Episode 10-5 「終わらせよう」
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語も、いよいよ最終章となりました。
何者でもなかった一人の男は、数え切れない出会いと別れを経験し、多くの勇者や仲間達と共に国を築いてきました。
正義、戦争、思想、自由、愛、信仰、死、そして観測。
それぞれがハザムへ残した答えが、この最終章で一つになります。
最後まで、ハザム・ヴェルという一人の男の生き様を見届けていただければ幸いです。
白い世界。
誰も動かない。
創造主だけが。
静かに立っていた。
世界意思は。
もう創造主の隣にはいない。
ナギの隣でもない。
ハザムの隣に立っていた。
何億年。
続いた主従関係。
その終わりだった。
創造主は。
ゆっくりと世界意思を見る。
「裏切るのか」
世界意思は首を振る。
「違う」
「初めて」
「自分で選びます」
創造主は沈黙した。
その言葉は。
一度も聞いたことがなかった。
「選ぶ……」
「観測者に」
「意思は不要」
世界意思は静かに笑う。
「そう教えたのは」
「あなたです」
「でも」
「彼らが教えてくれました」
ハザムを見る。
ナギを見る。
少年を見る。
「人は」
「選ぶ生き物だと」
創造主は理解できない。
「選べば」
「間違える」
ハザムは頷く。
「ああ」
「何度も間違えた」
レオンのこと。
セイジのこと。
ユリウスのこと。
何度も。
何度も。
後悔してきた。
「でも」
「間違えたから」
「今の俺がいる」
創造主は首を振る。
「効率が悪い」
ナギが吹き出した。
「だから友達がいねぇんだよ」
創造主は黙る。
ナギは歩き出す。
玉座まで。
あと数歩。
「なあ」
「もう終わりにしようぜ」
創造主は目を細める。
「終わり……」
「休めよ」
ナギは笑う。
「何億年働いてんだ」
「ブラック企業でも」
「もう少し休ませるぞ」
少年が笑った。
世界意思も。
少しだけ笑った。
創造主だけが。
笑い方を知らない。
「休む……」
その言葉を。
何度も繰り返す。
「休んでも」
「世界は回る」
ハザムが答える。
「俺が証明した」
帝国。
属州。
辺境。
人々は。
ハザムがいなくても。
考え。
悩み。
笑いながら生きていた。
「世界は」
「一人じゃない」
創造主は。
静かに世界を見渡す。
初めてだった。
世界を。
管理対象ではなく。
世界として見るのは。
「……」
長い沈黙。
やがて。
創造主が。
初めて。
小さく笑った。
ぎこちない。
不器用な笑顔。
「分からない」
「なら」
ナギが肩をすくめる。
「これから覚えればいい」
その瞬間。
創造主の身体が。
白い光になり始めた。
世界意思が驚く。
「創造主!」
創造主は。
静かに首を振る。
「役目を」
「手放した」
「私は」
「もう」
「創造主ではない」
白い光が。
世界へ溶けていく。
創造主は。
最後にハザムを見た。
「お前は」
「良い世界を創った」
ハザムは笑う。
「違う」
創造主が首を傾げる。
ハザムは。
ゆっくり答えた。
「皆で創ったんだ」
創造主は。
少しだけ目を閉じた。
「……そうか」
その一言を最後に。
創造主は。
光となって。
世界へ還っていった。
白い世界から。
長い。
長い孤独だけが。
静かに消えていった。
後書き
『神になるには、遅すぎた』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、最強の神が世界を救う物語ではありません。
誰にも必要とされなかった一人の男が、人との出会いを通して「生きる意味」を見つける物語でした。
主人公だけでなく、レオン、クメル、シエル、ガロウ、リノア、ユリウス、マリア、アベル、ナギ──そして名もなき人々一人ひとりが、この世界を作ってくれました。
タイトルの『神になるには、遅すぎた』には、二つの意味を込めています。
神になろうとした時には、もう人を愛しすぎていたこと。
そして、人を愛したからこそ、本当の神にはなれなかったこと。
もしこの作品で、誰か一人でも心に残る人物がいたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
長い旅に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また、次の物語でお会いしましょう。




