第4話 私と方向性
ジプチが手紙を送っている間、デリックは私に膝掛けを持ってきて、お茶を入れてくれた。
紅茶に近いそれはとても落ち着くいい香りで、この老人は凝り性であることが伝わってくる。
「落ち着いたかな?」
私は一息つく。
「ええ、まぁ。少しは。」
「じゃあ、まず名前を伺ってもいいかな?お嬢さん」
妙に紳士ぶった口調でデリックが訊いてきた。バカにされている気分だ。
しかし、取り乱して名前すら教えていなかった私はぶっきらぼうになりながら仕方ない、と
「小桑和美。姓が小桑、名が和美」
異世界の人にもわかりやすいよう名乗った。
「なるほど。名前の順はこの国と同じようだな。ちなみに私は名前がデリックで姓がバヂなんだよ。翻訳が微妙なのだと思うんだが、デリックさんって和美が呼ぶと、どうもデリックじいちゃんの意味に感じるから呼び方はデリックでいいから」
翻訳が微妙なこともあるのか。
そしてデリックは隠居と言いつつも若ぶりたい人だ、ということがわかった。
「わかりました。デリック。ではもう少しこの世界について訊いてもいいですか?」
「いいとも。しかし和美の世界についていくつか訊いた方が話しやすいのだが」
デリックが訊いてきたのはどんな種族がいるのか、政治体制、人を襲う野生動物、治安、教育レベル、あと階級についてなどだった。
「まさかそんな平和なところから来たなんて!」
いつの間にか戻ってきたジプチは、私の話の一部を聞いて唖然としていた。
それはそうだろう。
何せ私は『救世の勇者』として召喚されたのだ。戦いを知らない者がくるとは思っていなかったのだろう。
デリックはまあまあ、まだ訊いてないことがあるから、とジプチをなだめた。
「女だし、見たときから体力的なことはあまりあてにして無かったんだが、魔力はどうだ?仙術や気功、魔法、妖術何か心得があるはずだろ?」
「そもそも私の世界には基本的に、そういう魔力といった類のものがありません」
私がそう言い切ると、デリックも唖然とした。ジプチは絶望の表情をしている。
「そんな……いやしかし……救世の勇者として来たんだし」
二人があまりにうろたえているので、私はフォローした。
「た、例えば、私が来るだけで助かるとか、私にしか使えない武器でしか世界を救えない、とかないですか?」
「そんなことあったらとっくに知っとるわい! いろいろ試して最後、君に思い当たったんだから」
デリックはキッと目尻を上げた。
ジプチは完璧に平静を失っている。
「どーしたらいいんでしょう! 魔王に対抗する最終手段が非力なただの女なんて! 歴史文献をあたってやっと見つけ出したのに!」
「もしかして……色仕掛け?」
デリックが発言し、キラキラした二人の瞳が私をじっくり見定める。
どんなに見たって私は美女でもないしナイスバディでもない。いたって日本人の標準体型である。
身長は155センチ、体重は美容体重には届かないが、健康体重の範囲内である。
顔は……自分で言うのも情けないけれど、なかなか覚えてもらえない十人並みだった。
いたたまれなくなった私は、おどおどしながらも冷静に指摘した。
「……あのぅ、敵について全く聞いてないんですが、人間は少ないんですよね?色仕掛けなんて効きますか?それに私って平凡だし、無理なんじゃ」
二人は再び、しかし今度は静かに頭を抱えた。




