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魔王と勇者は恋仲です。①

 魔王と鎧の勇者の戦いから一年後。

 魔王が消えたというのに、魔族や魔物の被害が減ったというわけではない。

 

 今もどこかで冒険者が命を賭して戦っているのだろう。

 だがそんな世界でも、平和なところは平和なもので。

 白い雲が薄く見える青空、真昼ということもあり太陽が街を照らし人々に精気を注ぐ。


「店主、これはいくらだ?」


 人族が管理している都市国家の一つ――交易都市サンドリア。

 北は魔物群生地の北方区域、東は港湾都市、西には亜人族の集落区域、南は観光都市、すこし離れて歓楽都市や学術都市がある立地のおかげで、交易都市のサンドリアは種族や文化が集まる都市となり、交易都市と称されることになった。

 要はあちこちの文化が雑多に混ざった都市である。


 そんなサンドリアは中央にかけて三層構造の都市国家だ。

 外側の第一層は農作物実る田畑や起伏に富んだ平原が大半を占める田舎、続く第二層は商店街や宿舎などサンドリアで一番の人口密度を誇り、中央の第三層は役人や上流市民といった人しか入ることが出来ない。


 そんなサンドリアの第二層。

 第一層と第二層を区切るような石作りの幕壁付近にある商店街。

 交易都市と呼ばれるだけあり、第二層の隅の商店街でも店客ともに賑わっている。

 都市の人口は大半が人族だが、亜人族の一種である獣人が店を構えていても不思議ではない。


 露店が並ぶ商店街の一つ。

 新鮮な赤身の肉が並んでいたり吊るされているその露店で立ち止まった女性客が指さして値段を尋ねた。


「それは魔物肉だな。百グラムで純銅貨三枚だ。癖があって好みは別れるが、塩漬けや干し肉にせずとも日持ちするし、その独特の風味から酒飲みや携帯食料が必須の冒険者には良い評判だぜ」


 店を構える獣人の男。

 犬のように長い鼻、鋭い犬歯に目元の傷跡、灰色の毛が全身を覆い狩猟者のような眼光は接客業を営むには威圧的過ぎるが、それでも滲み出る人柄か、豪快な笑いと吊り上がった口角は懐の広さを感じさせてそれなりに儲かっている様子はある。


 そんな店主の獣人は客からの質問に答えるも、その答えに少々納得がいかないのか、客の女は交渉を始めた。


「少し高いな。まけてくれ」


「おいおい嬢ちゃん。魔物肉は畜産されているものじゃないから普通の肉より高いんだ。純銅貨四枚にならないだけマシだ」


 交渉の余地なしと突き放す獣人の店主に客は不服そうに口をとがらせる。

 時間帯的に最上まで昇った日の光によってキラキラと漆のような黒髪の艶が強調され、そのほかの商品を物色する眼差しはとても理知的、白いシャツや黒のロングコートなど無彩色の服装は落ち着きのある雰囲気を醸し出す。

 肩掛けの少し大きめな鞄には買い物途中の品々が入っているようで、わずかに重みを感じる膨らみがある。

 膝上くらいの丈のスカートとロングブーツ、肌艶は若々しく、それでも振る舞いは大人びている。

 その抜群なスタイルと美しい見た目も相まって、人族なら少なからず目を奪われる少女だ。


「こんな美人がおねだりしてるんだ。少しくらい値引いてくれても良くないか?」


「悪いな嬢ちゃん。人族からすれば別嬪なのだろうが、獣人の俺からすればそこらの人族と差はよく分からん」


「……仕方ない。純銅貨三枚だったな。三百グラムくれ。銀貨一枚だ」


「まいど。ほい、おつりの純銅貨一枚だ。にしても嬢ちゃん見ない顔だな? 旅行者かい?」


 お釣りと肉を受け取り、黒髪の少女は余談に付き合う。


「今日このサンドリアに来たばかりだ。一年ほど各地を旅してたんだが、私の恋人が冒険者ギルドとやらに登録してないようでな。登録ついでにサンドリアの第一層に居を構えるつもりだ。この肉の質が良ければこの店にとってお得意様になるかもしれんぞ」


「ほーそいつぁ良い。だが第一層つったら結構な田舎だがいいのか? 第二層でもこの辺りなら安い物件はいくらでもあるぞ?」


「サンドリアは物を揃えるには適しているが住むには少々騒がしくてな。こんな騒々しいところより、第一層のような落ち着いたところが私の好みなんだ」


「嬢ちゃんくらいの年頃ならこれくらい賑やかな方が好きそうなもんだが……。まーなんにしても、ようこそサンドリアへ。俺はヴォルフってんだ。見ての通り肉屋を営んでいるが、知り合いの獣人には八百屋や魚屋もいるから口利き出来るぜ」


「それはいいな。狩猟種族の獣人は五感の鋭さも相まって目利き、お前の場合は鼻利きか? まー食材の選別には長けていると評価している。だからそこらの人族の店じゃなく獣人の店で買い物してるわけだが、そんな獣人の店を紹介してくれるなら助かる。出来ればその紹介先におまけしてくれるように口利きしてくれ」


「嬢ちゃんが太客になってくれるならおまけしてくれるかもしれねえな。ガハハハ」


 頑ななヴォルフに少女は不服そうに――とは打って変わって面白いと笑みをこぼす。


「商魂たくましいな。だが嫌いじゃない。それじゃ、美味かったらまた買いに来る」


 立ち去ろうとする少女にヴォルフは声をかける。


「嬢ちゃん、名前は? お得意様になるなら聞いておかねえと」


「名前? ……恋人からはマオと呼ばれている」


「マオちゃんね。今度は冒険者になった彼氏と一緒に来な。そしたらおまけしてやる」


「約束だ。あ、あと一つ訂正――彼氏じゃなく彼女だ」


「は?」


 意表を突かれたようにきょとんとしてしまうヴォルフに、マオはしてやったりと笑みを浮かべて立ち去ろうとしたその時、ヴォルフに再度止められる。


「嬢ちゃん、この後も買いもんか?」


「あぁそのつもりだが?」


「ならあまり人通りの少ない所に行かない方がいい。最近サンドリアで若い人族の女が行方不明になる事件が多発している。衛兵が捜査してるが犯人はまだ捕まってないって話だ」


「ほう、それは物騒な話だな。まあこれだけ人が多いんだ。日中に攫われることもないだろう」


「だといいんだがな。ま、なんにせよ気を付けてくれや。せっかく常連客になろうってやつが行方不明となりゃ俺も目覚めが悪ぃからな」


「忠告感謝する」


 そう言って、今度こそマオは店を立ち去った。

 そして残りの買い物を一通り済まし、少し時間が余ったマオは興味本位に街を徘徊する。

 物珍しさに興味をそそられるまま行動していると、ヴォルフに忠告を受けていたにも関わらずマオは人通りの少ない場所へと移動した。


 労働者専用の居住地区。

 日中のこの時間、その区域に人の気配はない。

 馬車がすれ違える程度の道幅のど真ん中でマオは立ち止まる。

 

「おい、こそこそしてないで出てきたらどうだ? ストーカーはあまり健全な行いとは言い難いぞ」


 マオは周囲に響かせるように言い放つと、路地裏や屋根の上から十数人の男が現れる。

 下種で下劣な視線、屈強な肉体は鍛えられたものというより日常で得たものだろう。

 衣服で隠せるサイズのナイフやらナタやらを見せつけるように手にしている。


「なんだお前達は? 善良な市民には到底見えないが」


 囲まれているにもかかわらず冷静なマオに困惑しながらも、一人の男が手に持ったナイフを見せつけて、

 

「女が一人、こんなところをウロチョロするのは危ねえぜ。最近じゃ若い女を狙った誘拐事件が多発してるしな。俺らみたいなこわーい連中は女一人と見るや何するか分かったもんじゃないからなー」


 男の言葉に他の連中も下卑た笑い声を出す。

 今すぐにでもここから離れたいが、マオは冷静に続ける。


「なるほど。例の誘拐事件はお前らのものか?」


「正確には片棒を担いでいるってところだけどな。嬢ちゃんくらい美人ならあの方も喜ばれるだろう。許しがもらえるなら俺が頂きたいくらいだぜ」


 全身を嘗め回すように見てくる男の視線を気にもせず、マオはどうしたものかと考える。

 この場を逃げる手段もこの連中を無力化する手段も持っているが、訳あって使いたくない。


 考え込んで黙り込むマオに男は困惑するも、やや挑発気味に続ける。


「どうした? 恐くなって声も出ねーか?」


「恐い? 普通の女はこの状況で恐がるものなのか?」


 質問の意図が分からず男は一瞬返答に困る。

 だがペースを取り戻すかのように、


「お、おう。そりゃあ刃物を持った連中に囲まれてんだ。恐怖で泣き叫ぶ奴もいれば、腰が抜けて立ってられない奴もいたな。無理に逃げようとしたやつもいたが……手加減ってのは難しくてな。うっかり殺しちまった」


 後悔する様子も、被害者に詫び入れる様子もなく、まるで実績を誇るように男は語る。

 しかしそれでも、マオは考え込む姿勢を変えない。


「なるほど。こういう場面では恐がるのが普通の女か……。よし、キャーコワーイ」


 取ってつけたようなセリフに全員が困惑する。


「なんかペースが狂うな。本当に恐がってるか?」


「ああ恐いとも。私は普通の女だからな、強がって冷静を装っているが、足は震えて頭は真っ白。鼓動は速いし呼吸も荒い。おっと涙も出てきたぞ。あー恐い実に恐い」


 今まで拉致した女と違い、なぜか淡々としているマオに男達は動揺しながらも、大きめの麻袋にマオの身体を詰め込む運んだ。

 肩に担いで運んだ男の耳には、途中眠っているかのような静かな吐息が麻袋の中から聞こえた――――。

お読みいただきありがとうございました!

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別の作品も投稿してますので是非!

【婚約破棄されたあたしを助けてくれたのは白馬に乗ったお姫様でした】

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