クライフ家の真実
会話劇は書きやすくていいなぁ。
その言葉は確認ではなく確信。
時間が惜しいのは承知の上で、ダレスはクライフ家の面々に再び問う。
「いつからだ?」
答えたのはアレクセイ。
「元は私一人。アルベルト・フライアラが死亡したとは思えなかったパトリック殿が、引き続きヤツの足取りを追うことを依頼してきたのが始まりですな」
「では商会の設立とほぼ同時期か・・・」
「そのための商会とも言えますな。何せ、私が動きやすいよう商会とするように提案してきたのは妻ですから。いやはや、早々にバレて焦りましたがある意味最善でした」
「ミシェルが言っていたな。元々、各地の情報を集めていたのは祖母だったと。なるほど、貴方は各地を飛び回り、奥方が拠点で構える。立ち上げたばかりの商会ならば何も不思議ではない」
(あの柔和な微笑みを浮かべていた御夫人か。やれやれ、あの人は俺を見てどう採点しただろうな。せめて及第点は欲しいところだ)
ダレスは自嘲気味に笑みを浮かべた。
それを見て見ぬふりをしたままアレクセイは話を続ける。
「流石に私一人では効率が悪いので、このバックスを筆頭に、同じ孤児院の者を表では冒険者として育てつつ、裏では諜報員として動けるように鍛えておりました。
息子のレオナルドが生まれてからは後継として育て、成人の際に代表の座を譲り、私は・・・ワシは裏に回ったのです」
グランドキャスター越しにレオナルドが言葉を繋ぐ。
『僕は父から商会を継いだ当初、裏の活動については何も知りませんでした。知ったのは本当に偶然で、エレノアと出会ったのがきっかけでした』
その言葉にバックスのこめかみがピクリと動いた。
アレクセイも天を仰ぎ深く息を吐く。
「正直、あれはエレノアの落ち度とは言えませんな。何せ、表で商会長をしているはずの息子が、こっそりと偽名を使い、変装までして冒険者登録を済ませ、エレノアとパーティーを組むなど誰が想像できましょうか」
『商会としての規模はまだまだ小さく、動きやすかったというのもありますが、僕も父と同じ植物採取専門冒険者として活動してみたかったんですよ』
「動機は嬉しいが、おかげでエレノアの動きが制限されて困りものだったんじゃぞ」
そこで、ダレスがハッとした表情を浮かべる。
「そう言えば、堕天のリーダーがミシェルの母親の名を知っていたな。エレノア・カーマイン・・・。レオナルド・クライフ。貴方は一緒にパーティーを組んでいたと言っていたが、マチルダの話だと奥方がパーティーを組んでいたのは1人だけで、実質2人組だったと。ソイツはわずか1年でAランクまで駆け上がり、奥方と同時に表舞台から消えたと聞いた。
名前は『レオン・シュライエン』・・・なるほど『泣き叫ぶ者達』・・・それが貴方か」
『ハイ。これはまだミシェルにはバレていませんのでご内密に』
「案外知っていて黙っているのかもしれんぞ」
『かもしれませんが、言ってこない内はバレていないものとしますよ』
既にミシェルにバレていることを知っているのか、それを聞いたグランドキャスターのオペレーターの女性から「フフッ」と声が漏れる。
両親が名のある冒険者だったと知ったからこそ、ミシェルは冒険者になりたいという強い想いが生まれたのは容易に想像できる。
エレノアはそれを知らないから、ミシェルが冒険者になりたいのは周囲の影響による軽い気持ちだと思っていて反対していているのかもしれない。
後は単純に親として、子供には危険な目に遭って欲しくないという気持ちか。
分からんでもないが、親に憧れて同じ道を進みたいというのを聞いたら、自分なら心配より嬉しさで泣きそうだとダレスは思った。
ミシェルの本心を知ってエレノアがどう思うかはその時のエレノア次第だろう。
『続けますが、エレノアが裏の活動をしていたのを知ったのは、僕がエレノアとの結婚の意思を両親に報告した時ですね。
あの時の父の顔は今でも忘れられませんよ。まさに、開いた口が塞がらない状態でした』
「そりゃ、裏の中でもバックスに次ぐ2番手として期待していた者を、息子が婚約者として連れてきたんじゃ。ワシもミランダも何かの冗談かと思ったわい」
『エレノアも、まさか僕がクライフ商会の商会長だとは思っていなかったみたいで、クライフ家に近づく度に、『え?』とか『まさか』とか呟いていましたからね』
紹介された婚約者の父が組織のトップだったエレノアと、最も期待していた部下を息子から婚約者として紹介されたアレクセイ。
互いに固まったまま動かない。エレノアにいたっては笑顔が張り付いたまま、尋常ではない程に汗を流し青い顔をしていた。
諜報員としてそれはどうかとアレクセイは思ったが、当のアレクセイも似たようなものだった。
エレノアを紹介されて少し驚きを表したものの、泰然としたままだったのはミランダだけだ。
怪しく思ったレオナルドに理由を問われ、誤魔化せないと悟った2人は早々に口を割った。
『以降は、表の方に裏も組み込んで、クライフ商会は今に至ります』
気づける訳がない。設立から今に至るまで商会としてあまりにも自然すぎる。
他国の諜報員には常に目を向けていたと思うが、まさか自国に・・・それも身内の下にこれ程の諜報組織がいたことに気が付けなかった。
ただ、これはパトリックとクライフ家の隠蔽が見事だったからで、これでダレスを責めるというのは流石に気の毒というものだ。
露見した時の2人には多少同情するが、エレノアという優秀な人材を家族として向かい入れられたのはクライフ家にとって幸運な事だったろうとダレスは思った。
その結果、生まれたのがあの麒麟児ならば何も言うことはないだろう。
「ミシェルは知っていたのか?」
アレクセイは首を振る。
「先程まで知らなかったはずです。もとよりおかしな商会とは思っていたでしょうが、ミランダとバックスがいい感じに誘導してくれました。真実を知ったのは堕天の者がエレノアの名を呼んだ時でしょうか。明らかに私に向ける目がぶしつけなものになっていましたから」
自分と同じで、なんとなくミシェルは感じてはいただろう。
そして全てを知った時、ミシェルも自分と全く同じ理由で身内に対して憤っているという事も容易に想像できた。
これが最前線で走り続けている者の真髄なのだろう。
今後どれだけ研鑽を積もうと、年齢が追いつかない限り化かし合いという土俵では、この2人の老獪さには勝てる気がしない。
「今も聞いているのでしょう?義父上」
僅かな沈黙の後、レオナルドのものとは違う、聞き慣れた声が別のグランドキャスターから聞こえてきた。
『理由が何であれ、君がベルリナのクライフ商会へ向かったと聞いていたからバレるのは時間の問題だと思っていたよ』
「よく言いますね。俺がここに向かうよう仕向けておいて。片手薬の仕様書にミシェルの名前を載せるよう指示したのは義父上でしょう」
『バレたらバレたで、理解が早すぎてつまらんな』
「それでよくこれまで隠し通せたものです。グランドキャスターの事も含めてね」
『そう簡単にバレたら秘密にする意味がないじゃないか。
まぁ、バラしたのは、将来的ではあるが、出来れば君に私の後継としてクライフ家を任せたいという算段があったからだね』
「出来ればも何も、逃げ道を塞いでおいてよく言いますよ」
『これでも私は君をとても高く評価しているのだよ?
初見でマチルダを打ち負かした時点で、ブライブランの姓を名乗るだけの武才が有ることは分かっていたが、マチルダの勘は良く当たるとはいえ君は他国からやってきた者だ。
君の身辺はクライフ家に頼んで念入りに調査させてもらったよ』
「そうなのか?」
問いかけたダレスにアレクセイは無言で頭を下げた。
『結果は問題無しだったし、ならばその上で君の能力を見極めようと色々手を回した。
武力より知力の方が勝っていると知った時は小躍りしたものさ。
後は言うまでもないだろう?
その能力の高さを把握した時点で私は君をクライフ家を任せる後継にするつもりで準備を始めたんだ』
「義兄上ではダメだったのですか?」
『あの子は真っ直ぐ過ぎてね。マチルダにいいようにされているのもそれが理由だというのに気が付いてすらいない。裏を仕切るのには向いていないよ』
「まぁ、分からなくもないですが」
裏表の無い実直さがアベルの良さでもあり、苦労と不憫を招く一因でもあるのは家族の共通認識である。
初対面のミシェルにすら見抜かれて、義兄の今後が心配になるダレスであった。
「で、俺がクライフ家に来た時に、ミシェルを残して家族全員がいなくなったのは義父上へ報告をする為ですか?」
『流石にマチルダの登場には面食らったそうだ。
まさかアベルを連れてそちらに向かうとは私も読めなかった。
あまりにも突然の出来事に、アレクセイ殿はともかく、ミランダ夫人の慌てた声は初めて聞いた気がするね。
それくらいの慌てっぷりだった。
私も報告を聞いて頭を抱えたよ。
君は当然のように予見していたみたいだが』
「生まれた時から一緒にいる義父上が読めない事を、クライフ家はもとより、俺だって読める訳がありませんよ。
まぁ、追いかけてくる可能性はあると思っていましたが、それは後追いの騎馬部隊に便乗してくる想定です」
『それなのに、アベルの出撃許可と部隊が追従できるように手配していたじゃないか』
「義兄さんを巻き込む可能性が極々僅かですがあり得ると思いましたので、あくまで保険のつもりでですよ。
もし、万が一の事があったら、飛竜の無断出撃で義兄さんの首が物理的に飛ぶ事になりますから。
まさか、本当に万が一が起きた上に、後2日で世界の命運が決まるほど切羽詰まった状況下で高速移動出来る飛竜騎士部隊という足を確保出来て、義兄さんの出撃もその為であると言い訳も出来るようになるなんて、あの時申請しておいて本当に良かったと過去の自分を褒めたいですよ」
『そういう事にしておこう大局観殿』
「クライフ家の正体を掴んでいなかった嫌味ですか?」
『父親としての矜持だよ』
「それで義父上。確認ですがクライフ家は王国の裏組織なんですか?」
『いや。完全に私個人が抱えている組織だ。王国の上層部の誰一人として存在を知る者はいないよ』
「それは陛下も?」
『ああ。そうだ。
当然。王国にも裏はいる。かち合わないよう立ち回るのは骨が折れるよ』
若い組織であるし、違うとは分かっていたが、陛下にまで隠しているのかとダレスは少し驚いた。
「てっきり、マチルダの件で頻繁に呼ばれていたのは陛下や宰相殿と話を擦り合わせる為のカモフラージュかと・・・」
『それは本当の説教だよ・・・』
「そうですか・・・」
あの気の毒になる程の説教が、実はカモフラージュだったのかと安堵しかけたダレスであったが、マジだったらしい。
『あの娘もね、アベルとは違う方向で真っ直ぐだ。
正直。あの娘が自分で伴侶を見つけに行くと言った時には、マチルダの子を抱くことは無いなと諦めた。
だから、その日に引きずられてきた君がマチルダに勝った時は本当に嬉しかった。人目をはばからずに号泣したのはマーカス殿のブートキャンプ以来だったよ』
未だ聞くだけの『絶叫のマーカス』によるブートキャンプ。
義父の言葉にそれ程かと、ダレスはアレクセイに身構えてしまう。
『それで、君という伴侶を得て少しは落ち着いてくれると思っていた時もあったよ。
すぐに気のせいだったと理解させられたけどね』
「心中お察しします」
『他人事の様に言わないでくれるかい?』
何人かのオペレーターが思わず吹き出す。
『まぁ、話を戻そうか。
三国国境の件は君の従兄弟君から話を聞いて、どうにもキナ臭いと思ってクライフ家に探ってもらっていたんだ。
従兄弟君に君と情報を共有するよう頼んだのも私だよ。
まさか竜種召喚や精霊国なんておとぎ話に、公国と聖国の暗部まで一網打尽という、想定の遥か上の報告を受けて、私の理解が追いつかなかった位だ』
「正直、暗部の捕獲がおまけ扱いみたくなりましたからね。
それにしてもクライフ家の戦力は異常です。俺もアイツ等みたく、気づいたら簀巻きにされて部屋に転がされていそうで怖いですよ」
ダレスが視線を向けた先には、その戦力を整えたアレクセイが申し訳なさそうに視線を逸らした。
『そこまでやれとは言っていないと叫びたいが、味方のうちは頼もしいからね。
あまりアレクセイ殿をいじめないでくれ。
私としてはミシェル君と君が出会うことで、行き詰っていた状況を打破できればと軽い気持ちで君を向かわせたのだ。結果は先程言った通りさ』
「俺をクライフ家に向かわせて、その正体を分からせた上で後継者に指名することが本命だったのでは?」
『それは既定路線だね』
ニヤついている義父の顔が目に浮かぶようでダレスはちょっと苛ついた。
『本当に共和国を含めた三国国境付近の動き。特に帝国の動きが意味不明だったんだ。
従兄弟君も頭を抱えていたよ。査定額を多少盛られるとは思っていたが、あんな論外な額を呈示されるとは思っていなかったとね』
「その件に関しては俺もミシェルもまだ理由が分かってはいません。
帝国。いや、皇帝リハルト・ハーヴィーの思惑があっての事でしょうが・・・」
帝国が態々共和国と矛先を構える理由が分からないのはダレスも同じだった。共和国の動きを牽制するだけなら他にいくらでもやりようがあるからだ。
ただ、共和国は賠償額がいくらだろうと、グリフィスを中心に難癖をつけて最終的には徹底抗戦を掲げて軍が出てきただろう。
帝国も対抗しなければならない以上、今の三国国境で両国がぶつかるのは不可避だったのかもしれない。
ただ、その前に王国に話を通して仲裁を願い出ていればここまでややこしくはなっていなかったはずだ。
グリフィス達も王国が出てきていたら帝国に軍を向けるような真似は出来なかっただろう。
それは従兄弟から聞いた情報からも分かる。
王国に仲裁を申し込んだのはグリフィス派に対抗する従兄弟の属する派閥によるものだ。
つまり帝国。リハルト皇帝は共和国との和解など初めから考えていなかったと言うことになる。
その考えが理解出来ない。
三国国境でドラゴンが顕現する事への対応?
時計持ちと堕天が生贄を用いてドラゴンを召喚しようとしているのは間違いないだろうが、帝国はとっとと和解して軍を引き上げれば、ドラゴンが現れたとしても共犯である共和国軍だけが痛い目を見て終わりだったはずだ。
だが、帝国は和解を蹴ってまで王国まで巻き込む方を選んだ。
証言によれば、1人。多くても数人程度の生贄ではドラゴンを召喚したところで顕現している時間はそう長くはないという。
それは、これまでに行なった実験結果を踏まえた上で、捕まえた堕天達が語った内容であり間違いは無いだろう。
これまでとの違いは、今度の満月の夜が『赤の月』と『青の月』が最も大きく輝く36年に1度と言われる『紫凰の満月』であるという点だ。
その日に行う召喚はこれまでの『紫光の夜』の時と何か違うのか?
知っているのはアルベルト・フライアラとその一味だけだろう。
何かしらマズイ事になるのは分かりきっている。
何れにせよ実行者を止めれば済む話だ。
『そちらは君に任せるよ。飛竜騎士と共に向かうのだろう?』
「はい。皇帝の思惑はこの際後回しです。
先ずは、堕天の言うドラゴンの召喚は阻止しなければなりません。
そもそも、聖国と公国の狙いが本当にそれだとも限りませんし、他の思惑があったとしても俺が現場にいた方が都合がいいですから。
アイツにも詳しく話を聞きたいですしね」
ダレスの脳裏に疲弊した従兄弟の顔が浮かぶ。
『調査報告を聞くに、君の従兄弟は白で間違いないだろうが、共和国そのものは黒寄りの灰色って状態だろうからね。気を付けてくれ。
アルベルト・フライアラの何がそうさせるのかは分からないが、本当に厄介な敵だよ』
『敵』パトリックはハッキリとそう言った。
全ての元凶はアルベルト・フライアラで間違いない。
ダレスとミシェルの考える本命は、聖国と帝国の両国がぶつかるであろう国境付近にある大草原。
その近くにはお誂向きの水地がある。
本命と推すならばダレスが向かうのが正解なのかもしれない。
だが、三国国境も放ってはいけない。
『それで、聖国側にはミシェル君を向かわせるそうだね。どんな方法で国境を越えるのか分からないけど、アベルの飛竜に乗せて』
「方法に関しては後で聞きますが、どんな手だとしても驚きませんよ」
『手続きを無視して契約魔法を無効化するような子だからね。
だが、いささか博打が過ぎるんじゃないかい?
アドラー君を向かわせた方が良い気がするが』
「その案もあったのですが・・・」
例の大捕物の後、証言を聞いてどちらに向かうかダレスが迷っていた時に、隣にいたマチルダがもらした言葉で決めた。
『あの子が帝国に行ったら案外あっさりと解決しそうね』
誰に聞かせる訳でもない、本当に何気なく口から出た言葉だろう。
それでも、彼女の勘から出た言葉と思い込む事にして、ミシェルに丸投げするのもアリだなと。
全額ベットされた本人だけが知らぬ間に、ルーレット上では玉が転がり始めていた。
ACという言葉は私を狂わせる。
アーマードコアといい、エースコンバットといい、公共広告機構といい(冗談です)
おまけのZEROベルカン・ウォーの方がが楽しみとも言えなくもない。




