Episode 10-4 「遅すぎた」
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語も、いよいよ最終章となりました。
何者でもなかった一人の男は、数え切れない出会いと別れを経験し、多くの勇者や仲間達と共に国を築いてきました。
正義、戦争、思想、自由、愛、信仰、死、そして観測。
それぞれがハザムへ残した答えが、この最終章で一つになります。
最後まで、ハザム・ヴェルという一人の男の生き様を見届けていただければ幸いです。
白い世界。
静寂。
創造主は。
夢から戻ったハザムを見つめていた。
「戻ったか」
「ああ」
創造主は静かに尋ねる。
「何を見た」
ハザムは少しだけ笑う。
「人生だ」
「夢に価値はない」
「あるさ」
ハザムは一歩前へ出る。
「人は」
「夢を見て生きる」
「届かないから手を伸ばく」
「失うから守ろうとする」
「終わるから今日を生きる」
創造主は首を傾げた。
「理解不能」
「永遠こそ完全」
「命は繰り返せばよい」
「壊れたなら作り直せばよい」
「それで世界は続く」
ハザムは静かに首を振る。
「続かない」
「何故だ」
「代わりはいないからだ」
創造主は黙る。
ハザムは空を見上げた。
そこには何もない。
それでも。
確かに皆がいた。
レオン。
クメル。
シエル。
ノリア。
ガロウ。
リノア。
ユリウス。
マリア。
ジュリア。
アベル。
エリス。
ナギ。
そして。
あの日。
最後に笑ってくれた女性。
皆が。
今の自分を作ってくれた。
創造主は尋ねる。
「その力があれば」
「お前も世界を創れる」
「新しい神になれる」
ハザムは目を閉じる。
長い沈黙。
やがて。
小さく笑った。
「……遅すぎた」
創造主の眉が動く。
「何がだ」
ハザムは静かに答える。
「もう」
「守りたいものが多すぎる」
「失いたくない奴らが多すぎる」
「一人で世界を眺めるには」
「遅すぎた」
ナギは笑った。
「そうだな」
「三百年」
「遠回りした」
ハザムも笑う。
「ああ」
「でも」
「悪くない人生だった」
世界意思は。
二人を見つめていた。
その言葉の意味を。
ゆっくり理解していく。
創造主だけが。
何も理解できない。
「理解不能」
「何故」
「完全を拒む」
ハザムはゆっくり顔を上げた。
その瞳には。
怒りも憎しみもない。
ただ。
穏やかな決意だけがあった。
「俺は」
「お前みたいにはなれない」
「もう」
「皆に出会ってしまったから」
その瞬間だった。
世界意思が。
静かに創造主の前へ歩く。
何億年も続けてきた敬礼を。
初めて下ろす。
「創造主」
「私は」
「命令を拒否する」
創造主の瞳が揺れる。
「理由を述べよ」
世界意思は。
ほんの少しだけ。
笑った。
初めてだった。
「私も」
「遅すぎました」
「この世界を」
「好きになってしまいました」
白い世界に。
初めて。
創造主だけが独りになった。
後書き
『神になるには、遅すぎた』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、最強の神が世界を救う物語ではありません。
誰にも必要とされなかった一人の男が、人との出会いを通して「生きる意味」を見つける物語でした。
主人公だけでなく、レオン、クメル、シエル、ガロウ、リノア、ユリウス、マリア、アベル、ナギ──そして名もなき人々一人ひとりが、この世界を作ってくれました。
タイトルの『神になるには、遅すぎた』には、二つの意味を込めています。
神になろうとした時には、もう人を愛しすぎていたこと。
そして、人を愛したからこそ、本当の神にはなれなかったこと。
もしこの作品で、誰か一人でも心に残る人物がいたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
長い旅に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また、次の物語でお会いしましょう。




