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第45話 帰還

 私は魔王の頭に手を当て、魔力を奪い取る。光を放ちながら二本三本と尻尾の数が増えていく。

 私の尻尾が五本になった頃、魔王の体が縮んでいった。


「魔王……お元気で」

「ツキノ。今までゴメン。拘束してしまって申し訳なかった」

「いえ。勇者様の所ではいい子にするんですよ」


 二人は抱き合い別れを惜しんだ。

 魔力の吸収がおわるころ、魔王はすっかりただの子猫になっていた。



「デリック、ユキちゃん帰還の儀式をお願い」

「よしきた!」


 デリックはエルの風の魔術でゆっくり一回に降り立つと、カバンからチョークと紙を取り出して床に魔法陣を描きだした。


 その間に私は後始末をしておかないと。


「わたくしがサポートしますわ」


 ユキちゃんが私の右手を取って私に干渉してくる。

 乱れた魔力が不思議と整っていく。


『操った者たちを正気に戻して』


 魔術を紡ぐ。強く思って言葉にするだけで、思いが簡単に魔術になっていく。


『そして傷ついてしまったすべての人を癒して』


 魔術を唱え終わると私の尻尾が一本減っていた。



「和美!!」

「かずみさああああん」


 アカトラとジプチが飛び込んできた。

 どうやら魔術が届いたらしい。

 無事でよかった。

 あとから将軍がしょんぼりしながら入ってきた。


「勇者様、王都へは来てくださらないのですか」

「うーん、ごめんなさい。あまり長時間この魔力を維持できないもので」


 私は汗をぬぐいながら言った。

 思った以上にこれを維持するのは大変だ。身体がカイロのように熱い。


「ご迷惑おかけしました」

「いえいえ、いやほんとだよね」


 周りの猫又はちょっとぎょっとしてこちらを見た。

 ごめんごめん。


「でも、私も成長できた、かもね」



「おーい、準備できたぞおお」


 広間の真ん中でデリックが呼んでいる。

 私は線を消さないように気を付けながら、子猫サイズの魔王を抱えて真ん中へと向かう。


「和美さんこれを」


 ジプチに何か布で覆われた包みを渡された。

 何だろう?


「とりあえず持っといてください」

「うん」

「元気でな」

「魔王をよろしく」

「本当にありがとうございました」

「お前がいなくてもさびしくなんかないんだからな!」

「はいはい。じゃあね」


 みんなと別れの挨拶を交わす。

 命を懸けた仲間。離れるのは少し寂しい気がする。

 もらった荷物も持ったし、帰還準備は整った。


「みんな、元気でね」

「じゃあ、始めるぞ」


 デリックの声で儀式が始まる。

 皆が魔方陣の外に行く。

 ユキちゃんの鈴のような声が魔術を読み上げる。


『彼の魔力よ、この世の理から彼の世の理に転じ』


 一呼吸おいてユキちゃんが爪で自らの肉球を傷つける。


『勇者並びにこの陣の上にありしものと、かつて送り付けた生贄と取り替えよ。この純潔なる乙女の血において命じる』


 ポタリ、陣にユキちゃんの血を流すと陣が発光した。

 ああ、身体が熱い。

 先ほどのカイロどころじゃない。

 まるで煮え湯の中に放りこまれたようだ。


 ……いけない!


 帰る前に残りの魔力はどうにかしないと。猫耳のまんま帰るとか論外だ。


『おねがい、ニャングリラの人を幸せにするのに使って』


 私は帰還の儀式に使われなかった魔王と巫女の魔力を放出した。

 虹色の光になってあちこちに飛んでいく。

 綺麗だ。

 耳と尻尾が消えてゆく。


『帰還せしめん』


 ユキちゃんの言葉を最後に私は意識がなくなった。



 目を覚ますとそこは我が家のリビング。

 私はへたり込んだ。

 服は向こうにいたときの革鎧のまま変わっていないし、現実だったのだろう。靴、脱ぎ忘れてた。

 黒猫もしっかり抱いていた。


「ふう、帰ってこれたなあ」


 独り言を言うとどこからか


「おかえり」

と聞き覚えのない若い女の声が聞こえてきた。


 え? どういうこと?


 私はあわあわと周りを見回した。

 誰もいない。


「うわ~えらい汚いかっこね、着替えてきたら?」


 え?


 声の方向にいたのは猫のライチだった。


「和美がいなくてご飯もないし焦ったんだから」

「ご、ごめん」

「いいのよ」

「あの、ライチさん。なんで私達話せるんでしょうね?」


 ライチははっとした顔をした。


「えっと? 翻訳されてるかな?」

「メェオ王国公用語だな」


 魔王が言った。


「……マオ!」

「ライチねえさん?」


 名前を呼び合うと二人は匂いを嗅ぎあった。


「また会えるとは思わなかったわ」


 どうやら二人は知り合いで、ライチは前回の勇者に連れてこられたらしい。

 って、今はいつなんだ?

 テーブルの上に放置されていた携帯電話をチェックする。

 ……二日しかたっていない、だと? 時間は夕方五時か。



「おおーい、和美ー無事着いたかー?」


 デリックののんびりした声が届く。

 糸なし糸電話が包みに入っていた。他には四つ折りの紙となんか黄色いかたまり。


「あの、着いたんですけど、時間が」

「ああ、異世界ではよくあることだな」


 ニャングリラと地球では時間の進む速さが違うらしい。


「今度そっちに行ったらいろいろ案内してくれよ」


 来る気か! よく見るとさっきの紙の中に複雑な魔法陣が描かれていた。道楽じじいめ。



「ただいま~」


 あああ、そうこうするうちに母さんが帰ってきたー。


「あらあら? 大変だった感じ?」


 どうして母さん普通なんだ? 娘がこんな鎧とか着てへたり込んでいるのに。


「う、うん」

「あら、新しいお友達?」


 母さんが、ライチと魔王に話しかける。


「マオです。私の弟みたいなもんです」

「あらあら、よろしくね」

「よろしく頼む」


 母さんはライチがしゃべるのも普通に返しているし、え? え?


「母さん?」

「なあに? 心配したのよ。なかなか帰ってこないから。あらあら、こんなところに封筒が?」


 それは私が送ってもらった手紙。読んでないのか。というか中身は……イタイ文章だ!!!


「読まないで!!」

「自分探しの旅にでます? あらあら?」

「いやあああああ!!!!」



 結論。母さんは最初に呼ばれた元勇者でした。

 もともとメルヘンな人だからライチに話しかけていても違和感がなかったんだけど、まさか本当に会話していたとは。


「帰ったらリビングにヤギさんがいてびっくりしたのよ?」


 なんてのんびりと言う。


「あら、それ、バターね。和美ちゃん痩せたから、質量を同じにするためらしいよ? やだなつかしい」


 言って母さんは冷蔵庫にしまった。


「あらあら、でも冷凍庫のささみが根こそぎもっていかれちゃったわ」


 母さんの時は晩御飯のトンテキがもっていかれてくやしかったらしい。筋肉分のタンパク質か?



「私の前の勇者も、ひょっとして私の知っている人?」


 ライチが来たときのことを思い出す。たしか家に連れてきたのは、

「ええ。正和さんです」

「あぁ、やっぱり。正兄か」

今は一人暮らしの兄だった。


「ライチ姉さん。ボク、さみしかったんだよ」

「和美たちはいいひとたちだよ。私もいるし、もうさみしくないよ」


 ライチが言うと、魔王は嬉しそうな顔をした。



「ただいま~って和美!!!なんて恰好してるんだ」

「父さん!」


 あ、ズボンに穴あいてたの忘れてた!


「来たぞ~」

「ちょ、デリック! ややこしいから、あとにして!」

「おお~これ何美味しい」

「コラ! マオ! 勝手にお刺身食べんな」

「あらあら」


 ニャングリラは救われたけど、私のあわただしい日々はまだまだ続きそうだ。




 おしまい

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