第27話 白い猫又
青と黄色の瞳がこちらを伺っている。
人間はやはり珍しいらしい。
「廊下では寒いでしょう?皆さんお入りなさい」
ユキ様は品の良い態度で私達を通してくれた。
エルはなぜか少し呆けていた。
「は、はい」
「どうかしたの?」
「なんでもない、知り合いに似ていただけだ」
言う割に小刻みに震えていた。
嫌みなコイツが震えるのだから、怖い人だったのだろうか? まあ、似ているだけだし良いか。
ユキ様の尻尾は四本。ヨツマタのようだ。
……ってヨツマタ?
ヨツマタって基本的に王族だったよね?錯覚?
いち、にい、さん、し
「やっぱりヨツマタ?」
ガタッ
私がとっさに口に出すとエルは、なに言ってんのコイツ、という顔し、アカトラは青ざめ、ユキ様はイスを倒し瞳を大きくした。
「アナタなぜ、わたくしのことヨツマタと知っていますの!?」
「え、だって尻尾が四つでしょう?」
「はあ? 私には三つに見えるが、どういうことだ」
アカトラはやってしまった、という顔をした。
「ユキ様……ごまかせば良かったのに、自爆です」
「むうー」
皆が席に付き落ち着いた頃、ユキ様は尻尾ひとつに手をやり何か輪のようなものを外した。存在感が増した気する。
「お久しぶりね。クロブチ・ミケ」
「っ姫様! ハナユキ姫様なのですね!」
エルの昔の名を呼ぶのはユキ様。ハナユキ姫様~だって。お姫様ってことは、やはり王族だったようだ。
「そこの人間、隠蔽魔術をかけていたのに、なぜヨツマタとわかったの?」
「あー」
何でなんだろう。
私は基本的に魔術は全然だめだし、思い当たるのは、勇者だってことくらいだ。
チラリとエル、アカトラの方を見る。
言っても良いよね。
「私、勇者らしいんです。たぶん、そのせいかなーと」
「ゆ、勇者?」
「ええ。召喚されたんです」
「まあ! 生きているうちに勇者様に会えるなんて、光栄ですわ」
ユキ様は比較的世間の出来事に疎いようで、エルがキジミケ家に養子に行ったことも、私が召喚され、旅に出たことも全く知らなかった。
彼女は正真正銘、メェオ王国、カォマニヤ現国王の十五歳になる娘である。ただし、後妻である現王妃の子供。十年前に王が病気になり、その頃から兄である王太子が実質的に跡を継いでいる。
ユキ様は王族の特徴を見事に揃えていた。青と黄色のオッドアイ、白い短毛、四本の尻尾。
小さい頃は両目とも青かったのだけど、五歳の頃にオッドアイが発現してしまったため、権力争いに巻き込まれないように病気で死んだ事にされていた。
隠蔽魔法をかけ、たまたま王族の特徴を持つミツマタとして母方の親戚の姓を名乗っているらしい。
「だから、わたくしは今はカォマニヤ・ハナユキではなく、ただのハゥヒマ・ユキなのですわ」
ユキ様は言った。
ハゥヒマ家も王家に連なる家系なのだけど、領地は首都より離れ、影響力は比較的少ない。
現王妃の実家ではあるものの、王妃自体もオッドアイではないし、婚姻は権力の調整という意味合いが強いのだという。
「ところで、そのハゥヒマ家の養子であるユキ様はなぜ、このようなところへ?」
疑問に思ったエルがたずねた。
「わたくし、巫女になりましたの」
「は?」
ユキ様たち巫女と幾人かの神官は、この塔に住み、清めの儀式を行う事によって、魔物の数を減らしているという。
しかし貴族の子女が神殿に仕えることは少ないらしい。彼らは結婚によって家を結ぶことが必要であり、聖職者になってしまっては結婚が難しくなるというのが理由だ。
だから、貴族が多いミツマタ(ユキ様は本当はヨツマタだけど)の巫女は貴重になる。
「わたくし、お兄様と結婚するなんて、ぜえーったい、嫌ですもの」
王家の特徴を持つ者は少ないため、近親者であっても婚姻の可能性があるようで、それを避けるためという意味合いだろうか。
「お兄様、きもいんですの。くさいし」
……ちがうかもしれないけど。
いや、ある程度の年齢を過ぎると女性は近親者との交配を防ぐためそういう方向に遺伝子が働くとかきいたことがあるような……猫又に適用できるかは知らないけど。
私はちょっと久々に理系っぽいことを考えた。
「にしてもあなたが宮廷魔術師ねぇ」
「わるいか」
「一緒に遊んでいた頃は年上のクセにわたくしに泣かされてたくせに。ねぇアカ」
「ユキ様……」
ユキ様とエルは幼馴染だったそうだ。
「アカ……ってお前、あの時の姫様の腰ぎんちゃくか」
にらむエルから目をそらしてアカトラは頭をポリポリ掻いた。
なにか因縁があるらしい。
「それはさておき、勇者様は勿論魔王封印の旅に出ますのよね」
「ええっと、まあ」
アカトラは眉根をぎゅうっと寄せた。
仕方ないじゃんか。まさかこんなハプニング起こると思わなかったし。
「わたくしも連れて行ってくださいな」
「ユキ様、それはいくらなんでも」
アカトラはユキ様の体力を心配してか、止めようとした。
「アカ、おだまり。これはただの我侭ではありません!」
言ってユキ様は尻尾をピンと伸ばし、私達に理由を語り始めた。




