がやられたところで、脇崎蒼があの死神の首を取る。という戦法。
「別に僕が蒼さんの真似をしなくても。ちゃんとした魔術師がやった方が騙せるんじゃ?」
俺がそう問いかけると彼女は大口で嗤った。
「それは無理だ。この役にお前以上の適任は存在しない......私ですら知らない脇崎蒼の言動の全てを知り尽くすお前であるから。脇崎蒼の演技が出来るんだ.....見た目と中身に騙されれば、魔術がお粗末であろうがあの女は疑う事をする筈が無い」
「随分信用してるんですね。もしバレたらどうしようとか考えないんですか?」
「当たり前だ.....その為にお前にはあの文章を読ませたんだからな」
勝利を確信した様に彼女は嗤う。その姿は女狐であり、同時に魔女でもあった。
よくこんな作戦を思いつくもんだ。
◇
「つまり、私は初めからお前に負けていた。と」
「そうだな....お前が浅羽賢吾を人形と気づけず。脇崎蒼を浅羽賢吾と気付けない時点でお前に勝機は無かった。──────悪いが卑怯だなんて言葉は止せよ。私は学院時代から女狐と揶揄され続けた女だ。それはお前もよく知っているだろう」
私がそう言い切ると、レヴァーナーは顔を上げて嗤い出した。
それは自嘲でも。ないしは嘲笑でも無い。何か安心しきったような笑みである。
「ハッハッハッ......安心したよアオイ。やはりあんたは、私が殺すに値する人間であり、新たなる根源に辿り着ける天才だ」
「それが遺言か?お前にしては随分安っぽいんだな」
「そうかもしれないな.....それにしても万の言語を扱う魔術師の言葉って。本当に凄いんだな....私の命と同等の右腕を確実に堕とすとは」
そう。私が心臓でも脳でもなく右腕を取ったのには無論理由が在った。
魔術を扱う者は、例外なく明確な弱点が存在する。
言葉を第一とする私にとってそれは、口に値する。
神性であり正しい事である右。対極に悪性であり間違いである左。魔術の為だけに生み出されたあの女にとって、右腕とは己を肯定する唯一の機構なのだ。
「それにしても。この青年は本当に伽藍の男なんだな──────君という人間を完全に体内に宿していた。正に中身のない伽藍洞」
「そうだな.....今回の作戦は、浅羽の特異が無ければ姿すらなかったよ。正直私と言えど、結界内でお前と戦うのは分が悪すぎるんでね」
私は単純な感想を吐露して、煙草を咥えた。
「やはり君は、究極の空を求めないのか?」
私は火を付けて首を縦に振った。だが彼女は既に私の答えを知っていたのか、ふと笑う。
「最後に一つ聞かせろ。お前はまだ、この世の異常を平常にすることを望んでいるのか?」
「......当たり前だろう。有象無象風情が、この世界の主導権を握っている事に。どうしてアオイは憤りを感じないんだ!?私たちこそがこの世界を操作するに等しい存在。だがらと言って、異常以外を全て殺せば良いという話でもない事は分かっている....」
「だから、浅羽の様に回路を他者に譲渡したというのか?」
先読みの言葉に、レヴァーナーは首を縦に振った。
己の異常を他者に植え付けるなど魔術師の域を超えていた。才能が全ての世界で、その才能を他者に譲渡できるなどそれこそ神秘に触れている。
「ただそれも机上の空論だ。平常でしか生きてこなかった人間に、異常を植え付けたところで何かが変わる訳でも無い」
そうなのだ。種を仕込んだところで、そこに水が無ければ発芽しない。どれ程才能を持とうが、それを知らなければ意味が無い。
嘗ての私の様に。
「分かっていたさ.......結局私は何も成し遂げることは出来なかった。殺すんなら殺せ、今更命乞い何かしないから」
諦めきった顔でレヴァーナーはそう口にする。
私は躊躇う事も、迷う事も捨てて言葉を紡いだ。それは神秘に触れた魔法使いであろうが、確実に死に追いやれる。絶対の勅令を。
「......ちょ、っと待った。まだ、まだ殺さないで....くだ、さい」
死に悶えた羽虫のような小音で、浅羽が横槍を入れた。
片足。両肩を貫かれ、その痛みに苦しんでいる筈の男が言葉を紡いでいる。
私とレヴァーナーはほぼ同時に、浅羽賢吾という男を見つめた。
「愛の告白が済んでいないなどと、ふざけた事なら。遺影にでもしてくれ」
「...そう、じゃ。ないで...す。──────レヴァーナー.....何故、なぜ貴女は、人を....殺したん...だ」




