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第25話 コカゲ流道場の男

「たのもー」


 道場は、木造でなんとなく日本にあるような物に近かったが、木が赤っぽくどことなく異国情緒を感じる。


「和美さんなんですか? そのかけ声」

「すみませーん」


 エルとジプチは私をちらりと見て不思議そうな顔をしつつ、門の向こうに声をかけている。

 道場といえば、こういうかけ声じゃあないの?

 私は少し恥かし気に二人から目を逸らした。


「騒がしいな。何者だ」


 先ほど大男を倒したアカトラがやってきた。赤毛を強風になびかせながら、いぶかし気にこちらの様子をうかがっている。


「デリック氏の紹介で来た。道場主にお会いしたい」

「師匠はお休み中だ。とりあえず話を聞く。中へ入れ」


 さきほど子供と接したときとは、うってかわって硬い態度だった。



 道場の中は綺麗に掃除されていて、なんとなく自然に背筋ののびるような雰囲気だ。

 アカトラはテーブルと折りたたみの椅子のある、休憩室のような所に私達を通した。


「オレ、いや、私はコカゲ流武器術師範代シデン・アカトラだ」

「シデン? 確かその姓は」


エルが何か思い当たるように言うそばから、アカトラが止める。


「オレに関する詮索はするな。さっさとそちらの用件を言え」

「私は宮廷魔術師のキジミケ・エルと申します」

「断る」

「ちょっ、まだなにも言ってないのに!」


 アカトラはツンとそっぽを向いた。しかし眉間にしわを寄せながらも、なぜかこちらをじっと伺っている。


「魔王封印に関する相談なのですが」

「やっぱり!断るぞ!この間の作戦、武器術士は酷い扱いを受けたと聞いている」

「そんな、話だけでも」

「いやだ!オレの師匠だって強いのに、魔王城の近くまで来たら手柄を奪うように後ろに追いやられたんだ!」


 私の発言が終わる前に、アカトラはわめき散らした。わめいている割にはこちらを観察するような仕草もみせる。一体なんだろうか。


「道場主のコカゲ氏を出してはもらえないのですか?」

「師匠はお休み中だっ!!」


 ええっと、ええっとぉ、とジプチがうろたえる。

 すると戸をあけて老人が入ってきた。


「これ、アカトラ!うるさいぞ」

「師匠!こいつら宮廷の」

「やかましい!」


 コカゲ氏はわめくアカトラを前にびしっと頭を下げた。


「バカ弟子が失礼しました。ご用件は道場主の私がうかがいましょう」

「実は……」


 私達は、私が召喚された勇者であること、王国からは表面的には担ぎ上げられているが、全く当てにされていないこと、などをざっと話した。


「つまり、前回の作戦には関係ないのです」

 

 しかも、ジプチはこの街で帰るから、旅の仲間はエルしかいない。

 コカゲ氏はなるほどと相づちをうって


「アカトラ、人の話はきちんと聞かないといかんよ」

と言った。


「できればこの道場からどなたか旅について来ていただきたいのですが」


 私達は丁寧に頼んでみた。しかし、アカトラの表情は硬いままである。


「オレは仕事もあるし、関係がないからといって待遇がよくなるって決まってないし……」


 はあ、と私はため息をついた。


 アカトラがこの旅に興味を示しているのはわかっているのに、我々がどんな強さだろうかと観察をしているのに。彼もツンデレという奴なのだろうか。

 私は彼を連れて行くのには、大きな一押しが必要だと思った。


「あのねぇ、私は人間なのよ。武器術がなんで下に見られているかもわからないし、普通の魔術も全然使えない。武器だって扱えないし、四足歩行もできない。きっと、香りの魔術さえ無ければこの中で最弱だよ?」


 アカトラは腐りかけの食べ物でも食べたような顔をした。


「それに、私、アカトラさんがさっき大男を蹴散らしたのを見て、ただただカッコいいって思った。師匠になって欲しいって思った」

「師匠?」

「どう? 師弟関係なら武器術を馬鹿にしたりしないでしょう?」

「あ、ああ」


 アカトラはなんとなく照れてそっぽをむいた様に見えた。

 彼はぼそりとつぶやいた。


「師匠、オレ……」

「アカトラ学んだな。勇者様、弟子が頑固で申し訳なかった。ところで、わが道場にコカゲ流を指導できるものは私とこやつしかおらんのです」



 どうも前回の魔王封印作戦で、師範代以上はほとんど参加して、途中で腰を痛めたコカゲ氏と事情があって参加できなかったアカトラ以外、魔王に操られてしまっているらしい。

 コカゲ氏の腰は完治状態とは言えず旅をするのは厳しい様だ。

 そしてアカトラは

「オレはとある人物のボディーガードをしていて、その方の許可を得ないとついていけない。しかし……」

と口をもごもごして悩んでいる。


「ユキ様なら許してくれるだろうて。この国のことを一番に思ってらっしゃる」

「師匠! だからですよ! 訳を話したら絶対同行したいとおっしゃるに違いない!」

「だめなのかい?」

「ダメです! 彼女は尊い方でしょう!」


 アカトラは頭を抱え、しっぽでゆらり、ゆらり、と悩みのリズムを刻んだ。


「やっぱり無理ですよ」


 アカトラを師匠に迎える計画にはユキ様という方がネックのようだ。私達としては尊い方だろうと何だろうと、よっぽど足手まといでなければ仲間が増えるのは歓迎なのだが、アカトラはすごく悩んでいた。

 ユキ様の影響かもともとの気質か、封印の旅自体には乗り気のようだ。


「嘘つけば?」

「え?」

「嘘をついて、仕事休んじゃえばいいんじゃない?」


 私はそう提案した。

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