Episode 10-7 「帰ろう」
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語も、いよいよ最終章となりました。
何者でもなかった一人の男は、数え切れない出会いと別れを経験し、多くの勇者や仲間達と共に国を築いてきました。
正義、戦争、思想、自由、愛、信仰、死、そして観測。
それぞれがハザムへ残した答えが、この最終章で一つになります。
最後まで、ハザム・ヴェルという一人の男の生き様を見届けていただければ幸いです。
青空。
風が吹く。
白い世界は。
もう白くなかった。
草木が芽吹き。
鳥が飛び。
川が流れている。
ハザムは静かに空を見上げた。
「終わったな」
ナギが隣へ来る。
「ああ」
「長かった」
二人は笑う。
その時。
世界意思が歩いてきた。
手には。
一つの光。
小さな。
優しい光だった。
「ハザム」
「これは」
「創造主の核」
ハザムは光を見る。
「これを継げば」
「お前は」
「新しい創造主になれる」
静寂。
少年が息を呑む。
ナギも。
何も言わない。
世界意思は続ける。
「世界は」
「管理者を必要とする」
「資格があるのは」
「お前だけ」
光は。
ゆっくりハザムの前へ浮かぶ。
手を伸ばせば。
届く。
創造神。
永遠。
無限。
世界そのものになれる。
レオンも。
シエルも。
マリアも。
もう二度と失わない力。
誰も死なない世界。
誰も悲しまない世界。
手を伸ばせば。
叶う。
ハザムは。
静かに光を見つめた。
長い沈黙。
やがて。
小さく笑う。
「悪い」
光を。
そっと押し返した。
世界意思が目を見開く。
「何故」
ハザムは空を見る。
青い空。
雲が流れる。
風が吹く。
「疲れた」
ナギが吹き出した。
「ははは!」
「それがお前の答えか!」
ハザムも笑う。
「ああ」
「もう十分だ」
「これ以上」
「神様なんて」
「やりたくない」
世界意思は困惑する。
「しかし」
「世界は」
ハザムは首を振る。
「世界は」
「俺がいなくても回る」
帝国を思い出す。
エリス。
地方を治めるマリアの子孫。
白騎士。
黒騎士。
多くの仲間。
皆がいる。
「俺が守ったんじゃない」
「皆が守ったんだ」
ナギは頷く。
「そうだな」
ハザムは世界意思へ笑いかける。
「お前も」
「休め」
世界意思は。
その言葉を聞いて。
静かに涙を流した。
「休む……」
「はい」
「少しだけ」
「休みます」
ハザムは頷く。
「それでいい」
世界意思は。
創造主の核を見る。
そして。
自らの胸へ。
静かに取り込んだ。
眩い光が。
世界中へ広がる。
空は青く。
海は輝き。
花が咲く。
命が芽吹く。
世界意思は微笑んだ。
「今度は」
「管理ではなく」
「見守ります」
ナギが肩を叩く。
「それで十分だ」
ハザムは振り返る。
「帰るか」
「帝国へ」
ナギは笑う。
「ああ」
「腹も減ったしな」
少年も笑う。
世界意思も。
初めて自然に笑った。
四人は歩き出す。
帰る場所へ。
それぞれの。
大切な場所へ。
長い旅は。
終わった。
いや。
新しい日常が。
ようやく始まろうとしていた。
後書き
『神になるには、遅すぎた』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、最強の神が世界を救う物語ではありません。
誰にも必要とされなかった一人の男が、人との出会いを通して「生きる意味」を見つける物語でした。
主人公だけでなく、レオン、クメル、シエル、ガロウ、リノア、ユリウス、マリア、アベル、ナギ──そして名もなき人々一人ひとりが、この世界を作ってくれました。
タイトルの『神になるには、遅すぎた』には、二つの意味を込めています。
神になろうとした時には、もう人を愛しすぎていたこと。
そして、人を愛したからこそ、本当の神にはなれなかったこと。
もしこの作品で、誰か一人でも心に残る人物がいたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
長い旅に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また、次の物語でお会いしましょう。




