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第28話 ユキ様の行きたい理由

「お母様に聞いたお話です。


 むかしむかし王族の猫たちは魔王という存在も知らずに暮らしておりました。

 白くない毛並みのものは王族になれず、みやこから追い出されていたそうです。

 あるとき全く違う毛色の王子が生まれ、彼もまた追い出されたといいます。

 魔王は彼に取り付いて悪さばかりしていたそうです。

 そこへあらわれたのが人間の勇者様。

 彼から力を奪って、その力を飲み込みました。

 しかし勇者様はお腹を壊し、三日三晩苦しみます。

 それを助けたのは王家の血を引いた魔力の高い清らかな乙女でした。

 乙女は勇者様が飲み込んだ力を文字にするように言って、その文字で勇者を人間の世界に帰したのです。


私はその乙女にあこがれましたわ。そして、勇者様が現れたら必ず力になりたい!そう思っていましたの」


 ユキ様は瞳をらんらんと輝かせて語った。


 なるほど。よくわからない。

 その勇者けっこうお間抜けだな。

 それはさておき帰還に必須となればユキ様を連れて行かない訳にはいかない。



「私達、魔王の山に行く前に寄るところがあるんですけど、後で合流じゃあダメですか?」

「ダメ!」


 ユキ様はほっぺたを膨らませて、ハムスターのようになっていた。猫なのに。

 彼女に山歩きなど、大丈夫なのだろうか。


「わたくし、こういう時が来ても良いように、体は鍛え、魔術の練習もしました!魔術は苦手ですけど、治療術はなかなか筋が良いと治癒神官さまに言われておりますの。治癒巫女にならないかといわれるくらいに」


 神殿のなかでも特に治癒が得意な者を治癒神官、治癒巫女というらしい。


「そうなんだ……勇者の旅について来るなら、ワガママはなしですよ」

「もちろんですわ」


 エルはユキ様が苦手なのか、ついてきて欲しくないようで、物語が本当か疑っている。

 アカトラが言うには、ハゥヒマ家は魔王の山の近くに領地を持っていて、乙女と関係がある可能性は否定出来ないらしい。


 なるほどなあ。


「弱音も無しですよ」

「もちろんですわ」


 ユキ様は自信あり、と胸をたたいた。



 その晩、私達は塔に泊まることとなった。

 周囲に建物もなく、いちばん近い街は三時間くらいかかるようだ。

 アカトラはユキ様の部屋の近くに番に出るらしい。やっぱりお姫様は違うのかもしれない。

 私とエルは食事をいただくと、他の巫女達に客間のようなところへ通された。


「ねぇ、エル、寝た?」

「いや、落ち着かなくてな」


 なにやらイヤな予感が当たりそうだった。

 ユキ様は私達に疲労回復の薬をくれたのだけど、なんだか違う作用をしている気がする。

 整腸剤を飲んだ時のようにお腹がグルグルと音を立て、食後、しきりにトイレに行った気がする。

 それに先ほどから何かカサコソ生物が動き回っている音。


「特大のネズミだろうか」

「そういうことにしておこう」


 そう言って寝床に丸まったものの、天井からキラリと光る物を見つけた。

 私はそっと、ミントの香りを部屋に展開した。

 ゴン、と音を立ててネズミ……ではなく、ネズミ色をした巫女らしき二人が苦しそうに落ちてきた。


「和美……」

「あんたミントは平気なんでしょ?」


 前にジプチに偉そうに、大人だから大丈夫! と言っていたのを思い返していた。


「ちょっとだけ息止めてて」


 エルに小声で伝えるとミカンの香りを部屋に展開した。


「『消臭』とりあえずネズミは二匹ね」

「ああ。そのようだな」


 ぐったりした二人を適当な布でグルグル巻きにして話を聞こうとした。

 しかし、エルは何か気づいたらしく、巫女の口をふさいだ。


「麻痺魔法に気をつけろ」


 痛み止めの効果もある麻痺魔術は治療師には必須の魔術である。しかし悪用すれば、昏倒させたり、呼吸器の周辺に使えば死に導く事も出来る危険な魔術でもある。

 もっとも強力な麻痺魔術は集中力と対象が動かないことが重要らしいのだけど。


「わかった。どうする?このまま脱出したほうが良いんじゃない?」


 エルはそうだなと頷いて、私達はユキ様の部屋の方へと向かった。

 何人かの巫女や神官を香りの魔術で背後から昏倒させ、時にはエルが魔術を放ち、迷いつつもユキ様の部屋に着く。

 アカトラは番を続けていたらしい。


「あー。なんつーか、ごめんな」


 アカトラはある程度までは、攻勢に出てきた彼らについて知っているようだった。


「ユキ様置いて行くなら今のうちだよ?」

「いや、ユキ様に悪いしな。もうオレは諦めたよ」


 アカトラは言って、ユキ様を起こし塔を出ることにした。


「ユキ様がいなくなったら魔物、増えるのかな」


 私がいうと寝ぼけ眼のユキ様は

「あの儀式はたぶん、あんまり関係ないわ。わたくしが思うには」

と答えた。



 うまく力を使えれば、それなりに機能するらしいが、指導者のせいで、ただのポーズに近いらしい。

 ユキ様は知らずに派遣されたそうだ。


「もし、あなた方を支援するよう働きかけるのなら、見直したのですけれど、害しようとまでするとは。代わりに謝らせてくださいな」


 ユキ様にもらった疲労回復の薬は毒や、痺れに効くような類のものだったらしい。

 念のためだったらしいけど。


 神殿に取って今の世の中は神にすがる人が多く、ビジネスチャンスらしい。

 そこに現れた一筋の希望、勇者が魔王を封印すると……ブームは終わりを迎える……

 とある聖職者達はそう考えたらしい。

 つまりある意味、神殿にとって勇者は敵なんだって。


「まあ、そんな浅はかな者ばかりでは無いのですけどね」


 魔に心を浸食された人が増えれば、逆に神殿への信頼はなくなってしまう。


「まてこらー」

「何でこの塔こんなややこしい造りなの!?」

「建てた奴の趣味」


 奇人の類が設計し、修行を止めたい聖職者達を逃がしたくない神殿が買い取ったらしい。

 迷路やトラップに引っかかりそうになりながら、逆に利用して足止めに使う。


「右に寄って」


 あ、うしろの人が落とし穴におちた。


「この先が外だ」

「この土地の外でまでは捕まえにこないでしょう」

「勇者を捕まえる聖職者など、一般人から見ればおかしいからね」

「そういうこと」


 私達四人は逃げるように塔から出発した。

 夜の闇でも、月が出ていて猫又達の足は早かった。

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