第26話 別れとユキ様の塔
「ユキ様は嘘が大嫌いなんだけど」
アカトラは行きたい気持ちを尻尾であらわしつつ、耳を伏せ気味にそわそわしていた。
「嘘も方便でしょう? 心配なら口の達者なエルを連れて行くといいよ」
言いつつ、私はユキ様を仲間に入れることについて考える。もし、体力のありそうで何か出来る人ならば、こんなチャンスはないと思う。
後でエルに相談しよう。思うにフォローをしないでおけば、アカトラの嘘はばれて、ユキ様を連れて行くことに出来そうだ。
「世界のためだ。ユキ様も許してくれよう」
コカゲ氏の言葉に後押しされ、アカトラは私たちとユキ様の所へ向かう事にした。
「師匠。オレ、必ずコカゲ流の皆を正気に戻して連れてきます。師匠は無理をせず、身体を治してください」
アカトラはコカゲ氏に丁寧に礼をして門を出た。
アカトラが言うにはユウヤギの街のほかに武器を扱っている店は少ないらしく、買っていく事にした。
アカトラの常連の店に入り、私にあった物を探す。
「これがいい。軽いから和美でもラクに持てそうだ」
渡されたのは私の指先から肘の長さより少し長い幅広な剣だった。
勇者っぽい!
見た目は比較的地味だけど、質実剛健って感じで気に入った。
ふふふ、私の剣かぁ。
「しばらく使うのは木剣だけどな」
アカトラの言葉に私の上がったテンションは平常運転に戻った。
しばらくはただの重い飾りになりそうだ。
エルがバッチリ値切ってくれて、私は剣を腰に下げた。
食料などを買い揃えて、街の出入り口に来ると、ジプチが荷物袋から丈夫そうな紙と、紙コップのような物を取り出した。
「和美さん、僕はここで休んでから帰ろうと思うのです。これはデリック師匠から」
魔法陣が書かれているその二つはデリック氏と連絡を取れる物らしい……向こうからの一方通行だけど。
「ジプチも行こうよ。ユキ様のところ」
「僕、死にます。無理ですよう! 二、三日は休まないともう動けないのです。根っからのインドア派なのです」
悲しそうな顔でジプチは足の裏のマメを見せた。
エルが荷物が多すぎるんだ、帰りは軽い荷物にしろ、と怒った。
「ゴメン。私がこの世界に慣れないせいで」
ひどい状態だった。解析が専門の学者の彼には今回の旅程は過酷だったようだ。それを文句も言わずこなした。
私のため、なんだろうな。
私だってただの女子大生だったのだけど、ニャングリラに来てからというもの筋トレやランニングを少しはやったし、勇者の資質のおかげかそうひどくはなっていない。
「いえいえ、呼び出した者の責任でもあります。エル兄、アカトラさん、和美さんをよろしくお願いします」
「ああ」
「おうよ」
「今までありがとう。デリックの連絡の時、話せたら話そうね」
「はい」
ジプチのためにもしっかり魔王を封印しよう。
そう、私は決意を新たにするのだった。
街から出て、しばらくするとエルは四足歩行になった。アカトラはエルと私を横目で見つつ、二足歩行を続けた。
「シデン殿は四足歩行しないのか?」
「コカゲ流は剣が主力武器だからな。抜くときの初速と訓練のために二足で歩いてんだ。走る時以外は大体二足だなぁ」
アカトラが言うとエルは二足で立ち上がった。一人だけ目線が低いのが気になるのかな?
エルに聞くと、みんな歩いてるのに足踏みで待機しているような感じで気持ちが悪いらしい。
なるほどなぁ。
「オレは鍛えてるからヘーキなんだぞ? へばっても知らんぞ、魔術師のボンボン」
「エルと呼べ」
「じゃあお前もアカトラと呼べ」
「私は和美でいいよ、アカトラさん」
「!!」
アカトラは硬直した。
「お前がさんづけで呼ぶとろくなことないな」
エルがつっこむ。あ、すっかり忘れてた。また怒られる!
「イイ! その呼び方サイコーだッ」
アカトラは目を煌めかせて私の両手を握ってきた。
「アニキと先生を混ぜたような何ともいえない尊敬の響きッ」
ちょっと暑苦しいよ、この人。
「あー、ヤッパリ呼び捨てにするね。稽古の時だけ先生って呼ぶよ」
私が宣言すると、アカトラはしゅんとして、エルはちょっと悪い顔でニヤニヤしていた。
ユキ様の家はユウヤギの街から半日くらい歩いたところにあるらしい。
私達は森の中の道をひたすら歩く。
「ユキ様ってどんな人なの?」
「会えばわかる。美しく、聡明で、カォマニヤのためなら命を差し出す。そういう人なんだ」
私がたずねると、アカトラはキリリと背筋を伸ばして答えた。
「へえ、熱血なんだ?」
「違う、ユキ様は優雅なお方だ」
熱心にイメージを語ってくれたけれど、イマイチわからなかった。ただ、アカトラがユキ様の事を好きで尊敬しているのはいやでも伝わってきた。
「会えばわかる。そろそろ見えて来るぞ」
周囲はすっかり日が暮れて、静けさが増していた。
顔を上げると、背の高い塔が見えた。やわらかい明かりが灯っているものの、なぜか入り難い印象を受けた。名前を付けるなら、封印の塔とか試練の塔といった雰囲気すらするような。
なんだか、ちょっと不安だ。小さい頃、ゲームやりすぎだったかなあ。
「あれが?」
「おう! ちょっと待っててくれな」
アカトラは先に駆けていき、扉をトン、トトトトトトンと叩いた。
「エル、もし、ユキ様良い人だったら旅に連れて行こう?」
私はエルに囁いた。
「ああ、だが、なんかイヤな予感がする」
「え?エルも?」
扉が開きアカトラは合い言葉らしきものを言ったりして、中の人に事情を話しているようだ。
セキュリティーが厳重らしい。
「ユキ様って貴族とかそういうのなのかな?」
「少なくとも私の記憶にはないな。苗字がわからないことには、なんともいえないが」
「ふうん?」
私は唇を尖らせた。
アカトラが戻ってきた。
「入って良いぞ。ん? 和美って結構短気?」
ユキ様の部屋は塔の真ん中あたりらしい。上がるような下がるような、ややこしい迷路を通ったからよくわからない。
その部屋には、ちょっと装飾された木のドアプレートがかかっていた。
「アカトラです、ユキ様、入ってもいいですか?」
「良いわ。入って」
やわらかな可愛らしい声が聞こえた。
扉を開けると、そこにはオッドアイで、白く美しい毛並みの猫又族が立っていた。




