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第37話 盗賊と親子

 あれからデリックからの連絡もなく、私たちは魔王の山に向かって五日ほど歩いている。

 魔物や魔に魅入られた猫又に出くわす頻度も増え、アカトラと私だけでは対処しきれず、エルが魔術を放つこともたびたびだ。

 そのため思ったより旅路は進まない。

 そして今日は大雨。

 普通の猫又はまず旅をしたがらない天気だ。

 しかしわたしたちは頭に笠ををかぶり、毛でできた布を肩にかけて二足歩行で歩いていく。二足歩行なのは水のつく面積を減らしたいからだと以前聞いた。


「みんな、大丈夫?」

「ああ」

「だけど、肉球がふやけそうだぜ」

「風邪ひきそう」


 二人は体をぶるぶると震わせた。


「つぎの街か、休めるところを見つけたら休もうか」


 私が提案するとみんなが賛成した。



 ほどなく道沿いに大きな木を見つけた。すでに先客がいるようで、声が聞こえる。


「……さい。これは子供の」

「うるせえ、さっさとよこせ」


 鬼気迫る声色にアカトラが腰の剣を抜いて近づいていく。


「おい!」

「なんだぁ? はん、刃物? なまくら爪のヘンテコがなんのようだ」


 私たちも声の方へ向かうと五人ほどの盗賊だろうか? ガラの悪い男達が親子らしき女性と子供を取り囲んでいた。


「ヘンテコ、だと!?」


 アカトラは目つきを変え、剣を構える。

 彼らの言動からして魔に魅入られた類の人間ではないだろう。こういう輩だというのに魔の瘴気に当てられていないのは最近レアだ。

 アカトラは彼らの頭目と思しき男をねめつけ、一閃。


「お前の爪の方がなまくらじゃないか」


 はらりと人差し指と中指の爪が落ちた。


「野郎、俺は、なあ、そこの女の人と仲良くしようとしていただけだ」

「そうですの?」


 ユキちゃんが母親に問うと彼女はぶんぶんと頭を横に振った。


「てめぇ」


 盗賊の一人が母親の胸ぐらを掴んだ。


「やっちまえ!」

「そっちの白いねーちゃんも捕まえろ。お貴族様なら高く売れるだろ」


 ユキちゃんの方を向いた盗賊にアカトラの蹴りが入る。

 頭目はアカトラの背後を狙う。


 どうしよう。

 私は手に汗を握る。

 参戦すべきか?でも対人戦には自信がないし、今日は雨。土を目つぶしにはできない。


『水の玉よ』


 ばしゃりと母親を掴む盗賊の顔に魔術が当たる。

 チャンスだ。

 私は盗賊に飛び蹴りをした。


「ふぐっ」


 腹に直撃し、剣の平らな面でぶったたく。

 峰打ちって切れなくても絶対痛い。

 時代劇の一シーンを思い出しながらも、敵を蹴る。

 私が一人倒すうちにエルは次々水の球を盗賊に当て、アカトラは頭目を蹴倒していた。


「野郎ども引くぞ」


 ぼろぼろの頭目が部下に声をかける。雨の中、震えながら男たちは去っていた。


「助かりました。ありがとうございます」

 母親が頭を下げた。


 私たちは周辺の小枝を拾い、エルが火をつける。湿気っていたけれど風の魔術と火の魔術で何とかついた。

 体の水滴も吹き飛ばし、火にあたった。


「ふう」


 タビと名乗った母親は不思議な顔で、私たちを見る。魔術が珍しいのだろうか?


「あのっあなた方は」

「しがない、えちごのちりめんどんや」


 ぼそり、と峰打ちから連想した考え事を呟いてしまうと、エルたちは首を傾げた。


「ああ、なんでもないごめん」

「和美はたまによくわからないことを言うよな」

「まあ、いいじゃない。異世界人なんだから」

「異世界人?」


 タビが首を傾げた。子供はあたたくなったのにつられて舟をこいでいる。


「召喚された勇者なんです。この人間は」

「あら、噂の?」


 噂になっていたのかと、私は内心ニヤリとする。ようやく私の活躍が認知されたかな?


「あんまり、いい噂じゃあないぞ」

「エル!」


 ユキちゃんが口に指を当ててシーッと喋らないようにけん制する。


「そうなの? し、知りたいような怖いような」

「あら、私は足が遅いとか位しか聞いてないんだけど」


 タビは目をぱちくりとした。


「足が遅いかあ」


 正直早い方ではないし、べつにいいかな。


「はやく魔王を封印して欲しいってみんな言ってるけど、なにか理由があるのでしょう?」


 助けたことでずいぶん信用されたのか、タビはキラキラした瞳をむける。


「まあ修行とか、イロイロあったんですよ」

「そういえば奥さんは何故このような日にこんなところまで?」

「もう一人いる子供が高熱をだしてしまって。下がらないので隣町の薬屋まで行ってきたんです」

「なるほど、それは心配ね。お家の方角は?」


 ユキちゃんがたずねたところ、私達の向かう方向と同じだったので、同行することにした。体を乾かせる人員がいるいないで、雨の日の旅は速さが違う。


 タビは今、幼い息子二人との三人暮らしだそうだ。


「半年ほど前に夫が突然出て行ってしまって。何か様子がおかしくなっててね」


 タビさんはずっと帰りを待っていると言った。旦那さんの様子について聞くと魔に魅入られた人とそっくりだった。

 こういう時くらい楽をしないと、とアカトラが子供をおぶる。時々振り返って手を振る子供にタビは笑顔で応える。

 つらい環境にあっても笑顔を絶やさず、母親というのはすごいな。と私は思った。


 幾度かの休憩を経て小さな村についた。


「良かったら、私の家に寄っていきませんか?大したお礼もできませんけど」

「おんぶのおじちゃん、おいでよ」

「おじさんっておれ、まだ、16なのに」


 アカトラはシュンとしていたけれど、ユキちゃんも多少薬術の知識があるのでもうひとりの子供を心配し、タビの家へお邪魔することにした。



 タビの家は綺麗に整頓されていて、どこか懐かしいミルクのような甘い匂いがする。

 留守番を頼んでいたらしき人にタビはお菓子をわたし、礼を言っていた。


「あまりお構いできませんが、お茶でもどうぞ」


 紅茶を出され、私はほっとした。ここの所ひどく甘い緑茶を飲む羽目になっていたからだ。

 タビは薬を子供に飲ませて戻ってきた。ユキちゃんの見たところ風邪が悪化した感じだそうで薬をきちんと飲んでおけば大丈夫のようだ。


「おうち、いいにおいがしますね。何か芳香剤でも使っているのですか?」

「いえ?ああ、まだ、下の子が小さいですから乳臭くてすみません」


 そうか。懐かしく感じたのは幼い頃にかいだ、母の香りに似ていたからなのかもしれまない。


「良かったら、客間に泊まっていってくださいな。こんな小さな村ですから、宿もなくって」


 私たちはタビの言葉に甘え、泊めてもらうことにした。さすがに食事はごちそうになるわけには行かないから早めの時間に村の酒場で軽く食べることにする。


「タビさんは本当によくやっているよ、本当に」


 先ほどタビの家で留守番をしていた人が酒場にいた。


「早く旦那さんが帰ってきてくれるといいのにね」


 私達は魔王の居所へ急ごうと決意を新たにした。

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