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第42話 魔王、そしておちる

「君達とボクが対等だと思っているのかい? 答えはもちろんノーだ。別にボクが主体的に彼らを操っているわけではないしね。気持ちが増幅してるところにちょっとお願いしただけなんだよ? 勝手に入ってきたら迷惑だから」


 魔王との話し合いは決裂した。

 ユキちゃんとエルがゆらゆら揺れている。


「だいたい君は猫又ですらないのになんで彼らに協力するんだい?」


 私は剣の柄に手をやりながら答えた。


「勇者なので」

「和美についに勇者の自覚が」


 デリックはこちらを向いた。


「あなたを封印して必ず帰りたいの。人間らしい生活をするために! お風呂入りたい、洗濯したい、恋もしたい! 松茸のお吸い物はエキスがないと虚しい!」

「か、和美?まさか、お前まで……」

「不謹慎ダ」


 エルはおかしくなりながらも突っ込みを入れた。


 ごめん。ちょっと本音が出ちゃった。


「はははは、勇者が私欲まみれとは滑稽だな」

「帰りたいものは帰りたいんだよ」


 魔王は、はははと笑った。


「お前を帰してやるから仲間になれ」

「バカだな~。普通に労働前払いなんて信用できないし。一回帰ったら仲間なんて面倒臭いことするわけないじゃん」


 帰る手順だって、封印くらいしか信用できないし。


「もちろんニャングリラをちゃんとしてから帰りたいしね。何度も呼ばれたらかなわない」


 魔王は顔の毛を逆立ててこちらへやってきた。

 全貌がゆっくりと明らかになる。

 赤く大きな瞳には怒りをたたえ、膨らませた頬が幼い。全身黒い毛の長毛で子供の猫又族。尻尾はうごめいていて何本かわからない。


「子どモ!?」


 猫又二人が動揺する。


『さア、ソコノ猫又ヨ、人間ヲ攻撃スルノダ』


 魔王の声が変化し与えられた命令に二人は虚ろな目をしてこちらを向いた。


 マズい!


『香れ マタタビ!』


 私はとっさに魔術を唱え、二人を行動不能にした。魔王はまだ立っている。


「ナンノ真似ダ」

「魔王に効かぬとは!」


 私は急いで酔っ払い状態のユキちゃんをかかえ手近なドアへと走った。


「デリックも早く!!」


 デリックは息も絶え絶えに必死に走る。追いつかれそうだ。


『ミカンの香りビーム!』


 魔王が一瞬顔を歪める。魔王の前でなんとかドアを閉めきる事ができた。

 さっさと猫又二人をミカンの魔術で正気に戻す。二人ともマタタビとのダブルパンチでぐったりしている。私も魔力切れ手前だ。くらくらする。


 とりあえず立てこもって策を練ろう。

 暗いからよくわからなかったけれど、ここはトイレのようだ。今まで泊まった宿屋より上等で砂はきっちり枠内に収まっていて清潔に保たれている。

 しかしトイレかあ……。見回したところ窓もないけれど、私は魔力の回復も必要だし、しかたがない。


「隠レタッテ無駄ダ、ソコガ密室ダト我ハ知ッテイル」


 ミカンビームを食らってなお、魔王は余裕のようで我々が出てくるのを待っているそうだ。

 確かに何時間も四人でこもるには向かない。


「和美、この先どうする?」


 頼みの綱のマタタビはサッパリだったし、ミント……は個人差があるけど、やってみるべきか?

 そういえば、マタタビの効果が切れるまでに倒さないとまた、軍が来るのか。


 ……うーん。


 答える間もなく体に感じる違和感。


「あ、あっ、足ぃいいい」


 足が、足が床に取られる!


「どうした、和美! うわああああ」


 床が柔らかくなり、私達の体が沈んでいく。

 まさか、魔王の罠か!

 ここは魔王の居城だ。不思議な作りになっていてもおかしくはない。


「畜生、はめられたか」


 デリックの言葉を最後に私は意識を手放した。



「……て、……よ、……の巫女よ」


 誰かの声がする。

 私が目を覚ますと、声の主は半分闇にとけていた。

 黒い猫又……魔王か!?


「……っ!」


 剣を構えると黒い猫又が瞳孔をまんまるにして驚いた……目が黄色い?


「あなたは何者だ?」

「剣を納めなさい、人間。私は鎮魂の巫女ツキノ」


 ツキノと名乗った猫又は落ち着きを取り戻し、少しかすれた声で言った。

 漆黒の毛並は胸のあたりだけが白く、アクセントになっている。彼女はヨツマタのようだ。


 鎮魂の巫女? は聞き覚えのまったくない名詞だ。ただの巫女ならばユキちゃんがそうだったけど。


「ここは魔王の城だよね? 私達にとって敵である確率はとても高い。どうして武装解除をしろなんて?」


 周囲を確認するに部屋は暗い。不意打ちでもされたらかなわない。

 デリック、エル、ユキちゃんはまだ目を覚まさないようだ。


「そうだな。あなたたちはかなりの時間ここで気を失っていたのだが、私が何もしなかったことが敵意の無い証明になるのではないか」


 確かにそれはあるかもしれない。


「しかし、意識を取り戻したところで魔王が操りに来る可能性は?」

「それなら捕縛なり何なりするだろう?」


 言い負かされた私は、とりあえず剣を納めた。

 部屋は暗いけれどトイレに繋がっているとは思えないほど、どこか神秘的で静謐な空気をしていた。


「四人も落ちてくるとは……しかも二人が人間とは予想外だ」


 ツキノは私達を見て言った。


「聞きたいことはあるだろうが、話は全員起きてから話をしよう」


 私はとりあえずツキノに自己紹介をした。


「なに? あの伝説の勇者だと?」

「はあ、私は別に同一人物ではないのですが」


 ツキノは興味津々のようだ。


「ではその剣は神器のようなもの?」

「いや普通の鉄の剣ですけど?」

「え……? じゃあ何を?」

「いやあ、魔術の方が得意かな?」


 私は少しごまかした。


「魔王に効かなかったけどな」


 エルが起き上がりざまに嫌味を言った。


「あんたは操られていたでしょ?」

「んなわけ……」

「あったな。私は見た」


 デリックも起きた。ユキちゃんは半身を起こしてキョロキョロしている。あ、ツキノを見て固まった。


 全員起きたのを確認してツキノは名乗った。


「我が名はツキノ。現在の鎮魂の巫女である。次代の巫女の選定のため貴方達を呼んだのだ」


 それはとてもよく通る声だった。

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