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第36話 謎の声

 とりあえず私は小屋に戻ってみんなに相談した。


「マタタビの魔術が制御できないわけではなく、純粋に効果の範囲が広いのか」


 エルは興味深そうに話を聞いてくる。


「マタタビのニオイだけで正気に戻ることはないのかな?」

「う~ん、それならいいんだけどね……」


 先ほどキズヴァン先生の家の周りを消臭したところ、周囲の兵士は恍惚から覚め次第攻撃してきたのだ。

 ミカンの香りビームを発し、何とか逃げてきたという感じ。

 ビームは魔力の消費が激しく、魔力切れを起こしそうだったので他の場所は放置してきてしまったのだ。



「ま、とりあえず休むしかないな」

「出来ればオレは町の皆を正気に戻してくれるといいんだけどな。かあちゃんも安心して買い物に行けるし、心も晴れるだろうし」


 ホウカンはふうと例のまずいお茶を飲みながら言った。魔王の山まではしばらくかかる。魔王を倒せばすぐ戻るのだろうけど、放っておくのも忍びない。


「う~ん。じゃあ、とりあえず休むよ」

「お茶いるか?」

「いらない」



 いくらか休み、町に戻るとマタタビの効果が切れていらしく再び兵達が襲い掛かってきた。

 マタタビの香りを嗅がせてうねる者たちをミカンの香りで魔性を浄化する

 それを3回ほど繰り返した後、キズヴァン先生の家に泊まり、翌日も魔術を行使して浄化作業。

 ようやく昼の少し前にすべての町民が元に戻った。


 昼食後、食糧の確保や洗濯などの雑事をこなした。

 旅立ちにキズヴァン先生とホウカン、ホウカンの奥さんが見送りをしてくれた。門番達もどこか晴れやかな表情を浮かべていた。


 魔王の山へと南に歩いていく。夕方少し前のころに背後から声が聞こえた。


「お~い」


 振り向くとアカトラが変な顔をした。


「呼んだ?」

「いや、オレは呼んでない」

「お~い」


 前を向く。


「呼んだ?」

「私も呼んでない」


 エルが言う。するとユキちゃんが、


「鞄から聞こえるのだけど」

と不思議そうな顔をした。


「え?なにそれこわい」


 小動物の妖怪でも入っているんじゃないの?

 私はこわごわと荷物を背中から下ろし点検しようとした。


「和美~」

「うわ、まじで鞄から声がする!」


 なんで私の名前を呼ぶのか?不思議に思いながら中身を布の上に空けていく。

 財布、食糧、トイレ用シャベル、衣服などなど。


「返事してくれ!」

「え?」


 生物は一匹たりともいない。

 ただ、ジプチから預かった、紙コップのようなものが震えていた。


「まさか、ジプチ、説明してないな。おーい、口に当てて喋ってくれ」


 聞き覚えのあるような声に、私は恐る恐る紙コップを口に当てた。


「もしもし?」

「やっとでてくれた。私だ。デリックだ」

「これ、電話だったんですね……」



 私は力が抜けてしまった。


「電話?ああ、まあ声を転送する装置だよ。私の得意魔術でね」


 猫又三人は珍しそうにこちらを覗いた。


「それでそちらはどうだい? ナシルサにはついたかい?」

「ええ、つきました。マタタビの香りを使えるようになったのですが、魔性を浄化というか、追い出すにはミカンかミントじゃないとだめそうですね」


 この電話紙コップはこっちがしゃべっても震えるのがちょっといやだなあ。いかに携帯電話が素晴らしかったかとついつい懐かしむ。

 私だって年頃の女の子(自分で言うのはなんか変だけど)だったから、これほどナチュラルに携帯なしでいられると思わなかった。

 やることたくさんあったからなあ。


 私はナシルサの状況や現在地などの報告をし、気になることがある、と伝えた。


「デリック、魔王の正体について調べてもらいたいんです」

「ん? 正体? 魔王は魔王じゃあないのかい?」

「王族の血を引くものだと聞きまして。しかし、メェオ王国民には隠ぺいされているようでして」

「なるほど、そういうことなら調べておこう」

「お願いします」

「うむ。お? ジプチ、かわれって?」

「和美さあああん、大丈夫ですか? エル兄にいじめられてませんか?」

「あ~大丈夫だよ。ターゲットはずれ気味だし」


 言うと隣でムッとした顔一つと、困惑顔二つ。


「そうですか? 僕も帰還についていろいろ調べて頑張ってますよう」


 私はユキちゃんの母が話した内容をかいつまんで伝え、


「じゃあ、またね。頑張るよ私も」

「通信終わりです。またです!」


 ぷつっと電話は切れた。

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