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第31話 ナシルサの門番

 初の魔物遭遇から、二週間程旅をして五度ほどの戦闘があった。私も大分戦いに慣れてきた気がする。

 この前は一度に二体相手したけれど、余裕を持って対応できた。

 アカトラにいろいろ指導を受け、少しはコカゲ流の武術もできるようになったかなあ。



 この森を抜けるとマタタビの産地ナシルサに着く。

 山間部ということもあり少し肌寒い。私はいつもの鎧の下に薄手のベストを重ねている。

 仲間の三人も服を着るまでは行かないものの、普段より毛がふわふわしている。うー触りたい。

 ユキちゃんに触って良いか聞くと、「地肌に触らない程度なら」と言ったので、ちょっと失礼して手を伸ばした。


「うわーもふもふ。柔らかいっ」


 ユキちゃんは少しだけ耳を伏せて恥ずかしそうにえへへと笑った。

 かわいいなぁ、もう。


「いつもと毛の長さは変わらないのに不思議だよな」


 アカトラが言うとエルが


「毛穴が締まってるからだ」

と、口を出した。


「そんくらい知ってらぁ!なんか体ってうまく作られてて不思議つったんだ」

「ハイハイ、そこまで」


 アカトラとエルは喧嘩になりやすい。

 なんでも三人が子供の頃一緒に遊んだとき、ユキちゃんにアカトラが命令されイタズラでエルを泣かせたらしい。

 ユキちゃんは上の身分だから、文句は言えないけれど、アカトラは別ということみたい。ちょっと理不尽には思うけど、仕方ないかな。

 アカトラはアカトラでエルがお高くとまった態度が気に食わないのだそう。


「ナシルサは国境近くということもあって、守りがなかなか厳重らしい。余計な事を言わないように、な」


 エルが忠告する。アカトラの目が鋭くなった。先ほどのことを根に持っているのか?

 ナシルサ町の入り口には門番の兵が四人。今まで通った町や村よりもはるかに屈強そうな体格をしている。


「ナんのよう……ダ」


 一際大きい男が話しかけてきた。


「この町の薬屋に用がありまして」

「クスリや……。カエレ」

「しかし、我々にとって必要な薬が」

「帰レとイってイる」

 

 エルはこちらを振り返り、私を手招きした。証明書を見せるならば人間の私を見せるのがより効果的と考えたのだろう。

 招き猫……いや、それより門番の様子がおかしい。訛っている人は幾人か見かけたが、片言の人は初めて見るような……いや、どこかで……。

 考えつつ慎重に近づくと、門番は爪を振り上げた。


「ニンゲン……殺ス」

「わわわああ」


 思い出した! 魔王の瘴気にあてられた宿屋の主人だ。


 私は爪を見切り右へ逃げる。


「ニン、ゲン!」


 ほかの兵三人も合わせてこちらへ向かってくる。

 一対一の人数だけど、ユキちゃんは動きを止めた敵にしか魔術は使えない。

 しかもなぜか確実に私だけを狙って来ている。


「なんで私だけ!」

「ジャ魔者、許さなイ」

「『地よ奴らを足止めせよ』和美! 魔術を」


 エルが魔術を唱えると地面が起伏し盛り上がる。

 敵が転んだ!

 振り返り、魔術を……

「ちょ」

私もつまずいた。しかしひるんでいる暇などない。手を広げ男たちに向ける。


『濃度最大、近距離香りミカンビーム!』


 正気を失った男たちが苦しむ。


「よし」


 アカトラは手を鼻にやりつつ男たちを蹴り倒す。気絶したようだ。


「『消臭』ユキちゃん」

「はーい」


 念のためユキちゃんはそれぞれに催眠の魔術をかけて回った。


「さて、話を聞こうか」


 エルが言うと、私は男たちを順に結界に入れ、ミカンの香りとミントの香りをしっかりと嗅がせた。

 目の険が取れた男たちはぐったりとしていた。


「勇者に向かって爪を向けるとは、どういう事になっている?」


 一番の大男に尋ねると、ぼんやりとした目で


「勇者……さま?」

とうつろに言った。



 どうやらこの町のほとんどの兵たちがおかしくなっているらしい。

 住人達はほとんどが避難している中、捕らわれた者達のため、そしておかしくなっているとはいえ、兵士達のために少数の商店が残っているらしい。

 奇襲をかけようにも一度に二~三百人を元に戻すことは不可能。たぶん私の魔力が足りない。

 そこで正気に戻った兵に捕まった振りをして薬屋さんに接触する事にした。

 私が目撃されると、問答無用で殺されそうなのでアカトラとエルが行く。

 たぶん二人なら何とかなるだろう。

 どちらも嫌そうな顔をしていたが、仕方ない。

 私とユキちゃんは少し離れたところで待つことにした。

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