幸せを運ぶ小人
物寂しい部屋の片隅で、少女はひとり、人形遊びをしていた。
右手には、カビくさい男の子の人形。左手には、ブロンドの髪がボサボサになった女の子の人形。
これらを使った遊び方は、すでに出尽くしている。
幼い顔に浮かぶのは、退屈だった。
そこへ、ふらりと小人が現れた。
背中には白い翼、顔にはやわらかな笑みをたたえている。男とも女とも見分けはつかないが、とても親切そうな雰囲気だ。
小人は翼をはばたかせ、少女の顔のまわりをぐるりと一周して言った。
「いつも一人で遊んでいてさびしそうだね。よかったらお友達になってあげようか」
少女は驚いたふうもなく、冷めた目で言い返す。
「そんな同情のお友達なんていらないわ。なにより、わたしはひとりでいるのが好きなの」
「いやいや、それはそれは、ますます気に入った気に入った」
なにが楽しいのか、小人は目を細めて手を叩いた。
「でも、キミはいつもそうやって退屈そうにしているだろう。それはどうしてなのかな」
少女は右手に持っていた男の子の人形を床に放り投げた。
「わたしの家が貧しいからよ。物心ついた頃から、ずっと同じオモチャで遊んでいるの。退屈にもなろうというものよ」
ほっぺを膨らませる彼女を見て、小人は指を鳴らした。
「それでは、お近付きのしるしとして、新しいお人形をプレゼントしよう。これなら、友達になるわけではないから構わないだろう」
少女は胡散臭い小人を睨みつけた。
しかし、ものは試しと思い直す。
「だったら、お金持ちのあの子が自慢していた、外国製のおしゃべり人形がほしいわ」
少女のクラスメイトに、親がお金持ちの女の子がいた。
その子は、月曜日の放課後になると決まって、新しく買ってもらったオモチャの自慢をした。公園のベンチで周りに同級生を集め、「これ、外国でしか売ってないのよ」と得意げに新製品を見せびらかすのだ。
少女はいつも、少し離れたブランコからその光景を眺めていた。
「別にうらやましいわけではないのだけれど、世の中にああいう物があると知ったら、人は試してみたくなるものでしょ」
「それくらい、お安い御用さ」
小人は景気よく頷いた。
「なにせ、キミが幸せになることが、僕のいま一番の望みだからね」
そう言うと、小人は白い翼を元気よく動かして、窓の外へ出ていった。
翌朝、少女が目を覚ますと、枕元に布をまとった一個の物体がごろりと転がっていた。
それは、金髪の、青い目をした人形だった。
まちがいない、お金持ちの女の子が自慢していた品だ。
少女はそれをひょいと拾い上げ、さっそくしゃべらせようと頭を叩いた。
しかし、人形はウンともスンとも言わない。
おかしいと思い、背中側の服をまくり上げてプラスチックのフタをパカリと開けると、中には電池が入っていなかった。
不意に、少女の背後から声がした。
「幸せっていうのはね、最後は自分の力で手に入れなければ、価値のないものなんだ」
どこに潜んでいたのか、昨日の小人だった。
「それとね、新しいお人形を手に入れたことは、他の人には絶対にナイショにしてね」
「どうしてよ」
「自慢なんかしたら、大切な幸せが逃げてしまうからさ。手に入れた幸せは、そっと心に留めておくものなんだ」
小人の言葉に、少女は頷いた。
どうせ下手に言いふらしても、どうやって手に入れたのかを問い詰められるだけだ。なら、黙っておくのが一番いい。
少女は、適当な嘘を言って母親から電池をもらい、人形にはめ込んでしばらく遊んだ。しゃべる人形は、確かに古びた人形たちよりもずっと面白かった。外国の言葉だから、何を言っているかは分からなかったが、そこはお得意の想像で補うのだ。
少女が一人で遊んでいる間にも、お金持ちの女の子は、また翌週も新しいオモチャの自慢をしていた。
「この前のお人形、どこかに行っちゃったの。うちにはオモチャが多いから。でもね、パパがもっといいものを買ってくれたわ」
女の子がそう言って新しい箱を開けるたびに、遠くから眺めているだけの少女は、そのオモチャが無性に欲しくなった。
そして不思議なことに、少女がオモチャを欲しがるときに限って、小人はどこからか姿を現すのだ。
「僕はキミの幸せを願っているからね」
小人はいつも快く少女の願いを聞き届けた。
翌朝には必ず、少女の枕元に、欲しかったオモチャがひとつ置かれていた。そして、いつも決まって、届けられるオモチャには何かが足りていなかった。
ある時は、リモコンで走る犬のぬいぐるみをお願いした。けれど、届いた犬のぬいぐるみには、肝心のリモコンが付いていなかった。少女は母親にまた嘘をついてお小遣いをもらい、オモチャ屋で似たようなリモコンを探してきて遊んだ。
またある時は、綺麗な装飾が施されたオルゴールを欲しがった。しかし、届いたオルゴールには、裏側にあるはずのゼンマイを巻く鍵が欠けていた。少女は父親にデタラメを言ってペンチを借り、金具を無理やり回して音楽を鳴らした。
彼女の部屋の押し入れには、誰にも内緒のオモチャが少しずつ増えていった。
欲しいオモチャがどんどん増える日々。それは、よいことのはずだった。
しかし、どんなに新しいオモチャが増えても、やがては遊びつくして退屈してしまう。
そんなある日、少女はついに、これまでで一番大きな願いを口にした。
「わたし、お友達がほしい」
いつの間にかそばにいた小人に向かって、少女は言った。
「あのお金持ちの子とお友達になりたい。そうすれば、いろんな新しいオモチャで遊ばせてもらえるでしょ。いちいち足りないものをどうにかするなんて、バカバカしいわ」
小人は、ぐんと飛び上がって、これまでで一番嬉しそうな笑みを浮かべた。
「もちろんさ。キミが幸せになることが、僕のいま一番の望みだからね」
白い翼をはばたかせ、小人は夜の闇の中へ消えていった。
翌朝、友達は確かに届けられた。




