第38話 転移
三日ほど行き、魔王の山も見えてきた頃、トカゲの魔物の集団との戦闘中にデリックから紙コップ通信の呼びかけがあった。
私は目の前のトカゲを蹴り倒し戦闘を外れ、アカトラ達に任せる。
紙コップを取り出し口元に持っていく。
「いまどのへんだい?」
「ようやく魔王山が見えてきました。山を取り囲む湖のほとりといったところかなあ」
「なるほど。では午後には麓に着きそうだね?」
「ええ。スムーズにいけば」
「魔王の正体がもと王族だというのはやはり、正解のようだ。毛色が違い瞳は両親のどちらとも違う色だったらしい」
「なるほど」
「あまりに違う毛色だったのか、王宮に置いておくのも忌避されるほどで山に捨てられたようだ」
「それが今の魔王山?」
「そうなるらしい。その辺は諸説あるみたいだけどな」
デリックは一呼吸置いてからこわばった声で、
「帰還の儀式についてもわかった。王族の乙女の血の他に、魔王の力がいるらしい」
と言った。
なるほど、ユキちゃんの語った昔話と見事に一致した。
通信を終え、私達はひたすらに魔王の住む山へ向かう。トカゲがかなり多い。さすが魔王山の近くということか。
湖には橋が架かっていた。通せんぼする魔に魅入られた人達の足止めをし、ミカンの匂いをかがせてみる。
効果は抜群のようで、正気に戻った人はポカンと口を開けていた。
橋を渡り昼食を軽く取り、ようやく麓あたりに着きそうだという頃。
「お~い」
本日二度目の入電。
「魔法陣を描いた紙を渡しただろう?あれを取り出してくれないか?」
なんだろうと思いつつ、紙を取り出した。
すると紙に描かれた魔方陣が光りだす。
「え?」
持って裏などを確かめてみたのだがよくわからない。
カッと強い光が発生した後、どさりと大きい音がした。
「いたたたた……」
「師匠! 退いてください!」
そこには半分下敷きになったジプチと肩をさするデリックがいた。
「え?」
どういうこと!?
「さすが、賢者様。転移はお手の物ですね」
エルが言う。瞬間移動のようなものだろうか。
「一番の得意分野だからな。驚いたろう?」
ハハハ、とデリックが笑った。ジプチはなぜか私が召喚の時に持っていたキャットフードを抱えていた。
「転移って! こんなにすぐに移動できるなら、最初からすればいいのに!」
私は本心が口からすべりでてしまった。
「すまんね。 私はその魔法陣のあるところにしか転移できないのだ」
デリックはえへんと胸を張った。いつでもどこへでも出来るわけではないらしい。
「もうすぐ魔王山だと聞いたから助っ人にきたのです」
ジプチが頭をかいた。
「危険だよ?」
「大丈夫なのです。基本後方支援でがんばります」
ジプチの日頃の様子を思い出して、より心配になってしまった。
本当に大丈夫? 君は自分の毛を自分の魔術で燃やす子だよ?
「魔術は使わない予定ですよう」
ジプチはあまりの信用のなさにしょんぼりとした。
いよいよだ。
私達は魔王山へと立ち向かう。
「行くぞ!」




