第29話 逃走とお菓子
「エル、攻撃するなら光が出ない系統でね」
「わかっている『水よ、地を濡らしぬかるみにせよ』」
エルは背後に魔術を展開し、私達は逃げる。
「おわっ」
木の上から攻撃されたアカトラが声をあげた。
「このやろ!」
アカトラはかわした体を起こし、ついでに相手に土くれを投げる。目潰しだ。
その追っ手にユキ様が魔術をかけた。
「『彼の者に眠りを与えん』もう、どこまで追ってくるのかしら」
「ユキ様、もうすぐ神殿所有の土地からは出ます!」
相手が開けた場所にいて、常に動いている状態では香りの魔術も意味がない。
私はハァハァと息を荒くしながらついて行く。
四足走行について行くのはかなり大変だ。
森を抜け、道に出た。
この道はあまり平らではなく、普通に歩くのも大変そうだった。
「ここまで来ればよいだろう」
「だけど油断は厳禁だぜ」
「疲れたよ、もー」
ここからは走らずとも良さそうだけど、念のため早歩きで行くことになった。
「治癒術の先生に挨拶が出来ませんでしたわ」
「他の神殿関係者にも目を付けられたかもしれないな」
エルが言った。
堕落したタイプでなければ大丈夫だというが、この先神殿に関わりあいにならない方が無難そうだ。
ユキ様という治癒のできる仲間もできたし。
「勇者様?」
目線を察知したのか、ユキ様が小首を傾げた。大きな瞳が可愛らしい。
「えっと、ユキ様、その勇者様って呼ぶのやめませんか?」
私の言葉にユキ様は微笑んだ。
「では和美様?」
「様もちょっと」
ユキ様はちょっと考えて口角を上げた。
「じゃあ和美ちゃん! いいでしょう? 巫女仲間がそう呼びあっていて羨ましかったの。もちろん私もユキちゃんって呼んでくださいね」
「は、はい。ユキちゃん」
小さい頃再放送で見た、名作アニメのヤギが思い浮かんでしまったのは内緒にしておこう。両方とも白いし。
ヤバい少しニヤついちゃう。
そういえば、ニャングリラでは精密な機械類はほとんど見かけないなぁ~あはは。
ユキちゃんも嬉しそうにしてるから、ニヤニヤしても大丈夫かな。
マタタビの産地「ナシルサ町」はここからずっと西の山間部にある。
塔のあった方向なので面倒だけど大回りして行くことになった。
「この先の村! おいしいお菓子があるんですって!」
ユキちゃんは文句も言わず、嬉しそうにしていた。
おいしいお菓子。私も並みの女性並みに甘いものが好きだ。普段はゴテゴテに甘いものより控えめのものとか酒のつまみ系が好みではあるけど、疲れたしかりんとうみたいなものが食べたい気分だ。
私とユキちゃんは
「楽しみだね」
「ね」
と浮かれた。
もうすぐ夜明けだ。たぶん、徹夜の後半にやけにテンションが上がる現象と同じなんだろう。
筋肉痛もなにそれ状態である。きっと忘れかけた頃に来るのだろうな。昼とかにわき腹の奥とか足の付け根とか変なところが痛くなるんだ。
村に着いたのはそれから一時間後だった。
まだ朝食前というような時間で、みなさん忙しそうだ。
一応村の入り口に番をしている兵が一人いたけれど、証明書を見せるとすんなり通してくれた。
ユキちゃんは辺りを見回してはしゃいでいる。しっかり尻尾には隠蔽魔術をかけて、姫からお嬢様になっているらしい。
でも村の人にはぎょっとした顔で見られている。隠してもミツマタだし、王家の血筋のお嬢様だもんなぁ。
あと、人間の私もいるし、三毛の男。武器術の男。
さり気にこの世界でレアな人達集まったなあ。
宿屋に徹夜であること、食事は無くとも休ませて欲しいと頼むと女将さんは丁寧に歓迎してくれた。
「これが話していたお菓子よ!」
ユキちゃん意気揚々と持ってきたお菓子は
「鮭………とば?」
……鮭とばによく似ていた。
良く考えたらニャングリラで、甘いたぐいのお菓子は一度も食べていなかった。そういうものなのかも。
酒のつまみも好きだけど、完全に頭の中がスイーツ状態だったのでちょっとがっかりだ。
「鮭の甘みがたまりませんわ」
ユキちゃんがすすめるので一本ちぎって口にする。
「おいしい!」
鮭の旨味と甘味、天然らしいちょうど良い塩加減、それが油分にのってバリバリに硬いなんてこともなく良い歯ごたえ。
うん。今までのおいしい鮭とばランキング更新。




