いざ帝国へ
1日の寒暖差が凄いことに。
着ていく服のチョイスを間違えると地獄。
いきなりミシェルが飛び降りた。
「まったく無茶をする少年だ!」
「アタシはもう驚かないよ」
そんな会話をしながらバレッタは最後の敵を狙って矢を放つ。
木の陰に隠れていた時計持ち最後の男は、真上からの矢を頭頂部に受けて倒れた。
ミシェルはというと、へたり込んでいる親子らしき3人と何やら話していた。
「困ったな。飛竜が降りられそうな場所が無い」
レイア池の周囲は木が生い茂り、水辺も飛竜が降りるには狭い。
どうしたものかとアベルがあれこれ考えを巡らせていると、子供に何か渡したミシェルが代わりに何か光るものを受け取っていた。
それを空にかざしたのをアベルが確認して数秒後。
『アベルさーん。この人達生贄みたいなんですけど、ノーザンデスまで送ることってできますか?』
いきなり脳内にミシェルの声が響いた。
「思考伝達魔法!?」
あり得ない事にアベル激しく動揺する。
『あ、アベルさんと飛竜の繋がりに割り込んでいるだけのでアベルさんの声はこっちに届きません。
大丈夫なら1回。ダメなら2回。音の隠蔽を外して飛竜に羽ばたかせてください』
「非常識にも程がある!」
文句を言いながらアベルは飛竜に1回羽ばたく様に指示した。
他国の一般人を飛竜で運ぶなど、絶対に拒否する案件なのだが、既にいくつも軍規を破ってしまっているので、今更1つ2つ軍規を破ったところで変わりないと、アベルはやや自棄糞な思考になってしまっていた。
アベルから、かなり強引に了承をもらい、ミシェルは親子に真実を説明する。
「さて、今から僕が説明することを信じるか信じないかは貴方達の自由です。
ですが、嘘偽りない真実ですので覚悟して聞いてください。
まず、この聖地で祈りを捧げると顕現するのは竜種です」
どうにも言葉が飲み込めていないのか両親は首を傾げている。
だが、構わずにミシェルは話し続ける。
護衛として親子を連れてきた連中が公国の裏組織の者であること。
目的は竜種召喚であり、親子は生贄としてここに連れてこられたこと。
子供に渡された水晶玉は魔力が内包された触媒であること。
実は護衛達も生贄の対象で、黒幕は聖国の裏組織であること。
突如現れた正体不明の少年ミシェルの話に、最初は「バカな!」とか「信じられない!」とか「人殺しの言うことなんて」と聞く耳を持たなかった両親であるが、生きた証人であるバレッタに降りてきてもらい、自身が受けた仕打ちと、これまでの話をしてもらうと態度が軟化した。
両親も所々疑問に思っていた部分があったらしく、「そう言えば」とか「もしかして」とか口にするようになっていった。
トドメとなったのは、お守りと称して触媒を渡してきた司祭をはじめとする上位の聖職者達についてミシェルが話したことだ。
「聖地巡礼の絶好の機会であるのに、司祭といった上位の者が誰も聖地巡礼に向かっていないのは何故です?」
その単純な問いを聞いて、生贄となった両親は ようやく自分達が騙されていたのだと理解し、納得した。
ただ、両親の口からはこんな言葉が出た。
「聖女様だけは多くの巡礼者を連れて、聖地アークミラ湖へと向かいました。
きっと聖女様は騙されているんです!どうかお助けください!」
これにはミシェルも驚いた。
何せ、聖女が向かっているアークミラ湖へのルート上には、帝国軍と聖国軍がぶつかる予定の大草原がある。
(軍を派遣したのは聖女ではないのか?)
ちょっと聖国側の情勢が分からなくなってきた。
ちなみに、親子には、
「聖女を騙しているのはアルベルト・フライアラの仲間であった者です。
大丈夫!きっと聖女様を助けます。
それと、僕は正義の味方です」
と、適当な嘘をついた。
流石にここでは親子を飛竜に乗せられないので、アベルにはダレスが小竜種と戦った広場へと先行してもらい、そこで飛竜の休憩も兼ねて待ってもらうことにした。
とりあえず、冒険者であるバレッタに先導してもらって彼等には来た道を戻ってもらう。
あの親子に手伝ってもらうわけにはいかないし、時間が惜しいのでバレッタには先行してもらわないといけない。
結果として、ミシェルは一人残り、時計持ち達の屍を一箇所に集めた。
生贄と勘違いされて竜種が召喚も困るし、アンデッド化しても面倒なので、刺さっていたクロスボウの矢を抜き、使えそうなモノをいくつか頂いて時計持ち達の屍は装備ごと全て灰にした。
ちょっと周囲の木々が焦げてしまったが、親子を助けたことでチャラにしてくださいと、信じてもいない神様に言い訳した。
直接手にかけた訳では無いが、選択肢の中から彼等の命の火が消える道を選んだのは自分だ。
気休めにしかならないが、ミシェルは風で流されていく灰の山に向かって祈りを捧げようとして、
(あ、これで召喚術が発動したらヤバい)
思いとどまり、ゴメンネのポーズだけをしてバレッタを追いかけた。
アベルが広場に到着して約2時間後。
親子を連れたミシェル達が合流した。
飛竜は隠蔽魔法で姿を消しているので、アベルが広場ど真ん中で仁王立ちしている様に見える。
待ちわびた様子ないが、結構待たせてしまったことを詫びた。
追いついたミシェルが先導役を代わり、バレッタが子供を抱きかかえるなどして、かなり急いだのだが、山道を歩き慣れていない2人を連れて夜の獣道を進むのは流石に時間がかかった。
アベルは気にするなとミシェル達を労ってくれた。
ただ、思考伝達魔法の件は、アベルの中でなかった事にしたらしい。
新たな登場人物に警戒する両親だったが、ノーザンデスまで運んでくれる味方だと伝えたらアベルに頭を下げていた。
死んだ時計持ちから拝借した懐中時計を確認すると、間もなく4時になる。
夜更かしもいいところだが、残された時間は次の夜まで1日も無い。
親子3人はすっかり疲れていて、子供は山下りの時点でとっくに夢の中だ。
これ以上アベルの精神を削るのも申し訳ないので、飛竜の姿を見せないように両親には子供と一緒に眠ってもらう事にした。
小手に仕込んでいた小瓶の中の粉末を風魔法で指向性を与えて親子に吸わせる。
ものの数秒で3人は深い眠りについた。
「少年。その薬はなんだ?」
中庭の惨劇を思い出したアベルの顔が引きつっている。
隣のバレッタも表情は硬い。
「見なかったことにしてください」
「出来れば僕もそうしたい。だがダレスには言うぞ」
「ご安心を。これも含めてヤバそうなヤツの扱いは全部閣下に丸投げしますので」
「義弟に同情するのは妹との結婚式以来だ」
親子3人をノーザンデスへ送り届け、現地にいたクライフ商会の手の者に保護を頼んだ。
生贄に選ばれた時点で聖国に彼等の居場所は無いだろう。
まぁ、親子の今後に関してはアルベルト・フライアラの企みを阻止してからだ。
再び飛竜に乗り、ミシェル達はそのまま連合国との国境を越える。
ミシェルが『魔力隠蔽魔法』を発動して国境警戒魔法を通り過ぎると、世界に展開している国境警戒魔法の壁が一瞬だけ青白く発光した。
竜王アルテミラによる修正が入ったのだろう。
結構な出来事だったが、夜明け近い時間で起きている者が少なかった事と、うまいこと紫の月明かりに紛れた為に気付く者は皆無であった。
「少年。今回は魔力隠蔽魔法が必要だったが、普通は覚える必要のない魔法だ。何故覚えた?」
アベルの質問にも理由がある。
魔法隠蔽魔法はハッキリ言って使い道のない魔法と認識されている。
魔力量を数値化するものはなく、魔力量の大小も、使用している術式のランクや使用回数から概算で決めているのが現状だ。
また魔力を視る技能は習得がそこそこ難しい割に、使用されるのは死亡推定時間を計る時ぐらいしかない。
パトリックは戦闘時に相手の魔力を視て、身体強化魔法の強弱を判別して動きを読む事に利用していたが、そこまでの使い手は稀有である。
たとえ視られたとしてデメリットはほぼ無く、自身の魔力を隠す利点が無いのだ。
「んー。アベルさんが僕に隠蔽魔法を見破られてこんな事になっているのって魔力が隠蔽できていなかったからですよ」
「は?」
「僕が閣下達の乗っている馬車を追っている覗き屋を追跡していた時に、空の風に歪みを感じたので魔力を視たら、クッキリと飛竜が飛んでいる姿が視えました。
追跡中だったのに、初めて飛竜を見て思わず声が出ちゃいましたよ」
さらっと言われたが、飛竜騎士にとって聞き逃がせない事を言われた気がする。
「ちょっと待てミシェル少年・・魔力が視えると我々の姿も視えるのか?」
「形だけですけどね。飛竜は魔力が全身に行き届いているようで、輪郭がハッキリしていますね」
飛竜騎士にとって由々しき事態である。
これは全騎士に情報共有しないとマズイ。
これまでは王国内部だけの活動であることと、そこに飛竜がいると確信を持って、魔力を視る行為をした者がたまたま居なかったので、問題とすら認識されていなかっただけだ。
「少年。この魔力隠蔽魔法の習得は難しいのか?」
「他の隠蔽魔法が使える飛竜騎士の方なら、すぐに習得できますよ」
ミシェルの答えにアベルは少し安心した。
「全部終わったら講師を頼む。ダレスを間に挟むから少年の素性も隠せるだろう」
「お祖父様も使えますよ?」
「それだけは勘弁願う。父は今でも夢に見るそうだ」
「冗談です。講師ならバックスが適任ですよ」
実際、ミシェルはバックスから習っている。
恐る恐るバレッタが口を挟んだ。
「えーっと、騎士さん。バックス・アドラーは絶叫のマーカスの1番弟子だ。100が99になるだけだぞ」
アベルの手がミシェルの肩を握る。
「言い訳を聞こうか?」
「だって、楽して覚えられるのが悔しいんです」
握った手に力が入る。
「あだだだ!」
「飛竜騎士の隊員に関する情報は王国でもトップクラスの機密事項なのだ。簡単によそ者を入れる訳にはいかない」
「僕だってよそ者ですよ」
「そのよそ者が、機密情報をさっきから暴きまくっているんだが?」
こうなったらダレスも巻き込んで、飛竜騎士の問題点を洗いざらい吐き出させ、是正させようとアベルは考えている。
逃げられないと悟ったか、ミシェルは静かに頷いた。
「さて、少年。無事に連合国に入ったが、次の国境警戒魔法はどうやって越える気だ?」
魔力隠蔽魔法による通過は1度限りだ。
「別に何もしませんよ。普通に突っ込みます」
「は?」
もう、何度言ったか分からないアベルの間抜けた返事。
何かしらの策があってここまで来たと思っていただけに、いきなり無策を言われてアベルは理解が出来ない。
「どう言う事だ。普通に突っ込んだら公国に侵入したのがバレるじゃないか」
「別にバレていいじゃないですか。無警戒だった連合国側からの侵入者。公国の国境警備隊もさぞかし慌てるでしょうね」
ミシェルの後頭部しか見えないので表情は分からないが、悪い顔をしているのは容易に想像できた。
「あちこちかき回してくれたんですから、少しはお返ししないと」
ミシェルは行動がマチルダに似ていると以前に言った。
だが、マチルダの場合はやり過ぎな行動で問題になる事はあるが、相手に非があっての事なので仕方が無い部分もある。
しかし、この少年はしっかりと問題があると分かっている上で事を起こすのでマチルダよりたちが悪いと。
(正直、この少年に比べたらマチルダなんて全然可愛い部類だった。
例えるなら、ダレスの頭脳で行動するマチルダか。おいおい、どんな悪魔だ)
悪魔との契約なんて物語の中の出来事だと思っていたアベルだったが、当事者になってその恐ろしさを感じていた。
空の上にいながら、まるで深い海の底に沈められていく様な感覚。
マチルダと戦って完敗したあの時。そのマチルダに年下でありながら勝ったダレスを目の当たりにした時と同じ感覚だ。
(ダレスが言っていたな。この少年は子竜だと。
どこが子竜だ。お前と張り合える成竜じゃないか。
双頭竜は帝国の専売特許だと思っていたが、王国にも双頭竜はいたんだな。
いや、今回の件で誕生したと言うのが正解なのかもしれない。
今回の黒幕が公国なのか聖国は分からないが、藪をつついたら出たのは双頭竜だぞ)
そう思うとアベルは面白くなってきた。
「少年。公国に抜けたら速度を上げる。今のうちにどこへ向かうか教えてくれ」
「一応ヘラルド湖経由で帝国に抜けて、その後は大陸公路を進行している帝国軍の指揮官の居場所を探します。
報告では皇都から軍が出たのは推定で4日前との事で、各地から集合して最終的に3万まで膨らんだという話です。
軍旗は掲げていると思うんですが、周囲の警戒が厳重すぎて旗が見える範囲まで近づけなかったそうです。
公路上の街を通過する際に確認しようとしたそうですが、先行隊によって徹底的な人払いが行われていて無理だったと。
なので指揮官が誰か分からないんですよ。
聖国との国境付近の動きが活発になっているっていうんで、皇都の従業員を移動させたのが裏目に出ちゃいました」
「通常であれば皇帝国軍総司令のダンダルフ・ホイラーだと思うが?」
「その辺が無難だと思いますけど、そこまで警戒が厳重な理由が引っかかるんです」
「だったら自分の目で見ればいい」
「そうします」
「ヘラルド湖を経由するのは例の聖地巡礼絡みか?」
「それもありますが、ヘラルド湖で竜種召喚はしないでしょうね」
「何故だ?」
「ヘラルド湖のすぐ近くに公国ご自慢の観光地である『クレミリア』がありますから。
竜種がそっちへ向かうと困るでしょう?
堕天から提案されても断るでしょうね」
公国の連中もそこまで頭が悪くはないだろうと思いたいのだが、なにせ御先祖がアレである。
やらかしたとして自業自得なので別に構わないのだが、一般人に被害が及ぶのはミシェル的にも後味が悪い。
一応ヘラルド湖上空から様子を見て、本当にヤバそうなら介入する。でなければスルーで。
「そもそも、レイア池とアークミラ湖以外の巡礼は偽装ですよ」
「根拠は?」
「アイツ等の証言によれば、カレイラ池は王国のダレス・ブライブランに近すぎるそうです。
三国国境の件が餌になって、閣下が釣れないかと考えていたみたいですが、結局閣下は王都から離れなかったので廃案にしたと。
単騎で僕のトコに来ましたけどね・・・」
大きなため息がミシェルから出る。
「ハーマリーヤ湿地の方ですが、連合国は確かに公国にとって王国との間にある邪魔な国ですけど、無くなっても困る国でもあるんですよ。
常に内戦状態である連合の各小国は魔法石購入のお得意様ですから。
あと、単純にハーマリーヤ湿地は広すぎて竜種召喚に適していないらしいです。
水地の大きさと召喚に必要な魔力は比例していると考えたきっかけはこの証言があったからです」
5箇所の内3箇所はダミーで本命の1つであるレイア池は阻止できた。
残りはアークミラ湖だけと言うことになる。
そこには聖女メイリー・フライアラが大勢の巡礼者を率いて向かっている。
アークミラ湖は大陸でも有数の大きさを誇る。
ここから兜竜が現れたとミシェルが推測している場所でもある。
「では今から飛竜の速度を上げる。魔力の消費が大きいが、帝国軍に追いつくまでは保つ」
「では、安心している公国の国境警備隊にとびきりの警報をプレゼントしてあげましょう」
アベルは飛竜に最速飛行を指示する。
瞬間。ミシェルの視界の景色が線になった。
「アベルさん!速すぎませんか!?」
「僕の飛竜は部隊の中でも最速を誇る。さっきまでの3倍は速いぞ」
平均時速200kmの3倍。
600km。
ミシェルには知る由もないがリニアモーターカーと変わらぬ速度だ。
あっという間に公国との国境を通り過ぎる。
今頃公国の国境警備隊は飛び起きている事だろう。
それから僅か20分でヘラルド湖上空に到着。
少し速度を落としてくれたので下を確認する事が出来た。
人影は見えない。
竜種召喚は行われないというのはミシェルの推論に過ぎないが、嵐の前の静けさという雰囲気でもない。
勘でしかないが大丈夫だろうとミシェルは判断して飛竜は速度を上げ帝国領へと侵入する。
アベルには伝えていなかったが公国側から侵入したのにはもう一つ理由がある。
飛竜が国境警戒魔法を通過したことで、帝国の国境警備隊にも侵入者の存在が伝わるだろう。
しかも公国側からの侵入だ。
しっかりと警戒態勢をとってもらいたい。
これで公国軍が帝国の隙を突いて侵入する事は困難になったはずだ。
アルベルト・フライアラの企みに便乗したのか利用されていたのか分からないが、超えてはいけないラインを超えた以上、いつもの王国憎しだと笑っては済ませられない。
(全部片付いたら公国にもしっかり痛い目にあってもらう様に閣下と策を練りましょうかね)
紫光の空は朝日によって青く変わってゆく。
飛竜の切り裂いた空気が揺らめいて存在を示したが、それに気がついた者は誰もいなかった。
一番好きなエースコンバットは5ですが、8も良いですね。
F14のバリエーションいっぱいあって嬉しいけど後半のシナリオだとキツイのが悲しい。
パーツ装着でもカバー出来ない位、敵の挙動がオカシイ。




