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公国に天罰を

カッコいいアベル君が見られるのは・・・。

 ベルリナから飛び立つこと約半刻。

 ミシェル達を乗せた飛竜は国境街ノーザンデスの手前まで来ていた。


「思っていたより快適ですねぇ。ほとんど揺れないですし、風魔法の障壁で直接風が当たらなくて寒さ対策のはずの外套の分かえって暑い位ですよ。

 アベルさんは特に飛竜へ指示を出していないですが、ちゃんと方角の修正とかしていますよね。

 どうやっているんです?」


 落下防止用のベルトで鞍と繋がっているとはいえ、経験したことのない高さにミランダは離陸からずっと無言で鞍のグリップを握っていた。

 対照的にミシェルは終始この様子である。


「機密事項だ。言えん」


 もう、質問されたのが何度目だったか数えるのも面倒になったアベルの返事は数回前から同じである。


「なるほど。まぁ考えられるのは思念伝達魔法(マインドキャスター)ですかね?

 アベルさんの右手の金のブレスレットと飛竜の首にある金の首輪が対の魔道具かな?」


 こうして国家機密をいとも簡単に言い当てられ、今すぐここから落としてやろうかとミシェルの襟首に手を伸ばしそうになるのを堪えたのも、もう何度目か覚えていない。


「後ろのバレッタ・ヘインはそれどころじゃないし、少年の声が届かないようにしてあるが、あんまり重要機密をベラベラと言わないでもらえるかな」

「おや?正解ですか?思念伝達魔法(マインドキャスター)と言えば、400年近く前に『伝聞魔法(キャスター)』『広域治癒魔法(エリアヒール)』と共にフライアラ聖国の前身であるミラ教国の法皇フライアラが生み出した3大魔法の1つですね。

 だだ、他の2つと違い思念伝達魔法(マインドキャスター)は失われた魔法(ロストマジック)として魔法辞典に記載されているんですよねぇ。

 理由として、使用するのに必要な魔道具を1組作るのに、ミラ教国の国家予算並の金額が必要で1組しか作られなかった事。

 その魔道具は法皇フライアラの生体認証が施されていて他人が使えなかった事。

 また、法皇フライアラが崩御された後、国の宝物庫に保管していた魔道具が火事によって失われてしまい再現が不可能となった事。

 以上が失われた理由として記載されてます。

 こうして存在しているということは、ミラ教国の宝物庫が火事になった事件には王国が絡んでいるんでしょうかね?

 それこそ王国の裏組織とか」


 さっきから、ミシェルの爆弾発言の度に胃に結構な痛みを感じるアベル。気の所為であって欲しいが、質問の内容がアベルにダメージを与える方向になってきている気がする。

 いや、流石に考え過ぎだろうと首を振ったのだが。


「さて、アベルさんをからかうのも飽きたし、国境も近いので真面目にやりますか」

「落とすぞ少年」


 ドスの聞いた声と共にミシェルの襟首を掴むアベル。


「冗談!冗談ですって!飛竜に乗って密入国する緊張を少しでも緩和出来ればと思って!」

「どことなく、お前はマチルダと行動が似ている。ただ、妹は本能と直感で動くが、お前は意図的な分マチルダよりたちが悪い」


 この1日で隠蔽魔法を見破られたり、飛竜に軍部の人間以外を乗せるハメになったり、こうして聞きたくもない秘密情報を暴露されたりと散々だ。

 そもそも、マチルダに移動手段(タクシー)扱いされてベルリナに来たのも、元はと言えば、ダレスを追ってきたからで、そのダレスの目的はこの少年に会うことと聞いた。

 つまり、ろくな目にあっていない理由の全てが直接的しろ間接的にしろミシェル絡みである。

 ほんの僅かだが、襟首を掴んだ腕に力が入る。


「ノーザンデスが見えてきました」


 その声を聞いてアベルが襟首から手を離す。

 瀬戸際でミシェルの命は繋がった。

 何となく気配でヤバさを感じたミシェルの好守(ファインプレー)である。


「で?どうやって国境を越える?飛んだら教えると言っておきながら、国境付近までは内緒です。とか言って教えなかっただろう」

「越境する事自体はそれ程難しい事では無いんですよ」

「は?」


 あっけらかんと言うミシェルの返答に、つい間抜けな声が出た。


「そもそも、国境に魔道具的な何かが置かれている訳でもないのに、綺麗に国境線に沿って展開されていたり、アルベルト事件の時の様に一斉に解除する事も、逆に一斉に展開する事も可能だったり、侵犯した者の居場所を即座に国境警備隊に伝える効果を付与したりと、大陸全土をカバーする程に強大な術式でありながら、大陸に住む者は誰もその仕組みを知らない。

 国境警戒魔法(ウォール)は謎多き魔法ながら、誰もその仕組みを調べようとしない不思議な魔法なんです」

「その言い方だとお前は仕組みを理解しているという事か?」

「全部ではありませんが、穴を見つける位には」


 さっきまでとは比べ物にならない爆弾発言がミシェルの口から飛び出した。

 今更だが、マチルダにどれだけ言われようがどんな目に遭わされようが、ここに来るべきではなかったとアベルは激しく後悔した。


「国境警戒魔法(ウォール)に引っかかるのは、一定の年齢以上の人や大型の魔獣、そして竜種のみ。

 逆を言えばそれ以外は引っかからないんです。

 そりゃそうですよね。イチイチ小鳥や小動物。鹿や熊などの動物なんかに反応してたら国境警備隊もたまったもんじゃありません」

「僕達は思いっきり引っかかるが?」


 その先を聞きたくはないが、聞かざるを得ない状況なのでアベルは言葉を振り絞った。


「そうですね。つまり、引っかからないように偽装すれば良いわけです」

(良いわけあるか!)


 アベルは叫びたい気持ちをグッと堪えて問う。


「どうやってだ?」

「人。大型魔獣。竜種。この3種に共通しているのは魔力です。

 魔法を使えない人もいますが、魔力そのものは誰もが持っています。それこそ産まれたばかりの赤ん坊ですらね。 

 一般的な動物は魔力を持っていません。魔力を司る器官を持ち合わせていないからだと過去に結論が出ています。

 その魔力を動物が持つと魔獣になる。これも過去に結論づけられています。

 人がアンデッド化する理由も魔力によるものですしね。

 ただ、反応する魔力量にも下限があるようで、人だと6歳位の平均値。また、小動物系の魔獣も魔力が低すぎるらしく反応しません。

 つまり、国境警戒魔法(ウォール)は一定の魔力の大きさに反応している。という事です」


 帰りたい。マジで帰りたい。

 何もかも忘れて今すぐ愛する妻の元へ帰りたい。

 つまり、魔力を隠蔽してしまえば国境は自由に通過出来る(フリーパス)という事だ。

 これが知れ渡れば各国の防衛基盤が揺らぐ事態となる。

 一人で背負うには重すぎる。後ろのバレッタも巻き込んで少しでも軽くしたくなる。


「ご心配なく。この手が使えるのは一度限りでしょうから」


 アベルの心情を汲んでか、救いの言葉がミシェルの口から出た。


「一度限り?」

「はい。この国境警戒魔法(ウォール)。誰が維持管理していると思います?」

「それは各国首脳か、担当する誰かが、じゃないのか?」

「こんな超大規模魔法、人の身で維持なんてできません。何人集まろうが一瞬で干からびますよ」

「人の身で・・・人ではないということか?」


 今までの動揺する姿が嘘のように、アベルの思考が冴える。


「はい、そうです。こんな魔法が維持できるのは大陸全土を司るあのお方くらいです」

「あのお方?・・・まさか!」

「ええ。霊峰ブレスト山に住まうという竜の王アルテミラ。そのお方です」


 ミシェルは拳を顎に当て続ける。


「竜王陛下にとって、我々人間の営みがどういう意味を持つのかは分かりません。

 その存在すら不可侵の領域に住まうということで曖昧です。

 何せ、その姿を見たという記録がありませんから。

 過去の記録では、竜王アルテミラの元には途轍もない財宝があるとか噂が流れて、無謀にもブレスト山に足を踏み入れた冒険者が多くいたようですが、その誰もが帰還しなかった事から冒険者ギルドが不可侵認定としたとあります。

 以後、記録上ブレスト山に足を踏み入れた者はいません。

 ですが、そのブレスト山の麓にあるデュラン帝国と竜王アルテミラには繋がりがあるとの噂が後を絶ちません。

 理由は帝国皇帝のみが所持を許される双頭竜帝国章(デュランダリオン)の存在です。 

 初代皇帝『リヒャルド・ハーヴィー』は突然表舞台に現れ、その武勇をもって僅か半年という期間で帝国を築いたと記録にあります。

 では、帝国建国において誰が双頭竜帝国章(デュランダリオン)を初代皇帝に授けたのか?」

「皇帝リヒャルドの名は知っている。その血脈は今も皇族に繋がっているからな」

「有名ですからね。ですが、いくら武勇に優れていたとはいえ、たった半年で国を興すのは単身では無理があります。

 つまり、初代皇帝リヒャルドの後ろ盾となっていた誰かがいるわけです」

「それが竜王アルテミラだと?」

「その可能性はかなり高いと思いますよ。何せ双頭竜帝国章(デュランダリオン)という存在がそれを物語っていますから」


 ミシェルは両手を上げ、ヘビが口をパクパクするような仕草をする。


「双頭竜・・・」

「はい。竜王アルテミラは双頭竜で、自身の姿を意匠とした紋章を皇帝リヒャルドに授けた。というのが僕の推測です。

 推論ではありますが、リヒャルド・ハーヴィーが建国を決めた際に授けたのではないでしょうか。

 無名の若者とって、これ以上ない身分証明になります」


 アベルは黙り込んだ。流石に話の内容が大きすぎる。

 だが、ミシェルの言う事も分かる。

 

 当時は魔獣どころか、大型の獣も暮らしていく上で脅威となっていた時代だ。

 それらから護ってくれるとなれば人は集まる。

 僅か半年というが、竜王の後ろ盾を周知し、怯えながら暮らしていた周辺の集落をまとめ上げれば、身1つだとしても半年という期間は国を興すには十分可能な時間だ。


「おそらく、その過程で国境警戒魔法(ウォール)が生まれたんだと思います。

 害敵となる者の侵入、接近を容易に察知出来るように」

「それが今も続いているということか」


 ようやくアベルはミシェルが何を言いたいのか理解した。

 パクパクしていた両手を下ろし、ミシェルは軽く頷いて話を続ける。


「もしも国境警戒魔法(ウォール)を無効化。もしくは感知されずに通過する方法があると知れば、竜王は即座に魔法を修正するでしょう。

 竜王として見逃す道理はありません」

「だから1度限りか・・・」


 そこでアベルはふと疑問に思った。


「国境門を越えた場合、国境警戒魔法(ウォール)に引っかからないのは何故だ?

 もし、あの門をくぐれば引っかからないと言うのであれば、速度を出して一瞬翼を畳めばギリギリ飛竜でも通れそうな大きさだが」

「残念ですがそれはできません。越境には越境許可証が渡されますよね?

 あれって魔道具なんですよ。所持している者は警戒魔法の対象から除外されるという付与が施されているそうです。

 越境する時に渡され、越境したら回収される。

 高度な魔法という訳でもないのですが、複製出来ないそうです。

 しようと試みた者は蒼い炎に包まれて灰になったと記録にあります。

 おそらく竜王の施した複製対策でしょう」


(今からやる方法は対策されていないのか?)

 燃え上がる自身を想像してアベルはミシェルにその事を問おうとした時、


「ご心配なく。1回目の複製は成功したそうですから」

(違う!そうじゃない!この方法が本当に1回目かは分からないじゃないか!

 いや、この少年が自信満々に言っているなら大丈夫なのか?)


 まだ完全に安心は出来ないが、逆にミシェルの『1度限り』という言葉の信憑性は少し上がった。 

 他にも疑問を感じた部分を尋ねる。


「それで少年。ノーザンデスの国境を越えて連合に入ったとして次はどうする?1度限りなのだろう?

 出来る限り北寄りのルートを取ると言っていたが、このまま北上してレイル山脈を越えて帝国に入るつもりか?

 悪いが飛竜ではあの山脈を越えられない。

 ブレスト山程ではないが高さがあるからな。

 連合から公国。公国から帝国。少なくとも後2回は国境を越える必要がある」


 連合国は、北にレイル山脈という自然の要塞があり、東はテレイア川が流れ、西は岩山が広がる。そして南は海。

 そもそも、連合国内があまり開発されていない為、多くの森林がそのまま残っている。

 連合国内部で小競り合いが続けられるのは、国境警戒魔法(ウォール)の存在と関係なく四方からの進入ルートが限られており他国からの干渉がほとんど無いからだ。


 公国にとって連合国は非常に邪魔な障壁で、王国にとっては非常にありがたい防壁であった。


「先ずは川沿いに北上します。レイル山脈の麓にあるテレイア川の源流となるレイア池へ向かいます」


 出発当初から、ミシェルは北側寄りのルートを希望していた。

 アベルもいい加減話してくれるだろうと問う。


「そこに何かあるのか?」 

「公国の時計持ち(クロノス)。というかスファイ公国がこの機に王国にちょっかいを出してこない訳がないんです。

 出来るだけ人目につきたくない奴等なら、北の国境街であるノーザンデスを経由してテレイア川沿いに北上するルートでレイア池に向かうでしょう」


 アベルの脳裏にクライフ家の中庭で聞いた裏組織の者達の言葉が蘇る。 


「まさか!」

「レイア池での竜種召喚(ドラゴンサモン)をするつもりだと考えています。

 以前にブライブラン閣下が倒した小竜種(レッサードラゴン)は、その実験で喚び出されたものでしょう。

 本来居ないはずの竜種の出現に、周囲の魔獣は恐慌状態になって暴走した。

 前回は暴走した魔獣が南へ向かいましたが、東へ誘導する事が出来れば、王国が受ける損害は途轍もないものになります」


 王国憎しもここまで徹底されると怖くなる。


「隊の規模は想定できるか?」

「1小隊と生贄数人で多くて10名といったところでしょうか」


 アベルは少し考え込んだあと、声の障壁を解いて後ろのバレッタに声をかける。


「バレッタ・ヘイン。態々持ってきた位だ、クロスボウの腕に自信はあるのか?」

「バレッタでいい。Cランクまで来れたのはコイツのおかげさ」


 そう言って太もものクロスボウを軽く叩く。


「ならば、その腕を見せてもらおうか」

「おう」


 ようやく空に慣れたのか、バレッタは左手で胸を叩く。

 飛竜は速度を上げ、川沿いを北上する。

 川は少しずつ細くなり、森の中へと続いていく。

 以前にダレスが戦ったであろう広場近くの橋を越え、さらに奥に進むと高さ約10mの滝の上にあるレイア池が見えてきた。

 ほのかに揺れる焚き火の炎。そこには人の気配があった。


「見つけました」

「行くぞ!公国の奴等に天からの罰だ!」


 時計持ち(クロノス)にとって完全に想定外であろう、飛竜による夜襲が始まろうとしていた。

天鬼ぷるるコラボのお酒うめぇ~。

再販しないかなー。

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