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魔王と勇者は恋仲です。②

 サンドリア第二層、その中でもより第三層に近い区域。

 この辺りは冒険者ギルドがあるせいか、酒場が多く商店も武器屋や道具屋が大半を占めている。

 

 魔族や魔物の被害に対応する冒険者になるためにはギルドの登録は必須で、依頼自体は各所にある集会所でも出来るが、本登録は都市に一つ設置される支部でしなければならない。


 冒険者はその危険性から死亡率が高い分、需要のわりに人手が足りなないため一人前になれば十分な稼ぎになり、冒険者カードは他の都市へ入る際の面倒な手続きを省略するパスポートにもなるという夢と利便性に富んだ職業だ。


 長き戦いと豊富な経験により面構えが立派になっている者、夢や憧れを抱いてまだ新しい武器や防具を身に付けてギルドの門を叩く者など様々見受けられる。

 人族だけでなく他種族も冒険者として活動しており、すれ違うパーティーには複数の種族で構成されているところもあった。


 視界に収まるのはほとんどが冒険者のため武器を携帯している者がほとんどのおっかない風景ではあるが、規約により武器の使用が制限されているおかげで殺伐としたものではない。

 酔った勢いで武器を振り回す――なんて事例が度々あったりするのだが、そういうのは大抵同じ冒険者か都市を守る衛兵に捕まり、場合によっては冒険者登録の抹消、被害によっては普通に犯罪者として取り押さえられる。


 そしてギルドへと伸びる道を歩く少女もまた、そんな冒険者になろうとしていた。


 燦々と輝く太陽によってキラリと輝く雪のような髪は毛先が紺色シャツの襟元で揺れ動き、門出を祝うような青空に負けない澄んだ蒼い瞳がギルドを見据える。

 銀色に輝く小手が動くたびにかちゃりと音を立て、胸当ては少女の富んだ胸元を崩さないように少し前に突き出ている。 

 若い女性の剣士はレイピアやダガーといった振りやすいものが好まれるが、少女が左腰に携えるは片手半剣。

 ショートパンツから伸びるすらりとした足はハイソックスとその上からのレッグアーマーによって守られて、歩く度に舗装された道路と鉄靴による金属的な足音が響く。


 同年代の女性に比べてやや長身の少女から漂う凛とした空気。

 装備のせいか少しお堅そうな雰囲気を醸し出し、戦いとは無縁の箱入り娘が精一杯の装備をしているようにも思える。

 

 そんな彼女の人目を惹く美しさにすれ違いざまに目を奪われる冒険者は少なくないが、彼女のギルドへまっすぐ向かう足取りに声をかける者はいなかった。

 

 冒険者ギルド――サンドリア支部。

 数千人は入れそうな巨大な施設には、受付場のほかにもちょっとした酒場や道具屋、訓練場に大型浴場といった冒険者にとってありがたい施設が多くある。

 依頼を受けるだけの集会所には受付場と、あってもせいぜい最低限の道具を売っているくらいだろう。


 それゆえに支部に集まる冒険者の数は多い。

 真昼の時間帯、冒険者達はどこかで昼飯を食べているか朝に依頼を受けて出かけているかでピーク時より人は少ないはずだが、それでも喧騒は扉を開ける前から聞こえてくる。


 木製の扉を押し、蝶番の軋む音が響き喧騒が嘘のように静寂へと変わる。

 人の往来など当たり前のギルドの入り口。

 本来なら人が入った程度では一瞥の価値すらない出来事だが、職業柄の察知能力か、彼女が入った途端会話がピタリと止まる。


 その惹かれる容姿に全員が目を奪われる。

 陽気に話していた冒険者は自分の話を無理やり遮り、流し込むように酒を飲んでいた冒険者はジョッキを机に置き、獣のように飯を食っていた冒険者はフォークで刺した食材を口に入れたまま固まる。


 そんな視線に一切の興味を示さず、コツコツと鉄靴の音を奏でながら受付にまっすぐ向かう白髪の少女。

 迷いなし足取りを少女が制止させたのは、目の前に大男が野蛮な笑みを浮かべて立ちふさがったからだ。


「よう……お前みたいな美人が護衛もなしにこんな野蛮なところに来るもんじゃねえぜ? ここには腕はあれど欲望に餓えた獣の巣窟だからよぉ」


 筋肉で構成された巨躯。

 体や顔に古傷が残り、スキンヘッドが光を反射させ、無精髭と酒臭さが少しだらしなさを感じさせる。

 見た目から察する年齢は中年だが、多く要る冒険者の中でも秀でた躯体とそのいやらしい目つきの中でも獲物を見据えるような威圧的な眼光が潜んでいる。

 背中の大斧には使い込まれて血肉が染み付いている。

 

 自分よりも何倍も大きい体の男に、女性じゃなくても委縮してしまいそうだがその少女はまるで気にも留めない凛とした目で答える。


「今日は冒険者登録をしに来ただけよ。分かったらその酒臭い口を閉じて失せなさい」


 喧嘩腰ともとれるその態度に周囲が動揺する。

 少女の身を案ずる者もいれば、スキンヘッドの男がキレることを恐れている者もいる。


「ほう? 世間知らずな新人に教えてやる。俺様は二級冒険者ゲーゲル。――“戦斧(せんぷ)のゲーゲル”様と言えば俺様のことだぜ。まーまだ魔骸具使いだが、聖宝具が顕現するのも時間の問題だな」


 勇者細胞が一定以上覚醒すると顕現する固有武器――聖宝具(せいほうぐ)

 絶大な力と耐久力は一般の武器の比にならず、聖宝具が顕現するものは実力の確かな証明となる。


 魔骸具(まがいぐ)はそんな聖宝具を人工的に作ろうとしたものだ。

 魔物を素材とし、通常の武器よりも高い耐久力と素材特有の特殊な効果を得られる。


 冒険者の等級は三級から始まり、二級、一級、そして特級へと至る。

 二級冒険者といえば中堅層で数も多く、同じ二級でも実力はピンキリだ。

 言ってしまえば、名乗られても一番平凡な反応しかできない等級でもある。  


「……あっそ。もういいかしら?」


「おいおい何にも知らねぇでここに来たのか? 冒険者になりたきゃ俺様の機嫌は取っておいて損は無いぜ?」


「どういうこと?」


「人間族が冒険者になるのに必要なものは二つ。勇者細胞が覚醒されていることと、冒険者からの推薦だ。冒険者カードが他の都市で活動できるパスである以上、最低限の素質や素性が保証されている必要があるわけさ。俺様が推薦人になっても良いって言ってるんだぜ?」


「その割には裏がありそうな感じだったけど?」


「なに、俺様の女になるなら推薦してやるぜ? 悪い話じゃないだろう?」


 ゲーゲルの下種な視線に白髪の少女は初めての感情変化――嫌悪感を顔に出す。

 

「悪いわね。アタシにはもう恋人がいるの」


「恋人? どうせそいつも俺様を見れば逃げ出すだろうさ」


 侮蔑し、豪快に笑い飛ばすゲーゲルに白髪の少女は眉を寄せる。

 だが数秒後、白髪の少女は嘲笑うような笑みを浮かべる。


「残念だけどアタシの恋人はアタシと同じくらい強くて理性的よ。アンタ程度じゃ指一本で事足りる……いや多分動くことなくアンタを無力化できるわね」


 その発言に感情が逆転する。

 スキンヘッドの頭に欠陥が浮かび、下種な眼が苛立ちと不快感に支配される。

 挑発だと分かっていれど、ゲーゲルはプライドを抑えることが出来ない。


「そんなに腕っぷしに自信があるなら勝負するか? 俺様が負けたら見返り無しに推薦してやる。ただし俺様が勝ったらお前は一生俺様の女だ。嫌ってほど可愛がってやるから覚悟しな」


「いいわよ。でも一つ忠告しておく。アタシ手加減苦手だから死なないでよね。死人に推薦出来ないだろうから」


 張り詰めた空気。

 近くの冒険者は止めるのではなく、むしろ避難するように離れる。

 受付にいるギルドの職人は止めるべきと分かっていれど、あわあわと動揺して心配そうに場を見つめるだけだ。


「死闘は禁止されてるからな。武器の使用はありだが殺しはなしだ。非殺傷系のスキルなら使って構わねぇ。ルールとしてはこんなところか。ハンデで俺様は素手で相手してやるよ」


「そんなハンデは不要よ。斬るとか殴るとか避けるとか、そんな次元にすらならない勝負になるだろうから」


 ことごとく神経を逆なでする言動にゲーゲルは今にも殴りかかりそうだ。

 それでも己を自制し、コインを取り出す。


「ならこのコインが落ちたらスタートだ」


 指でコインを弾く。

 全員が緊張感に飲まれる。

 血気盛んな冒険者の集まりであるギルドでちょっとしたトラブルは日常茶飯事。

 普通の喧嘩なら今頃賭けにでも興じて楽しんでいるだろう。


 それでも今回は周りが心配になってしまうのはゲーゲルの素行の悪さが周知の事実、共通認識として植え付けられているからだ。

 コインが回転しながら高く上がり、落ちていく。

 コインの高さがゲーゲルの頭の高さを下回り、白髪の少女を下回り、そして床で軽い音を発したその時――――


「おらッ――――!?」


 拳を握り殴りかかろうとしたゲーゲルは、その巨大な拳骨を引いた状態で固まる。

 ゲーゲルだけじゃない、他の冒険者も同様にだ。

 

 白髪の少女から発せらる異様なまでの圧力。

 冒険者という職業上、死ぬ覚悟は出来ている。

 命を懸けた戦いは何度も繰り広げ、死にかけたことは何度もある。

 自分より強い相手と対峙したことなど数えきれないほどある。


 そのはずなのに、ゲーゲルは本能的に来る恐怖が止められない。

 全身から出る冷や汗は止まることはなく、さっきまで浴びるように酒を飲んでいたのに口の中はカラカラだ。

 肺に少しでも空気を取り込もうとするが、せき止められたように息が出来ない。

 呼吸はもちろん、瞬き一つ、指先一つ動かすことが出来ない。


 口だけではない確かな実力を誇るゲーゲルですらその有様。

 他の冒険者に置いてはゲーゲルと同様の硬直に加えてズボンを汚す者、腹に入れた食い物を吐き出す者、気を失って地面に倒れる者など酷い有様だ。

 だがしかし、受付嬢はギルドの様相にあわあわとしながらも冒険者達のような症状は見られない。


「はっ、か……ぁ、ぅか…………」


 降参を宣言する声を出すことも出来ない。

 視界が霞み、今すぐにでも気を失って倒れたい。

 だがその倒れることすら許さないと言わんばかりに体が動かない。

 

 だがそれでも、意識を維持するための機能が停止しかけたその時、


「そこまでだ!」


 ギルドの中に響く貫禄のある重い一声。

 その声に反応し、白髪の少女は異様な圧力をふっと消す。


 ゲーゲルは失神し、何とか意識を保っていた冒険者も体に力が入らず床や壁、机に体を任せる。

 周りがそんな状態でも、白髪の少女が見据えるのは声の主。

 ギルドの二階から見下ろす形で少女を見る中年の男。

 

 死線を潜り抜けた過去を刻んだ濃い顔つき。

 ゲーゲルほどではないがギルドの制服からでも分かる屈強な体躯。

 茶色い傷んだ髪はオールバックでその堀の深い形相を一面に出し、硬そうな顎の髭が日々の苦労を語っている。

 左目は眼帯で隠れ、右目のくすんだ黄土色の瞳は慄いているようにも、怒っているようにも見える。


「……お前、冒険者志望だったな。名前は?」


 幾度となく修羅場を経験した歴史が刻まれた低く、枯れた声。


「……ユウと呼ばれてるわ」


「ユウか。状況は何となく把握した。別室に案内しよう。二人で話をしようか。動ける者、手が空いている者はギルドの掃除だ!」


 オールバックの男が声を上げると、ギルド職員はもちろん、まだ体の動きが覚束ない冒険者も操られるようにギルドを片付け始める。

 その発言力と様相から滲み出る権威にこのギルドでもそれなりの地位の人物であると判断し、白髪の少女――ユウは大人しく案内された別室に入った。


 案内された部屋は応接室のように向かい合わせのソファーと、その間に挟まるように低めのテーブルが置いてあるだけで、それ以外は特にこれと言った情報がないほど、簡素で質素なものだった。


 男は慣れた足取りでソファーに腰かける。

 クッション性の座面が男の体重をしっかりと包み込んで沈み込む。

 

 ユウはそんな男の向かいのソファーに腰かける。

 敵対の意思はないが、下手に出るつもりもないのでしっかりと背もたれに体を任せる。


「俺はここ、冒険者ギルドサンドリア支部の支部長をやっているベルクだ。にしても嬢ちゃん、冒険者が血気盛んなのは構わねぇが、少々お痛が過ぎねぇか?」


 怒っているというにはおおらかで、でも楽しんでいるというには苦悶に満ちた表情のベルク。


「組織に属するには最初に上下関係をハッキリさせろと恋人に教わったわ」


「絶対その恋人ロクなもんじゃねえ」


「それに絡んで来たのは向こうよ。アタシは相手の提案に乗っただけ」


「まーゲーゲルの普段の素行を考えれりゃ大方予想はつくがな。それでも嬢ちゃんはやりすぎだ。嬢ちゃんが使ったのは第五階梯威圧スキルの【神威(カムイ)】だろ? ゲーゲルに使うには少々大袈裟すぎる。それにウチの職員が無事なところを見るとスキルのコントロールも自在なはずだ。他の冒険者まで巻き込むこたぁねえだろ」


 人族がその肉体に宿す勇者の細胞。

 勇者細胞が覚醒した人族が使うスキルには第一階梯から第五階梯までのレベルが存在する。

 第五階梯と言えば、本来一級冒険者が束になって戦う魔物などを相手に使う代物。

 使い手が少ないのはもちろん、ちょっとしたトラブルで使う技では当然ない。


「アリを数匹相手するのに大砲ぶっぱなしてるようなもんだ。ウチの若ぇのが辞めたらどうする?」


「組織で生き残るには周りに舐められないようにしろと恋人に教わったわ」


「今度その彼氏連れて来なさい。おじさんが説教してやる」


 口では厳しく言いながらも邪険にするような様子はなく、痺れを切らしたユウが切り出す。


「で、わざわざ別室に連れてきたわけは何? 文句を言ってる割には追い返す様子もないし」


「本音で言うといきなりトラブルを起こす、俺の胃に負担のかかるような問題児は正式な手続き以外で認めたくないんだが、今は状況的にそうも言ってられなくてな。第五階梯スキルを扱える嬢ちゃんみたいな実力者はたとえ問題児であろうと引き込みたいんだよ」


「それでアタシに何をさせたいってわけ? 値踏みする余裕がないほど実力者を求める喫緊の事態。サンドリアでそれほどまでの緊急事態が起こってるなんて話はなかったけど?」


 日々の気苦労からくる倦怠感で無意識にベルクはひじ掛けに体重を任せる。

 

「サンドリアの東側、港湾都市テルダムとの間にある森林地帯。ウチの若ぇのがそこで大型魔物の影を見たって話だ」


「大型魔物? そんなものいればすぐに噂になるでしょ」


「ああ。あくまで見たのは影だけ。ましてや瘴気が薄いせいかあそこにいる魔物なんざ冒険者なり立ての三級冒険者が訓練で相手にするようなもんばかりだ。だからこっちも見間違えだろうと相手にしていなかったんだが……」


「事情が変わったということは二つ。実際にその魔物がいたか、可能性を高める不可解な事件が起こった。大々的に対処していないってことはおそらく後者かしら」


 ユウの推測にベルクは目を細める。

 それはつまり推測が当たっていることを示唆していた。


「ただのバカってわけじゃねぇな。頭の良い問題児とはな」


「協力してほしいか喧嘩を売ってるのかハッキリさせてほしいわね」


「褒めてんのさ。話を戻すが、ウチの一級冒険者パーティーが、港湾都市テルダムに行くってんでついでに見て来てもらったんだ。そして、あいつらは行方不明となった」


「行方不明? テルダムに行ってる可能性は?」


「テルダム支部のギルドに確認したが見ていないそうだ。行方不明になったパーティーはウチの唯一の一級にしてエースパーティー。あいつらで難しいとなると他の冒険者を派遣したところで犠牲を増やすだけ。他の支部から一級冒険者を要請しているがいつになるか分からねぇし、聖騎士団や特級冒険者なんてこんな明確な情報が無い事件を相手になんかしてくれねぇ。頼み込んでサンドリアの衛兵を派遣してもらおうものなら他の都市から宣戦布告を疑われかねない政治問題に発展する。そんな八方塞がりの状況でお前さんが現れた」


 ベルクは期待と希望を見据えた瞳をユウに向ける。

 

「第五階梯スキル、それもあの威力はもはや一級の中でも上位、なんなら特級クラスだ。聖宝具も顕現してるんだろう。そんなお前さんに頼みがある。やってくれれば一級冒険者で迎えいれよう。本当なら特級と言ってやりたいが、俺にそんな権限は無いからそこは勘弁な」


「…………いいわよ。要は謎の影の正体を突き止めて、ついでに一級冒険者の行方も探せばいいってわけね」


「お、おう。出来ればついでじゃなくて人命優先で頼むわ」

 

 取引が成立したからか、ベルクは心なしか安堵のため息。

 深々とソファーに腰かけて天井を見上げる。


「いやーそれにしても俺も運がいい。嬢ちゃんみたいな実力者が来てくれるとはな。にしても冒険者登録してない第五階梯スキルの使い手か。まるで“鎧の勇者”みたいだな」


 思い返すように目を閉じるベルクの言葉にユウは表情が固まる。

 表情の変化にさほど差がなかったユウのわずかな、それも一瞬の表情変化をベルクは見逃さない。


「嬢ちゃん、もしかして――――」


 くすんだ黄土色の右眼がユウを映す。

 実戦経験で積まれたものか、ユウの一挙手一投足、思考の奥底まで見逃さない覇気を感じる。

 だが数秒後、ベルクは豪快に笑った。


「なんてな。“鎧の勇者”には一度会ったことあるがもっと大きい体付きだった。少なくとも嬢ちゃんみたいな感じじゃねぇ。まー実力は匹敵するかもしれんが」


「……そう。ま、お眼鏡にかなうよう善処するわ。それにしても交易都市サンドリアのギルドが抱える一級冒険者パーティーが一組だけってどうなの?」


「仕方ねぇだろ。一年前ならウチにも一級が何人かいたが、魔王と“鎧の勇者”の戦いで北方区域の魔物は全滅。となればサンドリアの周りは瘴気の薄い、つまりは魔物被害の少ない場所に囲まれてる。だから交易でここまで発展してんだ。冒険者も金を求める以上、実力者は魔物被害の多い西側に集中するんだよ。嬢ちゃんはどうなんだ? それだけの実力を持っていながら、なんで西側じゃなく東側のサンドリアに来たんだ?」


「恋人が落ち着いた場所に定住したいっていうからよ」


「へー彼氏がねぇ。嬢ちゃんにおっかない思想を吹き込むくらいだからどんな過激派だと思ったが、意外と穏便なのか?」


 ユウは顎に指を当てて考え込む。

 警戒心が解かれたのか、その姿は年相応の乙女そのもので。


「無用なトラブルは避けたい派でもあり、トラブルに首を突っ込みたい派でもありと……言ってしまえば自由人ね。それじゃそろそろ森へ行くわ。行方不明になったパーティーの情報を頂戴」


 淡々と現場に赴こうとするユウをベルクは慌てて止める。


「さっそく行くのか? 頼んでおいてなんだかもっと下調べとか……ほら、仲間もいるだろう?」


「さっきの【神威】に耐えられる冒険者はいる?」


「いや……それはさすがに……」


 残念ながら行方不明になった一級冒険者パーティーの次に実力があるのはゲーゲルという悲しい戦力の現状だ。

 今サンドリア支部にいる冒険者でユウの希望に添える人物は一人としていない。


「なら仲間は必要ないわ。それにその行方不明になったパーティーが助かるかどうかは時間との勝負でしょ。なら今日中に片を付けた方がいい」


「……分かった。だが嬢ちゃんが危険と判断したならすぐに戻ってきてくれ。嬢ちゃんまで行方不明となればいよいよ打つ手がなくなる」


 まるでユウを道具のように扱う言葉だが、その目は身を案ずるような優しいもので。


「了解」


 一言それだけ言い残して扉を開ける。

 少し冷たいようにも思えるが、その一言でベルクはユウの信頼をそれなりに感じ取れて満足そうに笑った。

 部屋から一歩出たユウは思い出したかのように立ち止まって振り返る。


「あ、一つ訂正しておくわ。――彼氏じゃなく彼女よ」


 そう言い残して現場へと向かうユウ。

 ベルクはあっけらかんと、ただ茫然とするしかなかった――――。

お読みいただきありがとうございました!

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別の作品も投稿してますので是非!

【婚約破棄されたあたしを助けてくれたのは白馬に乗ったお姫様でした】

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