自動物園
完全自動化。世の中の何にでもこの言葉がついて回る今日この頃。ついに動物園までもがその毒牙にかかったと聞いて、私は暇つぶし半分、冷やかし半分で足を運んだ。社会人になってからは仕事漬けの毎日だったため、ちょうどよい気分転換にはなるだろう。
車から降りると、出入り口には簡単なゲートがあるだけだった。上にデカデカと色んな動物が描かれた賑やかな看板がかかっているくらいで、他はすっかり節約されている。スマートと言えばそうだが、印象には残らないだろうな。
「ようこそ」と笑いかけてくれるスタッフの姿はなく、もぎりの手間も省かれている。それだけならまだしも、園内の飼育員さえ一人もいないという触れ込みなのだから、もはや狂気の沙汰である。命あるものを機械に管理させるなど、人間の驕りもここに極まれりという感じだ。私は腕時計型のデバイスをゲートのセンサーにかざして、滞りなく入園した。
園内には、ひたすらな静寂が待っていた。獣の咆哮も、鳥のさえずる声も聞こえない。生臭い匂いだって抑えられているようだ。まばらにいる客たちも、ひそひそ話すくらいで嫌に大人しい。
騒がしいのは、巡回するドローンのモーター音と、環境維持装置の排気音くらいのものだ。
動物といえばライオンという気がして、とりあえずライオンの展示スペースの前に立つ。
目当ての百獣の王は、温度調節される人工岩の上に寝そべり、たまに寝返りを打つのが主な仕事のようだった。ようやく動くのはエサの時間。天井のハッチが開き、肉の塊が決まった位置に投下される。ライオンは慣れた様子でそれを咀嚼した。食べ終えると、また岩の上に戻る。きっと毎日がこの繰り返しなのだろう。
「やれやれ、これなら動物のマネが上手いロボットでも並べておいた方がマシじゃないか。とても動物らしいオモチャの動画を見たことがあるぞ」
周囲に人がいないのをいいことに、私は独りごちた。それも仕方ない。せっかくの主役たちから、生の気配がまるで感じられないのだから。彼らは機械のタイマーで生かされている、暇を持て余した囚人だ。
サルの飼育エリアでは、さらに滑稽な光景が広がっていた。
数匹のサルたちが群れて、壁に設置された自動給餌器のボタンを、せわしなく連打しているのだ。緑のランプが点灯したタイミングで押せば少量のエサが出る仕組みらしいが、彼らはランプの点灯を待たず、ひたすらにボタンを叩き続けている。パブロフの犬も呆れるほどの愚かな条件付けだ。
「かわいそうに。お前たちの世界は、あの四角い箱とボタンが全てというわけだな」
私が鼻で笑うと、不意に一匹のサルと目を合った。その瞳からは、好奇心も、警戒の色も見受けられない。ただひどく退屈そうな、淀んだ光だけが宿っていた。同時に、まるで猿の方がこちらを観察し、哀れんでいるような錯覚に陥る。どうして、そんな目で見つめるのだ。私はすぐに首を振って、その不快感を追い払った。
それからは、警備員にでもなったような心地で園内を一周し、私はそそくさとゲートを出た。
予想通り、くだらない施設だった。生き物と機械の融合など、楽しく見れたものではない。
迎えに来ていた完全自動運転の車に乗り込む。音声アシスタントに帰宅を指示すると、車はいつも通り安全を優先して走り出した。
シートを傾け、携帯端末の電源を入れる。画面には、私好みのニュースや動画などが次々と顔を並べていた。それらを人差し指で滑らせながら、私はふと、腹が減っていることに気が付いた。夕食の時間か。それを伝えてくれないなんて、性能の低い機械たちだ。
「何か買って帰るか」
帰りの途中で自動調理のファストフードを受け取るため、アプリの注文ボタンをせわしなく連打する。いくら押しても意味はないと分かっているのだが、指が自然に動いてしまうのだ。
「……ん?」
この光景、見覚えがある。手が止まった。何気なく外へ目を向けると、夕暮れ時の車窓に、ひどく退屈そうな猿の瞳が反射していた。




