皇帝のひとりごと
この作品にコ◯ンの様な真っ黒な姿の犯人は出ません。
ガラントの圧により、ミシェルは飛竜による大陸横断の経緯を説明する。
既に対策され同じ手段は使えないと知って、皇族の2人は安堵していた。
同時にマチルダ・ブライブランの言葉通り、この少年がダレス・ブライブランと双璧を成す者である片鱗を見せる形になった。
さらにミシェルは、そんな無茶をしてまでここに来た理由を語る。
アルベルト・フライアラの生存。
生贄と触媒による竜種召喚。
共和国が聖国の傀儡になりかけている事実。
聖国と公国の裏組織の暗躍とその捕縛。
36年に一度という紫凰の満月が分水嶺である事。
等など数え上げればキリのないエピソードを順を追って話していく。
ちなみに、堕天と時計持ちの捕縛に関してはダレスの指揮の元、バレッタを中心とした冒険者によるものだと説明した。
ミシェル自身を含むクライフ家の情報は絶対に明かす訳にはいかないとの判断からである。
「おおよその事は理解した。こちらの持つ情報と合致する部分も多い。
兄上が懸念していた共和国の方はダレス・ブライブランが何とかしてくれそうだ」
ミシェルは皇帝陛下に対して、どうしても聞いておかなければいけない事がいくつかあった。
それは今回の事件解決にとって決して欠かせない、皇帝しか知り得ない情報である。
「皇帝陛下。お聞きしたい事がございますが宜しいでしょうか?」
「良い。先程も言った通り、この場での不敬は全て不問。口調も改める必要もない。
聞かれた事は可能な限り答えよう」
そこには皇帝リハルトの覚悟があった。
「では1つ目の質問です。おそらく陛下は、ダレス・ブライブラン将軍を三国国境に引っ張り出す為に共和国に法外な賠償金を吹っかけ、査定と交渉役として出てくるであろう、将軍の従兄弟殿を巻き込んだ。
なぜダレス・ブライブランだったのでしょうか?」
皇帝とダレスに面識は無かったはずだ。
一応、ミシェル中にはこれまでのヒントからおおよその答えを導き出している。
これは答え合わせでもある。
「とある人物からの推薦と言えば分かるかな?」
「やはり、パトリック・ブライブラン様と繋がりがあったのですね」
「ほう。その感じだと想定していた答えか?」
紋章でマチルダの声を聞いたにしても、皇族2人がここまでブライブラン家を信頼するのは異常だ。
ましてや、見ず知らずの少年を馬車に入れるなど、余程の信頼関係が無ければあり得ない。
まるで常日頃から交流があるかの様な関係性を感じる。
「陛下とパトリック様が個人でお会いになる機会は記録に無かったと記憶しております。
あったとすれば、昨年に行われた首脳会議の時でしょうか。
陛下とパトリック様との間で共通の話題となればアルベルト事件位しか思いつきません。
パトリック様は当初よりアルベルト・フライアラの死に疑問を抱いておりました。
そして、今もなお秘密裏にその所在を突き止める為に動いております。執念という言葉すら生温いほどに。
パトリック様は婿であるダレス・ブライブラン様が将軍となった時点で王国軍総司令の職を辞しました。
後継の憂いがなくなったからというのもあるでしょう。
ですが、その後要職にも就かず、直轄地の1つを管理する管理官に落ち着いたのは、アルベルトを追う事に集中する為ではないかと思っています。
でなければ、軍職から退いたはずのパトリック様が首脳会議に同行する理由が見当たりません。
この件に関しては国王陛下の協力もあったのではないでしょうか。
各国の情報収集もあったでしょうが、何よりも聖女メイリー・フライアラの帝国来訪です。
普段表舞台に出ることが少ない聖国のトップである聖女メイリー・フライアラが首脳会議に参加するという知らせは王国でも話題になりました。
聖女に関する情報を得る絶好の機会です。
パトリック様はどんな手を使ってでも向ったでしょうね」
聖女メイリー・フライアラ。
その名が出た瞬間。皇帝の顔が歪む。
ミシェルはそれを見逃さない。
「皇帝陛下。今回の親征を含めた一連の騒動は聖女メイリー・フライアラが関係あるのですね?」
リハルトは少し驚いた表情を見せ、隣のガラントと視線を合わせる。
ガラントはゆっくりと頷いた。
「ご随意のままに」
リハルトは目を閉じ、数秒沈黙した後にゆっくりと目を開けてミシェルを見つめる。
その瞳に迷いは見えず、皇帝リハルトは語り始めた。
「これは私の独り言だ。他言無用に頼む」
ミシェルは何も言わずに頷いた。
「まず、あえてパトリック殿と呼ばせてもらうが、彼とは首脳会議以前から付き合いがあった。
きっかけは36年前。
父である先代皇帝の国葬に出席するクレタミラ国王の護衛の1人としてパトリック殿が随伴してきた。
若干16にして名家であるブライブラン家の次期当主となった逸材。
だとしても国王の護衛は異例の抜擢ともいえる。だが、その理由は後で話そう。
幼い私は次期皇帝としての覚悟も何も無いまま、双頭竜帝国章に選ばれたというだけでその場に居た」
当時リハルトは御歳8歳。
立太子されておらず、継承権からいけば先皇の弟である『ランドルフ・ハーヴィー』が継ぐ手筈であった。
しかし、問題が発生した。
皇帝の証である双頭竜帝国章に触る事ができなかったのである。
何度試しても結果は同じ。
無理に掴もうとして右腕が青い炎に包まれて、ようやくランドルフは次期皇帝の座を諦めた。
継承権上位の者達から順に試してみたが結果は同じ。
残されたのはリハルトと、まだ赤ん坊のガラントのみ。
リハルトが恐る恐る触れた双頭竜帝国章は、金色の光を放ち、リハルトの手に収まった。
これにより、次期皇帝はリハルト・ハーヴィーと相成った。
この結果に異を唱える者は誰もいなかった。
それだけ双頭竜帝国章に選ばれたという事実は帝国内では絶対なのである。
「父の葬儀の当日。各国から多くの来賓、国賓が集まり大勢の大人達がひしめく会場で私は怖くなって泣き出した。
母や近衛達が必死になだめてくれたが、私は泣き止むことができなかった。
その時に声をかけてくれたのが、同じく先代国王の急逝により王位に就いた、現クレタミラ王国国王『フリオール・ステラーダ・クレタミラ』その人だった。
国賓席から私の泣き声を聞いたのだろう。
護衛と共に歩み寄ってくれた彼は、私と変わらぬ歳でありながら、落ち着いた声で話しかけてくれた」
「ご父君が亡くなられたのです。悲しくて泣くのは当然ではないですか」
「フリオール殿は極々当たり前の事を言っただけ。
しかし、その言葉を聞いて、ようやく私は死んだのが父である事に気がついたのだ。
周囲を見渡すと、なだめてくれた母だけでなく、姉や皇弟である叔父も泣きたいのを我慢している様な顔だったのに、一切涙を見せていなかった。
それで私は恥ずかしくなった。
私と変わらぬ歳の子が国王として立派に勤め上げているというのに、自分はなんと幼いままなのだろうとな。
私のするべき事は泣くことではなく、次期皇帝としてしっかりと父を送る事だと」
リハルトはミシェルの手の中にある紋章を指差す。
「その国王の護衛というのがパトリック殿であった。
本来は近衛隊長が護衛の任に就くのだが、まだ幼い国王の護衛。
貴賓席は厳重な警備が成されている事もあって、幼い国王の側には出来るだけ年齢が近い者が良いだろうという判断だったと聞いている。
パトリック殿が武才に優れていたのもあっただろうがな。
護衛とはいえあくまで一兵士であるパトリック殿は、近衛の許しを得て私へ跪き、紋章を裏にして差し出した。
その時の言葉を今でも覚えている」
『これは、1度だけ先皇陛下からのお声を拝聴することができる魔道具でございます。
この窪みに指をお乗せください』
「私は言われるままに指を置いた。
すると声が脳内に響いた」
『頑張れ』
「父の声でないことはすぐに分かったが、私はその言葉が嬉しかった。
おかげで立ち直った私ははつつがなく葬儀を終え、無事に皇帝の継承を宣言する事ができた。
各国賓を見送る際に、あの時の王国の若者がいないか探して、国王の馬車を警護していたパトリック殿に声をかけた。
歳が近いフリオール国王とは友として、パトリック殿は私の兄代わりとして今日まで親交が続いている」
(そういえば、パトリック様って名家しては珍しく兄弟姉妹がいなかったな。
案外皇帝陛下を弟みたく思っていたのかもしれない)
「パトリック殿の婚礼の儀の際にはフリオール殿と一緒に変装をしてこっそりと参加もした。
パトリック殿の面食らった顔は面白かったな。
フリオール殿と密かに打ち合わせして、名目上はラーズ街道から王国への新規街道建設の協議と友好関係のアピールいうことでの王国訪問という事にして、真の目的はパトリック殿の婚礼の儀へ参加する事。計画を練っている間も楽しかった。
お互いに面白い事に飢えていたからな。
自国の国王に国賓の皇帝が護衛も連れず王城から抜け出すなど前代未聞だったろう。
後で母や叔父。近衛隊長からこっぴどく叱られたのはいい思い出だ」
「兄上。話が逸れております」
パトリックの事を語るリハルトの表情から、いかにパトリックを慕っているのかが伝わる。
皇帝陛下からここまで慕われているとはパトリックも思うまい。
「おっと。そうだな。
パトリック殿と最近会ったのは少年の言う通り首脳会議の時だ。
非公式での会談で、フリオール国王と帝国の周辺だけでなく、王国の周りでも何やらきな臭い動きがあるという話をした。
その場にはパトリック殿も在席していてね。
共和国の水面下で動きがあると聞いて、何かあった場合の対応をどうするかという話になった時、パトリック殿が娘婿であるダレス将軍に対処してもらえばいいと助言をもらった。
将軍の従兄弟が共和国で外務官として働いているので、巻き込むのは簡単だとね」
長年裏で暗躍していた御仁である。抜け目がないなとミシェルは感心した。
「ダレス君を巻き込んだのはそういう経緯があったからだ。
ガラネアの崩壊はやり過ぎだったがね」
「やはりそれも仕込みでしたか」
そこでガラントが手を上げる。
「そこは俺が説明しよう。
共和国に鎧竜が現れたと聞いて、これがアルベルトの企みで帝国に向かってくるのは予測できた。
すぐさまガラネアに向った俺は市民の避難を領主に任せて、防衛ラインとして犯罪奴隷を配備した。
上手く生き延びる事が出来たら契約魔法を解除する約束でな。
奴等はギリギリ処刑を免れた犯罪者ばかりで、悪いが死んでも構わないと思って相手が竜種とは伝えず配備した。
共和国軍に扮した野盗が襲ってくると言ってな。
市民を避難させた事と正規軍が対応しない事を疑っていた様だが、野盗とはいえ共和国軍に扮した者を正規軍が討ち取るのはヤバい。
正規軍ではなく犯罪奴隷が表に出ているのを市民に見られるのはマズイとか適当な理由を言ったら信じたよ。
被害を気にせず自由に暴れていいとも言ったので余計にな。
後は知っての通りだ。
流石に共和国も自国の国境街が巻き添えになるのは避けた様だ。
森から国境を越えて来た鎧竜の誘導は、数名の騎馬隊員に囮としてラーズ街道を走ってもらった。
街道の修復に時間と費用がかかるのが痛いが、どうせ共和国との国交は滞ると見越して今も放置している。
国境街に行くのには少し不便だが仕方が無い」
ガラントの説明にリハルトが頷く。
「それでダレス将軍を引っ張り出せば共和国の動きは止まると踏んだ…」
リハルトの言葉が詰まる。
少し時間をおいて絞り出すように続けた。
「今回の親征に聖女メイリー・フライアラが関係あるのかと聞いたね。
答えは『ある』だ」
またリハルトは無言になる。
そこでミシェルは聖都を襲った兜竜が、先皇陛下の喚んだ竜ではないかという推測をリハルト達に話した。
リハルト目が大きく見開かれる。
「何故それを!…いや、ダレス・ブライブランと双璧を成すなら当然か…。
そうだ。あの兜竜を喚んだのは父で間違いない。
父が亡くなる数日前に言われたのだ」
『リハルト。これから行うことは皇帝ではなく、父として行う事だ。後のことは竜王陛下にお頼みしてある』
「当時の私には分かっていなかったが、まるで死地に向かう遺言の様な内容であった。
それから兜竜が聖都に現れ暴れた後、父はその事件の報告を聞き、翌日にお亡くなりになられた」
先皇と竜王の間で何かしらの取引が行われたのだろう。
対価は先皇バルフレアの命か。
「皇帝ではなく父としてですか?」
ミシェルはそこが引っかかった。
「そうだ。父が聖都を兜竜に襲わせた理由は、アルベルト事件に妹が巻き込まれたからだ」
「え?」
流石のミシェルも思わず驚きを口にした。
「妹と言っても庶子だ。城で働いていた下級貴族の娘を見初めて関係を結んだらしい。
母は正式に側室として向かい入れるべきだと言ったそうだが、下級貴族の出ということでその場では周りから反対されたらしい。
求めるならば、然るべき家柄の養女としてから手順を踏んでからだと。
手続きは順調に進んで、礼儀作法を学び終える1年後に側室として迎えると決まった。
それから暫くして彼女の懐妊が発覚した。
男子であれば継承権が絡んでくる。
即座に側室に迎えて皇帝の子とするべきという母と、婚礼前の女性を皇帝が妊娠させた事を秘匿したい叔父と宰相の間で意見が割れた。
結局、叔父達の意見が通り、出産は教会が管理している孤児院で秘密裏に行われる事になった」
教会。孤児院という言葉を聞いてミシェルは察した。
「それから数ヶ月して、生まれた子は女児との知らせが届いた。
皆それを聞いて継承権が絡まない事に安堵したらしい。
だが、それから僅か3日後だ。
諜報部から各地の孤児院から子供達が消えているという情報を聞いて、父は周りの静止を振り切って孤児院へ向ったそうだ。
既にその孤児院は火事で焼失していた。
教会関係者や母子につけた護衛の者。母親となった娘。数人の子供達が亡くなっていたそうだが、生まれたばかりの子供の遺体は見当たらなかったそうだ。
バレぬ様にと、帝都から離れた孤児院を選んだ事が仇となってしまった。
世間では人買いの仕業だと言われていたが、アルベルト事件が起きて誰の仕業か判明した。
その報告を聞いた時の父は鬼の様な形相だったと聞く。
その時に父は復讐に囚われたのだろう」
リハルトは亡き父を思い出し悲しげな表情を浮かべる。
「陛下。その時点では、まだ誰が亡くなり生きていたか分からなかったはずです。
聖都に竜種を向けた事で、生き延びていた赤子が亡くなってしまう事は考えていなかったのでしょうか?」
リハルトは首を振る。
「生死は関係ない。手の内から攫われた時点で皇帝の子として迎える事は不可能となったのだ。
逆に生きている方が都合が悪くなったとも言える。
攫われた子は契約魔法で縛られている。
生きていたとしても、皇帝の子と証明するものは何も無く、帝国に仇なす者となる可能性もあるとなっては、皇帝一人が迎え入れると言っても叔父や母が認めまい。
父はそれが分かったからこそ何もかもを壊すつもりで竜種を喚んだのだ」
「ですが、陛下は今回の親征は聖女と関係があるとおっしゃいました。
聖女メイリー・フライアラは攫われた先皇陛下のお子ではなのではないですか?」
これまでの話を精査していくと、この結論にしか辿り着かない。
「そうだ。だからこそ私は彼女を殺さなくてはならぬのだ!」
皇帝リハルトの咆哮にガラントは拳を強く握り込んだ。
あつ森の虫辞典。
あとノミだけ。ノミだけなんだけど!
蚊、ハエ、ノミ。
見える大きさにしてくれませんかね。
オッサンなもんで視力がね・・・。




